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第9話 ○月○日 凪と碧、ご対面!

  出産後、奥さんが落ち着いたら、碧が病室に来ました。

  凪の時は、新生児室にずっといたけど、

  この産院は赤ちゃんと同室になっています。

  だから、思う存分、碧を抱っこできるし、見ることができます。

  超、可愛い~~~~~~~~~~~~(//∇//)


  そして、凪が碧とご対面をしました。

  ちっちゃい碧を見た凪は、ちょっとおっかなびっくり。

  それに、病室のベッドに寝ているママに甘えたり抱きついたり。

  帰るときにはママとパパと一緒に帰ろうと、

  泣いちゃったりして大変でした。

  あんなに、家ではママやパパがいなくても大丈夫なのになあ。

  赤ちゃんがえりしちゃうかな。ちょっとパパは心配です(>_<)


 今回の産院は、個室になっていて、赤ちゃんと退院まで一緒にいられる。初産の人は赤ちゃんの世話をいきなりするので、大変かもしれないけど、私や聖君にとっては、嬉しいことだった。

 特に聖君には…。


「榎本さん。産後の様子も順調なので、赤ちゃんを連れてきますね」

と看護師さんが、私の産後の処置をしに来たあとそう言うと、

「え?もう連れてくるんですか?」

と、目を丸くして聖君がそう聞いた。


「ええ。何か、問題がありますか?」

 看護師さんが、ちょっと怪訝そうな顔をしてそう聞くと、

「いえ。全然ないです」

と聖君は目を輝かせ、ワクワクした顔でそう答えた。


「…では、連れてきますね?」

 看護師さんは、聖君のワクワクした顔を見て、くすっと笑ってからそう言って部屋を出て行った。


「すごい。母子同室っていいね」

 聖君は目尻を下げて喜んでいる。

「うん。そうだよね。聖君、凪の時には退院するまで抱っこができなくって、寂しがっていたもんね」

「うん。そうか~~。いつでも碧のこと抱っこできるし、碧の世話が今からできるんだね!」


 そんなことを言っていると、看護師さんが碧を連れてやってきた。

「榎本さん、赤ちゃんきましたよ~~」

「碧!」

「碧?碧君ですか?」

 聖君が碧を見てそう叫んだので、看護師さんはちょっとびっくりしながらそう聞いてきた。


「あ、はい。碧です。抱っこしてもいいですか?」

「…いいですけど、大丈夫ですか?」

 看護師さんは、30代くらいの女性。ちょっと、聖君のことを心配しているようだ。この看護師さん、検診の時見かけなかったっけなあ。だから、聖君のことも知らないんだ。

 知っていたら、必ず凪も連れてきていたから、どんなに子煩悩なパパかも知っていたのになあ。


「大丈夫です。気をつけます」

 そう言って、聖君は碧を看護師さんから受け取った。

「可愛い~~~~」

 聖君は思い切り目を細めた。ああ、一気にパパの顔だ。


「あれ?もしかして初めてのお子さんじゃないんですか?慣れているようですけど」

 あ、やっぱり、看護師さん、初めての子だと思っていたんだ。

「二人目です。上の子は今、祖父母が見ててくれて」

「上のお子さんはいくつなんですか?」


「つい先日2歳になったばかりです」

 私が碧を抱っこして、全然看護師さんの質問を無視している聖君にかわって答えていると、

「上の子は凪っていって、女の子なんです。あ、きっともう少ししたら来ると思います」

とニコニコ顔で、聖君はそう答えた。


「そうなんですね。じゃあもうママもパパも、赤ちゃんのお世話ばっちりですね」

「はい」

 聖君は、またニッコリと笑ってうなづいた。

「では、何かあったらすぐに呼んでくださいね。赤ちゃんにはすぐに初乳をあげてください。それでは」

 看護師さんは病室を出て行った。


「はい、ママにおっぱいもらおうね?」

 聖君はベッドに座っている私の方に碧を抱っこしてきて、そうっと私に手渡した。

「ああ、このふにゃふにゃ感、久しぶり」

「うん。首がまだぐにゃぐにゃで、ちょっと怖いね?」

 聖君はそう言ってから、突然、

「あ、写真、写真」

と携帯を取り出した。


「おっぱいあげてるところ、撮っていいよね?桃子ちゃんの胸は隠れるようにするから」

「うん」

 私は碧におっぱいをあげた。碧は元気よく吸いついた。


「元気だね、碧」

「うん。力強いよ」

「男の子だと違うのかな?」

