第17話 ○月○日 伊豆へ!
ゴールデンウイークです。凪、碧、そして奥さんと一緒に
伊豆の祖父母の家に遊びに来ています。
凪は、ほんのちょっとだけ、幼稚園に慣れてきましたが、
この連休明け、また嫌がるようになっちゃうか心配です(^_^;)
でも、連休中は、思い切りみんなで、楽しんじゃうぞ(^∇^)
ゴールデンウィークに突入。れいんどろっぷすは稼ぎ時なので、お父さんとお母さんは一緒に来れなかったが、私たち4人家族は、伊豆に泊まりがけで遊びに来た。
聖君は、大学のサークル仲間もちょうど伊豆に潜りに来ているので、1日だけ合流して潜りに行くらしい。
「もう、木暮も麦ちゃんもカッキーも、就活に忙しくて、来ていないんだけどね。4年はもしかしたら、俺だけかもしれないよな」
「え?そうなの?麦さん、就職するの?」
「うん。なんで?」
「桐太の店で、働くのかと思ってた」
「ああ、でも、桐太の店、バイトいるしね。麦ちゃんは麦ちゃんで、仕事探してるよ。だけど、藤沢とか、そのあたりで探しているみたいだね」
「じゃ、もしかして」
「卒業したら、桐太と住むって言ってるよ。すぐに結婚もするんじゃない?」
へ~~~、そうなんだ!
「菜摘と葉君も、そろそろ一緒に暮らそうかって言ってるようだしね」
「ああ、そういえば、葉一、菜摘の両親に挨拶に行くって言っていたっけ」
「挨拶?」
今更なんで?
「結婚の申し込みだってさ。あいつ、覚悟決めたみたいだよ」
「え?聞いてないよ。私」
「菜摘にはまだ、葉一、話してないもん」
「なんで?」
「今日あたり言ってるんじゃない?ゴールデンウイーク中には、挨拶に行くって言ってたからさ」
「そうなんだ~」
わあ。あっちでもこっちでも、結婚ラッシュ?
「結婚するなら、来年かな。ね?」
「そうだね。楽しみ!」
そんな話をしながら、車に乗って伊豆に来た。碧も凪も、赤ちゃんの頃から、車に乗るとすぐに寝てくれるから、とっても楽チン。きっと、聖君の運転が上手だから、気持ちいいんだろうな。
私はもったいなくて寝れないけどね。だって、隣にいる聖君を見ていたいんだもん。なんかね、最近ぐっと大人っぽくなったんだよね。髪型も前とちょっと変わったし、っていっても、前よりも短く切っただけのことだけど、でも、凛々しい眉毛と涼しげな目元が、前よりも大人な感じを醸し出しているんだよねえ。
「何?桃子ちゃん。さっきから俺のこと見てるけど」
「見とれていただけ」
「あ、そう。そのセリフ、なんだか久々に聞くかも」
「そう?」
「だって桃子ちゃん、碧が生まれてからは、ずっと碧のことばっかり見ていたしさ」
「え~~?そうかなあ」
「そうだよ。最近特にべったりだったよね?碧が可愛い可愛いってさ。あ、母さんも碧にべったりだよね?」
「だって、聖君に似てて可愛いんだも~~ん」
「…。俺に似てるから?」
「うん!」
「あ、そう。でもそれなら、本物の俺のことも、もうちょっとかまって」
「じゃ、伊豆ではいっぱい、聖君にひっついてるね?」
「まじで?!」
聖君がにやけた。
「だって、凪は空君にひっつくと思うし、碧はおばあさんやおじいさんが面倒見てくれるだろうし、そうしたら、聖君と私でいちゃつけるでしょ?」
「そうだった!伊豆にはライバルがいるんだった」
「凪の?」
「そう!あ~~、凪と空を会わせたくないよなあ」
なんで、そうなるかな。私といちゃつけるって、喜んでくれると思ったのにな。
まりんぶるーに到着した。凪はすぐに目を覚ましたが、碧はまだ眠っている。
「凪、先に降りようか」
「うん!」
私は凪を連れ、まりんぶるーに入った。お店には、お客さんがひと組だけで、春香さんと空君が待っていた。
「なーたん!」
「空君!」
二人は思い切り再会を喜んでいる。
「ワン!」
まりんぶるーのクロも、凪のもとに行ってしっぽを振り回している。
「あら、碧君は?」
春香さんが聞いてきた。
