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シクウノソラニ  作者: 津村の婆ァ
4/22

#02-2:第一査察官有資格者の日常

遥か昔に作った原文が、発掘されまして。

「…、つかってみる…かなぁ。」

という気持ちになった第二弾。



ウン十年前のSF要素が強いですが、ファンタジーなんです。(自棄のどや顔)

そう思い込んで下さい。どうぞ。




 規則正しい振動が耳元から響く。生活習慣的な反射で手が反応して震源をを止める。


「…時間か」


 薄目を開け、まだ薄暗い空を見てつぶやく。この時期なら、まだ九シア半くらいだろう。正直仕事でなければこんなところに好んで赴いたりはしない。


 そうでなくてもここ二日間は仕事が入ってほとんど寝ていない。同僚の手違いによるスケジュールでこうなったわけだが、この代休は有給休暇として既に上司から確約を貰っている。


「…いくか」


 取り分け細かい観察情報は、設置した機材がデータ解析して記憶媒体に蓄積している。昨日からの目立った変化は見られなかった。設置が必要な地点はまだあるので、計測は機材に任せて、次の地点に向かうことにした。




     …*…




 耳障りのいい音色を響かせて、目覚めを誘う時間を知らせる。音の出どころの目覚まし時計は手元にない。手を伸ばしてようやく止めて、身体を蝕む眠りの誘いは俺を簡単に寝床に引き込む。


 寝床より少しばかり離れた所に用意してあった別の目覚まし時計がけたたましく眠りを破るかのように叫ぶ。流石に手を伸ばしても届かないそれに、上から平手を食らわして邪険に言い放つ。


「う~、何だよ。一体全体何があったっての?」


 目覚まし時計を手にして時間を確認の上、…思わず硬直する。


「へ…、嘘!?」


 部屋の明かりを点けた上で壁に掛けられた時計を確認する。

―――現在十四、三シア


「遅刻するっ!」


 時計を見る俺の頭の中を今日の予定が駆け巡り、体は猛スピードで支度を整える。学科はともかく仕事(バイト)が難問で、今関わっている件がどうにも目が放せないのだ。

 出来る事なら二週間ぐらい泊まり込んで徹底的な解析と観察をしたいぐらいなのだが、責任者の『法的責任がキミに取れるならね』の一言で却下された。くそ。


「う~。あれが判るのは俺ぐらいだろうにぃ~」


 学校まではここから一シアムは軽くかかる。だが移動用ゲートマーカー、通称GMが設置されているなら二十ラコルもかかりはしない。一般家庭にGMが在る事自体、特殊を通り越しているとまず認識すべきだが。


「おし、残り二百五十ラコル。何とか間に合うぞ」


 何とか身支度を終えて、鞄を片手に部屋を飛び出した。階下のGMに向かうと、長椅子に寝そべっていた俺の相棒がむくっと首を起こした。


「おーっす、学校に言って来る。お前は科研で確認と昨日の継続だ。異常があったら知らせてくれ。俺も終わり次第合流するからな!」


 GMへと進みながら指示を出すと、相棒はその場に座りなおし『解った』と合図。見掛けはともかく中身はそこいらの奴よりも遥かに有能で行動も迅速だ。何より俺の頼れる『良き理解者』でもある。


「いってくる。」


 声だけを残して、俺はGMのねじった空間に飛び込んだ。



懐かしいような淡くくすんだ色合いの世界。

生暖かい水に飛び込んだような感触。

常に頭の中を様々な言葉が飛び交うような感覚。


 目前には暗号化された記号が幾つも漂い、過ぎ去って行く。それが俺のGM内の感想。


「いっけね」


 目標の記号が目前まで迫っていた。いつものようにタイミングを計って『それ』を掴む。寝不足の所為(せい)か、少し頭がぼやけている感じだが…ま、いっか。


 目の前に鮮烈な色彩と日常的な雑音(ノイズ)達が甦ってくる。体にまとわりついていた生暖かい感触の替わりに、少し肌寒い空気と大勢の人が暮らす街特有の匂い、…だけど肌寒いわりにはあまり空気に湿気が感じられない。


「何か、只『曇っている』って訳じゃないみたいだな」


 どんよりを通り越して真っ暗な空を見て一抹の不安を感じたが、今は授業に遅刻しない事のほうが重要っと。幸いGMから学校まではさほど遠くは無い。


「おーっす」


そう言って教室の扉に手を掛けて開け放つと。第一語学のスティーユ先生が教鞭を執っているって…あれ? 授業が始まっている。


「何でもう始まっているの?」

―――え、え? なんで? どうして?


