第21話 ○月○日 運動会!
今日は、凪の幼稚園の運動会でした。
凪はどうやら、競争がわかっていない様子。
でも、とても楽しそうだったので、パパは満足(^ω^)
それに、凪のダンス、超可愛かったし!(≧∇≦)
今日の運動会のお弁当はこちら。
僕と奥さんで作りました(o^^o)♪
ああ、今日の聖君のブログも、親バカ丸出し…。それに、いつも「俺」なのに「僕」なんて言ってみたりして、そんなところも可愛い…。って言っている私も、アホ丸出しだよね。
「わあ、凪ちゃんちのお弁当豪華!」
となりのシートに座っていた、みっちゃんのママが驚いていた。
「これももしかして、凪ちゃんパパが作ったの?」
「これは俺と桃子ちゃんとで。あ、母さんが作っておいてくれたものもあるけど」
「そうだよね。おうちがカフェなんだもん。いいよね~~」
みっちゃんのママはそう言って羨ましがった。
「みっちゃん、パパは~~~?」
凪が聞くと、みっちゃんは寂しそうに、
「みっちゃんのパパはお仕事」
と答えた。
「え?そうなんだ」
聖君はびっくりしている。
「碧君、やっとつかまえたよ。さ、お弁当食べようか」
そこにお父さんが碧を抱っこしてやってきた。その後ろからは、お母さんが常連さんと話しながら歩いてきた。
「あ、父さん、母さん、このシート隣とくっつけてもいいよね?」
え?みっちゃんのところとってこと?
「ああ、いいけど。あ、どうも、こんにちは。凪がいつもお世話になってます」
お父さんは、みっちゃんのママに挨拶をした。
「みっちゃんのところ、パパが仕事で来れないんだって」
聖君がそう言うと、お母さんが、
「あら、じゃあ、ママとみっちゃんの二人だけ?」
と聞いた。
「はい。うち、田舎が遠くて、親も来れないから」
「それは寂しいわね。どうぞどうぞ、こっちのお弁当も食べて?たくさん作っちゃったから」
お母さんはそう言って、お弁当をみっちゃんちのシートの近くにずらした。
「あ、すみません」
「わ~~~。これ、食べていいの?」
みっちゃんのママは、恐縮そうにしたが、みっちゃんは大喜びだ。
「うん、いいよ。みっちゃん、一緒に食べよう」
凪は、みっちゃんの隣に嬉しそうに座ってそう言った。
「碧!欲張りすぎ」
聖君がそう言って、碧を膝の上に乗せた。あ、碧ったら、すでに両手におにぎり持っている。
「あはは」
お父さんはそんな碧を見て笑った。
「この卵焼き、美味しい~~~」
みっちゃんがそう言った。
「あ、ほんと?それ、凪パパの手作り。みっちゃん、気に入ってくれた?嬉しいなあ」
聖君はそう言って、みっちゃんにニコッと微笑んだ。
「凪ちゃんのパパ、かっこいいし、お料理上手だし、いいな~~~!」
みっちゃんが思い切り羨ましがっている。
「本当にいいわよね~」
小声でみっちゃんのママもそう言って、うっとりと聖君を見た。
あわわわ。やばい。そんな目で見ないで。と思っていると、凪がすかさず、
「パパね~~、ママとすんごい仲いいの」
と、いきなりそんなことを言いだした。
「は?凪、いきなり何言ってるんだよ」
聖君は、目を丸くして凪に聞いた。
「今日も仲良くお弁当、一緒に作ってた」
「……」
聖君、今度は照れているのか、黙って頭をぼりっと掻いた。
「そ、そうなんだ。いいなあ」
みっちゃんのママはそう言ったっきり、もう何も話さなくなった。あ、凪、もしやみっちゃんのママからパパを守ってくれた?
