第6話 ○月○日 祖父母の家へ!
今日から、祖父母の家に家族で泊まりがけで遊びに来ています。
祖父母の家の近所に、凪の初のボーイフレンドが住んでいて、
すごく仲良くって、ずっとパパはやきもきしていました(>_<)
この二人は、本当に仲がいい。凪パパのライバルです。
でも、負けない!キリッ( *`ω´)
「この負けないっていうのは何?聖」
聖君のブログを見ながら、春香さんが聞いて笑った。
「うちでも、聖のブログは見てるよ」
櫂さんがそう言って、春香さんの横からパソコンを覗き込んだ。
「そうそう。聖のレシピ本、インターネットで予約しておいたから。いつだっけ?発売日」
「来月の5日。予約してくれたの?」
「うん。ママ友の分まで予約したわよ。離乳食もだけど、幼児のレシピもたくさん載ってるんでしょ?」
「うん。載ってるよ」
「すごいわねえ。子育て日記でランキング1位を維持してるんでしょう?」
「いや。最近、ママドルの子育て日記に抜かれた。ま、どうでもいいけどね、ランキングなんて」
聖君はそう言うと、空君に張り付いて離れようとしない凪を、どうにかひっぺがそうとした。
「ヤ~~~ヨ!」
凪は、イヤとは言わず、ヤ~~~ヨと言う。多分聖君の「や~~~だよ」を真似しているんだと思う。
「凪、パパより空がいいの?ねえ、そろそろまりんぶるーに戻ろうよ。夕飯の時間になるよ」
「そうよね。もう6時だし。じゃ、うちらも今日まりんぶるーでご飯にしちゃおうか」
春香さんがそう言って、空君に「そうする?」と聞いた。
「な~たん」
空君は、凪に抱きつかれたまま、春香さんの顔を見てそう言った。
「うん。凪ちゃんも一緒だよ?空」
「な~~たん!」
今度は空君の方が凪に抱きついた。
「空!凪に抱きつくな」
「聖、大人気ないぞ」
櫂さんが笑いながらそう聖君に言った。
「じゃあ、私先に行って、夕飯の支度のお手伝いしてきます」
「あ、私も行くよ、桃子ちゃん」
春香さんもそう言って、私と一緒に2階から1階に降りた。
今日は、空君一家と一緒に、水族館で遊んだ。凪は伊豆にいる間、ずうっと空君と一緒にいられるから超ゴキゲン。水族館から帰ってきてからは、空君の家でのんびりと過ごしていたけど、その間も凪は、空君にべったりしていた。だから、聖君は不機嫌だったけど。
昨日は夜、まりんぶるーでみんなでパーティをして、今日は櫂さんのお店も休みなので、空君一家と行動を共にした。
昨日、夜遅くまではしゃいだ聖君。もう20歳なので、夜中まで櫂さんやお父さんとお酒を飲んでいたらしく、今朝はちょっと頭が痛いと言いながら起きてきた。本当は早起きをして、泳ぎに行きたかったらしいが、相当飲んだようで二日酔いらしかった。
ただすごいのは、昼くらいになると、ケロッと元気になっちゃったことだ。だから、水族館では、凪や空君を連れてはしゃいでいた。
「聖、よく家でもお酒飲むの?昨日、すごく楽しそうに飲んでいたよね」
「あんまり飲まないです。先月、サークルのみんなで合宿に行った時は、かなり飲んだようでしたけど」
「へえ。けっこうお酒強かったりして?」
「みたいです。お父さんよりも、ずっと強いみたい」
「くるみさんが強そうだもんなあ」
「そうなんですか?あ、でも、家でもお母さんの方が飲んでもしっかりしてるかな。お父さんはあんまり飲まないみたいだし」
「聖、飲むと昨日みたいにいつも陽気なの?」
「う~~~ん。いつでも陽気だから、飲んでも飲まなくっても。去年の聖君の誕生日、いつものごとくクリスマスも兼ねてれいんどろっぷすに友達も呼んでパーティをしたんです」
