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第14話 ○月○日 温泉旅行!

  奥さんのご両親と、うちの家族4人で温泉旅行に来ています。

  凪、碧、奥さんと4人で家族風呂に入り、パパは大満足(*^ω^*)

  家族風呂も温泉で、気持ちよかったです。

  明日は大浴場に行ってみようかな。


  でも、碧、ハイハイであっちこっち行っちゃうし、

  碧は連れて行くのは大変かも(;´д`)


 今は3月。凪は3歳になり、碧は1歳になった。ひまわりは、去年の春短大に入り、今は春休みでアルバイトに精を出していて、温泉旅行にも来れなかった。とはいえ、ちゃっかり2月にかんちゃんと二人で旅行に行ってるんだけどね、親に内緒で。いつもそういうことを、こっそりと私にだけは教えてくれる。


 かんちゃんは、今、大学生。いまだにひまわりと同じ本屋でバイトをしている。ひまわりとは家も近いので、よく椎野家にも遊びに来るようだし、ひまわりもかんちゃんの家には遊びに行っているようだ。すっかり親公認の仲で、このままいけば結婚かも!なんて、私と聖君はひそかに期待している。


 で、ひまわりは家においてきて、私と私の両親、聖君、凪と碧で、熱海の温泉に来ているのだ。

 もう、ずいぶん前に私は、うちの親と私、聖君、そして子供を連れて温泉に行くというのを、妄想していたことがあるけれど、それが本当に叶ってしまった。


 それに、聖君の夢も。菜摘と葉君と4人で温泉旅行に行ったとき、子供が出来たら家族風呂に入りたいって、そんなことを言っていたけど、それが叶っちゃったんだよね。聖君は、すごくすごく嬉しそうだった。


「すみません。俺ら4人だけで家族風呂に入ってもいいですか?」

 旅館につき、ちょっと部屋でのんびりしてから、ぞろぞろとお風呂に入りに行ったとき、聖君は家族風呂があることに気がつき、そう父と母に言った。

「いいぞ」

 父はすぐにそう答えたが、母はちょっと残念がっていた。多分、私と凪と3人で入れると思っていたんだろう。


「明日の朝、帰る前に大浴場に入りに行くよ。その時は一緒に入ってね」

 私は母にそう言ってみた。すると母は、すぐに明るい顔つきに変わった。

「じゃ、入ってくるね。凪、行こう」

「うん!」


 凪は嬉しそうに私と手をつないだ。碧は聖君が抱っこしている。

 はっきり言って、碧を大浴場に入れるのは大変だったろうから、家族風呂があって、私も聖君もホッとしている。今、本当に碧はやんちゃぼうずになっちゃって、ハイハイでどこにでも行っちゃうし、危なっかしいからなあ。


 ガラガラと家族風呂の入口のガラス戸を開けた。

「あ、よかった。空いてる~」

 聖君はそう言うと、碧を脱衣所の床におろした。

「さ、服脱いじゃおうね?碧」

 聖君は碧の服を脱がし出した。凪は、頑張って自分で脱いでいる。4月から幼稚園に入るし、今、服を着たり脱いだりする練習中だ。


 おむつはもう取れたけど、トイレに連れて行くタイミングが難しく、今日も何度も高速のドライブインに寄ってもらった。

 なにしろ凪は、おしっこ出ないと言った10分後に、突然トイレ行きたいって言い出すし、トイレに行ったとき、出ないって言ったじゃない!と、今日も何度言ってしまったことか。