「あ!うそ」
そのとき、後ろからでかい声がして、振り返ってみるると大輔君ママが目を丸くして立っていた。
「みっちゃんのママ、なんで凪ちゃんパパとお弁当食べてるの~~?」
う~~ん。どうしてそこで、「凪ちゃんパパ」限定なのかな。ママも凪も、一家揃っているんですけど。
「え?あ、大輔君のママ。こんにちは」
みっちゃんのママは、質問には答えずにただ挨拶だけをした。
「ずるい。だったら、大輔と私も混ぜてもらう」
「みっちゃんのおうちは、パパが来れなかったから」
凪がすかさずそう言った。すると大輔君ママは、
「え?あら、そうなの?じゃ、みっちゃんとふたりきり?」
と、みっちゃんのママに聞いた。
「ちょうど隣にいたし、シートくっつけちゃったんですよ」
お母さんが優しく微笑みながら、大輔君ママにそう言うと、
「あ、そうだったんですか。じゃ、うちも旦那が来れなかったら良かったかな~~、なんて」
と大輔君ママは笑いながら、去っていった。
「よ、良かった。大輔君まで来ないで」
みっちゃんのママが小声でそう言った。ほとんど独り言のようだったけど、
「え?なんで?」
と、聖君が気になったのかそう聞いてしまった。
「え?あ、うちの子も私も、ちょっとあの親子苦手で」
みっちゃんのママは、ちょっと慌てながら答えた。
「でも、大輔君、凪ちゃんのこと好きだよ」
みっちゃんが突然そんなことを言った。あ、それ、禁句かも。
「凪は別にどうも思ってないもんな?」
聖君が凪に念を押した。ああ、やっぱり、聖君が気にしちゃったよ。顔引きつったし。
「うん。凪にはだって、空君がいるも~~~~~ん」
あちゃ。それも、凪、聖君には禁句。
「…あ~~、そう~~」
ほら。聖君、いじけモードだよ。
「パパも大好き」
凪は何かを察したのかそう言って、聖君に抱きついた。
「…」
聖君の顔がにやけた。ああ、本当に単純だな。それを凪も知っててわざと、ああいうことしているのかも。
「いいなあ。凪ちゃんのパパ、かっこよくって」
みっちゃんが羨ましそうにそう言うと、凪は、
「うん。凪のパパ、かっこいいでしょ」
と、無邪気にそう笑った。あ、聖君の顔、もっとにやけた。
お弁当を食べ終わり、凪の徒競走が始まった。凪はみっちゃんと、
「一緒に走ろうね」
とニコニコしながら走り出し、二人してビリだった。
「ああ、凪、徒競走の意味がわかってないよね」
聖君はビデオ片手にそんなことをつぶやいた。
そして、最後の種目のダンス。聖君もお父さんも、デレデレになりながら凪を見ていた。
「く~~~~、凪、可愛い~~~」
聖君はビデオに撮りながらそう言っている。全部ビデオにその声、入っちゃってるのになあ。
このビデオ、椎野家でも見るつもりだから、きっと母がこの声聞いて笑うだろうなあ。父は一緒になって可愛いねって言いそうだけど。
運動会が終わると、凪のところに大輔君と健児君がやってきた。
「凪ちゃん、一緒に写真撮らない?」
大輔君ママがすかさずそう言って、
「あ、凪ちゃんパパもどうぞ入って」
と聖君に微笑みかけた。
「俺はいいですよ。それより、ママたちが入ったらどうですか?俺、写真撮りますよ」
聖君はそう言った。そして、みっちゃんにも声をかけて、
「凪はママの前に立って。そうそう、そこ」
と、何げに凪を大輔君から離してしまった。
「はい、チーズ」
聖君はとっとと写真を撮って、とっととそのカメラを大輔君ママに渡して、とっとと凪と手をつないだ。
「さ、帰ろうか!」
そして、凪を大輔君からも健児君からも離してしまった。
「帰っておうちで、おやつ食べようね、凪ちゃん」
碧をベビーカーに乗せ、荷物を持ったお父さんがそう言った。
「うん!」
凪は嬉しそうにうなづいた。ベビーカーに乗った碧はというと、今日はかなりハイテンションであっちこっち移動していたから、疲れたのかウトウトし始めた。
碧のお守りをしていたお父さんは、途中から聖君と一緒に凪の写真を撮るのに夢中になり、結局碧の世話は、私とお母さんだった。
「ああ、疲れた」
お母さんと私とで、どっと疲れを感じながら、お店に帰った。聖君、凪、そしてお父さんはご機嫌だったけど。
「碧君は、本当にやんちゃよね。ちょっと目を離したすきに、どこに行くかわからないし」
「そうですね。すみません、お母さんにまで大変な思いをさせて」
「いいのよ。いい運動になったわ」