「かもね」


 おっぱいに元気よく吸い付いている碧の顔を見ていると、なんだか、まるで聖君がおっぱいを吸っているように見えてきた。

「碧、聖君に似てる」

「そう?」

「なんだか、聖君におっぱい吸われているみたい」


「うそ。だからって、感じちゃダメだよ」

「そ、そんなこと絶対にならないから!」

 もう。何を言ってるんだか、このスケベ親父は。


「はあ。可愛いよね。赤ちゃんってなんでこんなに可愛いんだろう。天使だよね」

「うん」

「凪より髪多いね」

「うん」


「桃子ちゃんが、聖母マリアに見える」

「はあ?」

 もう、聖君って面白すぎるよ。

「あ、写メ撮るの忘れてた。撮ろうっと」

 聖君は携帯を構えて、写真を撮った。


 おっぱいをあげ終わって、ゲップをさせ、それからまだ立ち上がるのが大変な私の代わりに、聖君がおむつを替えた。

「おお!」

「え?何?」


「凪の時にはなかった、立派なものが!」

「そうか。大変。看護師さんにお尻の拭き方聞けばよかった」

「なんで?」

「だって、男の子だと違うでしょ?」


「あ。そうそう。ちゃんとティッシュでおさえておかなきゃ」

「何を?」

「おチンチン。おしっこされられたら、たまったもんじゃないから」

「そ、そうだよね」


 そうか。聖君は男だもんね。おチンチンって言うのも抵抗ないよね。私には口に出して言えそうもないよ、恥ずかしくて。

「う~~~ん。新生児のウンチって、独特の匂いがあるよね」

「でも、おっぱいを飲むようになったら、また匂いが変わるかも」

「そうだね。でもまだ、臭くないね」


「そう?」

「うん。凪の方が臭い時あるよ。もう肉とかも食べてるからかな」

 聖君は片手で碧の足をひょいと持ち上げ、手早く綺麗に碧のお尻を拭いた。

「お尻だけじゃなく、こっちの裏も綺麗にしないとね?桃子ちゃんがおむつを替えてあげるときにも、ちゃんとしてあげてね?」


「こっちの裏?」

 おチンチンの裏とか?

「タマタマの方。それにしてもでかいなあ。っていうか、ちょっと腫れてるのかな?大丈夫なの?こんなにでかくて」

「……」

 タマタマって、あ、そうか。うわ。その言い方は可愛いけど、やっぱり口に出すのは恥ずかしいかも。


「でも、桃子ちゃん、やっぱ、男の子の方がおむつ替え簡単だよ」

「そう?そうなの?」

「うん。楽チン、楽チン。って、やばい!おしっこした!」

 聖君は慌てて何枚かティッシュを箱から引っこ抜き、濡れないようにおチンチンの上にかぶせた。


「セーフ。やばい、やばい。危なかった」

「気を付けないとね?」

「うん。家でも気を付けないと。凪の時にも一回、やらかしたよね?」

「うん。そういえば…」


「あはは。なんだか、懐かしいけど、またこうやって新生児の世話するんだもんなあ。なんか、嬉しいなあ。ベビーバスにもまた入れるんだね。楽しみだなあ」

 ああ、聖君ったら、すごく嬉しそう。そうやって嬉しそうに、そんなことを言ってくれるから、私もすごく嬉しくなる。


 おむつを替えると聖君は、碧を優しく抱っこして、ゆらゆらと揺れだした。

「あ、もう寝そう」

 私が碧の顔を覗きんでそう言うと、

「うん。俺が寝かしちゃうから、桃子ちゃんは休んでていいよ?疲れたでしょ?」

と言ってくれた。


「うん。ありがとう」

 私はその言葉に甘えて、ベッドに横になった。

「大丈夫?」

「うん。平気。起きて歩いて新生児室行くよりも楽かも」

「あ、それもそうだね」


 聖君はもう寝てしまった碧を、静かにそうっとベビーベッドの上に寝かせた。ベビーベッドといっても、本当に小さい小さいベッドだ。


「写真撮っちゃおう~~」

 そう言って聖君は、パシャパシャと写真を撮った。こりゃまた、碧の写真がいっぱいになっちゃうなあ。

「は~~~。手、ちっちゃい。足もこんなに小さいよ?桃子ちゃん」

「うん」


「あ、ごめん。桃子ちゃんも寝るよね?」

「ううん。まだ、寝ない」

「寝てもいいよ?」

「でも、碧を見ている聖君を見ていたい」

「何それ」


「だって、碧を見ている聖君を見ているだけで、幸せになるんだもん」

「クス。もう、桃子ちゃん、可愛いこと言うんだから!」

 聖君はそう言って、私にキスをしてきた。


「俺も、超幸せ」

「うん!」

 ああ、本当に幸せだよ!個室っていいね。どんなにいちゃついてもいいんだもんね!


