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あの人の想いに負けた

あの人が、オレに会いに来た翌日。

何時ものように待ち合わせの場所で、亜耶が来るのを待っていた。


そういえば、亜耶、あの人が研修で居ないこと知っているのだろうか?

あの人の言葉からすると、亜耶には伝えていないんじゃなかろうか。

あの人が伝えていないことをオレから言う必要はないだろう。…が、亜耶は不安じゃないだろうか?今までだって、そんなに会っていないとはいえ、何らかの形で側に居たあの人を見ないことで、不安になるのではなかろうか…。

オレの考えてる事って、亜耶が安心できてるかって心配しかない。


「悠磨くん、おはよう」

亜耶が、オレの肩を叩く。

「あ、おはよう。行くか」

オレは、そう言って手を繋ごうとして、戸惑った。

あんな話を聞いた後で、していいのかと …。

「悠磨くん?」

不思議そうな顔をしてオレを見て来る亜耶。

「何でもない」

突然態度を変えるのも可笑しいだろうと思い、亜耶の手をとった。

「悠磨くん。どうかしたの?」

亜耶の大きな目が心配そうにオレを見る。

何か、感じ取ったのだろうか?

「どうもしないよ。そうだ亜耶。オレちょっと解らないところがあるから、教えて欲しいんだけど…」

テスト前だし、いいよな。

「うん、いいよ。どうせ、英語でしょ?」

って、クスクス笑って言う亜耶。

見透かされてる。

「当たり。オレ、英語苦手科目だからな」

自嘲気味に言う。

「嘘。苦手って言ってる割りにはいい点数取ってるじゃん」

亜耶が、口を尖らして言う。

そんな仕草も可愛いんだけど…。オレのじゃないんだよな。

何て、つい思ってしまう。

「うん。まぁ、英語だけじゃなく、他の教科でも解らないところがあるから、お願いしてもいいか?」

「うん。じゃあ、今日の放課後、図書室でいいかな?」

「ああ、構わない。宜しくな」


亜耶を教室に送り届けて、自分の教室に向かった。



「悠磨、悠磨」

教室に入るなりに透がオレを呼ぶ。

「おはよう。一体なんだよ朝から騒がしい奴だな」

オレは、透を睨み付けて言う。

「昨日、高橋さん来たんだって…」

ニッコリと面白い事を聞き出そうって顔してやがる。

コイツ、事情を知ってるから、言うまで付きまとうだろうなぁ。

教室で話すことじゃないし…。

「あぁ、その話は、後でな」

オレがそう言うと。

「わかった。…で、テスト勉強しようぜ」

って、突然話を切り替える透。

切り替え、早すぎるだろ。

「テスト勉強なら、私も交ぜて…」

って、泉が目敏く声をあげてきた。

「ちょ、オレ、用があるから、別の日にして欲しいんだが…」

困ったように言うオレに。

「俺も、今日しか空いてないんだよ。用って言っても、鞠山さんとだろ?皆とやった方がいいって…」

透の言葉に泉が、嫌な顔を見せる。

何が、いけないんだ?

まぁ、気にすること無いか…。

ハァ、透にはバレてしまってるんだし…。

「放課後、図書室でやるから、よかったらどうぞ。亜耶の方も来ると思うから、そこんとこ宜しくな」

亜耶の名前を出したら、男子の目がギラついき、女子は嫌悪する。

男子の対応はわかるが、何で女子は嫌悪する必要があるんだ?

オレは、さっぱりわからなかった。




昼休み、オレと透は、屋上に来た。

「…で、例の件だけど」

透が言い出した。

オレも、覚悟を決めて言うことにした。

「あの人に三ヶ月間だけ、亜耶のナイト役を頼まれた」

「ちょっと待て、それだけじゃ、わからん。始めから話せ」

はしょって話しても、わかるわけないよな。

「実は、あの人研修に行くんだと。その期間が、三ヶ月。それが終わったら、正式に亜耶の婚約者となるって言ってきた」

オレの言葉に透が驚く。

「えっ、何で今更…。元々はそうだったんだろ?何で…」

と呟く透。

裏事情を知ってるからなのか、そんな言葉が出てきた。

「それでいいのかよ、悠磨!」

透が、何を言いたいのかわかる。

でも。

「いいわけないだろ。だけど、亜耶が頼りにしてるのは、オレじゃない。あの人だ。あの人の前だけなんだよ、泣いてる姿を見せてるのは…。今までも、ずっとそうだった。オレ達の前では一度も泣き言を言ったことも我が儘を言ったことも無いんだ。ずっと、笑ってたんだ」

思い返せば、ずっとそうだった。亜耶から甘えの言葉は一度足りとも聞いたこと無かった。

「それって、辛いな。頼りにされてないって思われてる感半端ない」

透が、それを見上げて言う。

「仕方ないよ。亜耶には、あの人の方が、良いって思い知らされたし、それに…あの人には、敵わないと感じたんだ。ライバルってオレじゃあ烏滸がましいかもしれないが、亜耶を頼む時に“亜耶を好きな気持ちは、同じだろ?だったら、君は亜耶を傷付ける筈は無い。そう思うから、君に預けるんだ”って、言われたんだよ」

オレは、フェンスに凭れ空を仰ぎ見た。

「何だよそれ。メチャ格好いいじゃん」

透が、オレを見てるのがわかる。

うん、まさに格好いい。オレでも惚れる。

「それを言われたら、オレじゃあ敵わないって思った。だから、あの人が戻ってくるまでは、オレが亜耶の彼氏として守る役を受けたんだ」

オレは、自分の気持ちを透に話た。

「そっか…。鞠山さんの気持ち、悠磨は聞いたのか?」

透の言葉にオレは首を横に振る。

「じゃあ…」

「近々、亜耶の口から聞かされる事になるだろうな。その時は、慰めてくれるか?」

ポツリと呟いたオレの言葉に。

「やだよ」

透が言う。

「友達がいの無い奴」

苦笑するオレに。

「鞠山さんの事だから、ギリギリまで言えないんじゃないか?」

透の言葉に一理納得する。

あの心優しい亜耶の事だ、絶対に言わない。

あの人が、帰ってきたときには、必ず亜耶に会いに来るだろう。その時にオレから亜耶の背中を押してやろう。そして、潔く亜耶の事を送り出し、祝福しよう。亜耶が幸せなら、オレはそれでいい。

「そうだな。まぁ、あの人が帰ってくるまでは、知らないふりしてるよ」

それが、彼女にためだろう。

「わかった。俺も、何も知らないふりしておくよ」

「悪いな。…っと言う事で、亜耶のところにいってくるな」

オレが、フェンスから離れ歩き出すと。

「へっ、何で?」

透が、聞いてきた。

コイツ、朝の事忘れてるな。

「ほら、放課後の勉強会の人数が増えたこと言っておかないと…」

お前の言葉が発端だったんだがな。

「それもそうか。あっ、俺も付き合うよ」

そう言って、透が付いてきた。


亜耶の教室に向かったのだった。



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