 事態を飲み込めていない俺を指差して、スティーユ先生が現状を伝える。


「アスクル・グノーズィ君。授業に半シアムの遅刻ですね。どうしましたか?」

「え! だってまだ十五ラコル前ですよね?」


俺の部屋の時計は確かにその通りだった。 


「寝ぼけて見間違えたんじゃねーの?」

「…そうなの?」


 誰かが言った言葉に答えると、クラスがどっと笑い出す。こういうときのノリはいい。


「大丈夫かよぉ!」

「いんにゃ、二日徹夜しただけだ。立派に寝不足してる~ぞっ!」


 更に笑いが起こった。うん、テンション高いなぁ、俺。


「アスクル・グノーズィ君、授業中ですからそこまでにしておいて下さいね」


 やんわりと窘めたのはスティーユ先生だ。誰に対してもこんな感じでいつも穏やかだが、起こった時の怖さは半端じゃない。


「それと君には『区外特』から呼び出しがかかっています。授業はいいですから早く行きなさい」

「へ?」

「…代わりに後で課題を出しておきますから、提出を怠らないで下さいね」


―――ああ、やっぱり。


「はい、わかりました」

 

 一礼して背を向けた俺に『頑張れよー』と無責任な声援が後押しする。


「おう、暫く来られないから帳面(ノート)宜しくなぁ」


 無責任な発言者に重い責任をおしつけて、今来た道を仕事先に向かって戻りだす。学校にまで呼び出しとはこりゃまた厄介そうな気が…。


「やっぱり仕事、やめようかなぁ…」


 とりあえず襟元に取り付けた通信機に手を伸ばす。これは俺の特製品でお得意様にしか配布していない。スイッチを入れたらすぐに反応があった。


『ハーイ、ノーズィ?』

「うん俺。何かあった?」

『室長命令で召集が出ているよ、とりあえず君も該当しているよ』

「マジで?」

『…たまに言いたくなるのだけど、君って最年少査察官としての意識あるわけ?』

「多分、…あるかもしんない。」

『たぁ~ぶぅ~んん~?』

「勘弁してよ、俺二日の徹夜明けに仮眠とって学校に出てきたばっかだよ。まだ頭起きてないって」

『…とりあえず区外特からの呼び出しは第一査察官の招集だって言うから科研のほうにも顔出ししたほうがいいよ』


 督査室は現在俺のバイト先の正式名称だ。正確に言えば俺のバイト先はそこの中の第六部隊の分室なのだけど、俺がなまじ有資格者なものであちこちに借り出される事が多い。ま、面白ければ俺はかまわないけどね。


「はいはい、んじゃGM使ってそっち行くから」

『なるだけ早めにね』

「ほいよ」


 通信を切ってから再び飛び込んだ。まあ、仕事先としては給金もそこそこいいし、仕事内容もわりと好きなほうだ。お偉いさん方も一癖あるが、それはそれで結構楽しい…が。


「普通、バイトごときが最新機の開発に着手していいのだろうか。つうか、俺が殆んど開発していんじゃねーか?」


 確かに俺の身分証明書に記載されている職業は学生だが、特記事項に書かれているのは『区外特殊機関・第三部室長補佐、第一査察官有資格者』である。こういった緊急の呼び出しは、俺みたいな有資格者でなければ担い切れない事柄が発生したことを指し示す。


「ま、ぼやいたって何にも始まらないし、頭、切り替えなきゃな」


 目の前にある無数の記号の中から見慣れたそれを掴むと、俺の周りの空間が見慣れた景色に変わる。区外特殊機関内のGMの前である。


「グノーズィさ~ん」

「うわ!」


 GMから出た途端に視界を誰かに塞がれた。つうか顔面を誰かに抱き付かれたらしい。


「いくらぁ、お呼びしてもぉ、なぁんのへんじもないからぁ、あちこちにぃ、伝言しちゃったぁ~。どこにぃいたので~すかぁ」

「タウさん。…顔面に張り付いて、愚痴るのはやめて下さいませんか?」 

「ふぁあいぃ」


 タウさんはどことなく嬉しげにふさふさの尻尾を振りながら、素直にどいてくれると音もなく床に降り立った。身長こそ俺の膝くらいまでしかないが、れっきとした成人で『区外特殊機関員』である。跳躍力は半端じゃなくかなりの高さも難なく飛ぶことが出来るBMビースト・ノイムだ。