お母さんはそう言ってくれたけど、リビングに行くと一気に疲れが出たのか、ソファに倒れこむように座り込んだ。
「爽太~~~。コーヒー入れて。あと、甘いものが食べたい~~~」
「了解。桃子ちゃんも何か飲むかい?」
「じゃあ、カフェオレお願いします」
私もテーブルの前に座り込みながらそう言った。
「凪ちゃんはジュースかな?」
「うん。爽太パパ」
「じゃ、凪はうがいして手を洗おうね?」
聖君はそう言って、凪と碧も連れて洗面所に行った。
「桃子ちゃん」
「はい?」
「しばらく、男二人に任せて、のんびりしましょうね?」
「はい」
お母さん、面白いなあ。一緒に住みだしてからわかったことだけど、お母さんはけっこうお父さんに甘えている。お父さんはそんなお母さんのわがままを、嬉しそうに聞いているんだよねえ。
「はい、くるみ。クッキーも持ってきたよ。あ、桃子ちゃんも食べて」
お父さんがマグカップ二つと、クッキーを持ってリビングに来た。それから、凪のコップにはジュースが入っていた。
「凪もクッキー食べる~~」
「どうぞ」
手を洗ってきた凪は、さっそく座ってジュースを飲んで嬉しそうにクッキーも食べた。
「爽太~~~。肩揉んで~~」
「はいはい」
お母さんがお父さんの方に背中を向けると、お父さんはお母さんの肩を揉んであげた。
「あ、そこら辺痛い~~~」
と言いつつも、気持ちよさそうだ。
「碧!こら。それは凪のジュースだろ?碧はこっち!」
「ジューチュ!」
「ダメ。碧、いっぱいジュース飲んだだろ?だから碧には麦茶」
聖君はそう言って、碧にまぐまぐを持たせた。
碧はしばらく怒っていたが、喉が渇いていたからか麦茶を飲みだした。それから、まぐまぐをブンブンと振り回し、それが聖君の顔に命中して、
「碧~~~!」
と怒られていた。
聖君、凪には怒らなかったのに、碧にはけっこう怒っているんだよね。でも、碧、怒られてもケロッとしているからなあ。
この先、どんな親子になるんだろう、このふたりは…。
「運動会の様子、桃子ちゃんのご両親にも見せるんだろ?本当は来れたらよかったのにね」
お父さんがそう聖君に言った。
「お父さんが、出張と重なって、お母さんもエステの講習会に出ないとならなかったらしいよ」
「お父さん、残念がってなかった?桃子ちゃん」
「はい。すごく残念がっていました。来年は絶対に見に行くって」
「あはは。もう来年の話してた?そういえば、来年は凪ちゃん、年長さんで鼓笛隊するんだっけ?」
「そうなんです。それ、今から母も楽しみにしてました」
「凪ちゃんは、何をするのかな?ね?」
お母さんがそう凪に聞いた。
「えっとね~~。凪、太鼓!」
「太鼓~~?凪にできるの?」
私がびっくりして聞くと、
「できるよ。ね?凪」
と聖君はそう言って、凪の頭を撫でた。あ、またやっちゃった。どうも、凪は私に似て、不器用なんじゃないかって気がしちゃって、ついついそんなことを言ってしまう。
でも、凪はどうやら、のんびりしているけど、運動神経も悪い方じゃないし、すでに海で泳げるし、私よりも器用そうなんだよね。
ただ、今日も見てわかったけど、競争心がまるっきりない。いつものほほんと、平穏でいる。
「凪ちゃん、今日は何が一番楽しかった?」
お父さんがそう聞くと、凪はニッコリと微笑みながら、
「お弁当~~~」
と答えた。
「あはは。凪の食いしん坊」
聖君が笑った。
「でも、そうね。家族みんなで食べるお弁当、美味しいもんね」
お母さんがそう言うと、凪は、うん!と元気よくうなづいた。
やっぱり、凪はのほほんとした平和主義者だよね。こんなだから、誰かが喧嘩をしてても、凪がいるだけでおさまったり、癒され空間作っちゃったりするんだろうなあ。
だから、あんなジャイアンみたいにいっつも怒ったり、誰にでも喧嘩をうったりしている大輔君も、凪の前では大人しいし、凪を好きになったりするのかな。
ただ、凪は本当に大輔君にはまったく見向きもせず、空君一筋。
今日の夜も、夕飯の後、お父さんに頼んでスカイプをしてもらい、
「空君~~~。凪ね、今日、運動会だったの」
とスカイプで空君と話したりしているし。
「運動会?な~たん、運動会って何?」
「あのね~、みんなで走ったり、踊ったりするの。それから、みんな一緒にお弁当も食べるんだよ。美味しかったよ~~~」
と、凪は空君に教えてあげている。
「空も、行きたかった」
「じゃ、来年!凪ね、太鼓するから、見に来てね」
え?そんな約束していいの?
