表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

第7話 ○月○日 1歳半検診!

  今日、娘の1歳半検診でした。凪の成長は、ばっちり(^-^)

  ただ、保健士さんと話そうとせず、パパにべったりでした。

  べったりは嬉しいけど、もしかして人見知りかな~。(^_^;)


 聖君はブログで、そんなことを書いていた。

  

  凪ちゃんも人見知り始まりましたか?

  うちの娘も、最近人見知りが激しくて大変です。


 そんなコメントも書かれていたけど、凪の場合は違うんだなあ。


 昨日の1歳半検診では、凪は聖君から離れて身長や体重などの身体測定を嫌がった。

「パ~~パ」

「凪、ママと一緒にこの部屋入ってね?パパ、あそこのベンチに座って待ってるから」

 凪はそのベンチを見た。ベンチの周りには、ママさんがいっぱい。それも、聖君を見て顔を赤らめていたりする。


「若いパパね」

「かっこいいねえ」

 そんな声も聞こえていた。


「パパ、ヤ~~ヨ」

「うん。でも、パパはついていけないなあ。ママと行っておいで」

「パパ、ヤ~~~ヨ」

「う、う~~ん。桃子ちゃん、どうしよう?」


「じゃ、3人で行く?」

 仕方なく、聖君が抱っこして部屋の中に入った。旦那さんが一緒に来ている人もいたが、みんな待合室のベンチに座って待っている。こんなところまで着いてくる旦那さんは聖君だけだ。


