第8話 ○月○日 第2子誕生!
予定日より2日早く、第二子誕生です!
元気な男の子です!めちゃ可愛い!!(*≧∀≦*)
凪は陣痛の時間が長かったけど、二人目はあっと言う間に生まれました。
3080グラム。ちょっと大き目かな。
名前は、また海をイメージして、碧と名付けました。
ですから、凪&碧パパの子育て日記になります!(^ω^)
陣痛が来たのは、夜中の2時頃。なんとなく下腹部が痛み、目が覚めてトイレに行った。
「あ、出血してる」
私は、熟睡している聖君の体を揺らし、
「聖君、起きて。なんかお腹痛い」
と聖君を起こした。
「ん~~~?桃子ちゅわん。ダメだよ、お腹の子に触るから」
「は?」
「おねだりしても、ダメ」
「聖君!寝ぼけてないで起きて!陣痛かも!」
「え?…陣痛?」
聖君は一回、目をパチクリとさせてから、
「陣痛?!マジで?!」
と大声を出しながら飛び起きた。
「し~。凪が起きちゃう」
「あ、ごめん。…で、相当痛いの?」
「ううん。そうでもないけど、出血もしてたの」
「わかった。桃子ちゃん、一応着替えて。俺も着替えて、父さんと母さん起こしてくるから」
「うん」
聖君はさっさとパジャマから服に着替えて、部屋を出ていった。私も凪を起こさないよう、そっと着替えをした。
「桃子ちゃん、陣痛始まったの?」
お母さんが、パジャマの上にカーディガンを羽織って部屋に入ってきた。
「あ、はい。なんとなく痛みがそれっぽいんです。まだ、そんなに痛くないんですけど」
「じゃあ、着替えてくるわ。今、爽太も着替えてるから、そうしたら、爽太が運転するから病院に行きましょうか」
「凪は?」
「私が見ているわ。病院に行く前に、桃子ちゃんのお母さんにも電話したほうがいいわね」
「はい。すみません」
「とりあえず今は、杏樹起こして凪ちゃんの隣に寝ておいてもらおうかしらね」
そう言って、お母さんは杏樹ちゃんを起しに行った。
私は、重いお腹をよいしょと抱えながら、一歩一歩丁寧に階段を降りた。何しろお腹が邪魔で足元が見えない。
「はあ。お腹、重い」
そう言いながら、お腹をさすった。9ヶ月までは、思い切りお腹の中で暴れていて、足で蹴飛ばしたりして痛いくらいだった。でも、だんだんと赤ちゃんがお腹の下に降りてきて、暴れなくなった。
「体重、凪の時より増えたし、赤ちゃんも大きいのかな。嫌だな。難産とかにはならないよね。ね?陣痛も長くない方が、ママは嬉しいよ。早くにおぎゃあって生まれてきてくれるかな?」
なんて、話しながら、私はリビングのソファにどっこらしょと座った。
「桃子ちゃん、車は店の前に回してきた。いつでも、病院に行けるよう、荷物も入れておいたから」
聖君がそう言って、お店からやってきた。
「ありがとう」
さすがだ。凪の時には、聖君が誰よりも慌てふためいていたのに。
「どう?お腹痛い?」
「うん。なんとなくまた痛くなってきた」
「辛い?」
「まだ、大丈夫」
そう言っているのに、聖君はすでに腰をさすってくれている。聖君の手、あったかいし、嬉しいな。
「杏樹、凪の隣で寝ててくれるって」
そう言いながら、お母さんが下りてきた。
「ワン」
「クロも凪のところに行くの?あなたは大丈夫よ、ここにいて」
クロも何かを察知したのか、すっかり目を覚まし、ちょっと興奮している。
「聖、車は?」
お父さんが2階から下りてきた。
「もう店の前」
「そっか」
「荷物も入れたから、いつでも行けるよ」
「じゃ、桃子ちゃんの陣痛が、10分おきになるまで待ちましょうか」
お母さんがそう言いながら、テーブルの前に座ったが、
「お茶でも入れる?なんだか、落ち着かないわね」
と言い出した。
「…なんだか、けっこう痛くなってきたんですけど」
「え?本当に?もう病院行く?」
聖君が心配そうに聞いてきた。
「まだ早いでしょ。でも、病院には電話しておきましょうか」