「はい、今、聖君が連れてくると思うんですけど」
そう言って、入口のドアの外を見てみると、寝ている碧を抱っこして聖君がやってきた。
「まあ、碧君寝てるの?」
キッチンから来たおばあさんが、お店のドアを開けてそう聖君に聞いた。
「こんにちは。しばらくお世話になります」
聖君は小声でそう言いながら、お店に入ってきた。
あ、あ、いけない。私も挨拶をちゃんとしていなかった。
「あ、あの、お世話になります」
「桃子ちゃん、どうぞ座って。聖、碧は私が抱っこしているから、荷物を降ろしてきたら?」
「うん。じゃ、お願い」
聖君は碧をおばあさんに預け、またお店の外に出て行った。
ああ、聖君、変わった。前は「お世話になります」なんて言わなかった。やっぱり、どんどん大人になっているんだね。
それなのに私は、まったく変わっていないかも。
「あ、凪、手を洗ってうがいした?」
凪がテーブルについて、春香さんに入れてもらったジュースを飲もうとしているので、聞いてみた。
「まだ」
「じゃあ、洗っておいで。それにトイレも行ったほうがいいんじゃない?」
「うん、おしっこ出る」
「じゃ、急いで行ってこようか?」
私は凪の手を取り、お店のトイレに駆け込んだ。
「チョラもおしっこ」
「え?空も?凪ちゃん出てくるまで待っていようよ」
そんな声がトイレの外から聞こえてきた。
「はい、凪。よくできました。じゃ、手を洗って、うがいもしちゃおうか」
そう言って、トイレから出てきて、洗面所で凪が手を洗っていると、春香さんが可愛いプラスチックのコップを持ってきてくれた。
「はい、凪ちゃん。これでガラガラプーってしてね?」
「うん。ありがとう」
「あら、ありがとうって言えるのね?えらいわね。トイレもちゃんとできるし、凪ちゃん、さすがだわ」
「そういえば、空君もトイレじゃ?」
「そうそう、空、おしっこでしょ?」
春香さんがそう聞くと、
「出ない。チョラ、ガラガラプーする」
と凪の隣に空君は立った。
「ママ、コップ」
「わかったわよ。凪ちゃんと同じことがしたいわけね」
そう言って春香さんは、コップを取りに行った。
「ガラガラガラガラ」
凪はうがいをして、終わると、
「はい。コップ」
と、空君に渡した。
空君はそれを受け取り、お水をいれて、うがいをしようとして、ガラガラがうまくできなくて、飲み込んでしまった。
「空、コップ、って、凪ちゃんのを借りたの?あ、また飲んじゃったんでしょう」
春香さんがそんな空君を見て、ため息混じりにそう言った。
「凪ちゃんは、上手にうがいできるの?桃子ちゃん」
「はい。凪、いつの間にか上手にできるようになってて」
「さすがねえ。それに桃子ちゃんも、しっかりしているし」
「私が?!」
「すっかりママよね。ちょっと会わない間に、お母さんぽくなって、びっくりよ。さすが、子供が二人もいると、しっかりしちゃうのね」
え~~~!私のどこが?とびっくりしたけど、春香さんはさっさとお店の方に行ってしまい、それ以上は聞けなかった。
「桃子ちゃん、荷物、2階の和室に運んじゃうね」
「あ、私も手伝う」
聖君の後ろから、私もカバンを持って家の2階に上がった。
碧はおばあさんが抱っこしていてくれているし、凪はテーブル席について、空君とジュースを飲んでいる。
「あれ?じいちゃん、いなかったなあ」
「あ、そういえば」
「また、櫂さんとサーフィンかな」
聖君はそう言いながら、和室のドアを開け、荷物をよいしょとおろした。
「凪、もう空と仲良くしていたね」
「うん。会ってすぐに喜んでたよ、二人して」
「は~~あ、いいけどね。仲悪いよりはさ」
「うん」
私は、あぐらをかいて座っている聖君の後ろから抱きついてみた。
「ん?なあに?桃子ちゃん」
「運転、お疲れ様でした」
「ありがと。二人が寝ててくれたから、久々にドライブデートみたいになったね?」
「うん。天気良くて海も綺麗で良かったよね」
「だね」