 そして、私はいつの間にか寝てしまった。その間、聖君はずっと碧の寝顔や、時々動く手や足、あくびをした碧を見て、喜んでいたようだった。


 午後になり、面会時間にお母さんとお父さん、杏樹ちゃんと凪がやってきた。

「パ~パ、マ~マ」

 部屋に入ってくると、私と聖君を見て、凪は思い切りそう叫び、まずパパに抱きついた。

「な~~ぎ!いい子にしてた?」


 聖君は凪を抱っこすると、頬ずりをした。凪は嬉しそうに聖君の首に両腕をまわして、

「パパ、パパ」

と連呼していた。


「凪、碧だよ。凪の弟」

「アオ?」

「そう。碧」

 聖君が凪を抱っこしたまま、碧に近づけた。凪は、碧をじっと見たけど、また聖君の顔を見て、

「マ~~マ」

と今度は私のことを呼んだ。


「ママのところに行く?」

「うん!おんり!」

 聖君が凪を下におろすと、凪は私のところにすっ飛んできて、ベッドによじのぼり抱きついた。


「凪、ママのお腹にいた赤ちゃん、生まれたの」

「あ~たん?」

「そう。碧があ~たん。わかる?」

「あ~~たん」


 そう言って、凪は碧のほうを見た。それから、私のお腹に手を当てて、

「あ~~たん、ここ!」

と、優しくさすった。ああ、まだお腹にあ~たんはいるじゃないかと言いたいのかもしれない。まだ、ママのお腹、しっかりと出てるもんねえ。あ、ちなみにあ~たんというのは、赤ちゃんという意味だ。


「もうここにはあ~たんいないんだよ?凪」

 聖君がそう言っても、凪には納得できないようだった。


「碧ちゃん、寝てるのね~~」

 お母さんがそう言って、碧の顔を覗き込んだ。

「可愛いだろ?くるみ。聖の赤ちゃんの時そっくりだ」

「本当ね。そっくりだわ」

 お母さんとお父さんはそう言って、碧を優しく見ている。


「可愛い。お兄ちゃんの赤ちゃんの頃の写真、こんなだったよね」

 杏樹ちゃんも碧を覗き込んで見た。

「そうよ。鼻とか口元、そっくりね。目はあいていないからわかんないけど」

「可愛いな~~。早く起きないかな。抱っこしたい」

 杏樹ちゃんもお母さん同様、目を細めて碧を見ている。


「桃子ちゃん、体の具合は?貧血とか大丈夫?」

 お母さんは私の方を向いて、優しくそう聞いてくれた。

「はい。大丈夫です」

「母子同室って大変じゃないの?」

「はい、夜は新生児室に連れて行ってくれるそうです」

「あら、そうなのね。良かったわね」


「はい。それにおむつ替えは聖君がしてくれたし」

「そうだ。碧のタマタマでかいんだ。普通ってどうなの?赤ちゃんのタマタマって腫れちゃってるの?」

「ああ、そうなんだよね。けっこう大きいんだよ。聖の時もそうだったよ。おチンチンもタマタマもでかくて、こりゃでかいぞ。大人になったら、女を泣かせるようにならないかって、俺、ちょっと心配したもんなあ」