「榎本凪ちゃん。洋服脱いでおむつだけになって待っててください」

「え?裸?」

 なぜか、聖君が恥ずかしがっている。おいおい。私は聖君に抱っこされている凪の服を、さっさと脱がせた。

「じゃあ、こちらにどうぞ」


「パパなの?」

「若い」

「かっこいい」

 その部屋にいるママさんたちが、聖君を見て顔を赤らめた。30代くらいの保健所のスタッフまでが、聖君を見て頬を染めている。


「パパ~~~」

 凪が、そんなママさんたちを見て、聖君に抱きついた。

「怖くないわよ、凪ちゃん?体重計に乗ってね?お父さん、凪ちゃんをこの籠の中にいれてください」

 体重計の上に大きな籠があり、そこに座らせるらしい。だが、凪は聖君に抱きついたまま離れようとしない。


「凪、ここに座って?体重測れないよ」

「ヤ~~~~~ヨ」

「凪、直ぐに終わるから」

「ヤ~~~~~ヨ、パ~~~パ~~~~」


 聖君は困っている。

「凪ちゃん、ほら、こっちに来て」

 スタッフさんがそう言って手を出した。だが、もっと聖君にしがみついてしまった。

 あ~~~あ。これ、嫌がっているんじゃなくって、パパを取られたくないんだよねえ。


「凪、大丈夫。ママ、こうやって凪のこと見てるから」

 私はそう言って、聖君の腕にしがみつき、べったりと聖君にくっついた。そのうえ、聖君の肩に頭も乗せ、めちゃくちゃ仲良さそうにした。


「……」

 凪はそれを見て、聖君から離れ、ようやく籠の中に座った。

 そして、それからも、私が聖君にひっついていると、凪は大人しかった。


「なんで?」

 聖君が私に聞いてきた。なんで、凪はおとなしくなったの?なのか、なんで、桃子ちゃんはべったりくっついているの?なのか、わからなかったが、

「凪、ほかの女の人にパパ取られたくないんだよ」

と、小声でそう教えた。

「ああ、それで…」

 聖君も納得した。


 その後も、保健士さんとの問診で、やっぱり凪は聖君にべったりくっついて、保健士さんとは話そうともしなかった。

「凪ちゃん、この中でわかるものある?」

 絵を見せられた。凪はそれをちらっと見て、それから保健士さんを見た。保健士さんは、若くて可愛い人だ。


「凪、ほら、凪が好きなものもあるよ」

 聖君がそう言って、指で絵を差した。バナナだ。う~~~ん、確かに食いしん坊だけど。

「凪ちゃん、これ、なんだろうね?」

 保健士さんは、そう言いながら、バナナを指差した。すると聖君と手がぶつかってしまい、

「あ、ごめんなさい」

と真っ赤になってしまった。


「パパ~~~~!!!!!」

 凪がそれを見て、さらにそう叫ぶと、

「ママ、パパ!ママ!パ~~~パ!」

となぜか、私に何かを訴えた。パパを取られないよう阻止しろとでも言いたいのかな。


「な。凪ちゃんは、パパが大好きなんですねえ」

 保健士さんは苦笑いをした。

「あ、あはは。そうなんです。でもいつもは、こんなにべったりでは…」

「人見知りが始まったのかな?」


「そうなんですかね?」

 聖君はそう言った。凪はちらっとまた、保健士さんを見た。保健士さんは聖君を見て、顔を赤くしていた。

「パ~~~パ、チュウ」

 凪はそう言うと、パパのほっぺにキスをした。


「あら、本当にパパが大好きなんですね」

 保健士さんはそう言うと、聖君は凪に向かって、

「こら。こんなところで」

と言いつつ、にやけまくった。


 その顔を見て、凪は保健士さんに向かってドヤ顔をした。

 どう?パパは私のことが大好きなのよ。負けないわよ。とでも言っているように見えた。が…、

「マ~マ」

と私の方を見て、またドヤ顔をした。もしかして、負かしてあげたわよ、とでも言いたいのか。


 そんなわけで、凪はほとんど聖君にべったりくっついていて、保健士さんの話も聞かず、質問にも答えず、最後に小さな積み木を出された。

「おんなじのが作れるかな?」

 保健士さんがそう言った。でも、凪は無視をしている。


「凪、ほら、パパと一緒に遊ぼうか?」

 聖君がそう言って、積み木を触りだした。すると、凪は聖君の膝の上にちょこんと座り、

「ブーブー」

と言って、積み木を重ねて汽車を作った。


「うん。でもそれ、汽車だよ?凪」

「キチャ」

「そうそう。シュッシュ、ポッポーって」

「ポッポー、ポッポー」

 ああ、凪、すっかりパパに遊んでもらっていると思って、ご機嫌になっちゃった。


「言葉も出ていますし、大丈夫ですね?」

 保健士さんがそう言って、聖君に微笑みかけた。

「あ、はい。凪はおしゃべりなんで」

と聖君が保健士さんに答えようとすると、

「パ~~~~パ」

と、また凪は聖君に抱きついた。


「グエ。苦しい、凪。首に抱きつくな」

