お兄ちゃん
今回から亜耶目線です。
悠磨くんの意味深な言葉から、一週間が過ぎた。
テストも終わり、冬休み前の塾での事だった。
「亜耶。クリスマス。パーティーしない?」
突然、留美が言ってきた。
「パーティーって、私達、受験生なんだよ。そんな事してられない」
私の考えが、堅いのかな?留美の顔が歪んでる。
「勉強ばかりだと息が詰まっちゃうよ。だから、生き抜きしよ」姫依ちゃんが言ってきた。
「亜耶ちゃん。無理なのか?」
的場くんが聞いてきた。
何時の間にか、私の周りに何時ものメンバーが集まっていた。
そして、私の言葉を待ってる。
「わかった。パーティーしよ。っで、何処でするの?うちは駄目だからね」
私は、聞かれる前に言う。家に呼べない理由、有る様で無いんだけどね。
「俺の家は?親も姉貴も居ないから、騒げるぜ」
相馬くんが言う。
「だったら、順一の家で、時間は・・・」
悠磨くんが、仕切りだす。
「その日って、塾あるよね。終わった後にそのまま行けばいいんじゃない?」
私がそう言うと。
「それもそうだな。ってことで、塾が終わったら、順一の家に雪崩込んで、クリスマスパーティーな」
悠磨君が、皆に告げた。
「「「「「了解」」」」」
各々頷いた。
今年のクリスマスは、楽しめないと思ってたけど、まさかこんな事になるとは・・・。
でも、いっか・・・。
クリスマスは、一年に一度しかないんだもんね。
楽しんだもの勝ちだ。
私は、その日が待ち遠しく思えた。
「お母さん。クリスマスの日、塾が終わったら、友達の家でパーティーしてから帰るから、遅くなるね。それから、遥さんには言わないでね」
その日、家に帰ると直ぐにお母さんに伝えた。
「わかってるわよ。楽しんでおいで」
快く言ってくれるお母さん。
「うん」
「メンバーは、いつものメンバーなんでしょ?」
「そうだよ。気心知れてるメンバーだよ」
「なら、心配いらないね」
お母さんも心配してないようだ。
許可がおりたことだし、心置きなく楽しめる。
「あ、そうだ。お兄ちゃんね、来年の春に結婚するからね」
お母さんが、思い出したように言う。
「本当?」
「うん。向こうの親御さんの許可もおりたって、言ってた」
そっか・・・。
由華さんが、お義姉さんになるんだ。
嬉しいな。
「お兄ちゃん居る?」
何時も帰ってくるの遅いから、聞いてみた。
「部屋に居ると思うけど・・・」
お母さんの言葉にお兄ちゃんに部屋に向かった。
コンコン。
お兄ちゃんの部屋のドアをノックした。
「はい」
部屋からお兄ちゃんの声。
「お兄ちゃん、亜耶だよ。入ってもいい?」
ドア越しに遠慮がちに聞く。
「いいよ」
部屋のドアを開けて中に入る。
白と黒で統一された部屋。本棚には、難しそうな本がぎっしりと並んでいる。
「どうした?亜耶」
お兄ちゃんに聞かれて。
「お兄ちゃん、結婚おめでとう。由華さんが、私のお義姉さんになるんだね」
今しがたお母さんから聞いたことのお祝いの言葉を告げる。
「ありがとう、亜耶。由華も亜耶の事、本当の妹だって言ってた」
お兄ちゃんがちょっとだけ照れて嬉しそうに言う。
こんなお兄ちゃん初めて見る。
「一つ、気がかりがあるんだよな」
お兄ちゃんが、私の顔を見て言う。
「何?」
私は、見当が付かず、首を傾げた。
「遥の事」
「遥さん?」
「俺が家を出て行ったら、あいつの暴走を止める奴がいない」
あぁ、そっか・・・。
今までは、遥さんの暴走をお兄ちゃんが止めてくれてたけど・・・。家から出て行ったら、止めてもらえない。
その事を気にしてるみたいだ。
「大丈夫だよ。高校に行っても部活に入るつもりだし、土日もそれである程度つぶれるだろうからね」
憶測でしかないけど・・・。
それでもお兄ちゃんが、気兼ねなく出ていけるように言う。
「亜耶・・・。俺が、守ってやりたいけどな、俺には由華がいるからな」
お兄ちゃんが、眉尻を下げて言う。本当、心配性なんだから。
「うん、大丈夫。私は、遥さんの事、自分でどうにかするから、お兄ちゃんは、由華さんを大切にしてあげて」
お兄ちゃんの優しさが、嬉しかった。
「亜耶、ありがとう。大好きだよ」
「うん。私もお兄ちゃんの事、大好き」
私は、お兄ちゃんに抱きついた。
優しいお兄ちゃん。
私の理想だった。
お兄ちゃんみたいな人、私にも現れるのかなぁ?
お兄ちゃんが、私の頭を撫でてきた。
「まぁ、結婚までに日があるから、その間に少しでも落ち着いてくれればいいんだがな」
お兄ちゃんが、苦笑する。
誰の事を言ってるのかがわかり。
「そうだね。それは、遥さん次第だよね」
私も、苦笑を溢した。
「クリスマス。今年も家族で過ごすって・・・」
あっ、そうか。
「ごめん。お母さんにもさっき話してたんだけど、クラスの友達と息抜きがてら、パーティーしようってことになって・・・」
わたしは申し訳なく思いながら、告げた。
お兄ちゃんと過ごす最後のクリスマスなのに・・・。
「そっか・・・。じゃあ、プレゼントだけ用意しておくな」
お兄ちゃんの仕方ないって顔が伺える。
「いいよ。その分、由華さんに使ってよ」
「由華の分はちゃんと用意してあるから、気にするな」
「でも・・・」
「遠慮するなって・・・。亜耶は、俺にとって、かけがいのないたった一人の妹なんだから・・・」
そう言って、優しい笑顔で頭を撫でてくる。
「うん・・・。ありがとう」
「遥には言ってあるのか?」
お兄ちゃんの言葉に首を横に振った。
「言うと、大変なことになりそうだから・・・。お兄ちゃんも言わないでね」
「わかってる。その前に、あいつの事だから、仕事が忙しくて、亜耶に会いに来れないだろ」
お兄ちゃんが、思い出したように言う。
確かに・・・。
この時期の遥さん、忙しそうだもんね。
アパレル関係の仕事だって言ってたし・・・。
「まぁ、パーティー楽しんでこいよ」
お兄ちゃんの優しい眼差しに。
「うん」
私は頷き、お兄ちゃんの部屋を出た。