「ああ、聖、12月24日生まれだもんね」
「はい。その時、仲良しの基樹君や葉君も来て、みんなもう20歳だから、みんなで飲んだんですけど、かなり酔っ払っていたけど、あんまりいつもの3人と変わらないっていうか」
「あはは。結局、前から馬鹿な連中だったって事ね」
「はい」
「飲んだあと、聖、桃子ちゃんに甘えてきたりしないの?そういうのはない?」
「…ちょっと、あるけど。でも、たいてい、飲んだ日は、すぐに寝ちゃうから」
「なるほど。布団の上でバタン、グ~~~って感じ?」
「あ、そうなんです。いつも寝つきいいけど、さらによくなっちゃうから。お風呂にも入らず、服着たまま寝ちゃったり」
「あはは。なるほどね」
そんなことを話しながら、私と春香さんはまりんぶるーに向かった。
春香さんの家からまりんぶるーまでは、歩いて5分くらい。話をしている間にあっという間に着いた。
「夕飯の支度、済んじゃった?お母さん。手伝いに来たよ」
そう言いながら、春香さんはお店に入った。
私もあとから続いた。
「まだよ。今からちょうどするところ」
そうおばあさんが答えた。
私と春香さんは、エプロンを付けてキッチンに入った。まりんぶるーのキッチンは大きくて、4~5人入ってもまだ余裕がある。
お母さんと、おばあさん、春香さん、私とで、夕飯の支度をして、1時間したくらいに、聖君と櫂さんが空君と凪を連れてやってきた。
「あ、いい匂い!」
「鼻がきくわね、聖。ちょうど夕飯できたところよ。爽太とお父さんがリビングにいるから、呼んできてくれる?」
「チョ~~パパ!」
凪が、お母さんの言葉を聞いて、我さきにと廊下を走ってリビングに行ってしまった。チョーパパと言うのは、爽太パパのことらしい。
「な~~たん!」
そのあとをちょこちょこと、空君が追いかけた。
「凪、転ぶなよ!」
聖君がそんな二人にそう言って、櫂さんとともにテーブル席に着いた。
「なんだって、あんなに仲がいいんだか」
「ははは。いいじゃないか、聖」
「でもさ、昨日の夜も、凪は空と仲睦まじく寝てたんだよ?」
「聖、見てないじゃない。おお酒くらって、櫂といびき立てて寝てたんでしょ?下のリビングで。くるみさんが呆れてたよ?」
「だって、2階まで行くのも面倒で」
「まったく、そんなに飲むからよ。いくら、20歳すぎて飲めるようになったからって、気をつけなさいよ」
「わかってるよ。それ、父さんにも言われてるし。家じゃあんまり飲んだりしないし、本当にたま~~にしか飲んでないからさ」
「桃子ちゃんにも迷惑かけないようにしなさいよね?」
「わかってるって。春香さん、母さんよりうるさい」
「何か言った?」
「いいえ」
聖君は春香さんにそう言うと、小声で櫂さんにぼそぼそと何か言った。
「そうなんだよ、怖いだろ?春香って。俺もよく怒鳴られてるんだよ」
「櫂!聞こえてるよ」
春香さんがそう言うと、櫂さんが、
「ごめん」
と、すぐに謝っていた。櫂さんは春香さんに頭が上がらないようだ。
「桃子ちゃんは、こんなに怖いことない?」
「桃子ちゃんも多分、怖いと思うけど、まだ、あんまり本性出さない」
今の、聞こえてるよ、聖君…。
「チョーパパ!はあ~~く!」
凪がニコニコ顔で、お父さんの手を引っ張って、お店に来た。その後ろからは、空君がおじいさんの手を引っ張ってやってきている。あ、ちなみに、チョーパパ、はあ~く、とは、爽太パパ、早くと言っている。
「凪ちゃん、ご飯の時は特に元気になるねえ」