「あ、今日はどうもありがとうございました。何かご質問は?」

「い、いいえ、特には」

 聖君はまだ、凪に思い切り抱きつかれたまま、苦しそうにそう答えた。


「では、今日はこれでおしまいです。お疲れ様でした」

 保健士さんにそう言われ、聖君は席を立ち、凪はようやく聖君の首から離れた。

「ああ、大変だった」

 聖君はそう言って、疲れた顔を見せ、

「桃子ちゃん、どっかで休憩していかない?」

と言い出した。


「うん。お昼食べて帰ろうか?」

「凪も行く?」

「は~~い」

 凪もお腹がすいていたらしい。


「あら、帰っちゃうんだ。残念」

「かっこいいパパさんだったね。奥さん羨ましい」

 そんな声が待合室から聞こえた。でも、聖君はやっぱり、そんな声に耳も傾けず、どんどんと廊下を歩いてエレベーターに乗り込んだ。


「凪、もしかして人見知りかなあ」

 聖君がエレベーターの中でポツリと言った。

「……聖君を若いママさんや保健士さんから、守っていたんだと思うよ」

「へ?」


「それか…、取られたくなくって、引っ付いていたのかな。ね?凪」

「は~~い」

 聖君の腕の中で、凪はニコニコしている。

「悪い虫がつかないよう、見張っていてくれてるのかなあ。だったら、私、安心していられるね?」


「だから、何回も言ってるけど、俺、浮気は」

「浮気するなんて思ってないよ。でも、勝手に向こうから引っ付いてきたりするじゃない?」

「え?」

「絵梨さんとかみたいに」

「ああ、だから凪、絵梨ちゃんにだけはなつかなかったのか。桜さんにも紗枝ちゃんにもなついているのに、なんでかなあって思ってたんだよね」


「そういえば、凪がお店でちょろちょろとしてる時、絵梨さんが聖君に話しかけるだけで、聖君にまとわりつきに行って、阻止してたよね」

「ああ、そうだったね。パパの手を引っ張って、絵梨ちゃんから引き離そうとしたりしていたっけね」

 聖君はそう言いながら凪の顔を見て、

「ね?」

と言うと凪はまたにっこりとして「は~~い」と答えていた。


 エレベーターから降りると、聖君は、

「さて、どこで飯、食おうか~。ファミレスだったら、凪の食べるものもあるかなあ」

と誰にともなくそう言った。

「は~~い!!」

 ああ、凪、もっとご機嫌になっちゃった。「ファミレス」って単語、わかってるよね、凪にはもう。


 車でファミレスに移動して、ちょっとお昼の時間を過ぎていたからか、すぐに席に着くことができた。

「まんま!」

 凪の目は、メニューを見て大きく見開いている。それから、あれやこれやと、指で差し出した。


「凪のメニューはこっち。お子様用だよ」

 聖君がそう言って、子供のメニューを凪に見せた。凪は大喜びだ。

 まず、可愛いお皿に喜んで、ご飯とともについてくるゼリーも凪は大好きだ。それにジュース。

「ジュー!」


「うんうん。ジュースもあるよ、凪」

 聖君がそう言うと、凪は満面の笑みを浮かべた。

「凪、食いしん坊だよなあ、相変わらず。一番食べてる時が嬉しそうだよね」

「聖君と同じ顔して食べるよね」


「え?そう?」

「うん、すっごく幸せそうな顔」

「ははは。そんなところもパパに似たのか」

 聖君は苦笑した。


 店員さんが、注文を取りに来た。若い女の店員さんで、すかさず凪はパパに手を伸ばしてパパパパと呼んだ。

「ご注文はお決まりですか?」

 店員さんは聖君を見て、ちょっと顔を赤らめた。それに気がついたのか、凪はますます、パパを呼んで抱っこしてとおねだりしている。


「わかったよ」

 聖君は凪を抱っこした。凪はびっとりとくっつき、店員さんを見た。

「あの、ご注文…」

「パパ~~~」

「凪、今、注文しちゃうから。注文しないと凪のまんまも来ないよ?ジュースも来ないよ?いいの」

「…」


 さすがに凪も黙り込んだ。その間に聖君は注文をして、店員さんは去っていった。

「凪を連れて来ると、大変」

 聖君がポツリと言った。


「凪のヤキモチやき」

 そう言って聖君が凪のほっぺにキスしようとすると、凪はもう椅子に座りたがって、聖君の腕から抜け出そうとした。


「はいはい」

 聖君は子供用の椅子に凪を座らせた。

 凪はもう、食べる気まんまん。手にフォークとスプーンを持って待っている。凪は食べることが大好きだからか、早くから自分でスプーンやフォークを使うようになった。たまに、手を使っちゃうこともあるけど、まだまだそれもよしかな。


 そして、ジュースなどが運ばれてくると、凪はもう店員さんにも目を向けず、ジュースに夢中になった。コップでジュースを飲むのも上手だ。もしかして、上手にできるようになったのは、聖君やお父さんが何をしても褒めまくっていたから、早くに上達したのかもしれないなあ。


