第19話 ○月○日 父の日参観!
今日は父の日参観で、園のみんなでお芋掘りに行きました。
凪、大きなお芋が掘れて大喜びヽ(´▽`)/
ただ、凪に男の子の友達もたくさんできて、
パパはちょっと心配(>_<)
聖君は、凪の男の子の友達を心配しているけれど、私は、その子達のお母さんや、若い先生たちのほうがよっぽど心配。
だって、今日の父の日参観だって、お芋堀りだっていうのに、お母さんたちはお化粧もばっちりだし、お洒落もしてきていたし。
それに、
「凪ちゃん、うちの子と写真撮ろうか。あ、凪ちゃんパパもどうぞ入って」
なんて言って、聖君を写真で撮っている人もいたし、ちゃっかりビデオで子供を撮るふりをして、聖君を撮っているお母さんもいた。
それに先生たちだって、なんとなくいつもより化粧が濃いし、やたらと、
「凪ちゃん、頑張ってる?あ、凪ちゃんパパも、いっぱいお芋掘れましたね」
とか、言ってきちゃって、袋に入れてあげたり、いろいろと聖君に話しかけてきたり。
う~~~ん。そういうの、凪と聖君をずうっとビデオで撮っていたから、ばっちりわかっちゃったよ。
特に、大輔君ママ、聖君にやたらと話しかけてた。パパと大輔君はそっちのけにして。あれ、大輔君パパだって気がついていたと思うよ。
大輔君ママっていくつかな。化粧が濃くてよくわかんないけど。
「ママ!お芋いっぱい取れた~~」
凪が、重いお芋が入った袋を両手でかついで持ってきた。
「うわ、重そうだね」
「重い~~」
そう言いながら、凪は喜んでいる。
「パパに持ってもらおうよ」
「パパ~~~」
凪は聖君を呼んだ。聖君は大輔君ママのことは軽くあしらって、他のお父さんたちと楽しそうに話しているところだった。
「何?凪」
「お芋持って~~~」
「了解」
聖君はにこにこしながらやってきた。
真っ黒になった軍手をはめ、Tシャツもちょっと汚れてしまっている。ほっぺにも土がついているのに、それでも、すんごい爽やかなのはさすがだ。聖君って、青空とお芋畑まで似合っちゃうのね。きっと畑仕事をしたとしても、超かっこよくやってのけちゃうんじゃないかしら。
「凪、たくさん掘れたね。これで何作ろうか?」
「カレー」
「お、いいね。でも、もっといろいろと作れるかも」
「ポテトサダダ」
「ポテトサラダね?それもいいね、凪」
聖君はジャガイモの入った袋を方手で持ち、もう片方の手で凪と手をつないだ。そして、笑顔で話しながら園に向かって歩き出した。
畑から園までは、歩いてちょっとある。でも、みんなお父さんと嬉しそうに手をつないで歩いている。
子供達とお父さんは、みんな楽しそうだ。そしてお母さんたちは、なんとか聖君に話しかけようと、聖君の後ろや横に群がってきた。
「すみません。道路の端を2列で歩いてください」
先生が大きな声で注意した。あれって、聖君に群がっているお母さんたちに言ったんだよね。
先生の注意で、どうにかみんな聖君の後ろに周り、ゾロゾロと後ろから付いて歩き出した。
私も聖君と凪のすぐ後ろから歩いていた。すると、
「凪ちゃんママ、凪ちゃんママ」
と大輔君ママが声をかけてきた。
「ねえ、今度おうちに大輔と遊びに行ってもいい?」
「え?」
「大輔が行きたいって言ってるの」
嘘だ~。大輔君、そんなに凪と仲良さそうに見えないよ。
「ね、凪ちゃん、いいよね?」
大輔君ママの言葉に、凪ではなく聖君が後ろを向き、
「すみません。凪、男の子とはあまり遊ばないんで」
と、クールに断ってしまった。
うわあ。聖君ってほんと、徹底して凪に男の子を近づけないようにしているよねえ。
「そ、そうなんですか?」
さすがに大輔君ママは、顔を引きつらせた。あ、でも、これで大輔君ママも、撃退出来たってことかなあ。
園に着いた。みんなで手を順番に洗い、各教室に分かれて入った。
聖君と私も、凪と一緒に教室に入った。教室には、もうすでに杏子先生がいた。
「じゃあ、みんな、円になって座ろうか?お父様方、お子さんの後ろに座ってください。お母様方は、すみませんが、教室の後ろに1列に並んで下さいますか?」
先生にそう言われ、私たちはみんな従った。凪の後ろには聖君が座った。
「やっぱり、榎本さん、若い」
「羨ましいわ。あんなにカッコいい若いパパで」
そんなひそひそ声が聞こえてきた。
「じゃあ、みんな、お父さんに今日のために描いた絵をプレゼントしようか」
先生がそう言うと、子供たちは、色紙をまるめてリボンをつけたものをお父さんたちに渡して、
「パパ、いつも、ありがとう」
と声を揃えてそう言った。
「あ、ありがとう、凪」
私はしっかりと聖君と凪をビデオに撮っていた。あ、聖君、絵を開いた。そして、その絵を見て感激して泣きそうになっている。可愛い!
