まさか…
陸上競技会当日。
何時ものように亜耶と待ち合わせて、会場に入った。
オレは、控え室の隅でお気に入りの曲を聴きながら、ストレッチなどをして体を解し集中していた。
「悠磨」
オレの目の前に順一が立っていた。
「おぅ、順一。調子はどうだ?」
「ボチボチかな。悠磨は?」
「絶好調とはいかないけど、いいよ」
こういう無駄話もきが紛れていい。
「お前の学校の応援すごいな」
順一が、感嘆してる。
「ん?オレ、まだ応援席に行ってないから、知らない」
どんな状態なんだ?
「殆んどが男だったけど、あれって亜耶ちゃん狙いの奴等か?」
順一がニマニマしながら言う。
思い当たる節としたら、球技大会のときか?あの時の亜耶、目立ってたしな…。
「そうかも…な」
オレの答えに。
「彼氏の余裕ですか、悠磨」
苦笑気味に言う順一。
余裕なんて、全然無い。
「悠磨、悠磨」
そう言って、騒がしく控え室に入ってきたのは透だった。
「なんだよ」
「応援席見たか?」
って、こっちもかよ…。
「見てない」
「すっげーぞ。今までに無い数の応援だ。これも鞠山さんと悠磨のお陰?」
マシンガンのように話す透。
「亜耶ちゃんと悠磨のお陰?」
順一が首を傾げる。
「えっと、どちらさんで?」
「俺、相馬順一。悠磨と亜耶ちゃんの中学からの友達。そう言う、そちらさんは?」
「えっ、俺は湯川透って言います。高校に入ってから友達してます」
なんか、勝手にお互いで自己紹介してるし…。
「…で、亜耶ちゃんと悠磨のお陰ってなんだ?」
順一が透に聞いてる。
「あぁ。ついこの間、球技大会があってさぁ、二人が活躍してたから、それでじゃないか」
透が、淡々と話す。
「…って、亜耶ちゃんの人気凄すぎ。悠磨、今のうちに牽制しとかないとやばくないか?」
順一が、真顔で言う。
「そうだよ。ほら、今からでもいいから、鞠山さんの所に行きなよ」
透が、オレの背中を押す。
「「ガンバれよ」」
って、控え室から追い出された。
さぁて、どうするかな……。
まぁ、二人に言われたから、亜耶を探すか…。
居るとしたら、応援席か…。そう思いながら、応援席に続く階段を駆け昇。
うーん、どこだろう?
オレは、キョロキョロ周りを見渡す。
おっ、二人が言ってた通り、うちの学校の生徒多いな。殆ど男だ。…って、亜耶をさがしに来たんだった。
少し、歩いてみる。
居ないなぁ。他の場所なのか?
そう思っていたら、亜耶の姿を発見。だけど、あの人と一緒に居る。
しかも頭を撫でられて、オレが見たこともない笑顔なんだけれど…。
そして、目が釘つけになる“もの”があの人の腕に…。
何で、あの人が身に付けてるんだよ?
亜耶の彼氏は、オレだろ?
どう言うことなんだ?
何で、亜耶は俺に嘘をついたんだ?
亜耶にとってオレの存在って、何だったんだ?
訳がわから無い。
ピンポンパンポン。
『2百メートル男子出場選手は、トラックに集合してください。繰り返します。2百メートル男子出場選手は、トラックに集合してください』
って放送が入った。
行かなきゃ…。
でも、足がその場に縫い止められたように動かない。
「悠磨ー!!集合かかってるから行くぞ」
順一が、呼びに来た。
「ああ…」
オレは、そう返事をして順一の方に向かった。
この時ばかりは、順一に助けられたと思った。