第4話 ○月○日 突発!
うちの娘が、突発性湿疹で39度の熱を出しました!(>_<)
もう熱も下がってきて落ち着いたけど、
高熱が出て慌てて夜中に病院に連れて行きました。
子供が熱を出すと、本当に慌てます。
僕は病院嫌いなので、凪の予防接種も奥さんが連れて行っていますが、
今回はそんなこと言ってられないし、車で救急夜間にすぐに行ってきました。
今は、すやすや寝てくれています。
寝顔は天使みたいで、超可愛い(*´ω`*)
最近の聖君の日記は、前よりも文章が長くなってきた。そして、それに対してのコメントも多い。
>うちも突発やりましたよ。やっぱり夜中に熱を出し、かみさんと慌てて病院に連れて行きました。それに、僕も病院は苦手です。
>うちの子はまだ、突発していません。僕も注射器見るだけで鳥肌が出るので、妻が連れて行ってくれています。女性の方が強いですよね。うちの娘はあまり注射を打たれても泣かないそうですが、凪ちゃんはどうですか?
こんなパパからのコメントも多くなってきた。前は子育て中のママのコメントが多かったのに、最近はパパまで聖君のブログを読むようになったんだなあ。
>凪も強いらしく、ほとんど泣かないでケロッとしているようです。女のほうが痛みに強いんですね、きっと、じゃなきゃ、子供なんて産めないですよね。
聖君がそう、コメントの質問に返すと、
>そうですよね。出産に立ち会ったんですけど、妻はものすごく痛がってて。見ているだけでも、僕の方がブッ倒れそうでした。
>立ち会ったんですか?勇気ありますね。僕は血がダメだから、絶対にブッ倒れて返って迷惑かけそうだから、立会はしませんでした。
そんなやり取りまでしているくらいだ。そして、出版の広告を聖君のブログに載せると、もっとたくさんのコメントが寄せられるようになった。
>離乳食、僕も作ってます。けっこう楽しいですね!
>本出たら買います。僕の娘ももうすぐ離乳食の時期なので、楽しみです。
「聖君、最近子育てパパのコメントが多いねえ」
「そうだね。子育てパパ、子育て楽しんでいるんだね」
「聖君のブログ見て、そういう人増えたんじゃない?」
「そうかな?」
「こういうパパだと、ママ、楽になるし、いいよね!」
「桃子ちゅわん」
「ん?」
「桃子ちゃんも、楽できてる?」
「え?うん」
「ごめんね?予防接種とか、全然行ってあげられなくって。けっこう大変だよね?」
「ううん。全然。それにみんな、ママが連れてきてるよ。パパってあんまりいないよ?」
「あ、そうなの?でも、1歳半検診には俺も行くから」
「…ありがとう」
でもきっとそれも、平日だし、ママが多いと思うなあ。それよりも、ほかのママさんが聖君を見て、惚れちゃったりしないか心配。
「そういえば、公園でも聖君のブログの話がよく出るの。みんなにはさすがにばれてるんだ」
「え?ほんと?」
「だって、凪ちゃんパパっていうだけで、バレバレだよ。あれ、聖君のことでしょ?ってみんなに言われちゃった」
「桃子ちゃん、ばらしたの?」
「う、うん。誤魔化しきれないんだもん。凪パパ☆聖…って書いてあったら、そりゃもう聖君しかいないでしょって感じだし」
「そうか」
「お母さんが作るリュックやお砂場着、凪が着てるんだもん。バレバレだよね」
「それもそうか」
「でもね、みんなもあれを見て、お砂場着作ったりしてるんだよ?それに、聖君のレシピ、みんな作ってるって」
「へ~~」
「でね、れいんどろっぷすでも、出して欲しいってみんな言ってるの。だけど、あれって、子供連れて自分たちが来たいんだよね、聖君に会いに」
お風呂の中でそんな話を聖君としていた。聖君は、凪を膝の上に抱っこして、凪の髪を洗っている。
「俺に会いに?でも俺、昼間、店出ていないし」
「うん。そう言ったらみんな、がっかりしてた」
「きゃきゃきゃ」
「凪、じっとしてて。お目目にシャンプーはいるよ」
「は~~~い」
凪は最近、は~いと言えるようになった。
それに、凪が歩けるようになってから、お風呂は3人で入っている。
「はい、おしまい。ママのところに行って、お風呂に入ろうね?」
聖君は凪をバスタブに入れた。凪は私の横で、バスタブのへりにつかまるとしゃがみこんだ。
「はい、凪。アヒルさん」
「ガーガー」
「うん、ガーガー」
凪はたくさん、話ができるようになっている。
聖君はあっという間に髪と体を洗い終え、バスタブに入ってきた。榎本家はバスタブが大きいから、3人でも余裕で入れてしまう。
凪は聖君の膝の上に乗り、
「ガーガー」
と言って、アヒルで遊んだり、船を浮かべさせて遊んでいる。
ああ、なんとも幸せな時だ。聖君といちゃつくことはできなくなったけど、3人でお風呂に入れるなんて!
