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4話 鳥

 ヒューマンという言葉を聞いた途端タンゴの様子が変わった。どうしたのか問いかけても生返事しか帰ってこない。

(「ヒューマン」が何かしたの?)

 どのみちタンゴが何も話してくれないのだから、今は詳しい話の知りようがなかった。

 何も返事をしなくなったタンゴだけれど、それでもスープは全て飲み干して完食していた。さらに蛇口から流れ続ける水で皿を濯ぎにいく所は律儀だと思う。

「……じゃあ、あの、パスワードの件なんですけど」

 考えても埒があかないならと話を変えてみた。

「管理の甘い環境だとパスワードのメモが残ってる場合もあるので、もう一度さっきの部屋の中を見に行きませんか?」

 行きがけはついていくのに必死だったから、道筋なんてほとんど覚えていない。一人先にいくというのは不可能に近い。

 皿を洗い終えたタンゴは「じゃあ行く」と言ってスイッチが入ったように機敏に歩きだした。


 廊下は歩くごとにその場所だけ照明がついて、奥までは見渡せない。

(節電対策かなぁ……)

 通り過ぎるドアの位置、曲がり角の数を覚えようとしてもなかなかうまくいかない。

 ふいに首筋に冷気を感じて、立ち止まる。目覚めてから暑くも寒くも感じない適温のままだったので余計に気になった。

(少しだけ。多分タンゴはこのまままっすぐ進むと思うから)

 いったんは通り過ぎようとした分かれ道。その枝分かれした廊下の奥が薄明るかった。先に行くタンゴを見失わない程度に気にしつつ近づく。廊下の隅が見える位の明るさが、今までと雰囲気が違うと感じさせた。

「ねえ、タンゴ! こっちの方も調べました?」

 タンゴは振り返って走りよってきた。私の指差す方向を見ると、

「奥のドアが少し開いていた。外とつながってるらしい」

「それならそこから出られるんじゃあ……」

 タンゴは見れば分かる、と言って明かりの方へ歩きだした。

 

 明かりはやはりそのドアからもれていた。すき間からのぞき見ると、まばゆい日光と、遠くに鉛色の壁が見えた。ほほには冷たい風が当たっている。ただ、私の腕でぎりぎり通るくらいの幅しかなく、到底通り抜けるのは無理そうだった。

「これ以上開くのは、やっぱり無理そうですか」

 ドアはかなり分厚い。回転ハンドルの見た目にもいかつい装備で私ではびくともしなかった。横から黒い毛で覆われた手が伸びてきて縁を掴み、引っ張るけれどやっぱり動かない。

「だめ、ですか」

 二人掛かりでも、そもそも私は腕力がほとんどないけれどドアは動かなかった。

(こんなに近くに、もう目の前に外は見えるのに)

 ひょっとしたら、私は誘拐されて閉じ込められていて外に出られれば家に帰れるかもしれない。

 ひょっとしたら、これはただのドッキリで後でカメラを見せられて「良い反応ありがとうございました」って言われるだけかもしれない。

 全部ひょっとしたらでしか無いけれど、「外」は目の前に見えるだけにもどかしい。

(見える景色が灰色で若干人工物っぽい色だけど……)

 小さく切り取られた風景を覚えておこうと思った。

 

 とんとんとノック音がした。


 最初タンゴが何かしているのかと思ったけれど、当の本人も首を傾げてこちらを見るので違うらしい。

「あれ? 開かない?」

 男性らしきやや高めの声が聞こえた。ドアの向こうから。

 続いてドアのすき間に大きな鳥のくちばしが突っ込まれた。

「ひゃあああ!」

 驚いて叫んだのは私だったらしい。

「うわあああ!」

 くちばしが引っ込んだ。

「ねえ、そこだれかいるのー?」

 「外」にヒトがいる。私が返事をするより早くタンゴが口を開いた。

「いる。二人。閉じ込められた。そこからでもドアは開かないのか」

「え、閉じ込められた? 大変だ! これ内開きかな、こっちから押してみるよ」

 矢継ぎ早にまくし立てられる。

「せーのっ」

 どん、とドアが振動する。明るいかけ声に似合わず結構な衝撃だった。

「3、2、1でもう一度押せ。こっちからも引いてみる」

 タンゴが提案した。

「うん、大丈夫だよ。さーん、にーい、いーち」

 ドアの縁を掴んで、渾身の力を込めて引っ張る!

 もう一度どん、と衝撃が来て、ずるずるとドアが動き出す。力が要ったのは始めだけのようで、あとはもう簡単に動くようだった。見た目を裏切らない重さだけど。

 そのドアと一緒に倒れ込むように入ってきたのは巨大な鳥の翼だった。

「体(いった)い……」

 翼が喋った。正確には翼の下にいるだれかが呟いた。


「タンゴ、犬や鼠だけじゃなくて鳥もいるんですか……?」

 タンゴは頷いた。

 ほ乳類だけじゃなくて鳥類もいるらしい。

 

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