おじいさんがそう言って、凪の後ろ姿を見て笑っている。
「空も、凪ちゃんがいるとよく食べるのよね。いつもは食が細いんだけど」
春香さんが、そう言いながらテーブルにお皿を並べた。
「あ、桃子ちゃんはいいよ。座ってて。俺が運ぶの手伝うから」
私もお皿を持って、テーブル席に持っていこうとすると、聖君がかわってくれた。ああ、こういうところは本当に優しいんだよね。
「うん、ありがとう」
私はこういう時、素直に聖君のいうことを聞くようにしている。
「聖は優しいなあ。空も、見習えよ?好きな子ができたら、優しくするんだぞ」
そんなことをおじいさんが空君に言っていた。
「あはは。そんなこと今から言っても…。でも、空、凪ちゃんには優しいのよ?お父さん。他の子たちとは、あんまり遊ばない空が、凪ちゃんとだと遊ぶし、空のおもちゃも貸してあげるし」
「へえ。空には凪ちゃんは、特別な存在なんだなあ。空、凪ちゃんのこと好きか?」
おじいさんが聞いた。空君はコクンとうなづいた。
「凪ちゃんは空のこと好きか?」
今度は凪に聞いた。
「チョーラ?」
凪は空とは言えず、いつもチョラになってしまう。
「そう、空」
おじいさんがそう言って凪の顔を見ると、凪は嬉しそうに空君に抱きついて、
「チョラ、チュ~~~」
と、空君にキスをした。
うわ。それも、唇にばっちりだ。
「凪!またやってる!」
聖君がそれを見て青ざめ、危うく手にしていたお皿を落としそうになった。
「パパ、チュ~~~」
凪がそう言うので、聖君はテーブルにお皿を置いてから、凪の前にしゃがみこんだ。すると凪は、聖君のほっぺにぶっちゅ~~とキスをしていた。
「パパには、なんでほっぺ?」
「チョラ、チュ~~~」
ああ、また空君には唇にキスしてるし。
「なんで、空には唇?」
ほら、聖君がいじけている。
凪は私にも、お父さん、お母さん、それに杏樹ちゃんや、やすくんにもほっぺにキスをする。やすくんにしているのは、聖君には内緒だけど。でも、空君にだけは、唇なのだ。なんでかは私にもわからない。
同じ大きさだから、キスしやすいのか。それとも、空君からいい匂いでもするのか。それとも、空君が可愛いからか。
なにしろ、空君は凪よりも細い。色は日に焼けて黒いものの、目鼻立ちもパッチリしていて、おとなしい。それに、よく泣いたり、これまでも何度か熱を出したりしたらしい。
なぜか凪がいると元気らしいが、凪が来る前日まで、ダウンしていたらしいし。
「花火大会で、人が多かったから、それで熱出しちゃったのよねえ。凪ちゃんの方が強いわよね?」
「うん。凪、突発くらいで、あとは風邪もひかない」
春香さんの言葉に、同じテーブルで食べていた聖君がそう答えた。
「聖、今日はお酒飲んでいないよな?明日は朝早くから、潜りに行くんだからな?」
お父さんが後ろのテーブル席から、こっちに向かってそう言った。
「うん。飲んでないよ。運転も俺がするんでしょ?どうせ」
「ああ、頼むよ」
お父さんはそう言うと、またくるっと向こうをむいて、やすくんに話しかけた。
「今年もやすくんが一緒でよかったなあ?杏樹」
「え?お、お父さん、何言ってるの?もう!」
杏樹ちゃんが真っ赤になっているのが見えた。隣でやすくんも赤くなっている。
「まだまだ、初々しいんだな。このカップルは」
おじいさんがそう言って、二人をひやかした。二人はもっと照れてしまったようだ。
でも、私は知っている。杏樹ちゃんとやすくんは、先月、夏休みに入ってすぐに、二人だけで旅行に行ったのだ。