「凪、熱下がって良かったねえ」
聖君が凪の頬にチュってキスをした。
「パ~~パ、ブーブー」
「それはお船。ブーブーじゃないよ?」
凪には船も車も電車もブーブーだ。それに、聖君もお父さんもパパだし、私もお母さんもママだ。杏樹ちゃんにもママと言うから、身近な女の人はみんなママで、男の人はパパだと思っているのかもしれない。
はあ、それにしても、この何とも言えない幸せ感、子供っていいなあ。
「ねえ、桃子ちゃん」
「え?なあに?」
「うん。聞きづらいんだけど、でも、ずっと一緒にお風呂入れているし」
「?」
「その…。最近ないよね?生理…」
「え?」
あれ?あれれ?
「ま、待って。この前は、確か5月…。ゴールデンウイーク中…」
「うん。俺も覚えてる。ゴールデンウイークなのに、エッチできなかったもん。でも、今月ないよね?」
「……今日、何日?」
「19日」
「うわ。2週間遅れてる!」
「……まさか、とは思うけど、一応調べてみる?」
「う、うん。お風呂出たら調べてみる」
「あるの?妊娠検査薬」
「うん。ある。お母さん、買い置きしてた」
「……なんでまた…。桃子ちゃんのために?」
「杏樹ちゃんも、やすくんと付き合っているからって、2個くらい買ってあったよ」
「杏樹が?!じゃ、もうやすと?!」
「違う。念のためってだけだよ。だって、杏樹ちゃんとやすくん、そんなに進展していなさそうだし」
「あ、焦った~~~。まじ焦った」
「聖君、杏樹ちゃんだと慌てるよね?」
「え?」
「ひまわりだと、そうでもないけど。やっぱり、そのへんが違うよね?」
「ひまわりちゃんの方が年上だし」
「まあね。もう高校3年だし。私が妊娠した年齢になっちゃった」
「………。さ、もう風呂出ようか?凪。のぼせたら大変だしね?」
あ、逃げたな。こういう話をすると、逃げちゃうか、ごまかすんだよね。聖君。
「はい、凪。体フキフキしようね~~~」
聖君は、凪の体を念入りに拭いてあげて、私の体はもう拭いてくれなくなった。いいけどね。一人で拭けるし。
「凪、お腹ぽっこり。食べ過ぎ?」
「そうだね。凪、食いしん坊なんだもん」
「でも、このぽっこりが可愛いんだけど。凪のお尻も可愛い~~!」
あ、凪のお尻にキスしてるし…。
「キャキャキャ!」
凪、大笑いしてるし。
「さ、オムツ履いて、パジャマ…って凪、まだ出て行ったらダメだって」
聖君が凪のパジャマを持って着せようとしたちょっとの隙に、凪は洗面所から出て行ってしまった。
「凪!」
聖君も私もまだ裸だから、追いかけられない。
「凪ちゃん、オムツだけで出てきちゃった?さては、逃げ出してきたなあ~~~。捕まえた!」
リビングの方からお父さんの声が聞こえた。あ、凪のこと捕まえてくれたみたいだ。聖君は慌ててパンツだけ履いて、凪のパジャマを持って出て行くと、
「父さん、悪い。凪に着せちゃってくれる?」
と頼んで、また洗面所に戻ってきた。
私は体を拭き終え、下着とパジャマを着た。
「桃子ちゃん、髪、乾かそうか?」
「あとでいい。それよりも、調べてくるね?」
「あ、そっか。検査薬、あった?」
「うん。この引き出しに入ってた」
私は洗面所の一番下の引き出しから出した紙袋を持って、トイレに行った。
ドキドキ。まさかと思うけど、でも、2週間も遅れてるし。もう最近は、ちゃんと遅れずに来ていたのに、そんなに遅れるってことはやっぱり、二人目?
