遥さんについて
亜耶が帰った後、場がしらけてしまいお開きとなった。
「義君、送ってってくれるよね」
「もちろんだよ。姫。じゃあな、お先に・・・」
そう言って、義幸達が出ていく。
「じゃあ、悠磨くん。送ってて・・・」
斎藤が、準備し出す。
「ルウ。なんで、そこで悠磨が出てくるんだよ。そこは、俺だろ」
順一が、口を尖らせる。
「だって、順君に迷惑だと思って・・・」
「迷惑なわけないじゃん。自分の彼女を友達に送らせるなんてこと、するわけないじゃん」
順一が、そう言うと斎藤が笑顔になっていく。
そんな二人を横目で見ながら、オレは自分のコートを羽織って玄関に行く。
「邪魔したな。片付けやれなくて悪いな」
オレは、一言そう告げる。
「いいって。俺が後で片付けるから」
順一が、気にするなって顔をする。
「・・・んじゃ。お休み」
オレはそう言って玄関を出た。
あーあ。
結局、プレゼント渡せなかった。
だけど、あんな亜弥を見たの初めてだ。
普段の亜耶は、しっかり者で誰かに甘えるなんてことしない。
唯一、知ってるのは、頼ってくる時に見せる困った顔だけ。
だから、あんな顔を見せられて、困惑する。
なんで、オレじゃないんだろう。
オレが、年上だったら、亜耶は甘えてきたのだろうか?
オレは、どうしたらいいんだ?
勝ち目の無い勝負をしないといけないのか?
今まで、亜耶に釣り合うべく男になろうと努力してきたのに・・・。
まだ、足りないのか?
亜耶に釣り合うためには、後、何の努力をすればいいんだ?
オレは、頭を悩ませながら家に向かった。
「ただいま」
オレが玄関を潜ると。
「お帰り、悠兄ちゃん。亜耶先輩、プレゼント喜んでいたでしょ」
何も知らない千春が、声をかけてきた。
「煩いなぁ。そんなことどうでもいいだろ!」
千春に八つ当たりする。
「えっ、ちょっ、ちょっと悠兄ちゃん。どうしたのよ」
千春が困惑してる。
当たり前だ。
本人の思い当たらぬ事で怒鳴られてるんだから・・・。
「なんでもない!」
オレは、そう言って千春の横をすり抜けて、自分の部屋に向かった。
「悠磨。やけに荒れてるな」
そう言ってきたのは兄貴だ
「ほっとけ」
またやな奴が・・・。
「悩みなら聞くぜ」
ニマニマしやがって。
「兄貴に話して、解決できるならな」
オレは、兄貴を睨み付けて、部屋に入る。
オレの後を追うように兄貴も入ってきた。
「何だよ?」
嫌悪感剥き出しでそう言う。
「そう、苛立つなって。お前の思い人の事、亜耶ちゃんの事教えてやるから」
兄貴が、思ってもいない事を口にする。
「何を知ってるんだよ」
兄貴をマジマジと視た。
「話すと長くなるが、いいか?」
兄が、確認するように言う。
オレは、頷いた。
兄とオレは、八つ違う。
だからか、亜耶のお兄さんの事を知っていた。
「亜耶ちゃんの兄、雅斗さんは、中学の時から俺の憧れの人だ。その人といつも一緒に居たのが、高橋遥さん」
高橋遥って、亜耶を迎えに来た奴。
「遥さんは、雅斗さんよりも上な存在だった。何をするにも雅斗さんの上に遥さんが居た。遥さんは、他校からも目を向けられてるほどの人材だった」
あの人が・・・。
「それが、高校二年になったとたん、雰囲気が変わったんだよ。今まで、きっちりしてたのに急にデレデレになったんだと。その原因が、当時小学校一年になったばかりの亜耶ちゃん」
小学校の時の亜耶?
そんな前から・・・。
「それから、遥さんは変わったんだよ。刺があった雰囲気が丸くなって、女子からの告白が増えっていったんだよ。元から人気はあったんだがな、近寄りがたかったイメージが払拭されて、揉みくちゃにされてたみたいだ。それでも、元に戻ることはなかったって聞いてる」
今のあの人とほど遠い。
「全然、違うじゃん」
小声で呟いたつもりだったが・・・。
「遥さんに会ったことあるのか?」
兄が、訝しげに聞いてきた。
「今日も会ったけど・・・」
ボソッと呟いた。
オレの言葉に兄貴が苦笑した。
「・・・で、大学を首席で卒業したと同時に亜耶ちゃんの両親に婚約を申し込んだみたいだ」
婚約って・・・。
この間、亜耶は冗談だって言ってたはずだが・・・。
「・・・婚約したのは、去年の春。条件も遥さんから言ったらしい」
条件?
「亜耶ちゃんが、高校を卒業するまで待つとそれから、大学へ行きたいなら、自分が出すとまで言ったそうだ」
何、その大人な対応。
って言うか。
オレよりも前から亜耶の事を想ってたのか?
だが、想いは年月じゃねぇ。
どれだけ、相手を想ってるかだよな。
「これは、極秘なんだが、遥さん。どこかの御曹司らしい・・・」
って・・・。
何。
それって、お坊っちゃまってこと?
「まぁ、俺が知ってるのは、これぐらいだ。役に立ったか?」
兄貴が、困った顔をする。
「あぁ、ありがとう。兄貴」
オレは、一様お礼を言う。大した情報じゃなかったが・・・。
「おう。気を落とさずにアタックするのみだ。お前の方が、彼女に近いんだから・・・な」
それだけ言って、兄貴は出て行った。
兄貴は、応援してくれてるんだと思った。
一度しくじっただけなんだ。
何度だって、アタックしてやる。
オレは、そう心に誓った。
翌日。
オレは、塾に向かっていた。
塾の入り口近くで、亜耶が車から降りてきた。
亜耶は、駆け足で中に入っていく。
オレは、それを追うように中に入った。
教室に入ると、亜耶達三人が話してた。
「いいよ。亜耶の意外な一面が見えたから」
って、声が聞こえてきた。
「あれじゃあ、悠磨くんが入る隙無いよね」
って、憐れられてる。
そんなにか?
そんな中に。
「おはよう、亜耶」
と声をかけた。
「おはよう、悠磨くん」
亜耶が、振り向いて言う。
「昨日は、ごめんね」
亜耶が申し訳なさそうに言う。
そんな顔するなよ。
今にも泣き出しそうだ。
亜耶には、笑ってて欲しい。
「何の事だ?」
オレは、とぼけるように答える。
亜耶が、何で謝ってきたのがわかったから。
「ほら、席に着け。授業、始めるぞ」
講師が入ってきて、話が途切れた。
「悠磨くん。これ、昨日私そびれちゃった」
亜耶が、オレのところに来て、包みを机の上に置く。
「エッ。あ、ありがとう。オレも・・・」
オレは、鞄から亜耶にと思って用意したプレゼントを渡した。
「いいの?」
亜耶が、戸惑ってる。
「いいよ。亜耶のために買ったものだから」
そう言うと、顔を赤めながら、笑顔で。
「ありがとう」
って言ってきた。
それだけで、今のオレには十分すぎるほどの贅沢だった。