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9話 昔の話

 昔、森の奥で子供が一人足を怪我して迷子になり、不慣れな森の中で祭壇を見つけた。祭壇の中には子供が一人入れる位の穴があいていて子供は一晩そこで眠り、翌日森から無事戻ることができた。戻ってきたとき体には傷一つなく、集落の他の子供達なら一生跡が残るような大けがもこの子供だけはすぐに治ってしまった。


「それが、タンゴ?」

「首輪は森から戻るときには付けていたらしい」

 

 始めは集落の大人達も大勢で喜んでくれていたらしい。だけど、タンゴが成長するにつれて発作が起こった。

 呼吸ができなくなり、やがては全身がしびれて動けなくなる。

 症状自体は時間が経てば治るものだったけれど、厄介なのはタンゴのまわりにいたヒトにまで同じ症状が起こることだった。

 死には至らないが死にたいほど酷かったらしい発作のせいで、タンゴを厄介者扱いするヒトもいたらしい。いつどこで起きるか分からない発作は、時が経つにつれて起こる頻度が次第に高くなっていったと言う。

 事情があってもう一度その場を訪れたタンゴがその祭壇跡を見つけ、辺りを調べていて苔むした岩と思われたものがドアだった。自動で開いたため中に入るとまた閉じてしまったらしい。

「なんでその時開いたんですか?」

「これを、集落の長老から預かっていた」

 ぼろぼろになった小さなカードのようだった。遥か昔から受け継がれていたものらしい。

「こういうものって、門外不出なんじゃあ」

「長老の代替わりでもめていて、持ってると正当な継承者の宣言ができて争いの元となる。長老がしばらく預かって欲しい、と押し付けてきた。首輪の所為で俺は絶対になれないから」

「うわー……」

 けど扉はそれに反応して開いたらしい。

「なんで一番始めにそれを見せないんですか」

「関係ないと思っていた。ただの継承争いの道具だと。ただ、」

 タンゴはカードを差し出した。

「見てくれ。ここの黒い線」

 手に取ってみると、カードというよりむしろ名刺だった。全体的に白い紙製なのだけど横に一本黒い線が入っている。金色のロゴマークみたいなものと、名刺の所有者と思われるサインが入っていた。

「この黒い部分、あんたの言ってたすまーとほんと似てないか」

「あ、言われてみれば」

 黒字の部分に触ってみると台紙とは別の素材がくっつけられているらしい。つるつるとした手触りは液晶に似ていた。

「この部分でデータ送受信してるのかな……」

「これにも似ている」

 タンゴが自分ののどを見せる。黒い首輪。たしかに似ている気がする。

「ここなら、ひょっとしたら首輪が外れるかもしれない」

「なんで言ってくれなかったんですか」

 文句を言ってみた。

「あんたは始めに『家に帰れるか』と聞いた。あんたの目的とは完全に関係のないから、話には乗らないと思っていた」

「乗りかかった船って知ってますか? 私はもう流されて降りられないんですけど」

「知らない」

 皮肉が通じない猫さんだ。手持ち無沙汰に名刺をいじり回してみる。縁をなぞっているとペリ、と音がした。

「あっごめんなさい破けちゃう……て、これ、もともと重ねて折ってあるみたいですよ!」

「何!?」

 細心の注意を払って紙をはがしてみる。あらわれたのは、褐色の手書き文字だった。英語と数字がごちゃごちゃに入り交じったそれは。

「ああ……パスワードだ。こんなに、こんなに近くにあったんだ!」

「パソコン室まで行くのか」

 すでに腰を浮かしかけているタンゴを止める。

「そこまでする必要は無いよ。たぶん、これでいける」

 スマートフォンを取り出して、電話のマークをタップする。たちまち警告音に合わせて、パスワードを入力した。

「大丈夫なのか? まだ名前が分からない」

「ううん、大丈夫ですよ。一つだけ心当たりのある名前があるから」

 そう言ってもう一度名刺の表面を見せる。

 持ち主のサインは、『丹波 龍』と読めた。

「すみません個人情報保護法無視します本当にごめんなさい」

 心の中で謝りながら氏名欄も入力する。


『留守電が一件:メッセージを表示します』


 現れたメッセージを反射的にタップしてしまった。

 一瞬画面が真っ黒になり、動画再生が始まった。

 20代中盤位の男性がうつっている。

「スゥ! 俺の腕コンいじってないで、早くフタバたちと一緒にそこから出るんだ! パスワードは『誰と話してるんだリュー、やめろ!』スズキさん待ってください、スゥーー」

 そこで動画は終わった。

「今のは何だったんだ?」

「途中画面がすごく揺れてたけど、男の人が一人まくし立てて、後ろにいた別の人が取り返して切ってた。なにか、あったんでしょうね。昔」

「パスワードを教えようとしていた」

「最後まで言ってくれれば良かったんですけど……」

 他に何か手がかりは無いかとメモ帳を開いてみる。時系列順にスケジュールが書いてあるが、土台の色を変えて一言日記帳の役目をしているらしい。


「保父なんて向いてない」

「先週ハリネズミの検体が死んだ。大人しい子だった」

「スズキが今週から先着順でコールド・スリープに入れるって言ってたけどデマだった」

「転属願いを出したのに新しい検体が入ってた。室長のクウキヨメナイ」

「検体はサルのメスだった。どう見ても人間ぽかった。今度はプライベート返上してでも面倒見ろといわれた」

「名前はスゥになった」

「字を教えた。やっぱり素材が素材のせいか飲み込みは早い」

「やっぱ保父とか向いてない。そもそも保父じゃない」

「りゅうすう」

「↑腕コンを持たせたら打ち込まれてた。カタカナ変換できてないし(笑)」


 スクロールするうちにこの人がスゥに愛着を持ち始めているのが分かる。

 途中まではメモの内容も大体ほのぼのしていた。


「スゥが最近検体タグを外したがる。苦しいらしい。室長に掛け合ってみる」

「肌寒いと思ったらシェルター内部に外の空気が入り込んでいた。大問題じゃね? スゥは全然元気だけど」

「研究員全員コールド・スリープ行きになった。もう気温は下がりっぱなしらしい。スゥ達はどうなるんだ。検体にカプセル貸すわけがない」

「スゥがいなくなった。もう丸一日経った。検体タグをまだ外してない。スゥが死にかけてたら室長の首にタグ付けて復讐してやる」

「検体は外の環境下でも適応できるそうだ。というかもともとそれが目的か。籠から離すと聞いたけどそれでスゥ達が生きていけるわけないだろうが!」

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