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20/23

第20話 ○月○日 ショックな出来事!

  今年の夏も、家族みんなで祖父母の家に来ています。

  みんなで海で泳いだり、花火をしたり、楽しんでいます。


  ただ、ショックなことが起きました。

  なななんと、凪が親戚の男の子と結婚すると言い出して!

  ガ━━(;゜Д゜)━━ン!!

  パパと結婚するって、そう言ってくれると思っていたのに…。

  めちゃくちゃショック(゜ロ゜)魂抜けました。


 ああ、聖君、まじで魂抜けちゃってる。今日1日、ぼけ~~~っとしていたし、ご飯も喉を通らなかったし。でもさあ、たった4歳の子達の口約束だよ?きっと本人も忘れると思う。

 それに確か、聖君だって絵梨さんに「聖君と結婚する」と言われていたんだよね?幼い頃に。でも、聖君、忘れてたよね?完全に。


 っていう私も、幹男君とキスしたのも、チョコレートをあげたのも、すっかり忘れていたけどさ。でも、そんなもんだよね。


 だから、凪の、

「凪、空君のお嫁さんになるの。空君と結婚するからね?パパ」

って、言いだしたのだって、突然思い立って言っただけで、すぐに忘れちゃうんじゃないかなあ。


 それを聞いた春香さんは、

「凪ちゃん、空のお嫁さんになってくれるの~?」

と嬉しそうだった。そして空君は、

「な~たん、結婚って何?」

と聞いていた。


 あ、そうだよね。凪だって結婚の意味、わかっているのかな。

「結婚っていうのは、ママとパパみたいに、ずっと一緒にいること」

 凪はそう空君に説明した。


「な、凪…。空とずっと一緒にいるの?パパじゃなくて?」

 その横で、顔面蒼白になった聖君がそう聞いた。

「うん。だって、パパの奥さんはママなの」

 凪、その辺の意味わかって言ってる?


「ママとパパ、仲良し。ママ、パパが大好きなの。そんな夫婦に凪もなるの」

「凪ちゃん、いったいどこでそういうこと覚えたの?」

 春香さんがびっくりしている。


「あのね、みっちゃんが言ってた」

「みっちゃん?」

「同じクラスの子だよね?凪」

 私がそう言うと、凪はうんとうなづいた。


「へえ。幼稚園でそんなお話しているの?」

 春香さんはまた感心したように聞いた。

「うん。あのね、みっちゃんは健児君と結婚するんだって。健児君、優しいからだって」

「へ~~~」


 これは初耳。ちょっと面白そう。私も春香さんもわくわくしながら凪の話を聞き出した。でも、聖君は魂が抜けたままだ。さっきから一点を見つめ、ぼけ~~っとしている。


 私と聖君は、凪と碧を連れて、春香さんの家に来ている。午前中は海に行って遊んでいたが、まりんぶるーでお昼を食べたあと、凪が空君のおうちに行くと言うので、今にも眠りそうな碧も連れてやってきたのだ。


 碧は、春香さんの家に着く前に聖君の腕で寝てしまい、今、空君のベッドで眠っている。そして春香さん特製のアイスを食べながら、リビングでのんびりしている時にいきなり、凪が結婚する宣言をしたのだ。


