別れの言葉
とうとうこの日が来た。
あの時、亜耶が泉に話してた想いは、本物だろう。
彼女の話してる時の愛しそうな顔が、忘れられない。
結局、亜耶の口からは別れの言葉を告げられる事はなかった。
その間に、泉にも変化があって、オレは戸惑うばかりだ。
今日は、始業式。
授業も部活もなくて、少しでも亜耶と居たくて亜耶の教室で話していた。
教室内には、オレ等しか居なくてたわいの無い話で盛り上がっていた。
「なぁ、亜耶」
オレは、何となくだけど嫌な予感がしてたんだ。
だからかな。
少しだけ、焦ってたんだと思う。
「何?」
亜耶が、オレの方を見る。
その顔が、可愛くてじっと見つめていた。
すると、亜耶が不思議そうな顔をして。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
って、問いかけてきた。
「ううん。何でもない…」
何て言いながら、どうしたらいいのかわからなくて、ふと外を見たら、人だかりが出来ていて、あぁオレの予想が的中したんだと思った。
あの中に、あの人が居るのだろう。
オレは、亜耶に最後の思い出として。
「亜耶。キスしようか…」
って声をかけた。
「…う、うん。いいよ」
亜耶が緊張しながらも承諾してくれてオレは、ゆっくりと顔を近付けて亜耶の唇に触れそうになったところで、身体を突き飛ばされた。
「ご、ごめん」
亜耶が、慌てて謝ってきた。
「…何だよ。やっぱり亜耶は、オレを見てくれてなかったんだな」
オレは、そう口にした。
亜耶が、哀しそうな顔をしてオレを見る。
どうしたらいいのか戸惑いの顔をする亜耶に。
「亜耶の胸の内に居るのは、オレじゃないんだろ!オレは、あの人の代わりなんかじゃないよ。オレの事ちゃんと見てくれよ」
オレの胸の内を明かした。
「ごめん。悠磨くんの事利用してた訳じゃないの。ちゃんと好きだった。…でも、何時の間にか悠磨くんよりもあの人の存在の方が大きくなってて、あの人じゃないとダメだって最近になって気付いたの。ごめんなさい」
亜耶が、涙を流しながらオレに謝ってくる。
泣かせたい訳じゃないんだがな。
もう、亜耶の気持ちは、オレに無いって事くらいわかる。だって"好きだった"って過去形になってるじゃんか。
「行けよ…」
オレの言葉に、亜耶がビクリと肩を揺らす。
「行けよ!オレの事なんか構わず、あの人が待ってるから…」
言葉尻が、小さくなる。
オレは、顔をあげれなかった。
見せたくなかったんだ。涙を流してるオレを…。
「ごめんね、悠磨くん」
その言葉を残して、彼女は教室を出て行った。
これで、よかったんだよな。
優しい亜耶が、自分から話すことはないと思ってたからオレから、突き放すしか無いと思ってたから。
どれが正解なんかわからない。
ただ、オレは君に笑ってて欲しかったんだ。
君の笑顔を守れるくらいの強さがあればよかったよ。
この半年間、楽しかったよ。
ありがとう。
オレは、心の中でお礼を言うと、携帯を取り出し義之に電話した。
『もしもし、悠磨。どうした』
不思議そうな声の義之に。
「オレ、亜耶と別れた…」
それだけ言って電話を切った。
とんだ、道化師だよオレは…。