「何それ。なんでそういう発想になるわけ?」

「本当よね。そんなこと一言も言っていなかったのに、心の中でそんなこと思っていたわけ?爽太は」

 お母さんと聖君は、ほぼ同時に呆れたっていう顔をした。


「女の子と男の子じゃ、いろいろと違うから、桃子ちゃん、わからないことがあったら、なんでも聞いてね。一応聖を育てたから、アドバイスは出来ると思うんだ」

「はい。ありがとうございます。私の母は、女の子しか育てていないし、お母さんだけが頼りです」

「あ、そうよね。そういうことになるのね」

 お母さんはそう言って、くすくすって笑った。


「あ、お母さん、碧君、目を開けたよ」

 杏樹ちゃんはずっと碧のことを見ていて、お母さんにそう言った。

「まあ、本当だ」

「目、大きいな。あ、そうだそうだ。ビデオ撮らなくっちゃな」

「抱っこしてもいいかしらね」


 お母さんがそうっと、碧を抱っこした。お父さんはビデオを回し、聖君は、

「写真撮るよ。母さん、こっち向いて」

と言って、写真を撮った。


 杏樹ちゃんも碧を抱っこして写真を撮った。それから、今度はお父さんの番というところで、碧はぐずりだしてしまった。

「あれ?お腹すいたかな。もう3時間たったもんね?」

「うん。おっぱいあげちゃおうかな」


「じゃあ、俺は外出てるよ。杏樹とくるみはどうする?」

 お父さんがそう聞いた。

「おっぱいあげるのも見たいな」

 杏樹ちゃんはそう言った。そのとき、ドアをノックして、

「桃子、入るわよ」

と母とひまわりが入ってきた。


「あ、ひまわりちゃん!」

「杏樹ちゃん!」

「今ね、碧君が泣いちゃって、おっぱいをあげるところなの」

「碧?碧っていうの?」


 ひまわりが碧の顔を覗き込んだ。

「ほぎゃあ。ほぎゃあ」

 碧は本格的に泣き出していた。

「顔真っ赤!可愛い~」


「お兄ちゃんが赤ちゃんの時にそっくりなんだよ」

「そうなの?」

「可愛いわね~~~~」

 母も碧の顔を見て目を細めた。


「あの、お父さんは?」

 聖君が母に聞いた。

「仕事よ。休んで見に来たいって言っていたんだけどねえ。ここ、何時までなの?面会時間」

「6時までだそうですよ」

 お父さんがそう母に答えた。


「じゃあ、仕事帰りに寄れるわね。あ、おっぱいあげるんでしょ?あげちゃって、桃子」

「じゃ、俺はロビーで缶コーヒーでも飲んでるよ」

「俺も付き合う。凪もジュース飲む?」

「ジューチュ!」

 聖君はお父さんと一緒に、凪を連れて病室を出て行った。


 私は碧におっぱいをあげた。聖君が凪を連れて行ってくれて良かった。凪は私が碧を抱っこしたら、すごく不機嫌そうな顔をして見ていたから。

 まだ、碧が自分の弟で、私のお腹にいたあ~たんと同一人物だと把握できていないんだろうなあ。


「超スピード出産だったんだってね?」

 母がそう私に聞いてきた。

「うん。逆に危なかったんだ。碧の頭、見えてたみたいだし。もうちょっと入院が遅くなったら、大変だったよ」

「まあ、そうだったの。経産って、そういうことがあるから、うっかりできないわよね」


「ひまわりちゃんの時はどうでした?」

 お母さんが母に聞くと、

「ひまわりは、そんなでもなかったわねえ。大きかったし、逆に難産だったわ」

と母はそう答えた。


「杏樹の時は、早かったわね、そういえば。でも、碧ちゃんほどじゃなかったわ。ほんと、電話が来たとき、びっくりしたわよ。これから長くかかるんだと思って、私も杏樹と一緒に凪ちゃんの横に寝っ転がって、寝ようとしてい時だったから。だって、病院に行ってから、1時間もたっていなかったんじゃない?」