「みっちゃんが、凪ちゃんは誰と結婚するの?大輔君?って聞いてきたの」

「だ、大輔?なんで?!」

 あ、聖君、魂抜けてたくせに、ちゃんと凪の話聞いているんだ。

「大輔君が凪のこと好きだから、だって」


「あいつ、凪のことが好きなのか?」

 聖君の顔、まじで引きつってるよ。おいおい。

「でも、凪、大輔君、よく喧嘩しているから好きじゃない」

「あ、そ、そうなんだ」

 聖君がほっとしている。


「みっちゃんが、パパとは結婚できないんだよって教えてくれたの。だって、もうママと結婚しているからだって。結婚できるのは一人だけなんだって」

 凪がそう言うと、

「あ、そう。みっちゃん、そんなこと凪に教えないでも良かったのに」

と聖君は見るからにがっかりした。


「聖、いつかは凪ちゃんもわかる時が来るんだから、いいんじゃないの?早くにわかって」

 春香さんが、がっかりしている聖君の肩をぽんと叩きながらそう言った。

「何を?」

「パパとは結婚できないってこと」


「…でも、一回は俺、凪に言って欲しかったなあ」

「私は言ってたし、本気でお父さんと結婚するって思っていたわよ?」

「え?じいちゃんとってこと?」


「そう。7歳まで。で、パパとは結婚できないって、クラスの子に教えてもらって、しばらく泣いていたんだから」

「まじで?春香さん、可愛い。でも、じいちゃんのこと毛嫌いしてなかった?一緒に住んでいた頃」

「だって、うるさいんだもん。うざいのなんのって」


「そんなに変わっちゃうもん?」

「そうよ。凪ちゃんだってわかんないわよ?あんまりうるさく縛っていると、聖のこと大嫌いになったりして」

「俺のこと?」

 聖君の顔がまた真っ青になった。


「凪ね~~、パパ、大好き!嫌いにならないよ~~~」

 凪は今の話を聞いていたらしい。そう言ってパパに抱きついた。

「凪~~~。凪は優しいね」

 聖君、まじで泣きそう。


「でも、凪、空君、大大大好きだから、空君のお嫁さんになるの~~」

 凪はそう言うと、パッと聖君から離れて空君を抱きしめると、ぶちゅ~ってキスをした。

「ああ!また、凪は…」

 それを見た聖君は、また魂が抜けたらしい。


「凪、みっちゃんにも空君と結婚するって言ったの?」

「うん!でも、みっちゃん、空君って誰?ってずっと言ってた」

 凪はまだ、空君に抱きついたまま。空君は、ただただニコニコしている。


「空~。良かったね?凪ちゃん、空のことが大大大好きだって」

 春香さんがそう言うと、空君はもっとニコニコして、

「空も、な~たん、大好き」

と嬉しそうに言って、今度は空君が凪にキスをした。


「あ!」

 聖君はそう叫んだけど、力尽きていたからか、動こうともしなかった。

「凪ちゃん、空君と仲良く抱きついてるのを写真に撮ってあげるね」

 春香さんがデジカメをかまえた。すると凪が空君にキスをした。そこをばっちり、春香さんが写真に撮った。


「あ、すごくいい写真が撮れた。パソコンで聖に送るからね」

「い、いらない」

 聖君は、顔を引きつらせたままそう言った。

「送るわよ~~~」


「いらねえよ~~」

 聖君、泣きそうだ。あ~~あ。相当ショックだったろうなあ。あの時から今日はずうっと、魂抜けてるもんね。


「聖君」

 凪はまた春香さんの家に泊まっている。空君とべったりくっついて寝ているかもしれない。碧は、昼寝をしたにもかかわらず、ぐっすりと寝ている。


「聖君」

 碧のことをぼ~~っと見ながら、聖君はまだ魂が抜けたままだ。

 私は後ろから抱きついた。

「そんなに寂しい?私はずうっと聖君の隣にいるし、ずうっと聖君の奥さんでいるよ?」


「当たり前でしょ?桃子ちゃんは俺と結婚したんだから」

 聖君はそう言って振り返り、私を抱きしめてきた。

「…だよね」

 聖君は抱きしめたまま、そうつぶやくと、

「凪はいつか、お嫁さんにいっちゃうんだもんなあ」

と、ため息混じりに言った。


「でも、桃子ちゃんはずっと俺の隣にいるんだよね」

「うん」

「俺の奥さんだもんね」

「うん」


「桃子ちゅわん」

「ん?」

「愛してるよ」

 そう言って聖君は熱いキスをしてきた。


「桃子ちゃん。でもやっぱり、俺、ショックだった。だから、なぐさめて?」

 ああ、思い切り甘えてきたぞ。可愛い。

 ギューって抱きしめて、それから聖君にキスをした。すると、聖君に押し倒された。


 また日に焼けた聖君。今日もかっこいい。

「聖君」

「ん?」

 首筋にキスをしてきた聖君の髪をなでながら、

「大大大好きだからね」

と言うと、

「うん、知ってる」

と可愛い声で聖君は答えた。


 そして、聖君は、その日やたらと「愛してるよ」と言いながら、私のことを優しく抱いた。


「やっぱ、俺には、桃子ちゃんが一番です」

 ボソ…。寝る前に私を抱きしめながら、聖君はポツリとそう言って、そしてすぐにすうって寝息を立てた。

 相当、ショックだったのかな。そんなことを言うなんて。


 翌朝、凪が空君と一緒にまりんぶるーに来た。そして聖君を見ると、

「パパ~~」

と嬉しそうに抱きついた。


「なんだよ。浮気者の凪」