「しょうがないわよ、桃子。まだ凪ちゃんはトイレにだって慣れていないんだから」

 母にそう言われてしまった。車を運転していた聖君も、

「凪、ちょっとだけ我慢してね?すぐにトイレ行くからね?」

と優しく声をかけていた。


 ああ、聖君のほうがずうっと優しいし、器が大きい。私はダメだなあって、今日も何度も思っちゃったよ。


 凪は服を脱ぐのにも、もたもたしている。碧は聖君に脱がせてもらうと、早速裸のまま、そのへんをハイハイしだした。

「待て、碧」

 うろちょろする碧を、服を脱ぎながら聖君は捕まえようとした。


「私、もうお風呂は入れるから、碧連れて先に入るね」

 そう言って碧を抱っこして、凪は置いて私は先にお風呂に入りに行った。

「凪、パパと一緒に入りに行こうね?」

 聖君の優しいそんな声が、後ろから聞こえてきた。


 碧を私の膝の上に座らせ、碧の体を洗ってあげた。でも、碧はすぐに動きたがって、なかなか洗えないでいた。いつもは聖君が洗ってあげているからなあ。

「碧、じっとしてて!」

 そう言っても、まったくじっとしれくれない。


 その時、凪と手をつないで聖君が入ってきた。

「聖君、碧が…」

 私は半分、碧と格闘しかけていた。


「ああ、替わるよ。碧、大変だろ?」

 聖君がそう言って、碧を抱っこしてくれた。

「ごめん、お願い」

 良かった~~。碧、本当にやんちゃで、本当に大変なんだもん。


「凪、体洗おうか。自分でする?」

「うん!」

 凪は今、なんでも自分でしたがる。いいことなんだろうけど、けっこう動作が遅くて、これもまた大変だ。って、そのへんはきっと、私に似たんだろうけどね。


 私はそんな凪の隣で、自分の体を洗った。聖君を見てみると、あっという間に碧の髪まで洗ってあげていた。さすがだ。

 って、のんびりしている場合じゃない。私も慌てて、自分の体を洗い終えて、

「碧、お風呂に入れてるね」

と、碧を抱っこした。でないと、聖君は自分の体を洗えなくなっちゃう。


 碧は、ちょっと目を離しているすきに何をしでかすかわからないので、私か聖君のどっちかが必ず見張っているようにしている。家のお風呂も4人で入ったことがあるが、とても大変だったので、最近は碧と聖君、私と凪とでわかれて入ることが多い。


 時々凪は、お母さん、お父さんと一緒に入ったり、杏樹ちゃんと入っていることもある。杏樹ちゃんは一緒に入ると、いっぱい遊んでくれるらしく、凪は杏樹ちゃんと入るのが一番嬉しいようだ。


「凪、髪洗ってあげるよ」

 聖君は自分の体と髪を豪快に洗い終え、凪の髪を洗ってあげた。凪は、私よりもパパに髪を洗ってもらうほうが好きだ。でも、それ、わかるなあ。だって、聖君の髪の洗い方、すごく上手で優しいんだもん。


 ただ、寂しいのは、もう私の髪を洗ってくれなくなっちゃったことだ。しょうがないんだけどね。それどころか、こうやって聖君と一緒にお風呂に入るのも、すごく久しぶりのことだ。


 碧は私の膝の上で、気持ちよさそうだ。その横に、凪と聖君も入ってきた。

「ほえ~~~。極楽」

 聖君がそう言うと、凪までが、

「ごくらきゅ~~~」

と真似をしてそう言った。


「あはは。ごくらきゅ?気持ちいいね?凪」

「うん!」

「じゃあ凪、10まで数えようか」

「うん!いち、に~、さん」


 凪はとっても嬉しそうに、数えだした。すると碧までが、一緒に何かを言い出した。でも、宇宙人語だ。碧の言葉は今まさに、宇宙人語。何を言っているか、まったくわからない。でも、それがめちゃくちゃ可愛い。


「碧も数えてるの?」

「ブ~~~~!」

 碧が聖君に答えた。この「ぶ~~~」の意味もわからない。碧はおしゃべりで、いろいろと話すんだけど、まだ、「ママ」も「パパ」も言わない。凪の方が、そういうのは早かったなあ。


