第7話 ○月○日 1歳半検診!
今日、娘の1歳半検診でした。凪の成長は、ばっちり(^-^)
ただ、保健士さんと話そうとせず、パパにべったりでした。
べったりは嬉しいけど、もしかして人見知りかな~。(^_^;)
聖君はブログで、そんなことを書いていた。
凪ちゃんも人見知り始まりましたか?
うちの娘も、最近人見知りが激しくて大変です。
そんなコメントも書かれていたけど、凪の場合は違うんだなあ。
昨日の1歳半検診では、凪は聖君から離れて身長や体重などの身体測定を嫌がった。
「パ~~パ」
「凪、ママと一緒にこの部屋入ってね?パパ、あそこのベンチに座って待ってるから」
凪はそのベンチを見た。ベンチの周りには、ママさんがいっぱい。それも、聖君を見て顔を赤らめていたりする。
「若いパパね」
「かっこいいねえ」
そんな声も聞こえていた。
「パパ、ヤ~~ヨ」
「うん。でも、パパはついていけないなあ。ママと行っておいで」
「パパ、ヤ~~~ヨ」
「う、う~~ん。桃子ちゃん、どうしよう?」
「じゃ、3人で行く?」
仕方なく、聖君が抱っこして部屋の中に入った。旦那さんが一緒に来ている人もいたが、みんな待合室のベンチに座って待っている。こんなところまで着いてくる旦那さんは聖君だけだ。
「榎本凪ちゃん。洋服脱いでおむつだけになって待っててください」
「え?裸?」
なぜか、聖君が恥ずかしがっている。おいおい。私は聖君に抱っこされている凪の服を、さっさと脱がせた。
「じゃあ、こちらにどうぞ」
「パパなの?」
「若い」
「かっこいい」
その部屋にいるママさんたちが、聖君を見て顔を赤らめた。30代くらいの保健所のスタッフまでが、聖君を見て頬を染めている。
「パパ~~~」
凪が、そんなママさんたちを見て、聖君に抱きついた。
「怖くないわよ、凪ちゃん?体重計に乗ってね?お父さん、凪ちゃんをこの籠の中にいれてください」
体重計の上に大きな籠があり、そこに座らせるらしい。だが、凪は聖君に抱きついたまま離れようとしない。
「凪、ここに座って?体重測れないよ」
「ヤ~~~~~ヨ」
「凪、直ぐに終わるから」
「ヤ~~~~~ヨ、パ~~~パ~~~~」
聖君は困っている。
「凪ちゃん、ほら、こっちに来て」
スタッフさんがそう言って手を出した。だが、もっと聖君にしがみついてしまった。
あ~~~あ。これ、嫌がっているんじゃなくって、パパを取られたくないんだよねえ。
「凪、大丈夫。ママ、こうやって凪のこと見てるから」
私はそう言って、聖君の腕にしがみつき、べったりと聖君にくっついた。そのうえ、聖君の肩に頭も乗せ、めちゃくちゃ仲良さそうにした。
「……」
凪はそれを見て、聖君から離れ、ようやく籠の中に座った。
そして、それからも、私が聖君にひっついていると、凪は大人しかった。
「なんで?」
聖君が私に聞いてきた。なんで、凪はおとなしくなったの?なのか、なんで、桃子ちゃんはべったりくっついているの?なのか、わからなかったが、
「凪、ほかの女の人にパパ取られたくないんだよ」
と、小声でそう教えた。
「ああ、それで…」
聖君も納得した。
その後も、保健士さんとの問診で、やっぱり凪は聖君にべったりくっついて、保健士さんとは話そうともしなかった。
「凪ちゃん、この中でわかるものある?」
絵を見せられた。凪はそれをちらっと見て、それから保健士さんを見た。保健士さんは、若くて可愛い人だ。
「凪、ほら、凪が好きなものもあるよ」
聖君がそう言って、指で絵を差した。バナナだ。う~~~ん、確かに食いしん坊だけど。
「凪ちゃん、これ、なんだろうね?」
保健士さんは、そう言いながら、バナナを指差した。すると聖君と手がぶつかってしまい、
「あ、ごめんなさい」
と真っ赤になってしまった。
「パパ~~~~!!!!!」
凪がそれを見て、さらにそう叫ぶと、
「ママ、パパ!ママ!パ~~~パ!」
となぜか、私に何かを訴えた。パパを取られないよう阻止しろとでも言いたいのかな。
「な。凪ちゃんは、パパが大好きなんですねえ」
保健士さんは苦笑いをした。
「あ、あはは。そうなんです。でもいつもは、こんなにべったりでは…」
「人見知りが始まったのかな?」
「そうなんですかね?」
聖君はそう言った。凪はちらっとまた、保健士さんを見た。保健士さんは聖君を見て、顔を赤くしていた。
「パ~~~パ、チュウ」
凪はそう言うと、パパのほっぺにキスをした。
「あら、本当にパパが大好きなんですね」
保健士さんはそう言うと、聖君は凪に向かって、
「こら。こんなところで」
と言いつつ、にやけまくった。
その顔を見て、凪は保健士さんに向かってドヤ顔をした。