 今となってはかなりの希少価値を持つ存在だが本人にその感覚は全く無いらしい。


「隊長さ~んがぁ、督査室からのぉ連絡をぉ受けてからぁ、ずっと待っているのですよ~お」

「御免、徹夜明けで寝てた」

「んじゃ、新型ぁ~作っていた~ってぇホントだっ~たんだぁ」


 歩きながら話を続けているのだけど、タウさんはぴょこぴょこ跳ねながら話すから変に間延びして聞こえる。


「…何で知っているん?」

「副室長がぁ~パルステラのぉ、調査に持って~いったって聞いたも~ん」

「まじっすか?」

「まじっ!すよう~」


―――ここ二週間の努力、徹夜までしたのに。


「ん~じゃねー」


 タウさんの足音も立たない足捌きが見えなくなってから、目の前の区外特の扉の前で決心をした。今回の件が片付いたら、絶対文句言ってやる。……はぁ~っ。


「アスクル・グノーズィ、緊急招集につき出頭しました」


 そう言いながら中に入った俺は、そこにいた全員の視線を浴びた。うわぁっ、な…何?


「ノーズィ。悪いけど進めていた調査結果、出せるところ迄でいいから直ぐ寄こせるか?」

「へ?」

「オメエさんの読み、半分あたりだ。兆候が現れたんだとさ」

「俺の読みって…、まさかフィンジアが動き出したんですか?」

「いや、今確実に動いているのはパルステラだって話だが、なぜか各王国でも活性化が始まっているらしいぜ」

「げ!」

「今現在、上層部からのお達しが来とるよ。お前さんにはこちらな」


 そう言いながら、室長が五枚の書類と二枚の不規則紋様の入った透明札を差し出した。


「…何ですか、これ?」


 なんとなぁく頭にかすめた嫌な予感…。


「今現在、第二行政区督査室より第六種非常事態体制への移行中だとよ。第二行政区第五部隊の召集と、第一査察官の出動要請を発令したからなぁ」

「だ、第六種非常事態体制!? んじゃこの件に関しての一切の責任と指揮権は第二行政区督査室が執るんですか?」

「その通り、良く解かっているねえ」


 つうことは、この書類って…まさか。


「君と相棒には第一査察官の出動要請に基づき『督査室』に向かってほしいんだとさ。これが『督査室協力要請書』と〈エマ〉と〈ラフィック〉それぞれの『使用許可書』。それから『遺跡への進入許可証』だ。間違いが無かったらサインして提出してくれ」


 うげぇ~、徹夜明けの睡眠不足の身体で〈エマ〉と〈ラフィック〉の相手かよ。


「どうせ拒否権って無いんでしょ?」

書類(それ)見て言えるか?」


 嫌な予感が…当たったかなぁ。


「…分かりました。けどこれ、バイト料出るのかなぁ」

「あっちで申請しておけ。お前さんのカワイ子ちゃんも人質に取られたから、その線で苦情を言えば何とかなるんじゃないか?」

「…マジなんですねえ、その話。タウさんから聞きました」

「まぁ、文句は先方に言ってくれや。時間は待っちゃくれないからな」


 そりゃそうだ。


「りょーかいしました。それと俺の内容はこの記憶媒体にあるんでどうぞ。後、分からない事はオヤッサンに言えば理解ると思います」


 言いながら深青色の透明札を引き出しから取り出した。最近開発した新しい記憶媒体だったのでそれの性能テストを兼ねながら使っていたものだ。


「分かった。ま、頑張ってこい」


 クラスの奴ら程軽くはないが、区外特の皆は気持ちいいくらいにすっきりと追い出してくれた。まあ、『目覚め』の兆候が確認されたのだから仕方ないか。気合を取り直していくっきゃないか。




     …*…




 第一査察官の出動要請が発動されて、有資格者が強制的に調査に駆り出されて二日。区外特を通じて第二行政区督査室に連絡はなかった。正確には連絡するほどの反応を得られた箇所はなかった。


 パルステラの反応から発現するのは間違いはない。ただそれがいつ発現するのか全く分からない。いきなりそれは発現したこともあったし、時間を掛けて出たこともあった。


 その記録も口伝えにような曖昧なモノで、正式な記録に残っているものはたった三件しかないのだ。特急災害級の現象なぞ正直起こって欲しくないのは、第一査察官じゃなくても同じだと思いたい。




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