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8話 暴露

 私は大部屋の前まで来ていた。正直戻って来れると思っていなかったから酷く力が抜けた。

 タンゴはまだ小部屋の中で寝ていたけれど、私が入ってくると即座に起きあがった。

「まだ、寝てた方が良いんじゃないですか」

 猫は首を横に振り、私が手に持っているものを見た。パスタの作り直しだ。

「何があった?」

 勘が鋭かったらしいタンゴは低い声でうなった。

「ちゃんと答えますから、まず何か食べて下さい。倒れてからかなり時間が経ってますから、何か口にしないと」

 本当は粥とかの柔らかくて食べやすいものが良いと思うけれど時間がなさそうだった。持っていたものをタンゴの目の前に置く。冷えてしまったパスタを卵でかき混ぜてフライパンで固めて焼いたものだ。料理名は忘れた。まだパスタより食べやすいと思う。

「あんたは?」

「大きめに作ったので半分こで」

 タンゴは手渡したフォークで綺麗に二等分し、その片方を取って4口で食べきってしまった。

「あはは、ちょっとそれ、早すぎるでしょう。私まだ手付けてないのに」

「じゃあ早く食べろ」

 目が覚めてからようやく空腹を覚えた頃合いだったので、いわれつつ私も割とすぐに食べ終えた。

「で、話でしたよね?」

 タンゴは幾分か警戒体勢を取りつつ私が喋るのを待っていた。

「通路でウィンドさんに会いました。出口まで送って、話をしました」

「だから料理に卵を使ってたのか。食糧倉庫にそんなもの無かった筈だから」

「ウィンドさんにもらったんです。新鮮なものを食べた方が良いって。それで、」

 一言言い切れば良いのに、つい口を閉じかけた。

 言ってしまえば、もう戻れない。

「……ヒューマンだと知られました」

 タンゴはすっくと立ち上がった。上から見下ろされる。

「じゃあ、あんたは気づいたのか」

「うん。タンゴは、嘘をついていたんだよね。ヒューマンは殺されるって」


 ウィンドさんはあのあと掴んでいた足を離し、翼を広げて私を抱きしめた。

「よかった……生きてた。ヒューマンが生きてた」

 よかったと何度も繰り返してさらに強く抱きしめられた。その時は訳が分からなくて私は呆然としていたけれど、ウィンドさんは涙声になりながら話した。



「ヒューマンはヒトを助けてくれたけど、代わりに死んでしまった。そんなことを言ってたよ」

「昔、ヒューマンは楽園でヒトを作り上げ育ててくれたが楽園は崩壊してしまった。ヒューマンは壊れた楽園からヒトを逃げさせると楽園と一緒に死んでしまった。そんな話があるんだ」

 ヒューマンがヒトにしたこと。タンゴは言わないんじゃなくて、そもそもそんな話自体が無かったんだ。

「私としてはむしろ、憎まれそうな話の方が思い当たりが多いんだけど。……なんでタンゴは嘘を吐いたの」

「トリと話したのならもう分かってるんだろう」

「分からないよ。だから聞いてる」

「嘘だ。トリに言われたろ。俺が悪者(わるもの)の黒猫だって!!!」

 どんと突き飛ばされてバランスを崩す。勢い良く壁に打ち付けられて立ち上がると、タンゴは横をすり抜けて通り過ぎようとしていた。

(また、肝心なことを話してくれないんだこの猫は!)

 最後に見えた尻尾を骨の感触が分かる位強く掴む。どんなになついている猫であっても躊躇無く嫌がる行為ですが「非常事態」。

「何するんだ!」

「逃げないで! 本気で助けて欲しいのなら、どんなに嫌でもごまかさないで! でなきゃ誰も助けてくれないし味方になるヒトなんていない!」

 タンゴはぴたりと黙った。黙って向き直って尻尾が引っ張られにくい位まで近づいた。

「ごめん。相当痛いよね」

 掴んでいた尻尾を離した。ぶんっと勢いを着いて尻尾が振られる。犬が尻尾を振り回すと喜んでいるときだったと思うけれど、猫の場合は反対で相当気がたっている印だ。

 ぶんぶんと、苛立ちまぎれに振り回される尻尾だけを見ながら、またどっと疲れが出て来たのを感じた。怒鳴ったのなんて久々だった。そのまま経っていられなくなってしゃがみ込むと、タンゴも合わせてしゃがみ込んだ。両前足を立てて後ろ足は畳み込む。猫の待ちのポーズに似た座り方だ。


「話す。俺がここに来た理由を」

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