「じゅ~~~~!パパ、出る!」

「え?パパ、もうちょっとあったまっていたいよ。凪、ほかのことで遊ばない?それか、お歌でも歌って?」

 聖君がそう言うと、凪は歌を歌いだした。凪が大好きな子供向け番組の歌だ。このテレビは聖君と私もよく見ているので、この歌も覚えている。


 聖君は凪と一緒に歌いだした。凪は大喜びだ。聖君はただでさえ歌が上手なのに、お風呂の中だとエコーまでかかっちゃうからなあ。


 碧も大喜びで、手を動かしている。多分、その歌の時に歌のお姉さんが踊るのを真似しているんだろう。でも、お風呂の中でするから、お湯がさっきから私や聖君にバシャバシャかかる。

 そのうちに聖君が、

「碧、やったな」

と言って、軽く碧にお湯をかけた。


 凪はいまだに顔にお湯がかかるのを嫌がるが、碧はまったく平気。逆にキャタキャタ笑っているくらいだ。

「うわ。やめろ、碧!」

 碧は反撃に出て、聖君にもっとお湯をかけた。

「反撃!」

 聖君はまた、碧にお湯をかけた。もちろん、加減をしているから、碧の顔や頭にちょっとお湯がかかる程度。でも、碧は加減を知らないので、思い切り聖君の顔にお湯をかけている。


「だ~~~!降参!パパが参りました」

 そう言うと、碧と同時に凪までが笑い出した。

 家族風呂には、聖君と碧、凪の笑い声が響き、そしてまた、凪の歌声と、碧の宇宙人語が響き渡った。


 ああ、いいなあ。こういうの。聖君もすっごく嬉しそうな顔をして、碧と凪を見ている。そして、私の方を見ると、

「桃子ちゃん、夢、叶ったね?」

と言ってきた。


「夢?」

「うん。前に俺、家族で家族風呂入りたいって言ったじゃん。覚えてない?」

「覚えてる。菜摘と葉君と一緒に来た時でしょう?」

「うん、そう」

「私も思ってたよ。聖君の言っていたことが、叶っちゃってるなあって」


「でへへ。なんか、すんげえ幸せだよね?」

「うん!」

 ああ、聖君ったら、今日もまた思い切りにやけちゃってるなあ。でも、その顔も好き。


 それからみんなで、お風呂から上がった。そしてまた聖君は碧を抱っこして、私は凪の手を引いて、みんなで売店に向かった。聖君も私も浴衣にドテラを着ていた。聖君はドテラですら、似合ってしまう。かっこいい。


「碧は家から持ってきた、赤ちゃん用ジュースね?だから、ここでは買わないよ」

 聖君は碧にそう念を押した。でないと碧は、駄々をこねるからだ。


「凪、何か飲む?それとも、アイスでも食べる?」

 私がそう聞くと、

「アイス~~~」

と凪は大喜びをした。


「俺もアイス食いたい。桃子ちゃん、買っておいて」

「うん」

 アイスを3個買って、レジに持っていった。凪も私にひっついて、やってきた。


 そしてアイスを入れた袋を持って、くるっと聖君の方を見ると、聖君の横には若い女の人がふたりひっついていた。

 誰?!


「可愛いですね。男の子ですか?」

「うん」

「家族か親戚で来てるんですか?赤ちゃんのお守り?」

「へ?」


「私たち、東京からです。どこから来たんですか?どの部屋に泊まってるんですか?」

 逆ナンだ!それも、聖君と碧を親子だって思っていないんだな。

「パパ~~~!」

 凪が、すかさず、パパのもとへと飛んでいった。こういう時の凪の行動は、ものすごく早い。そして、

「パパ!」

とべったり聖君に抱きついて、女の人を一気にけちらしてくれる。


「パパって、え?子供ですか?」

「うん。この子が上の子。で、抱っこしてるこの子が、下の子」

「ふ、二人の子持ち?」

「そう。で、あそこにいるのが俺の奥さん。家族で温泉に来てるんだ」


「…。わ、若く見えますね」

「俺?そう?今、22歳だけど」

「22歳で二人の子持ち!?」

 女の人たちはものすごく驚いて、それから、顔を引きつらせ、その場をあっという間に去っていった。


「じゃ、桃子ちゃん、凪、部屋に戻ってアイス食べようか。あ、碧はジュースね?」

「うん!」

「ブ~~~!」

 ほらね、あっという間に、凪、けちらしてくれたよ。さすがだ。


「凪、ありがとうね?」

 私がそう言って凪と手をつなぐと、

「うふふ~~」

と凪は嬉しそうに笑った。


 最近わかってきた。凪は、パパを取られたくなくてああやっているんじゃないってことを。凪はママのために、ほかの女性からパパを守っている。パパに悪い虫がつかないよう、ちゃんと見張っていてくれるし、近寄ってくる女性は、追っ払ってくれる。なんとも力強い私の味方なのだ。