「これ、パパ?」
「うん!」
「ハート、周りにいっぱいついてるね、凪」
「うん!だって、パパ、大好きだから~~~」
凪はそう言うと、聖君にべったりと抱きついた。そして頬にチュウまでしている。
「あら、凪ちゃん、パパにキスまでしてる」
「そりゃ、あんなに素敵なパパなら、チュウもしちゃうわよね」
そんなお母さんたちの声が聞こえてきた。
他にも数人、凪の真似をしてお父さんに抱きついた園児がいたが、頬にチュウは凪だけだった。そして、目をウルウルさせているのも、聖君だけだ。
ああ、まったく、可愛い親子だよなあ。っていう私も、ちょっと今、じ~~んとしていて泣きそうだけど。
「凪ちゃん、また明日ね!」
「凪ちゃん、バイバイ」
教室から出て廊下にいると、同じクラスの子が凪に挨拶をしてきた。
「うん、バイバイ」
凪はその子達に、ニコニコしながら手を振った。
「やだ~~~!」
突然、教室から大きな男の子の声が聞こえた。びっくりして中を覗くと、
「それは俺が遊ぶんだ!」
と言って、ブロックを取り合っている男の子たちがいた。
「健児!もう帰るんだから、やめなさい」
「大輔もブロック離して」
ああ、なんだかよく喧嘩をしている二人だっけ。お迎えに来た時にもよく二人で喧嘩していて、杏子先生に怒られている。
「あ、あのブロック…」
凪もドアのところから中を覗き、そうぼそっとつぶやいた。
「ん?どうしたの?凪」
聖君がしゃがみこみ、凪の顔を見ながらそう聞くと、
「あのね、昨日凪が作ったおうちなの。でも…」
と寂しそうな顔をした。
ああ、おうちが出来上がっていたのに、それを壊されちゃったのか。
「でもさ、凪。ブロックはみんなのものだから」
聖君がそう言うと、凪は、
「うん」
と小さくうなづいた。
「これは、凪ちゃんが作ったおうちなんだよ」
健児君という子が、そう大輔君に言って大輔君からブロックを取り戻そうとしている。
「あれ。あの子、凪のために戦ってるのか」
聖君はぼそっとそんなことを言った。
「あ、凪?」
凪は今の言葉を聞き、教室の中にとことこ歩いて入っていった。
「凪ちゃん」
健児君と大輔君が、凪に気がつくと凪は、
「健児君、それ、いいよ。みんなのブロックだもん」
とそう健児君に話しかけた。
「お、凪、えらいじゃんか」
聖君はまだしゃがみこんだまま、教室の中を見ていた。
「いいの?おうち、壊れちゃっても」
「うん。また、作るから」
そう凪が言うと、
「僕も手伝う」
と健児君は凪に言った。すると、大輔君までが、
「俺も一緒に作る」
と言い出した。
「じゃあ、また明日みんなで作りましょう。だから、今日は片付けて、もう帰ろうか」
杏子先生がそう言うと、3人は「は~~い」と言って、仲良くブロックを片付けだした。
「すげ。なんか、3人仲良くなってる」
聖君はその光景を、びっくりしながら見ている。
そして片付け終わると、大輔君も健児君も先生に挨拶をして、凪にもバイバイと言ってお母さんと教室を出てきた。
「あ、凪ちゃんパパ、さようなら」
大輔君ママは、聖君にだけ挨拶をして、下駄箱の方に行ってしまった。
「凪ちゃんママ、いつも凪ちゃんが大輔君との中に入ってくれて、助けてくれてありがとうございます」
健児君ママは、私にそう言ってきた。
「え?」
聖君が横で、なんのことだろうって顔をして私を見た。
「あの、健児はいっつも大輔君と喧嘩になっちゃうんです。時々泣かされることもあって。でも、先生に聞いたら、凪ちゃんが二人の間に入ると、なぜか喧嘩がおさまっちゃうって」
「凪が?」
そんな話を聞いていると、先生も凪と一緒に教室から出てきた。
「凪ちゃんのお母さんとお父さん、凪ちゃん、本当に園になじんで、毎日楽しく過ごせるようになって良かったですね」
「あ、はい。ありがとうございます。最初は泣いてばっかりで、どうなるかと思っていたけど」
私がそう言うと、先生は目を輝かせ、私と聖君を交互に見て、
「今では、凪ちゃんがいると、クラスがまとまって、とっても助かっているんですよ」
とそう嬉しそうに言った。
