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シクウノソラニ  作者: 津村の婆ァ
6/22

#004:知らない言葉

Q.作中に表記される「<言葉>」は何語を表すか?


1.フランス語

2.日本語

3.ゾロフ語

4.作者の呟き



答えは本編で



※2010/11/10修正


―――これは、互角で済めば御の字だな。


 今、手元には在るのは相棒と幾つかの摩硝石(マショウセキ)位。この結界が消滅したら間違いなく俺らは跡形もなくバラバラになって死ぬだろう。


 少なくとも今の処結界を凌いでくる様子はないが、このまま収まるなら良し、だが相手は遥か昔に遺失したとされる古術文字(コジュツモジ)。メディルが言うなら間違いないだろう。


「兄貴等にすれば垂涎モノだろうが、遠慮してたらこっちが危ういな」


 以前に護身用にと持たせられた護符だけがこの結界の要だ。通常なら40シアムは持つそうだが、今回の場合は長くは持たないだろう。何せ威力が半端ない。


 それに先刻から傍らの相棒の様子がおかしいのも気になる。瞳の警戒色が消えているくせに攻撃体制を崩さないのだ。何かの正体は分からないが起ころうとしているのは俺にも判る。




     …*…




 今回のメシュト・ラハム区のティタロージェ遺跡の調査は本来俺の仕事の管轄ではない。偶々休んだ同僚の担当だった。


 最近頻繁に遺跡から盗まれる神像の巡回に来ただけだった俺と相棒に襲いかかったのは遺跡の壁面崩落。


 とっさに気がついてその場から離れた迄はよかったが、逃げた先が問題で、あろうことか遺跡の中だった。


 その後、崩れた壁面からあらわれたのは黄金色の光を纏う見慣れぬ文字群。見たこともない形状から、到底文字とは思えなかったが直前までメディルと会話し彼女の確認を得ていたのだから間違いはないはずだ。


 古術文字はそのまま空中に浮かび上がり、明滅を繰り返したかと思うと帯状に変化、輪を成しながら回転を始め、大気に振動と力場を形成しながらこうして暴れ回っているわけだ。


 それを結界一枚纏ったまま相棒と一緒に黙って見ている現在に至るワケだが、それとていつまで持つか心許ない。


 第一この遺跡に古術文字が在るなんて話は聞いてない。在るなんて知ってたら巡回なんて引き受けたりするもんか。


 古術文字は、その名こそ古くは神話の中に出てくる位有名だが、最早伝承にしか存在しない伝説並の代物だ。ある伝承によれば、かつてこの世界を創り出したとすら謳われる代物だってあるのだ。一人如きの力でどうこう出来る代物ではない。


 現存する物は今のところ皆無の上、資料になりそうな文献も僅かしかない代物だ。


 その上使われている文字自体が特殊な技術を有しており、解析が始まったのがここ最近となれば、現状下で俺達の打てる手は出来る限りの観察と生命維持だ。死んだらなにも出来ない。


 先程までやりとりしていたメディルが、途絶えた通信によって何らかの行動をおこしてるなら、外からの助けがくるかもしれないが間に合うとは到底思えない。


 それほどに古術文字の力は強く、我が身を護る結界は脆く感じた。




     …*…




―――‥‥‥なんだ。


 かすかだが結界を通して何かが聞こえるような気がする。


『‥来るぞ』


 相棒が天井を睨み付け完全な威嚇を始めた。人並み以上の知恵と戦闘能力、そして野生の勘を持つ相棒は仮初めの姿を脱ごうとしていた。


「ヘクサ、もう少しだけ待ってくれ。せめてこの‥」 

『ダメだ!!』


 言うが早いかヘクサは素早く俺に向き直ると、俺の服の左わき腹の辺りをしっかりとくわえ込み、俺を担ぎ上げるようにそのまま物凄い馬鹿力で入り口へと走り出す。


「なっ」


 次の瞬間、俺等がいた辺りの床から紅玉色の光が見えた。


『上もだ』


 降ろされた俺の目に映ったのは天井からは翡翠色の、床からは紅玉色の古術文字が顕れ、黄金色と同じように帯状に形を変え、金色色の帯の輪に加わる様だった。


『‥願いを重ねる訳か』


「何が聞こえるんだ?」


 かすかだった何かは今やハッキリとした音になって、空間を軋ませている。


 相棒の耳には何やら意思らしき音が聞こえるようだが、俺には幾つもの古い歯車の軋む音にしか聞こえない。感性の違いなのだろうか。


『古い唄だな、かつての世界を懐かしむ精霊の唄だろう』


「後でいいから内容を知らせてくれ。俺にはわからない」


『うむ、それとシッカリ伏せておけ。唱和が終わる』


 ヘクサが言い終える頃には、帯はしっかりと組み合わさりながら緩急をつけた回転を始めていた。重なり合う時点は眩い光を放ち、外に漏れていた力場は内側に向けられたようだ。