それから聖君は、
「桃子ちゃん、ここ座って」
と、自分の膝の上を指差した。
「うん」
私は言われたとおり、聖君のあぐらをかいている膝の上に座った。
「重くない?」
「大丈夫」
「でも、碧産んでから、体重があんまり戻ってないし」
「平気だよ」
聖君のほうが今度は、後ろから抱きしめてきた。
「さっき、春香さんが私のこと、お母さんらしくなったって、褒めてくれたんだ。びっくりしちゃった」
「え?なんで?だって、桃子ちゃん、お母さんじゃん」
「うん。でも、しっかりしてきたって」
「そうだよ。桃子ちゃん、しっかりしてるもん。俺、桃子ちゃんばっかりしっかりしちゃって、どうしようって思うことあるし」
「え~~。それは、私だよ。聖君ばっかり大人になっちゃって、どうしようって思ってるよ?」
「俺が?どこが?」
「いろいろと、そう思うもん」
「俺、変わんないよ?前と」
「私だって」
「くす。きっとふたりっきりになると、前とおんなじになるのかもね」
「前と同じ?」
「そう。甘えん坊だし、バカップルだし」
「う、うん」
「もうちょっと、ここでいちゃついてる?碧と凪はみんなが見ててくれるし」
「うん…」
それ、嬉しいかも。
「聖~~~、桃子ちゃん~~~!コーヒー入ったわよ~。あと、碧君が目を覚ましちゃった~~」
下から、大きな春香さんの声が聞こえてきた。
「ああ、なんだよ。二人きりの時間が持てるって思ったのに」
聖君はがっかりした声を出し、それから大声で、
「わかった!今、行く!」
とそう叫んだ。
「桃子ちゅわん、夜はいちゃつこうね?」
そう可愛い顔で、聖君は甘えたように言うと、私の頬にチュってキスをした。
「うん」
私は聖君の膝の上から立ち上がり、聖君が立ち上がると、抱きついて聖君にキスをしてみた。
「え?」
「…ほっぺだけじゃ、寂しかったの」
そう言うと、聖君は思い切りにやつきながら、
「もう~~~~。桃子ちゅわんったら、可愛いんだから~~~」
と言って、ぎゅ~って抱きしめてくれた。
ああ、この聖君は前と変わらない。可愛い聖君だ!
どんなに大人になっても、お父さんぽくなっても、私の前では可愛い聖君でいてほしいなあ。
1階に降りると、碧がよちよちと廊下を歩いていた。そして私を見つけると、
「ママ~~」
と言いながら、必死な顔をして、よちよちと歩いてやってきた。碧は、ここ1週間くらいで、ようやく歩けるようになったばかり。だから、まだよちよち歩きで、かなり危なっかしい。
「碧~~~」
両手を広げて碧を抱きしめると、碧はぐずりだしてしまった。
ああ、ママもパパもいなくて、寂しかったのかなあ。
「ごめんね?碧」
そう言って私は碧を抱っこした。
碧は、ぐずりながらも、私を見て嬉しそうにして、私の首に両手を回してきた。
「碧、ママって言えるのに、なんでパパって言えないんだ?」
隣で聖君が、ちょっといじけながらそう言った。
「そのうちに言うようになるよ、きっと」
「そう?凪の初めての言葉は、パパだったけどなあ」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
聖君、いじけてる?
「それに、碧、桃子ちゃんにいっつもべったり」
「そうかなあ」
「そうだよ。桃子ちゃんも碧がちょっとでもぐずると、すぐに抱っこしちゃうし」
あ、かなりのいじけようだ、これ。
「凪は凪で、空と仲良くやってるし、もしかして伊豆で俺、ひとりぼっちにならない?」
「聖君だって、明日は潜りに行っちゃうじゃない」
「そ、そうだけど」
「その間、私が寂しいもん。碧と仲良くしてたっていいでしょ?」
「う、そうだけどさ」
ああ、聖君、すっかりいじけモード。最近、特に私が碧を抱っこしていると、いじけちゃうんだよなあ。
そんな聖君も可愛いよなあ。
私はいじけている聖君を見ながら、今夜は思い切り甘えてみようかな…なんて思っていた。