 聖君は口を尖らせて凪にそう言った。あちゃ~~~。まだ、傷ついたままだ。

「浮気者って何?」

 凪が聞いた。

「なんでもない」


 そう言って聖君は凪を抱っこした。すると凪は、聖君の頬にキスをして、

「おはよ~~~。パパ。よく眠れた?」

と、そんなことを聞いた。

「よく眠れてない。凪がいなかったから」

 あ、聖君ってば、大人気ないこと言ってる。私の横ですやすや寝ていたくせに。


「パパ、よちよち~~~」

 凪が聖君の頭を撫でた。

「……」

 あ、聖君、にやけたぞ。まったく、どっちが子供なんだか。


「ママ~~~」

 碧が、そんなパパと凪を見て、寂しくなったのか、クロと遊んでいたのに私のところにやってきた。

「な~に?」

 碧は私に向かって両手を広げた。私が抱っこすると、碧が私にキスをしてきた。


「うわ!」

 それを見て聖君が叫んだ。

「え?」

 その声にびっくりして聖君を見ると、

「あ、碧と桃子ちゃん、キスした」

と目を点にしている。


「え?そ、それが何?」

「碧に桃子ちゃんの唇、奪われた」

「聖、あんた碧ちゃんにまでヤキモチ妬いてるの?しょうがないなあ」

 春香さんがそれを見て苦笑している。


「碧、お前は~~。俺は凪の唇までは奪ってないんだぞ?未来の旦那さんのためにって、唇だけは奪わないようにしているのに、お前は~~~~」

「いいじゃないよ。それに、凪の唇を奪うも奪わないも、凪ちゃんなら空とキスしちゃってるんだし」


「だだだ、だから、だから空。責任とって凪と結婚するんだぞ」

「聖、言ってることが支離滅裂。昨日は凪ちゃんが空と結婚するって言ってるのを聞いて、ショック受けてたくせに」

「あれは!あれは…」

 聖君は春香さんの言葉に何も言い返せずに、ただただ口をパクパクさせた。


「空、な~たんと結婚する~~」

 空君がニコニコしながらそう言った。

「う…」

 聖君は何も言えなないまま、口を閉じた。


「ほら、空、責任とって凪ちゃんと結婚するって。良かったわね、聖」

「ち、ちきしょ~~~」

 聖君は小声でそう言うと、悲しそうな顔をした。


「あははは。わかるぞ、聖。娘を持つ父親の気持ち、よ~~~くわかる」

 聖君の背中をバンバン叩きながら、おじいさんがそう言った。

「俺にはわかんないけどね」

 それをちょっと遠目から、聖君のお父さんがそう言いながらつぶやいた。


「杏樹ちゃんが、あのやすっていうやつに取られても、爽太は悔しくないのか?」

 おじいさんがそう聞くと、お父さんは、

「うん。やすなら杏樹を幸せにするだろうし、俺は大賛成」

とにこりと笑いながらそう答えた。


「聖、お前の気持ちは爽太にはわかんないかもしれないけど、じいちゃんにはわかるからな。痛いほどわかるからな」

「ちょっと、お父さん、やめてよ~~」

 おじいさんの言葉に、春香さんが苦笑いをした。


「でもまあ、空と凪ちゃんとの結婚なら、俺は大賛成だけどな」

「え?!なんで?じいちゃん」

「だって、孫とひ孫だぞ?二人が結婚したら、ずっとまりんぶるーに来てくれるだろ?どこにもここから、行かないってことだ。こんな嬉しいことはないだろ?」


 おじいさんがそう言うと、聖君はまた、口をパクパクさせた。でも、言葉は出なかったようだ。

「まあ、そ、そりゃ、どっかのわけのわかんない奴に凪を持っていかれるより、いいけどさ」

 しばらくしてから、聖君はポツリと言った。


「まったく、気が早いわよね。何十年先のこと言ってるの?空君と凪ちゃんは、このさき誰と出会って恋をするかわからないんだから、決め付けるのは早いわよ、聖」

 そこへお母さんがそう言いながら、みんなの朝ご飯を持ってきてテーブルに並べ始めた。


「あ、手伝います」

 私もキッチンに行って、すぐにお手伝いをした。春香さんも、キッチンにやってきた。

「でも、私は凪ちゃんと空が結婚してくれたら嬉しいけどな」

 春香さんはそう言うと、小声で、

「だって、私も実は、どっかのわけわかんない女に空を取られたくないもの」

と言って、私にウインクをした。


「え?あ、そうですよね」

 確かに。私も、聖君そっくりな碧を、どっかのわけわかんない女に取られたくはないかも知れない。ああ。聖君のこと呆れたって言えないよなあ。


 碧を見た。碧は今、おじいさんが抱っこしていてくれている。そして、おじいさんが笑わせると、碧は可愛い笑顔でキャタキャタと笑った。その笑顔は、聖君の笑顔にそっくり。

 きっと碧も、聖君みたいに女の子にモテモテになっちゃうんだ。そして、いったいどんな女の子に恋をするんだろう。


 それから、凪は?

 空君と一緒にクロと遊んでいる凪を見た。空君とは本当に仲がいいけど、結婚する宣言を、凪はずっと覚えているんだろうか。


 子供たちのこれからのことを考えると、わくわく嬉しいような、心配のような、寂しいような、複雑な気持ちになった。


「…」

 聖君は、今日もまた虚ろな目をして凪を見ている。

 ああ、凪が本当に誰かに恋をするようになったら、聖君はいったいどうなっちゃうんだろうね?






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