 一つの古術文字ですらあれだけの振動と力場を発生させていたのが三つに増え、今は軋む音と光以外は全く静かなのが逆に恐ろしい。


「なにが起こるんだ?」


 それはいきなりだった。


 無数の高さの音が溢れたように遺跡の中に広がった。いや、溢れかえったと言うのが近い。


 俺のすぐ脇にいたヘクサの身体が跳ねた。


『!?』

「ヘクサ!」


 どうやら相棒の苦手な高音域があったらしい。護符の結界も防ぎきれなかったようだ。


『‥‥‥問題ない、かまうな』


 相棒の瞳に警戒色が入った―――その時は近いらしい。


 ふと耳に誰かの声が聞こえた。


 とたん。


 空間の大気が荒れ狂うような爆風を起こし、全ての音を引き裂いた。


 三色の光は内側へと収縮し白い闇を呼びながら視界を奪った。




 次の瞬間、身体が震撼するほどの大音量をたててメシュト・ラハム区のティタロージェ遺跡のあった場所は、山一つを道連れに崩壊した。




     …*…




『きはったな』

『漸く見つけた鍵や』

『気に入るやろか』


 崩壊する様子を遠巻きに、見つめる彼らは喜びと期待に満ちた視線で眺めていた。


 待ち望んだ結果になるかどうか、それを決めるのは自分たちではない事実を把握しているからであり、また傍観に徹していくつもりであることを示しているからでもあるが。


『楽しみやわ、紬手も何もかんも』


 物語の読み手は楽しむことを選んだようだった。




     …*…




 俺らが崩壊した遺跡から漸く脱出したのは約三シアムも後だったが、結界のお陰で相棒も俺も無傷で済んだのは幸いだった。


 きれいさっぱり崩壊したらしい遺跡は跡形もなくなり、共倒れしたらしい山崩れと相俟って、最早お手上げ状態である。


 古術文字が何のために顕現したのかは不明だが、威力は凄まじいことははっきりした。


 今回の目的は遺跡内部の神像の有無の確認はしたが、遺跡事態がこうなっては依頼自体を果たしたことになるのかいささか不安だが仕方ない。


 非常時用の仮想小精霊を呼び出して、今回の依頼者へ簡単な現状報告を運ばせ、取り敢えず一休みする事にした。


「お疲れ様ヘクサ。今、連絡したからやすんでろよ」


 相棒のヘクサは訳あって俺と契約している魔獸(まじゅう)だ。人型もとれるのだが、元々の姿同様に目立つので無害な生き物になってもらっている。


『‥クラフ、まだ居るぞ』

「へっ」


 ヘクサの示す方角にあの三色の光が薄ぼんやりと瓦礫の中から洩れている。


 とっさに向き直るが、ヘクサは全く警戒していない。


―――どういう事だ?


 トットッ、と光に近付くといきなり元の姿に戻ったヘクサに驚いたが、そのまま瓦礫を掘り出したのには仰天だ。


「ヘクサっ、どうしたんだ」


『‥まうあの気配だ。間違いない』


 俺は聞いた事があったから、大人しくヘクサに任せ、辺りを警戒しておく。


 ヘクサがずっと捜していた物の一つだと聞いたことがある。とても大切だったらしいが、『800年以上も昔の話だ』とぼやいた声は忘れてはいない。


 せめて手掛かりだけでも見つかるといい。そう思った時だった。


『まうあっ!!』


 ヘクサが瓦礫に飛び込んだ。


 どうやら何かを見つけて飛びついたらしい。何やらギャイキャアと喚く声がする。


 我を忘れて飛びつくなんて珍しい事があるものだと、瓦礫を覗き込んでまた驚く。


「<なっ、なんなのよっ。ニワトリの次は狼なんて!>」


 黒髪に黒い瞳の女の子が、随分と珍しい言語で喚いていた。


『まうあっ、逢いたかった。ずっと捜していた。まうあっ』


「<まうあまうあって、人違いです。私に狼の知り合いなんかいません。つうかあんたもしゃべるわけ!?>」


『まうあっ、名前を呼んでくれ、もう誰も呼んではくれないんだ』


「<だから人違いですってば。ってドコ触ってるんですかっ、変態なら余所でやってくださいっ!!>」


 俺には彼女が何を喋っているか内容はサッパリ分からないが、端々にある特徴的な音は古代ゾロフ語だ。なんてマニアックな言語を使うんだろうと、半ば呆れて見ていた。


 これが俺、クラフィス=ディレードと彼女の出会いだった。


A.日本語でした



彼らの耳にはゾロフ語に聞こえるのは日本語なんですが、ハルカには全く関係なく聞こえているようですね(笑)


因みに動物形態を持つ方々は『獸語』として表記しています。


視点となる方から見たままで描いているので<言語表記>の対象は変わる予定です。


ただ単にダブって描くのが面倒なだけですが(笑)

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