天が下で
「終わりだね」
君は、炎に照らされ赤く染まった天を仰いで言う。
僕もそれに倣って、少しだけ視線を上に向ける。
「どこかで道を間違えたんだ」
火の粉の弾ける音の中で、君の声だけが凛と響く。
「――世界は、道を間違えたんだ」
力なく下げられた君の両腕は血に染められている。
「僕らは――どうすればよかったのかな?」
振り返り、僕を見る。
「他にどうすることが出来たかな?」
暗闇の中、揺らめく炎に照らし出された顔が切なげに歪められる。
「……僕には、分からないよ」
僕はようやく口を開いた。
乾いた唇が割れ、血の味がする。
「僕には何も分からない。ただ、ひとつだけ……僕が着いて行くのは君だということ、それだけは分かってる」
その言葉を聞いた君は、寂しげに微笑む。
「そう言ってくれるのは、アンタだけだよ」
風が吹き、火の粉が舞い上がる。
その火の粉の中で、君はセーラーの襟を翻して踵を返す。
「――いずれ、世界の全てが君を選ぶよ」
僕は君の背中に向かって言い切る。
「そのために僕らは戦っているんじゃないか――世界と」
僕と君の、二人だけで。
「……うん」
君の小さな背が、かすかに震えた気がした。
それは、炎の揺らめきのせいだったのかもしれないけれど。
「そうだね。ここで止めるわけにはいかない」
君はまた、天を仰ぐ。
「行こう。着いて来てくれる?」
「どこまででも、仰せのままに」
そして僕らは、また歩き出す。
未来へ。
息抜きに書いたもの。
twitterで募集したお題「天下」の掌編。