「まとまるって?」
聖君がキョトンとした顔をして聞くと、
「凪ちゃん、とても不思議っていうか、凪ちゃんがいると喧嘩とかおさまっちゃうんです。さっきの健児君と大輔君の時みたいに」
と先生が、教えてくれた。
「へ~~、そうなんですか」
聖君は凪の頭をなでて、
「凪、そうなの?みんなの喧嘩を止めてあげてるの?」
と、凪に聞いた。
「…ううん。凪、なんにもしてないよ」
凪がそう言うと、健児君が、
「凪ちゃんいると、みんな、仲良くなっちゃうの。凪ちゃんいると、ほわっとするの」
とそんなことを可愛い声で言ってきた。
「健児、凪ちゃんがいてくれるから、幼稚園に楽しく通えているんです。本当にありがとうございます」
健児君のお母さんはそう言って、私と聖君にぺこりとお辞儀をすると、健児君の手を引き下駄箱の方に歩いて行った。
「またね、凪ちゃん」
「バイバイ」
健児君に手を振ると、凪は聖君に抱きついた。
「パパ、帰ろう」
「うん、帰ろうか」
「凪ちゃんパパ、また凪ちゃんの見送り来てくださいね」
杏子先生は顔を赤くしながら、聖君にそう言った。
「え、ああ、はい」
聖君はちょっと戸惑いながら答えると、
「今日はどうもありがとうございました」
と言って、先生にお辞儀をした。
私もお辞儀をして、凪と一緒に下駄箱に向かった。聖君はじゃがいもの入った袋を持ち、私と凪の後ろに続いた。
「パパ、がじゃいも、持った?」
「うん、持ったよ。じゃがいもね?」
凪の言葉に聖君はにっこりと答えて、靴を履くと、
「凪、手、つなごうか」
と凪と手をつなぎ、嬉しそうに園庭を歩き出した。
「凪ちゃんパパ、また」
「凪ちゃんパパ、今度公園で遊びましょう」
まだ園庭に子供と残っていたお母さんたちが、聖君に声をかけた。でも、凪が聖君の手を思い切り引っ張って、
「パパ、早く帰ろう」
とそう大きな声でせかした。
「うん、碧も待ってるし、帰ろうな?」
聖君はそう言って、お母さんたちの方も見ないで、とっとと園庭から門を抜け、凪と歌いながら歩いて行った。
私は、お母さんたちに一応お辞儀をしながら、凪の荷物を持って、二人の後を追った。
そしてれいんどろっぷすに着くと、
「ただいま~~~」
と凪は元気にお店に入っていった。
「おかえり~~」
碧を抱っこしたお父さんが、凪を出迎えた。聖君と私もお店に入ると、お母さんや桜さんも出迎えてくれた。
お店はテーブル席が満席だった。
「おかえりなさい、聖君。今日はお芋掘り?」
常連さんが聞いてきた。
「はい、いっぱい取れました。お店で何かだそうかと思っているので、よかったらまた食べに来てください」
聖君は営業用スマイルになり、ニコニコ顔でそう答えた。
「くるみママ、がじゃいもいっぱいだよ。カレー作ってね」
凪はそう言いながら、聖君の持っている袋を引っ張った。
「あら、本当だ。たくさん取れたのね~~~」
お母さんはその袋を聖君から受け取り、キッチンの奥に持っていった。
「凪、手を洗って、うがいして、お昼にしようか」
私がそう言うと、凪は嬉しそうに家に上がっていった。
「父さん、見て、これ!」
リビングに上がってから、聖君はお父さんに凪が描いた絵を見せた。
「へえ、凪ちゃんがお前のこと描いたのか?うまいなあ。ハートもいっぱいついてる」
「だろ?パパ、大好きなんだって~~~」
聖君は思いっきりにやけた。
「これ、額に入れて飾ろうかな」
「店に?」
「うん。あ、でも、みんなに見せびらかすのはな~~。やっぱ、リビングに飾ろうかな」
聖君、顔、にやけっぱなしだ。
「ママ!」
碧がお父さんの腕から抜け出し、私の足元に来て、私にひっついてきた。
「碧、お留守番えらかったね」
そう言って抱っこすると、
「あ、碧の甘えん坊。もうママに抱っこされてるの?」
と、聖君がにやけた顔から、すねた顔になってしまった。
「碧~~、パパのところにもおいでよ」
「……マ~~マ」
碧はクルクルと首を横に振り、私の首に手を回した。
「なんだよ。本当に碧は、ママにべったりだよなあ」
あ、聖君、今度はいじけモード?