「そうだな」
お父さんが病院に電話してくれた。
「いたた。なんか、腰も痛いかも。…あ!」
「え?!」
「どうした?桃子ちゃん」
電話しているお父さんも、私の声にびっくりしてこっちを見た。
「今、パツンって…。破水したみたい」
「破水?」
お父さんが、
「今、破水したみたいで。そろそろ病院に行きますので、よろしくお願いします」
と言って、慌てて電話を切った。
「破水したなら、病院行ったほうがいいわね」
「そうだな。車もそんなに速く走らせられないしね」
「慌てず安全運転でね、爽太」
「わかってるよ」
お父さんとお母さんがそんな会話をして、お店の方に行った。
私も聖君に支えてもらいながら、ゆっくりと歩いてお店に行った。
「じゃあ、生まれたら電話ちょうだいね、聖。杏樹や凪ちゃんと行くから」
「わかった」
「椎野家には私から電話しておくから」
「はい、お母さん、お願いします」
お店を出てから、ゆっくりと車に乗りこんだ。そして、車もゆっくりとお父さんが走らせた。
「う…。いたたた」
「痛い?」
「うん。だんだんと痛くなってきた」
「凪の時みたいに、朝までかかるかな。それとも、もっとかな。頑張ってね、桃子ちゃん。俺もずっとついてるからね」
「う、うん」
そうだった。これからが長いんだよね。あ~~。またあの痛みがこれから来るんだね。辛いんだよね。
でも、今日も聖君がいてくれるし…。今も腰をずっとさすっててくれているし。
「聖君、ごめんね」
「へ?何が?」
「また、さすってもらっちゃってる」
「何言ってるんだよ。俺、これくらいしかできないんだから。あ、桃子ちゃん、今回は絶対に遠慮なんかしないでいいからね。わかってるよね?俺のことよりも、赤ちゃんのことだよ」
「うん」
やっぱり優しい。だから、聖君大好き!
痛みがすうっと消えたので、聖君の胸に抱きついてみた。
「そんなに痛い?」
「ううん。今は痛くない。でも、甘えてみたくなって」
「あ、そう」
あれ?聖君、照れてる?あ、お父さんがいるからかな。
「桃子ちゃん、もうちょっとで着くからね」
「あ、はい」
う。また痛くなってきた。5分おきくらいになっているよね、これ。
「桃子ちゃん、また痛い?」
「ん、痛い」
いたたた。痛い。
「ねえ、聖君」
「ん?」
「凪、私や聖君がいなくって、泣いたりしないかな」
「母さんも杏樹もいるから大丈夫。桃子ちゃんは今、赤ちゃん生むことだけ考えていたらいいから」
「う、うん。そうだよね」
でも、凪の時もそうだったけど、ほかのことを考えていたほうが、気が散っていいんだけどな。
そうこうしているうちに、病院に着いた。そっとまた私は聖君に支えられながら降りて、そのまま病院内に入った。中にはすでに看護師さんが待機していてくれた。
「榎本さん、どうぞ。今から入院の手続きをしますから、ここにかけて書類に記入をお願いします」
「はい」
聖君が、私をまず座らせ、それから横に座って書類に書き始めた。お父さんはしばらくしてから、院内に入ってきた。
「い、いたたた。痛い」
「大丈夫?桃子ちゃん」
聖君が書類を書くのをやめて、私の腰をさすってくれた。
「荷物は病室に持っていきましょうか。お父さん、案内しますよ?」
「いたたたた。すみません。なんか、生まれそうです」
私がそう言うと、看護師さんは目を丸くさせ、
「は?まだですよ。大丈夫です。まだまだ、かかりますから。先にお父様を病室に案内しますので、ここでお待ちください」
と、ちょっと苦笑してそう言った。
そんなあ。
「桃子ちゃん、俺がいるから安心して?」
聖君も腰をさすりながらそう言ってくれた。
「でも!でも!もうなんだか、陣痛が1分おきになってるし、なんだか、生まれそうな感じが」
だって、お尻のあたりまで、赤ちゃんが来ている感じすらするよ?ちょっと力みたくなってるけど?これ、大丈夫なの!?