「そうなんです。2時40分に分娩室に入って、3時10分には生まれちゃってたから」

「びっくりよねえ。でも、安産で良かったわね」

「はい」

 碧は、おっぱいを飲んでブリリ~~~とウンチをしたらしい。


「あ、臭ってきた。新生児独特のウンチの匂い」

 母がそう言った。すると、

「本当だ。なんか酸っぱい匂いじゃない?」

とひまわりが鼻をおさえた。

「私、杏樹ちゃんと、ロビーにいるよ。ね、杏樹ちゃん、行こう」

「うん」


 さすがに匂いも、ウンチのおむつ替えも、ひまわりは耐えられなかったようだ。

 私は碧にゲップをさせると、よいしょとベッドから立ち上ろうとした。でも、

「桃子ちゃん、大丈夫よ。やってあげるから、寝てて」

とお母さんがそう言ってくれた。


「私も手伝うわ。退院したら、碧ちゃんの世話しないとならないんだしね」

 母もそう言って、お母さんと一緒におむつ替えをした。

「あ、聖君がおしっこかからないよう、ティッシュでおさえながら、お尻を拭いてました」

「あ、そうね。おチンチン、おさえとかないとね」

 お母さんがそう言って、ティッシュを取っていた。


 そうか。お母さんも平気で、おチンチンと言えるのか。やっぱり、男の子を育てただけはあるなあ。

「あら、聖が言ってたとおり、タマタマ大きいわね」

 ああ、タマタマとも言えちゃうのね。私もそのうち、言えるようになるのかなあ。

 母はと言うと、恥ずかしいのかどうなのか、なんにも言わなかった。


「はい。綺麗になった」

 お母さんが、機嫌良くなった碧を抱っこしてベッドにそっと寝かせた。碧は、目をぱちくりと開けたまま、手を動かしたりしている。


「可愛いわね~~~~」

 お母さんがそう言うと、その横で母が、

「おむつ替え、男の子だと違うのねえ」

と、何やら感心している様子だった。


 それからしばらくすると、聖君、お父さん、凪が戻ってきた。杏樹ちゃんとひまわりもその後ろから、病室に入ってきた。

「そろそろ帰らないとな、くるみ」

「そうね。店閉めてきちゃったから、帰らないとね」

「え?あ、そうか。今日定休日でもなんでもないですもんね」


「そうなの。1時間だけ病院に行ってくるって言って、紗枝ちゃんもいったん、ファミレスで休憩とってねって言って、追い出しちゃったし。早くに帰って、お店再開しないとね」

 お母さんはそう言うと、

「杏樹、凪ちゃん、帰りましょう」

と言って、凪の手を取った。


「パパ、ママ」

 凪は、私と聖君を呼んだ。

「パパはもうちょっとママのそばにいるよ。凪はいい子で、爽太パパとくるみママと帰りなね?」

「パパも~~~」


「ごめん、ママ一人だと、碧の世話大変だから」

「ヤ~~~ヨ!ママも~~~~」

「凪ちゃん、爽太パパと帰ろう?クロも待ってるよ?」

 お父さんが凪を抱っこしようとした。でも、凪はその手を振りほどき、聖君の足にしがみついた。


「ヤ~~~ヨ!パパ~~~~~」

 あ、珍しく泣きそう。

「凪、いい子で家に帰りなさい」

 聖君がそう言うと、

「ママ~~~~~」

と今度は私の方に泣いて飛びついてきた。


 珍しいこともあるもんだ。こんなふうに泣きつかれたことは初めてかもしれない。

「ママ~~~!!ママ~~~!!」

「凪ちゃん…」

 お母さんとお父さんが困った表情をしている。


「よし。凪、パパと帰ろうな?それならいいだろ?ママはまだ、寝ていないとならないんだ。とっても疲れてて、ここでゆっくりと休まないと家に帰れないんだよ?」

「ママ?」

「うん。でも、パパが一緒に帰るから。ね?」

 凪は泣き止んで、コクンとうなづいた。


「桃子ちゃん」

 聖君は口だけ動かして「あとでね」とそう言った。

「じゃあ、私はもう少し、碧君のお世話をしていくわね。ひまわりは杏樹ちゃんと一緒に帰る?」

「うん。そうする~~」


 母だけが病室に残り、あとのみんなは出て行った。

「凪ちゃん、さすがにママがいないと、寂しいのね」

「うん。あんな凪初めて見たよ」

 みんなが帰ってから、母とそんな話をした。

「赤ちゃんがえりしないかしらね」


「どうだろうなあ」

 私はぼ~~っとしながら、そう母に答えた。

「碧君、もうちょっとしたら、うちに来るのね。お父さんも楽しみにしているのよ」

「凪、椎野家に遊びに行ったことはあるけど、泊まるのは久しぶりだから、大丈夫かな」


「クロちゃんからも離れるしねえ。でも、凪ちゃん、しっぽと茶太郎と仲良しだし、ひまわりもあれでけっこう、凪ちゃんと遊んであげてるし、だいじょうぶじゃない?なにしろ、お父さんが溺愛してるしね」

 あ、そうだった。父のこと、凪も大好きなんだよね。


「私、寝てもいい?」

「いいわよ。休んでて?」

「うん」

 私は母がいるので、安心して眠りについた。

 でも、どこかで凪のことが心配だった。


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