亜耶の想いとは?
そういや、今日は亜耶が出る陸上競技会だったな。
準備して、行くか…。
俺は、着替えると家を出て車に乗り込み会場に向かった。
駐車場に車を停めて、会場入り口に向かう。
やたらと盛り上がってるな。
応援席へと向かう階段を昇りきると辺りを見渡した。
何だ?やたらと亜耶の学校の制服を着た男らが、多いな。
そう思いながら、亜耶が居ないか探す。
おっ、居た。
雅斗と沢口も一緒か…。
取り敢えず、行ってみるか…。
「確かに先輩に比べたらね」
とニタニタ笑いの沢口。
まだ、俺に気付いていない。
亜耶の後ろに回って。
「俺が、どうしたって?」
声を掛けると沢口が、ワタワタしだす。亜耶は、こっちを振り返り、驚いた顔を見せる。
相変わらず、可愛いやつだ。
「雅くんのシスコンも凄いねって言ったら、先輩の方が亜耶ちゃんにぞっこんだって、言ってたんです」
沢口が、力説して、雅斗も頷いている。
亜耶が、顔を赤めて俯いてる。
ワオ。抱き締めたい衝動をどうにか納める。
「そりゃあ、俺にとって亜耶は癒しの存在だからな」
そう言って、亜耶の頭を撫でる。
頬を染めて、上目使いで俺を見てくる。
あー、もうなんちゅう顔してるんだよ。襲うぞ。
何て、一人葛藤してる。
「亜耶。お前の出番まだ何だろう?遥と少し話したらどうだ?」
雅斗が意味ありげに言う。
「…うん」
亜耶が、戸惑いながら頷いた。
「由華、行くぞ」
雅斗が、沢口を連れて行ってしまった。
「亜耶?向こうで、少し話そうか?」
俺は、亜耶の顔を覗きんだ。
亜耶が、軽く頷くのを見てから歩き出した。
その後ろを亜耶が着いてきていた。
俺は、人気のないスタンドを見つけ。
「ここならいいか」
そう呟いて座った。
「亜耶も座りな」
俺は、隣に座るようにポンポンと椅子を叩いた。
亜耶は、それに従って座る。
暫し沈黙の後、俺は切り出した。
「亜耶。俺を避けてた理由、教えてくれるだろ?」
俺は、俯いている亜耶に目線を向けた。
別に怒ってる訳じゃない、ただ知りたかっただけ。
あそこまで拒絶されたのは、初めてだったからな。
「あのね。受験の前だったかなぁ。お兄ちゃんと昼食を食べに行った帰りにね。遥さんを見かけたの。その時、遥さんの隣に綺麗な女の人が居たんだよね。それで、わかったんだ。私じゃ、遥さんの隣に立っても釣り合わないって…。だから、遥さんへの想いを封印して、関わらないようにしてた。そしたら、胸の痛みも消えるんだって…」
段々と尻込みしていく声。困ったような顔を見せる亜耶。
ちょっと待て。
今なんて言った。“遥さんへの想いを封印”って…。
それって…。
「ちょっと、亜耶。確認してもいいか?」
俺は、動揺しながらそう言葉を口にしていた。
亜耶が首を縦に振る。
「亜耶は、俺の事を気にしてるってことか?」
俺の質問に静かに頷く亜耶。
ハァー。やっと、意識してくれたのか…。
喜んでいいとこだよな。
でも、今は話を聞くのが先か…。
「その人と遥さんが結婚するって聞いたから、自分は諦めないといけないって思ったの。だから、近付かないようにしてた」
亜耶が、辛そうな顔をして俺の目を見てきた。
その時の事を思い出したに違いない。
辛い思いさせてしまったんだな。
「うん。大体は、わかった。その人とは、お見合いした。姉の顔をたてるためにな。だが、姉にも兄たちにも婚約者が居る事を告げてから、その見合いをして、断ったんだ。“俺には、婚約者が居るから、お断りします”って。でも、その人は諦めてくれなくて、家の再建で融資の話が上がっててな、その人を断ると融資も受けられないとか言われて…。でも、俺の後ろ楯って鞠山家が居るから、必要ないって断ったのにも関わらず、しつこく迫ってきたんだよ。…で、この三ヶ月間家の建て直しやらで休日無しで働いて、軌道にのったところでお見合いの話がなくなった。で、俺自身が鞠山財閥に引き抜かれた。正直、ビックリしてるんだ。まさか、会長自ら俺を引き抜きたいと言ってくれるとは、思わなかった」
俺は、この三ヶ月間の事を亜耶に話した。
再婚約を結ぶために頑張ってたなんて、言えないが…。
心配そうな顔。
「何、変な顔してるの?俺の婚約者は、元から亜耶だろ?」
俺は、亜耶の手を握った。
「でも、私…」
亜耶が、今にも泣きそうな顔をする。
アイツの事でも考えてるのか?
「亜耶の気持ちわかるから…。アイツにもちゃんと言わないといけないのも…。でも、それは亜耶の気持ちに整理がついてからでもいいから、俺は待ってる」
そうだよ。
やっと、亜耶が俺の事を気にしだしたんだ。亜耶の気持ちが落ち着くまでは待つつもりだ。
亜耶の事信じてる。
亜耶の目を見る。
「遥さん…」
亜耶の目が揺らぐ。
「何年も待ってるんだから、それぐらいは待てるよ」
俺は、笑顔を浮かべる。
「遥さん、ありがとう」
亜耶の口から、お礼の言葉が出てきてはいたが、目には涙が溜まってる。
「ん」
短く返事をして、頭を撫でる。
「亜耶。改めて言わせて。高校入学おめでとう。それから、この腕時計ありがとうな。アイツとの話がついたら、今まで会えずに渡せなかったプレゼント渡すな」
俺の言葉に余計目を潤ませる。
あっ、もう、何でそんなに可愛いわけ。
「亜耶。そんな泣きそうな顔するなよ」
俺は、亜耶の頭を引き寄せた。
「亜耶の泣き顔、誰にも見せたくないのに…」
俺が呟くと、亜耶が顔を上げて。
「誰にも見せたこと無いよ。家族以外で知ってるのは、遥さんだけだから…」
って、ポロポロ涙を流しながら小さく呟く。
マジでか。
アイツにも見せてないのか?
ヤバイ、めちゃ嬉しいじゃんか。
顔が綻んだのが自分でもわかった。