「じゃあ、先に分娩室で子宮口の開き具合、診てみましょうか」
そう看護師さんに言われ、安心して私はお腹を抑えながら分娩室に入った。
看護師さんは、多分安心させるためにそう言ったんだろう。ちょっと苦笑していた。聖君もお父さんも、これから陣痛室に入って、何時間もかかるんだろうなとそう思っていただろう。顔がまだまだ、穏やかだった。
でも、私だけは違っていた。これは、すぐに生まれちゃう!そう感じていた。
分娩台に上がった。看護師さんはまだ余裕の声だった。
「では、診てみますので…」
だが、その一言だけを発し、一気に看護師さんは慌てふためいた。
「た、大変!赤ちゃんの頭が見えてる!!!」
そう叫んで、分娩室にひとりきりの看護師さんは、相当パニクったのか、インターホンか何かで、
「誰か、誰か来て!助けて!」
と叫んでいた。
た、助けてって、私が言いたい。まだ、力んじゃダメだよね。
「ちょっと待っててくださいね。今、先生が来ますから」
分娩室の時計を見た。2時40分。夜中のこの時間なら、そりゃ、病院内は静まり返っているよね。この看護師さん以外はきっと、どっかでゆっくりと休んでいて、私が入院するって言ったって、まだまだ生まれるまで時間がかかると思っていたんだろうなあ。
いや。そんな悠長なこと考えていられない。また、陣痛が来た。
「いたたたた!」
「待ってね、もうちょっとだから」
看護師さんはまだ、慌てている。
バタバタと、先生やほかの看護師さんがやってきた。分娩室の中が一気に賑やかになった。
そして、ものすごい勢いで出産の準備に取り掛かった。その間は、陣痛が来るたび、看護師さんが、
「ひっひっひ、ふ~~」
と、ラマーズ法の呼吸を一緒にしてくれた。
「榎本さん。もう大丈夫ですよ。次の陣痛で力んでくださいね」
と先生に言われた。ありがたい!!ずうっと力みたいのに、必死に我慢していたの!
「あ、来た…」
陣痛が来て、私は一気に力んだ。
「ん~~~~~~~~」
「榎本さん、もっと力んで」
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~」
あ、陣痛消えた。
「じゃあ、また次の陣痛で」
「はい」
と言っている間に、また来た。
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
あ、また消えた。
はあ。すでに疲れた。
「榎本さん、今度の陣痛で」
「はい」
そしてすぐに次の痛みが来て、
「う、う~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
と頑張ったら、
「はい!力むのをやめて!」
と先生が叫んで、私は力むのをやめた。
ズルリ…。ああ、この感触!生まれた?!
「ほんぎゃ~~~~~~~~~!!!!!」
生まれた~~~!!でっかい声だ。
「生まれましたよ。男の子です」
先生が私のお腹の上に赤ちゃんを乗せた。そして、へその緒を先生が切った。
男の子なんだ。良かった。
最初に思ったのはそんなこと。
それから、産湯に入れ、綺麗になった赤ちゃんを看護師さんが見せてくれた。
「3080グラムの元気な男の子です」
「可愛い…」
なんだか、聖君に似ている気がする。
「じゃあ、お父さんや旦那さんに、赤ちゃんを見せてきますね」
「はい」
看護師さんは赤ちゃんを抱っこして、分娩室を出ていった。
は~~~~。聖君、喜んでまた泣いちゃうかな。それにしても、早かったなあ。あっという間だった。
あ、もしかして、あっという間におぎゃあって生まれてねって、頼んだからそうしてくれたのかしら。赤ちゃん…。
あ、そうだ。きっとうちの両親は来ていないよね。生まれてすぐの赤ちゃんの顔を見れなかったんだな。
「赤ちゃん、パパに似ていますね。とってもハンサム」
そう言って、看護師さんが戻ってきた。
「鼻も高いし、目も大きいし、大きくなったらパパに似て、かっこよくなるわねえ」
そう?そう思う?そうだよね!聖君似の男の子だよね?!
ああ!ますます嬉しくなってきちゃう!
