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シクウノソラニ  作者: 津村の婆ァ
3/22

#02-1:日常茶飯事な日々

今少しだけハルカの日常をお楽しみくださいませ

そして世のメタボリックシンドローム認定の皆様。けっしてあなた様のことではありません、今作品中に出演のキャラのお話です。ええ、私もメタボリック認定受けてます。ほんのちょっぴし人よりもぷにぷになだけですとも。




※2010/11/10修正

※2018/05/10修正

―――おいこら、ざけんなよ?


言葉悪ーい。なんてわかってますとも。だけど脳内心情的にはぶちまけても差し支えはないはずだ。目の前でメタボな腹を揺すりながら煙草を蒸かして愚痴ってるテメエの所為だって事、ちったぁ解ってんのか? 


師走の決算は普段よりも余計に忙しい。まぁ一般家庭ですら多忙に感じる方もいる御時世に敢えて詳しく云う気はないが、 年末年始を控えたこの時期に、クソ忙しい時間制限の中で必死に業務をこなしてる事務員(パート)としては文句の一つも云いたくなる訳で。


普段なら私なんぞよりもはるかに秀でた優良事務員お二方がいらっしゃるのだが、流行のインフルエンザでそれぞれのお子さんがDOWNされ、介護の為数日お休みなんですよ。はい。私個人的には「仕事よりもお子さん大事にしてくださいぃ」と此方から土下座して言いたい位なので無問題。


誰だって小さい子には優しくしたくなると思う(だって幼稚園の年中児だよ?)し、病人なら猶更。その結果、私が出来る範囲内でフルに動いて結果を出すしかないんだけど、コレは事務職に限った話な訳で、今の私に営業のフォローなんて出来る余裕ない。うん。


無論社長も判ってるし営業五人も知ってはいるけど、時は師走。季語を示すかのごとく忙しい皆様全員朝から出払っており、電話番を兼ねて独り事務所で雑事に追われていた私にその知らせを持ってきたのは営業の一人、メタボの細川さんだった。


「はい?」

「だからね、交通事故で清水の奴、一ヶ月入院なんだと。俺も忙しくてなぁ。だから仲田町は神成ちゃん行ってよ。社長に話はつけとくしさぁ」


営業は師走業務抜けらんねーしさぁ、とか寝ぼけたこと抜かす?

事務員が二人も抜けて、天手古舞(てんてこまい)なこの状況を見て、どの口がンなこと言う?


「無理ですよ。中原さんと藤野さんがお休みなんで、事務が一人しか居ないんですから。清水さんまで抜けられると、スケジュール的に辛いなぁ」


マトモな‥つうか、ちょっとでも考えればまぁ分かると思うが、中小企業の師走の事務は本当に忙しい。はっきり言えば一月半ばまで(年末年始休暇を挟む分だけ)手配やらなんやらと追われてしまうからで、普段なら藤野さんがテキパキとこなす月極決算の仕事すら一寸引く。 要は未熟なわけだ。……はふ。


「んな事務くらい誰だって出来るじゃねぇか。頭合わせに半日ばかり仲田町に行って来るだけだし、先物取引しろなんて無茶はねえんだからよ」


―――仲田町って、うちの最大手の取引先の一つじゃないですかー!? この時期にそこに行くなんて、営業以外の何物でもないんじゃ。


すぐさま場の空気を破るように鳴り響いた電話のせいで、ちこっと来ましたこの怒りをちょっこし脇にズラして電話に出た。何時もの注文のお客さんからで、ぼそぼそ云うから聞き取りにくいんだよねぇ。


「じゃ社長にいっとくな」

―――こらメタボ!!  勝手に決めるな。


その後訪れた集中砲火のような電話の所為で、仕事を片付け終わったのは定時を一時間も過ぎた後だった。


 はっきり言って理不尽だ。‥不運だったと我が身を呪うよりも、パートは業務時間が定められてはいる分、手間取って時間を無駄に出来ない事を悔やんでる。アルバイト契約なら時間的に無茶できたのに。


 “嘆くなら動け。時間を惜しめ。手を動かせ”と、昼飯休みとる間も惜しんで漸くこなした仕事に目処が立ったと喜んでいた処に、メタボが投げつけてきた爆弾は私のメンタルをぶち壊しました。この時期の業務範囲は私の処理能力ではきついんですよ。通常業務+他人のサポート+おまけ業務=完全超過です。


 流石にお腹が空いて落ちた処理能力を担えるほど、私の怒りのエネルギーは継続しなかった様子で、終業時間にはお腹も鳴ったので、何時ものように事務所を締め、連絡事項をメモに残して上がりました。


 中原さんと藤野さんが復帰するまで頑張らないと。だけど今週末までの二日間はこのまま、下手すると休日出勤も覚悟しなきゃかなぁ。営業の清水さん大丈夫なのかな。メタボが動けばいいのにぃ…とか思っていたら、あ。またムカついてきたかも。


「…社長にメルって愚痴るかなぁ…」


 細川(という苗字に反して身体はメタボ)の言った清水さんの件と事務員の件は、フォローが欲しいし、出張の件は辞退したい。この時期の仲田町は殺気立った業者さんが多い。専門問屋が集中しているので元々業者の出入り自体は多かったが、最近では一般人向けの店舗が出来たせいで余計に混む。長身体躯に恵まれたおっちゃんの群れの中に飛び込む勇気は私にはありません。迷惑かけて大騒ぎになる予感しかしないわ。


 でも、業務で命じられたらそんなこと言っていられないだろうし、小さな会社だからこそ和気藹々(わきあいあい)とやって行きたいし、つまらないことでギクシャクしたくない。


「…社長に言われたら一応危険勧告しよう。んでメタボの発言も告げよう。ムカつくのは仕事を軽んじたメタボの発言であって、仕事自体はいいのよ。うん」


 ああくそっ。むかつくっ。ついつい顔にでるのは感情豊かな証拠なんだから。決して断じて子供じみているわけじゃないのよ。いくら見た目が小さいからって子供じゃないし、これでも一応…。


「ぶっ!」

「あっ、ごめん。大丈夫?」


 うわ、人にぶつかった? 勢い余って尻餅ついてしまった私に、手を差し出してくれるなんて、最近の高校生は優しいわね…。


「ありがとう。大丈夫です」

「ホントに御免ね。まさか後ろに小さい子がいるなんて思わなかったから」


―――なんですと?


「おい、気をつけろよ。小学生転ばしてんじゃねーよ」


―――てめ…!


 差し出された手を無視して立ち上がり、ちょっと汚れたズボンを払うと、社会人として落ち着かなくてはならない。うん。


「考え事をしていて、うっかりしていた此方も悪いけど、私これでも社会人だから小学生扱いはしなくていいわよ。じゃ」

「「え?」」


 にっこし笑ってスタスタと歩き去る私に、二の句も告げずに茫然とするガキ二人。


 身長149?、小学四年生で止まった成長に今更何の期待も持たないが、年相応にみられることすらない事実を改めて思い知らされた。


「チビのなにが悪いのよ、好きでちびな訳じゃないのよ。ああクソ、マジムカつく」


―――ムカつくから今日はラーメン定食食ってやる。


 この位の贅沢は赦される生活はしているつもりだが、コレがこの世界での最後の夕食になるとは思わなかった。


 つうか普通は思わないよね?

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