 部屋に入ろうとドアを開けると、凪の声がしたからか、隣の部屋から母が顔を出して、

「こっちに来てゆっくりしない?まだ、夕飯の時間まであるし」

とそう言ってきた。


「うん。じゃあ、そうする」

 私たちは、またドアを閉めて鍵をすると、母たちの部屋に入っていった。

 父は、のんびりと座椅子に座りくつろいでいる。聖君が碧を畳の上に座らせると、碧は早速ハイハイをして、父のもとに行った。


「あ、しまった。碧のジュース持ってこなきゃ」

 聖君はまた隣の部屋に戻っていった。その間に、碧は父の膝の上に乗っかり、甘えている。

「お風呂、気持ちよかった?凪ちゃん」

 母が聞くと、凪は嬉しそうに、うんってうなづいた。


「アイス、食べる~~」

 凪もテーブルの前に座り、アイスの蓋を開け、パクッと美味しそうに食べだした。私も、凪の隣に座り、アイスを食べだしたが、碧が私の目の前で、羨ましそうに見ているので、

「碧には今、パパがジュースを持ってくるよ」

とそうまた、念を押した。


「すみません、俺、家族で来てるから」

「え~~~。いいじゃない。下のゲームセンター行こうよ」

 ん?今の声、まさか、聖君、また逆ナンされてるの?


「凪、ドアの外見てきて?パパ、また言い寄られてるみたい」

 私がそう言うと、凪は聖君のアイスを片手にテテテと走って行ってドアを開け、

「パパ、アイス溶けるよー」

とそう言った。


「あ、凪、サンキュ」

「パパ?!」

 あ、ドアの外から若い女の子のびっくりしている声がした。


「そう、俺の娘。息子も中にいるよ。奥さんも、奥さんのご両親も。だから、ゲームセンターなんか行けないけど」

 聖君がそう言うと、どうやら、若い女の子たちはさっさと消えちゃったようだ。


「碧、ジュースだよ。お待たせ。さ、俺もアイス食おうっと」

 聖君は、父にジュースを渡して、碧に飲ませてもらい、自分は私の隣に座って、アイスを美味しそうに食べだした。


「相変わらず、モテモテね。油断していると、あっという間に、女の子が寄ってきちゃうのねえ、聖君」

 母は感心したようにそう言った。でも、

「これじゃ、桃子、大変じゃないの?いつも」

と、今度は心配そうに言ってきた。


「うん、でもいつも、凪が追っ払ってくれるから。ね?」

「うん!」

 凪はまた嬉しそうにうなづいた。

「そう。だけど、大学じゃそうはいかないわよね。聖君、大学でもモテモテじゃないの?」


「そんなことないっすよ。俺、結婚してて子供がいるってみんな知ってるし」

「それでも、寄ってこない?」

「二人も子供がいるって言うと、けっこうみんな引いちゃいますよ」

 聖君がそう言うと、凪は聖君の膝の上に乗っかり、そこでアイスを食べ始めた。


「でも、聖君って、ますますかっこよくなってるから」

 母がそう言うと、聖君はむせそうになって、

「俺が~?あはは。そんなことないっすよ。ね?桃子ちゃん」

と私に同意を求めた。


「ううん。聖君、かっこよくなってるって私もそう思う」

 私は母の言っている方に同意した。

「ほらね」

 母はそう言って、また私に「心配よね?」と言ってきた。


「でも、大丈夫だ。聖君は、真面目だし、浮気なんかしないから。なあ?」

 父が話に入り込んできた。今の今まで、碧にデレデレだったくせに。

「はい。もちろんです。だから、安心してください。それにマジで俺、もててないっすから」

 聖君はそう言うと、にこっと笑った。


 いや、今の顔だって、思い切りかっこよかった。そうなんだ。聖君は、だんだんと大人の男の人の魅力みたいな、なんか色っぽさとか、麗しさが倍増してきちゃってて、すっかり子供っぽさが抜けてきたんだよね。