「うん!でも、な~たん。来年っていつ?」
「わかんない~~~。凪がねえ、年長さんになったら~~~」
「な~たん、年長さんって何?」
「わかんない~~~~。年長さんはねえ、凪よりお姉さん、お兄さんなの~~~」
「へ~~~」
このふたりの会話、聞いているとかなり面白い。お父さんも、声を殺して笑っている。
「凪、そろそろ空と話すのやめて、お風呂に入ろうな?」
聖君がそう言って、スカイプをやめさせた。ああ、聖君、絶対にヤキモチ妬いたな。
「今日はパパと入る?凪」
聖君がそう聞いた。すると、
「くるみママと入る~~~」
と凪はお母さんを呼びに、キッチンに行ってしまった。
「なぜ、母さん?」
「あ、さっきお母さんが、凪ちゃん、一緒にお風呂入ろうねって言ってた」
「母さん~~~~」
聖君が悔しがっているけど、
「でも、聖君。あのやんちゃな碧をお風呂に入れられるのは、聖君だけなんだけど」
とそう言うと、
「…父さんでもダメなのか」
と聖君はぶつくさ言って、碧を連れ、お風呂に入りに行ってしまった。
碧はお風呂でも、いろんなものを振り回したり、一緒にバスタブに入ると、お湯をバシャバシャかけてきたり、お父さんですら手に負えないほどで、その碧をたまには怒ったり、でもほとんど一緒に遊んじゃったりできるのは、聖君だけだからなあ。
洗面所に碧の着替えやおむつを持っていくと、今日もお風呂場から、
「碧~~~!おもちゃ振り回すな。痛いだろ?!」
という聖君の怒った声と、
「碧!パパのこと見てみて!潜水艦、ブクブク~~」
というはしゃいだ声がしてきた。潜水艦って、いったい何をしてるのかな。まさか、お風呂に潜っているのかしら。
「キャタキャタキャタ」
碧の、でっかい笑い声も聞こえてきたぞ。
「聖、碧君とお風呂入っちゃったの?じゃ、凪ちゃん、そのあとで入ろうか」
リビングに洗面所から戻ると、お母さんが私を見てそう言った。
「うん。じゃあね、凪、また空君とお話する」
凪はまたパソコンの前に座った。
「そうだな。聖がいたら、ゆっくり話せないもんな。今のうち」
お父さんがそう言って、またスカイプを始めると、凪は空君と嬉しそうに話しだした。
「な~たん。お風呂は?」
「まだ~~。空君は?」
「空はもう入ったよ」
「一緒に入りたいねえ」
「うん!また、入ろうね~~」
空君、最近自分のこと、空って言えるんだ。前は「チョラ」になっていたけど。って、それにしても、仲いいよね。伊豆に行くと二人で春香さんの家でお風呂に入っちゃっているし。あ、それって、聖君は知っているのかなあ。
一応、内緒にしておこうかな。凪がもう、俺以外の男とお風呂に入った~~~!って、またショックを受けても大変だし。
それにしても、今日は私にしては珍しく、頑張って早起きしてお弁当を作ったりしたし、すんごい疲れたかも。
凪も、碧も、疲れたからか、さっさと寝てしまった。私もお風呂からあがり、髪を乾かしている間にどんどん眠くなり、
「聖君、もう、寝るね」
と言って、さっさと布団に入ってしまった。
「え?うそ。寝ちゃうの?」
「うん」
「え~~~~、桃子ちゅわん、まだ、11時前だよ」
「眠い」
「まじで?桃子ちゅわん」
あ、後ろから抱きついてきた。
「寝るよ、ごめんね?」
「桃子ちゅわわわん」
ああ、甘えてきた。私の背中を抱きしめているけど、私はもうすでに夢の中。
夢の中でも聖君は、私に甘えていた。可愛い。背中にひっつき、
「桃子ちゅわんのいけず~~」
と言っている。まったく、碧よりも甘えん坊かも。
なんて夢の中で思っていたけど、どうやら、本当に私の背中にひっつき、聖君はずっといじけていたようだった。