どう?パパは私のことが大好きなのよ。負けないわよ。とでも言っているように見えた。が…、
「マ~マ」
と私の方を見て、またドヤ顔をした。もしかして、負かしてあげたわよ、とでも言いたいのか。
そんなわけで、凪はほとんど聖君にべったりくっついていて、保健士さんの話も聞かず、質問にも答えず、最後に小さな積み木を出された。
「おんなじのが作れるかな?」
保健士さんがそう言った。でも、凪は無視をしている。
「凪、ほら、パパと一緒に遊ぼうか?」
聖君がそう言って、積み木を触りだした。すると、凪は聖君の膝の上にちょこんと座り、
「ブーブー」
と言って、積み木を重ねて汽車を作った。
「うん。でもそれ、汽車だよ?凪」
「キチャ」
「そうそう。シュッシュ、ポッポーって」
「ポッポー、ポッポー」
ああ、凪、すっかりパパに遊んでもらっていると思って、ご機嫌になっちゃった。
「言葉も出ていますし、大丈夫ですね?」
保健士さんがそう言って、聖君に微笑みかけた。
「あ、はい。凪はおしゃべりなんで」
と聖君が保健士さんに答えようとすると、
「パ~~~~パ」
と、また凪は聖君に抱きついた。
「グエ。苦しい、凪。首に抱きつくな」
「あ、今日はどうもありがとうございました。何かご質問は?」
「い、いいえ、特には」
聖君はまだ、凪に思い切り抱きつかれたまま、苦しそうにそう答えた。
「では、今日はこれでおしまいです。お疲れ様でした」
保健士さんにそう言われ、聖君は席を立ち、凪はようやく聖君の首から離れた。
「ああ、大変だった」
聖君はそう言って、疲れた顔を見せ、
「桃子ちゃん、どっかで休憩していかない?」
と言い出した。
「うん。お昼食べて帰ろうか?」
「凪も行く?」
「は~~い」
凪もお腹がすいていたらしい。
「あら、帰っちゃうんだ。残念」
「かっこいいパパさんだったね。奥さん羨ましい」
そんな声が待合室から聞こえた。でも、聖君はやっぱり、そんな声に耳も傾けず、どんどんと廊下を歩いてエレベーターに乗り込んだ。
「凪、もしかして人見知りかなあ」
聖君がエレベーターの中でポツリと言った。
「……聖君を若いママさんや保健士さんから、守っていたんだと思うよ」
「へ?」
「それか…、取られたくなくって、引っ付いていたのかな。ね?凪」
「は~~い」
聖君の腕の中で、凪はニコニコしている。
「悪い虫がつかないよう、見張っていてくれてるのかなあ。だったら、私、安心していられるね?」
「だから、何回も言ってるけど、俺、浮気は」
「浮気するなんて思ってないよ。でも、勝手に向こうから引っ付いてきたりするじゃない?」
「え?」
「絵梨さんとかみたいに」
「ああ、だから凪、絵梨ちゃんにだけはなつかなかったのか。桜さんにも紗枝ちゃんにもなついているのに、なんでかなあって思ってたんだよね」
「そういえば、凪がお店でちょろちょろとしてる時、絵梨さんが聖君に話しかけるだけで、聖君にまとわりつきに行って、阻止してたよね」
「ああ、そうだったね。パパの手を引っ張って、絵梨ちゃんから引き離そうとしたりしていたっけね」
聖君はそう言いながら凪の顔を見て、
「ね?」
と言うと凪はまたにっこりとして「は~~い」と答えていた。
エレベーターから降りると、聖君は、
「さて、どこで飯、食おうか~。ファミレスだったら、凪の食べるものもあるかなあ」
と誰にともなくそう言った。
「は~~い!!」
ああ、凪、もっとご機嫌になっちゃった。「ファミレス」って単語、わかってるよね、凪にはもう。
車でファミレスに移動して、ちょっとお昼の時間を過ぎていたからか、すぐに席に着くことができた。
「まんま!」
凪の目は、メニューを見て大きく見開いている。それから、あれやこれやと、指で差し出した。
「凪のメニューはこっち。お子様用だよ」
聖君がそう言って、子供のメニューを凪に見せた。凪は大喜びだ。
まず、可愛いお皿に喜んで、ご飯とともについてくるゼリーも凪は大好きだ。それにジュース。
「ジュー!」
「うんうん。ジュースもあるよ、凪」
聖君がそう言うと、凪は満面の笑みを浮かべた。
「凪、食いしん坊だよなあ、相変わらず。一番食べてる時が嬉しそうだよね」
「聖君と同じ顔して食べるよね」
「え?そう?」
「うん、すっごく幸せそうな顔」
「ははは。そんなところもパパに似たのか」
聖君は苦笑した。
店員さんが、注文を取りに来た。若い女の店員さんで、すかさず凪はパパに手を伸ばしてパパパパと呼んだ。
「ご注文はお決まりですか?」
店員さんは聖君を見て、ちょっと顔を赤らめた。それに気がついたのか、凪はますます、パパを呼んで抱っこしてとおねだりしている。
「わかったよ」