「おいしい?凪」

 聖君が聞くと、

「は~~い」

と凪はすごく嬉しそうに答えた。


「可愛いね、凪は。あ、写真撮っちゃおう!今の笑顔、もう一回」

 聖君はそう言って、携帯で凪を撮った。

 ああ、本当に親ばかだよなあ。


「これ、ブログに載せたい」

「ダメ」

「だよね?」

 聖君は、ちょびっと寂しそうな顔をした。


「あそこの家族、若いパパとママだね」

「あ、本当だ。かっこいいパパ」

 斜向かいの席の女の人が、こっちを見てそう言っているのが聞こえた。

「すごいイケメン。メチャ好み」

 そんなこと言ったって、ダメだも~~ん。聖君は私の旦那さんだも~~ん。


「いいね。あんなかっこいい旦那さんで」

「でも、もてて大変かも」

「意外と遊人だったりして、そうしたら浮気とかもされて大変だろうね」

 浮気なんて、聖君はしないもん。それに、凪がいつでも、見張っててくれるし!


「桃子ちゃん」

「え?」

「早く食べようよ」

「あ、うん。いただきます」


「二人目も順調だね。今回はつわりもないみたいだし」

「うん。だから、食べ過ぎないように気をつけなくちゃ」

「そっか。あんまり子供がでかくなると、産むの大変だもんね?」

「お母さんが、産む産婦人科はどうするのって聞いてきたの。凪と同じところにするのかって」


「……でも、そうしたら新百合のほうまで行かないとならないね。大変じゃない?」

「だよねえ。今、行ってる産婦人科でいいと思うんだけど」

「産んだら、椎野家に行く?桃子ちゃん」

「どうしようかなあ」


「3月が予定日だから、また俺、春休み中だよ。だから、赤ちゃんの世話も、凪の世話もできるよ?」

「お店の手伝いは?」

「店の手伝いはするけど、車で椎野家行き来するよりは楽かな」

「そっか~」


「あ、桃子ちゃんは、実家の方が気が休まる?だったら、実家に帰っても…」

「ううん。私はどっちでも。っていうか、聖君と一緒にいられる時間が長いほうがいいんだけど」

「そう?」

 あ、聖君、にやけた。


「ただ、お母さんとお父さんが、こっちに戻ってくるんでしょ?って期待してて」

「あ、そっか」

「だけど、榎本家でも、お父さんもお母さんも、杏樹ちゃんだって、赤ちゃんの世話する気満々みたいだし」

「いいよ?我が家は別にさ、またそのうち戻ってくるんだから、その時、世話できるんだしさ」


「でも…。やっぱり、聖君が大変だよね」

「いいよ。俺も、桃子ちゃんのお父さんやお母さん、ひまわりちゃん好きだし。あの家、楽しいから好きだしさ」

「…ほんと?」

「うん」


 やっぱり、聖君は優しい。

「ありがとう。じゃあ、お父さんとお母さんにそう言っておく」

「きっと大喜びしちゃうね。あ、でも、どうやって寝る?セミダブルのベッドに3人で寝る?ベビーベッドに赤ちゃんが寝たら、凪の寝る場所、セミダブルのベッドしかないよ?」


「う、う~~~ん。それじゃ、窮屈だよね?」

「凪、パパとママの真ん中で寝る?」

「は~~~い」

「クス。凪なら、まだ細っこいし、大丈夫かも」

 聖君は、嬉しそうにご飯を食べている凪を見て、目を細めた。


「パーパ」

「ゼリー食べる?待って、今、開けてあげる」

 聖君はゼリーを開けると、凪に食べさせてあげた。凪は大満足の顔。

「クス。可愛いね、凪」

 そう言う聖君の顔も、満面の笑み。


 ああ、もう少ししたら、もう一人家族がここに増えるんだね。そう思いながら、お腹を私はさすった。

 元気に生まれておいでね。パパもママも、おじいちゃんたちも、おばあちゃんたちも、君を待ってるよ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