検査薬の結果が出るのをしばらくトイレの中で待った。ああ、凪を妊娠したときのこと思い出すなあ。あの時は、怖くて怖くて、検査薬を見たくなかったっけ。
でも、今回は…。まさか、こんなに早く二人目を妊娠するとは思ってもみなかったけど、二人目、嬉しいかも…。
ドキドキ。あ、線が出てきた。
「聖君!」
私は、すぐさまリビングにすっ飛んでいって、聖君に見せた。
「どうだった?」
「見て!これ…」
「プラス…」
「うん!!」
「ってことは?」
凪を膝の上に乗せて遊んであげているお父さんが、私の手にある検査薬を見て、
「桃子ちゃん、え?もしかして二人目?」
と聞いてきた。
「はい」
私はドキドキしながらうなづいた。
「妊娠してるって、ことだよね?」
聖君が、私の顔を見つめながらそう聞いてきた。
「うん!」
私はまた深くうなづいた。
「すげえ!やった~~~!」
「そうか!二人目かあ!」
お父さんと聖君がほとんど同時に、そう大きな声を上げた。
「なあに?何があったの?」
お母さんがお店の片付けが終わったのか、ちょうどリビングに上がってきた。
「くるみ。桃子ちゃん、二人目を妊娠したんだって!」
「え?本当に~~~?」
お母さんも大喜びをしてくれた。
「今からだと、予定日はいつ?3月?2月?」
「凪ちゃんとは、2学年差か」
「凪、お姉ちゃんになるのか!」
お母さん、お父さん、そして聖君はすでに興奮して盛り上がっている。
「でも、まずは病院に行って調べてもらわなくっちゃね?桃子ちゃん」
「うん」
聖君にそう言われ、私はまた深くうなづいた。
「男の子かしら、女の子かしら」
お母さんがワクワクしている。そこへ、杏樹ちゃんが、
「お風呂出た~~?私入ってくるよ~~」
と2階から下りてきた。
「杏樹!桃子ちゃん、二人目できた!」
「え?」
聖君の言葉に、杏樹ちゃんがキョトンとしている。
「だから、赤ちゃんだよ!赤ちゃん!」
「ええ?本当?お姉ちゃん」
「うん」
「おめでとう~~~~!」
杏樹ちゃんも大喜びだ。
「ワン!」
「ああ、クロ。クロにまた、お守りを頼むことになるなあ」
「ワン!」
お父さんの言葉に、クロは嬉しそうに尻尾を振った。
でも、凪にはなんのことだかわからないようで、
「パパ、ブーブー」
と言って、お父さんの膝の上で、車の絵本を読めと催促している。
「そっか。二人目か。女の子かなあ」
聖君、にやけてる。できたら私は男の子がいいなあ。
私の髪を2階で乾かしていると、凪を連れて聖君が二階にやってきた。
「桃子ちゃん、髪乾かそうか?」
「ううん。もう乾いたから平気」
「じゃ、凪、絵本読もうか?そうしたらもう寝るんだよ?」
「は~~~い」
凪は嬉しそうに凪専用の小さな本棚の前にしゃがみこみ、絵本を取り出してきた。
「また、白雪姫?好きだね、凪」
「ひ~~っひ」
「じゃ、ひ~~っひ、読むから、横になってね?凪」
聖君は凪の隣にゴロンと横になると、凪に絵本を読み出した。
私も聖君の隣に横になった。そして、絵本を読んでいる聖君を見つめた。
