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2話 パソコン

 カプセルの倉庫を抜け出した先は小さな廊下だった。いくつか部屋や階段につながっていて、今出てきた場所以外ドアはなかった。


 違う、正確にはドアが破壊されていた。鈍器でたたき壊されたようで足元まで残骸が散らばっている。それらの部屋の一つにネコはためらいなく飛び込んだ。私もドアの破片に注意しつつ扉をくぐり抜ける。入った途端に照明が点き、部屋の中が一目瞭然となった。

 そこは会議室のような場所だった。デスクの上にパソコンが数台と奥の壁にスクリーンがついている。

(パソコン、ちょっと形違う気もするけど)

 ネコは近くにあった一台のパソコンに近寄り、人差し指でキーを一つ押した。

(細い指。肉球の付いた猫の手じゃなくて、まるきり人間の手だ)

 室内にジャ―ンと音がした。手渡されていたスマホ(?)と同じ音。

「ここから先、進めない。あんたなら分かるか」

 見るとログイン画面だった。氏名とパスワードを入力してください、というあれだ。

「パスと名前を入れれば進めますよ。上の空欄が名前、下がパスです」

 ネコは「tango」、後は黒丸で表示されて見づらいけれどなにか四文字指で一つ一つ押していった。数秒で、

「進めない」

 と言って真顔でこちらを見た。

「綴りは間違ってませんか? 見た感じパスワードがかなり短いみたいですけど本当にあってますか?」

「あんたが言った通りパスと書いた」

 そのまま「pass」、もしくは「pasu」と打ったのか。パソコンを自力で起動していたから一瞬大丈夫かと思ってしまった。このネコは自分から「使い方がわからない」と言っていたじゃないか。

(田舎に住んでるお祖父ちゃん位ひどい。いや、私のお祖父ちゃんは携帯型タブレットで電子書籍読んでオンライン囲碁やるから関係ない!)

「パスって、パスワードのことで……ごめんなさい、言い方が悪かったです。あらかじめ決まってるパスワードがあって、それを知らなければ動きません。このパソコンを使って、何がしたいんですか?」

 ネコはしばらく黙りこんだ。大きめの尻尾が異様にばたついて、興奮状態なのは見てとれた。

(いや、本物の猫じゃないから当てにしない方がいいかもしれないけど)

「……出たかった。ここから」

 ぼそりと、小さい声が響いた。

「一つだけあった入口が開かなくなった。原因はわからない」

「それがなんでパソコンにつながんですか? 使い方もわからないのに?」

「動かせたのがこれだけだった」

 簡潔な返答だ。

「外に出る手掛かりを探していたら、あんたを見つけた」

 それで、最初からここにいたらしい私が何か知っているのではないかと思った。

 そういうことみたいだ。

「私は、学校から帰って、家族と夕飯食べて寝て、起きたらこの状況で。多分あなたが知りたいことは私もよく知らないです」

 ネコは黙った。落胆しているのだろう。ようやく手がかりが見つかったと思ったのに、振出しに戻ってしまったんだから。

(なんか、罪悪感だ。どうしようもないけど)

 考えているとネコが寄ってきた。音もなく、気が付いたら目の前にいた。

「じゃあ手伝ってくれ」

「はい?」

「あんたは機械の使い方を知ってる」

 スマートフォンを起動させたことを言っているのだと思うけど、正直言って立ちあげた上で扱いきる気はしなかった。

「一つ、聞いていいですか?」

 相手の返事はない。続きを促しているのだと考えて話を続けた。

「私はうちに、帰れるでしょうか?」

 ネコは私がここにいる理由を知らないので、推測するしか無い。

 何かの理由で拉致されて、ここに集められていたのかもしれない。あのカプセルにもヒトが入っているとか。

 どのみち今持っている情報が少なすぎる。

 ネコは黙って、ずっと黙って、

「わからない」

 と聞こえるかどうかギリギリの小声で答えた。

「ここにある機械は私の知っているのと形が明らかに違ってますから、ちゃんと使えるかどうかは実際分からないですよ」

 わずかにネコの尻尾が揺れた。

「でも他にできることもないので、手伝わせてください。ネコさん」

「ネコじゃない。タンゴ」

「わかりましたタンゴさん。シオン、です。坂田紫苑」

 黒猫のタンゴは、もう一度「タンゴ」と言った。

 「さん」をつけるなという意味だったと後で気づいた。


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