「パパ~~~!ご飯食べよう」
凪がうがいと手洗いを終え、聖君のところに来ると、聖君はまたニヤケ顔になって、
「そうだね。今、みんなのお昼ご飯、お店から持ってくるね?」
とそう言って、お店に行ってしまった。
「あ~~あ、あんなこと言って、聖は聖で凪ちゃんにべったりじゃんかね?」
お父さんがそう言って笑った。
「あ、今日、面白いことがあったんです」
私は碧を抱っこして、テーブルの前に座って、今日あったことをお父さんに話した。
「へえ。凪ちゃんがいると、クラスの子がみんな仲良くなっちゃうんだねえ」
「凪、何もしてないよ?」
それを聞いていた凪は、またそんなことを言った。
「そうか、凪ちゃんはきっと、いるだけでみんなを癒しちゃうんだなあ。そんな力があるんだね、やっぱり」
お父さんはそう言って、凪の頭をなでた。
「凪、桃子ちゃん、お待たせ。お昼食べよう」
その時、聖君がニッコニコ顔で、お昼ご飯を持ってきた。
「あ、じゃあ俺は、お店手伝ってくるよ」
お父さんはそう言って、リビングからお店に行った。
「あ~~~」
碧がテーブルの上のものに手を出そうとすると、
「碧はもう食べたでしょ?」
と聖君が止めた。
「バ、ブ~~~~」
「ダメ。碧、食べ過ぎ」
聖君はそう言って、碧のほっぺをつっついた。
「クロ、碧のことよろしく」
私はそう言って、クロの横に碧を座らせた。碧はクロに抱きついて遊びだした。
「今のうち」
そう言って、聖君はばくばくとご飯を食べだした。凪も元気に食べだした。
私も食べていたが、しばらくすると、また碧がやってきてテーブルの上のものに手を出し始め、
「碧!」
と聖君に怒られた。でも、碧はめげない。まったくやめようとしない。
「聖君、先に食べて」
「うん。すぐ終わるから、そうしたら交代ね」
私は碧を抱っこして、テーブルから離した。そして碧と遊びだした。その間に聖君は、ご飯を食べ終え、水を飲み干すと、
「はい、桃子ちゃん、交代するよ」
と言って、碧を抱っこしてくれた。
「碧、なにして遊ぶ?」
「ブ~~~ン」
「飛行機?じゃ、2階で遊ぼうか」
聖君はそう言うと、碧を連れて2階に行った。
「凪も遊ぶ」
「凪は食べてからね?」
私がそう言うと、凪はちょっと慌てて食べだした。
「ゆっくり噛んで食べてね?凪」
「は~い」
碧は、誰かが見ていないと、テーブルの上に乗ったり、物を投げたりして大変だ。でも、食べている時だけはおとなしい。だから、なるべくみんなと一緒に食べさせるようにしているが、今日みたいに食べる時間がずれると、私か聖君がお守りをしていないとならない。
「きゃきゃきゃ」
2階から碧の喜ぶ声が聞こえてきた。
「碧、そっれ~~。ブーメランだ!」
「きゃきゃきゃ」
碧は私にひっついていることが多いけど、ああやって聖君が体を使って遊んでくれると大喜びをする。
あれは私にはできない。だって、もう碧、重いんだもん。
「いいなあ」
凪が羨ましそうにした。でも、たまには碧とパパの二人の時間も作ってあげないとね?
もっと碧が大きくなったら、サッカーをしたり、戦いごっこをして遊んであげるのかもね。そんな聖君の姿も、今から楽しみだな。
まだまだ、子育てをする聖君を、私はいっぱい楽しめる。そして私も一緒に子育てを楽しもう。