これ、これこれ。絵本を読んでいる聖君、見たかったんだ。どんなだろうって、ずっとワクワクして想像してたの。でも、私の想像を遥かに超えるくらい、聖君の読み方は半端ないくらい上手で…。
このまま、声優か俳優になれるかもっていうくらいうまい。臨場感たっぷりで、凪もいっつも喜んで聞いている。でも、寝かしつけるには、ちょっと上手すぎて、凪はなかなか寝てくれなくなってしまう。
「さあ、白雪姫、このりんごを食べなさい」
聖君の魔女のおばあさんの声、本当におばあさんみたいだし、そのあとの、
「ひ~~ひっひっひ」
っていう笑い声、半端なく怖い。でも、この笑い声が凪はお気に入りなんだよね。だから、この絵本は「ひ~~っひ」なの。白雪姫の姫のことを言ってるわけでもなく、多分、凪にとってこの絵本の主人公は、魔法使いの方なんだよね。
「ひ~~っひ、ひ~~っひ」
凪が真似しだした。
「あ、凪、上手!女優になれるよ」
聖君、なんでも褒めちゃうんだから。
「パーパ!」
凪が起き上がり、また本棚の前に行って絵本を持ってきた。
「まだ読むの?今度はこれ?」
「デッブー」
「はいはい。デッブーね。じゃ、読むよ?」
凪はワクワクしながら寝転がった。あ、これ、私も大好き。
「かぼちゃは馬車に、ねずみは馬に。ビビデバビデ、ブ~~~~~♪」
シンデレラだ。聖君は、この魔法使いが魔法をかけるところを楽しそうに歌いながら読む。
「デッブ~~~~~」
凪が真似をする。
「そうそう。ビビデ、バビデ、ブ~~~~~~ウ♪」
「きゃきゃきゃ」
絶対にこの絵本も、凪は魔法使いの絵本だと思っているに違いない。
そんなこんなで、軽く1時間は絵本の時間に取られてしまう。やっと凪が寝る頃、私まで半分眠りについている…。なんていうこともしょっちゅう。
「桃子ちゅわん」
「ん~~~?」
「もしかして、またつわりひどくなるかな」
「わかんにゃい」
「そうしたら、エッチ、当分おあずけ?」
「…その、エッチって言い方、やだ」
「え?いいじゃん。で、おあずけなの?」
「……そうかも」
「…わかった。じゃあ、そうなる前に、ね?」
「え?でも、私、眠い」
「桃子ちゅわん。昨日も一昨日も凪と一緒に、絵本読んでる間に寝たよね?昨日なんて、凪より先に桃子ちゃん、寝たよね?」
「眠いんだもん。あ、妊娠していたから眠いのかなあ」
「桃子ちゅわわわん」
聖君が胸に顔をうずめて、甘えてきた。うわ。可愛い!
「聖君」
「ん?」
「あっつ~~~いキスしてくれたら、目、覚めるかなあ」
そう言うと、聖君は思い切り熱いキスをしてきた。トロン。とろけた。でも、目、覚めた。
「そっと優しくしたら、お腹の子に悪くないよね?」
「うん」
聖君はそう言って、その日、めちゃくちゃ優しく抱いてくれた。
ああ、二人目かあ。今度は男の子。絶対に男の子がいい。でないと、また聖君を取られちゃう。
名前は、何がいいかなあ。
そんなことを聖君の腕枕で考えていると、スースーと聖君のほうが先に眠ってしまった。
「おやすみ」
そっと聖君にキスをした。聖君に似た、男の子がいいなあ。絶対に絶対に可愛いだろうなあ。
凪の寝息と聖君の寝息を聞きながら、私は幸せいっぱいで眠りについた。