 母が心配するのも無理はない。


「聖君は、やっぱり研究所に残ることにしたのかい?」

 父が聞くと、聖君は「はい」と真面目な顔をしてうなづいた。

「大学院?博士号でも取るの?」

 母が今度は目を丸くしてそう聞くと、

「いえ、そこまでは。大学院って言っても、2年間だけの予定だし」

と聖君はそう答えた。


「なんか、親には思い切り経済的に無理させちゃうんですけど。でも、父はやりたいことがあるなら、徹底的にやったらいいって言ってくれてて」

「そうか。うん。いいんじゃないかな?聖君は海洋学、本気で学びたかったんだもんな?」

「はい」

 父の言葉に、聖君はまたうなづいた。


「ああ、それにしても、孫とこうやって温泉旅行に来れるなんて、幸せだよなあ。聖君のご両親も、来たかったんじゃないのかい?」

「え、はい。でも、店、休めないし。それに、夏にはみんなで伊豆に旅行気分で行けるから、大丈夫です」

 聖君はにっこりと笑って、父に答えた。


「いいわねえ。伊豆。いいところでしょうね」

 母の言葉に、

「あ、今度、一緒に行きますか?って言っても、泊まるところがないか。近くに確か、ペンションとか旅館もあると思いますけど」

と聖君が答えると、父は、

「いや、いい、いい。夏休みにまとまって、休みが取れるかどうかもわからないからね。今回も、土日だから1泊で来れたが、まとまっての休みは夏でも取れないんだよ」

と苦笑しながらそう言った。


「大変ですね、支店長っていうのも」

「うちの会社は、お盆休みがないからねえ。みんな、それぞれが夏休みを順番に取っているんだが、いつも僕が休む時期がなくなっちゃってね。まあ、しょうがないさ」

 父はまた苦笑した。


「でも、やっぱりだからこそ、今日と明日は、貴重な旅行になったよ。聖君、誘ってくれてありがとう」

「いえ。俺こそ、みんなで来れてすごく嬉しいです」

 聖君は目を輝かせてそう答えた。


「本当に、こんなに早く、孫と旅行に来れちゃうなんてね。また、来年も来たいわね、お父さん」

「うん、そうだな。毎年来れたらいいな」

 父と母は、嬉しそうに笑った。


 これって、もしかして親孝行しているのかな。なんて思いながら、私は聖君を見た。聖君も私を見て、にこっと笑った。

 

「パパ~~~!読んで!」

 凪がそう言って、子供向けの雑誌を聖君に持ってきた。母が買って持ってきてくれたものだ。

「うん、いいよ。あ、付録もついてるね。あとで作って遊ぼうか?」

「うん!」

 凪はまた大喜びだ。


「碧君には、ば~ばが読んであげようか?」

 母は碧のために、ベビー用の雑誌も買ってきていた。碧はすぐに父の膝から母の膝へと移って、母に本を読んでもらいだした。


 父はそんな碧と凪を優しい目で見ていた。私は、デジカメを取り出し、写真を撮ったり、ビデオカメラでビデオを撮ったりした。


 ああ、なんて幸せな時間なんだろう。


 聖君はまた、声優顔負けっていうくらいの上手さで、本を読みだした。それを聞いて凪は大喜び。そして、母も本を読むのを止め、聖君を驚いたように見つめた。父までもが、目を丸くして聖君を見ている。

 私は、その聖君をしっかりとビデオに収め、帰ったらこっそり、桐太に見せちゃおうかな、なんて、そんなことを企んでいた。


 


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