聖君は凪を抱っこした。凪はびっとりとくっつき、店員さんを見た。
「あの、ご注文…」
「パパ~~~」
「凪、今、注文しちゃうから。注文しないと凪のまんまも来ないよ?ジュースも来ないよ?いいの」
「…」
さすがに凪も黙り込んだ。その間に聖君は注文をして、店員さんは去っていった。
「凪を連れて来ると、大変」
聖君がポツリと言った。
「凪のヤキモチやき」
そう言って聖君が凪のほっぺにキスしようとすると、凪はもう椅子に座りたがって、聖君の腕から抜け出そうとした。
「はいはい」
聖君は子供用の椅子に凪を座らせた。
凪はもう、食べる気まんまん。手にフォークとスプーンを持って待っている。凪は食べることが大好きだからか、早くから自分でスプーンやフォークを使うようになった。たまに、手を使っちゃうこともあるけど、まだまだそれもよしかな。
そして、ジュースなどが運ばれてくると、凪はもう店員さんにも目を向けず、ジュースに夢中になった。コップでジュースを飲むのも上手だ。もしかして、上手にできるようになったのは、聖君やお父さんが何をしても褒めまくっていたから、早くに上達したのかもしれないなあ。
「おいしい?凪」
聖君が聞くと、
「は~~い」
と凪はすごく嬉しそうに答えた。
「可愛いね、凪は。あ、写真撮っちゃおう!今の笑顔、もう一回」
聖君はそう言って、携帯で凪を撮った。
ああ、本当に親ばかだよなあ。
「これ、ブログに載せたい」
「ダメ」
「だよね?」
聖君は、ちょびっと寂しそうな顔をした。
「あそこの家族、若いパパとママだね」
「あ、本当だ。かっこいいパパ」
斜向かいの席の女の人が、こっちを見てそう言っているのが聞こえた。
「すごいイケメン。メチャ好み」
そんなこと言ったって、ダメだも~~ん。聖君は私の旦那さんだも~~ん。
「いいね。あんなかっこいい旦那さんで」
「でも、もてて大変かも」
「意外と遊人だったりして、そうしたら浮気とかもされて大変だろうね」
浮気なんて、聖君はしないもん。それに、凪がいつでも、見張っててくれるし!
「桃子ちゃん」
「え?」
「早く食べようよ」
「あ、うん。いただきます」
「二人目も順調だね。今回はつわりもないみたいだし」
「うん。だから、食べ過ぎないように気をつけなくちゃ」
「そっか。あんまり子供がでかくなると、産むの大変だもんね?」
「お母さんが、産む産婦人科はどうするのって聞いてきたの。凪と同じところにするのかって」
「……でも、そうしたら新百合のほうまで行かないとならないね。大変じゃない?」
「だよねえ。今、行ってる産婦人科でいいと思うんだけど」
「産んだら、椎野家に行く?桃子ちゃん」
「どうしようかなあ」
「3月が予定日だから、また俺、春休み中だよ。だから、赤ちゃんの世話も、凪の世話もできるよ?」
「お店の手伝いは?」
「店の手伝いはするけど、車で椎野家行き来するよりは楽かな」
「そっか~」
「あ、桃子ちゃんは、実家の方が気が休まる?だったら、実家に帰っても…」
「ううん。私はどっちでも。っていうか、聖君と一緒にいられる時間が長いほうがいいんだけど」
「そう?」
あ、聖君、にやけた。
「ただ、お母さんとお父さんが、こっちに戻ってくるんでしょ?って期待してて」
「あ、そっか」
「だけど、榎本家でも、お父さんもお母さんも、杏樹ちゃんだって、赤ちゃんの世話する気満々みたいだし」
「いいよ?我が家は別にさ、またそのうち戻ってくるんだから、その時、世話できるんだしさ」
「でも…。やっぱり、聖君が大変だよね」
「いいよ。俺も、桃子ちゃんのお父さんやお母さん、ひまわりちゃん好きだし。あの家、楽しいから好きだしさ」
「…ほんと?」
「うん」
やっぱり、聖君は優しい。
「ありがとう。じゃあ、お父さんとお母さんにそう言っておく」
「きっと大喜びしちゃうね。あ、でも、どうやって寝る?セミダブルのベッドに3人で寝る?ベビーベッドに赤ちゃんが寝たら、凪の寝る場所、セミダブルのベッドしかないよ?」
「う、う~~~ん。それじゃ、窮屈だよね?」
「凪、パパとママの真ん中で寝る?」
「は~~~い」
「クス。凪なら、まだ細っこいし、大丈夫かも」
聖君は、嬉しそうにご飯を食べている凪を見て、目を細めた。
「パーパ」
「ゼリー食べる?待って、今、開けてあげる」
聖君はゼリーを開けると、凪に食べさせてあげた。凪は大満足の顔。
「クス。可愛いね、凪」
そう言う聖君の顔も、満面の笑み。
ああ、もう少ししたら、もう一人家族がここに増えるんだね。そう思いながら、お腹を私はさすった。
元気に生まれておいでね。パパもママも、おじいちゃんたちも、おばあちゃんたちも、君を待ってるよ。