これは私以外の誰も知らないこと。みんなには絶対に秘密と、杏樹ちゃんに言われている。ううん。そう言われなくたって、言えやしないよ。
そして、私までがグルになって、ひまわりと杏樹が旅行に行ったことにしている。
実は、もうひと家族にも、秘密にしていることがある。そう、椎野家だ。杏樹ちゃんとひまわりが二人で旅行に行っているということになっている。
杏樹ちゃんとひまわりが、どうやら最初に4人で旅行に行こうと言い出したらしい。
でも、男二人のほうが、4人でっていうのは抵抗があったらしく、とりあえず、同じ日に旅行に行くことにしたらしく、杏樹ちゃんから、お姉ちゃんからも、双方の親にうまく言って欲しいとお願いされたのだ。
最初は戸惑った。でも、私も菜摘や葉君と聖君と4人で旅行に行ったなあと思い出し、いいよ、うまく言っておくから。とその申し出を受けたのだ。
だから、もう、杏樹ちゃんとやすくんは…。
ひまわりと、かんちゃんはすでに昨年夏に、結ばれちゃっている。その後も、とってもあの二人は仲がいい。
だけど、杏樹ちゃんとやすくんは、その旅行に行ってからというもの、二人して照れ合っているのがはたから見てもわかってしまう。
だけど、みんな、初々しいカップルだと言って、二人のことを怪しんだりはしていない。あの聖君でさえ、
「やすって、奥手みたいだなあ」
なんて言ってるし。
そりゃそうか。だって、みんながいる前では二人ともいちゃつかないんだもん。あれ、絶対にわざとしているよね。でも、二人きりになると、いちゃいちゃしているみたいんだなよね。って、これも、杏樹ちゃんが教えてくれたんだけどさ。
そのうち、みんなの前でも平気でいちゃつくようになるかな。私と聖君みたいに。
「桃子ちゃん!伊豆では凪、空に取られちゃうよ」
そう言って、聖君が甘えてきた。えっと、まだ、みんなお店にいるよ?なのに、べったりくっついてきてるけど?お酒、飲んでないよね?今日は。
「う、うん。凪、空君にべったりだもんね?」
「ああ、今からほかの男に取られちゃうとは…。なんか、俺、悲しい」
ビト…。聖君が、私の肩に頭を乗せてきたぞ。まさかと思うけど、いい子いい子して欲しいのかな?
いい子いい子してみた。すると、
「くうん」
と聖君が泣いた。
「聖、酒飲んだろ?これ、ノンアルコールのビールじゃないだろ?」
お父さんがそう言った。ああ、ノンアルコールじゃないほうを飲んじゃったのね。
「え?そうなの?そういえば、なんかいい気分」
「これ以上は飲むなよな?聖」
お父さんにそう言われ、聖君は「へ~~~い」と答えたものの、また私にひっついてきた。
「桃子ちゃん!お腹、大丈夫?」
「うん」
「つわりは?」
「ないよ?」
「今日は俺、凪と桃子ちゃんと3人で寝るから」
「うん。でも、凪、空君と一緒じゃなくて、怒らないかなあ」
「…でも、俺、桃子ちゃんとは絶対に一緒に寝るから」
「う、うん」
みんな、聞いてるけど。私、めちゃくちゃ今、恥ずかしいんだけど。
でも、みんなはそんな私と聖君のことをほっておいて、各々話しだした。それに、お母さんはお父さんと、おばあさんはおじいさんと、春香さんは櫂さんと、杏樹ちゃんはやすくんと仲良く話している。
ふと、静かになった凪と空君を見てみた。クロとクロがお守りをしていてくれたが、2匹の真ん中に丸くなって、寄り添って既に眠っていた。
ああ、今、もしかして、みんなカップルで仲睦まじくしていたりする?
まりんぶるーはやっぱり、とってもあったかい、優しい場所だよね。