それから、赤ちゃんの方が先に新生児室に行き、私はしばらく分娩室にいたが、車椅子に乗せてもらい、分娩室を出ていった。
「桃子ちゃん!」
「聖君」
「赤ちゃん、見たよ。抱っこもしたよ。凪の時より重かった」
「聖君に似てる男の子だよね?」
「うん、聖の赤ちゃんの時そっくりだった。こりゃ、くるみが喜ぶなあ」
「あ、母さんと杏樹に生まれたって連絡しなきゃ。こんなに早くってびっくりするだろうな」
「今、何時?」
「3時10分」
「……そうなんだ」
さっき、2時40分だったから、30分くらいしかたっていないんだ。本当にスピード出産だったんだな。
「病室に案内しますね」
「はい」
看護師さんが車椅子を押してくれた。エレベーターに乗り込み、2階に行き、廊下をちょっと進んだところにある病室に入った。
看護師さんに抱えられ、ベッドに横になった。そして看護師さんは、病室を出て行った。
「桃子ちゃん、大丈夫?」
「うん。腰とか、痛いけど、でも、凪の時ほどじゃない」
「随分と早くに生まれたもんなあ。あ、俺、くるみに電話してくるよ」
お父さんはそう言って、病室を出て行った。聖君は椅子をベッドのすぐ横に持ってきて座ると、私の手を握ってきた。
「ありがとう、桃子ちゃん」
「え?」
「元気な赤ちゃん、無事産んでくれて」
「うん」
「男の子だったね。名前、どうしようか」
「…何がいいかな。候補、いくつかあったでしょ?」
「うん。俺、やっぱり海にちなんだ名前がいいなあ」
「…碧」
「碧?」
「うん。なんか、顔を見て思った。聖君にそっくりで、きっと爽やかな海の似合う男の子になるって。だから、碧…。あおくんって、可愛いよね?」
「榎本碧かあ。いいね。カッコいいかも」
「凪と碧…。うふ。海をイメージできる名前だよね」
「3人目はどうする?」
「え?」
「やっぱり海をイメージしたいよね。波とか、潮とか?」
「ええ~~?まだ、3人目は考えられないよ~~」
「あはは、それもそうだよね」
聖君は無邪気に笑った。
「ああ、凪、お姉ちゃんになるのか。それにしても、男の子だから、桃子ちゃん、取られないかな。俺、ヤキモチずっと妬くことにならないよね?」
「さあ、どうだろ」
「ええ?桃子ちゅわん。俺のことも構ってよね?」
「だって、聖君には凪がいるじゃない」
「桃子ちゅわん!」
聖君はそう言って、私にチュってキスをした。
そのとき、ガラリと病室のドアがあき、
「くるみ、あんまり早くに生まれたからびっくりしてた。朝、凪ちゃんが起きたら来るってさ。聖にそっくりだって言ったら、赤ちゃんに会うのを楽しみにしてるって、喜んでたよ」
と言いながら、お父さんが入ってきた。
「父さん。名前決めたよ」
「え?なんていう名前?」
「碧。榎本碧。どう?」
「碧ちゃんか~~~。可愛いね!」
お父さんがにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、桃子ちゃん、ゆっくり寝てね。聖は桃子ちゃんの隣にいる?」
「え?父さん帰るの?」
「うん。夜中は新生児室見れないみたいなんだ。一回家に帰ってから、くるみと凪ちゃんと杏樹連れて来るよ」
「聖君も帰っていいよ?寝てないでしょ?」
「嫌だ。桃子ちゃんのそばにいるよ」
「でも、凪…」
「凪ちゃんなら、みんないるから大丈夫だよ。ママとパパ、赤ちゃんに会いに行こうねって言ったら、喜んで病院に来ると思うし」
お父さんが、そう言って安心させてくれた。
「じゃ、じゃあ、凪のこと、よろしくお願いします」
「桃子ちゃんはやっぱり、ママなんだねえ、もうすっかり」
そう言いながら、お父さんは病室を出て行った。
「俺だって、もうパパなんだけど」
聖君は口を尖らせてそう言ってから、
「でも、桃子ちゃんの旦那さんでもあるんだし」
と、私のおでこにキスをしてから、ぼそっとつぶやいた。
「ありがとう。私、寝ちゃうけど、聖君も寝てね?」
「うん。桃子ちゃんの手、握りしめて寝るよ」
「明日からしばらく、聖君、凪と二人で寝るんだね」
「うん。寂しいけど、桃子ちゃんが退院してからは、4人で寝ることになるんだね」
「…うん」
「椎野家でね?」
「うん」
聖君はそう言うと、私の手をギュって握り締めてから、ベッドに頭を乗せて、
「おやすみ」
と優しく微笑んだ。
「おやすみなさい」
私は聖君の手のぬくもりを感じながら、安心しきって眠った。
碧、抱っこしておっぱいをあげるのは、あと何時間後かな。楽しみだなあ、なんて思いながら。