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シクウノソラニ  作者: 津村の婆ァ
20/22

#018:他力本願は誰

お待たせしました。地震の揺れの中でupです。(笑)


 多分それはおそらく古今東西に知られている内の、私はほんの一欠片ぐらいしか知らないと思う。



『大体何ですか、僕は本来の契約に従って名を頂いた主を護ってるだけですよ。契約もしない魔獸如きに遠吠えされる謂われはありません』



 例えば、親子とか



『契約はしているし、先に見つけたのは俺だ。後からギャアギャアさえずる謂われはねえがな』



 例えば、男女とか



『正式な契約ではないくせに、これ以上主に近付かないで下さいますか』



 例えば、好敵手とか



『お子ちゃまはとっとと下がってろ。俺の(ハルカ)が迷惑がってるだろ』



 例えば、火と水とか



『僕の主を貴方如きに呼び捨てられるなんて、何様ですか』



 例えば、光と陰とか



『俺は俺だ。認めた奴以外に身体を触れさせたりはしないんでな』



 世の中には色々あるわけで‥。



 このように物事の対極に挙げられるものの多くは互いを意識する傾向にあると思う。あくまで私の考えだけど。


 無論例外だってあるわけだが、‥‥この一時間半近い観察の結果、私が下した判断では彼らの場合どうやら例外には、残念ながら成らないと思う。



     …*…



 ラグザさんから説明を受けた後、あのままクラフさんの仕事場に居ても何もする事が無いのと私自身の体調不良を理由に、とりあえずディレート家へ戻る事になったのだけど、問題がいきなり勃発。え、何がって?



 それは移動の手段。私は自分の足で移動すると発言した途端に


『いけません。身体に差し障りますから、私がお連れします』


『無理するな、ゆっくり歩くから俺の背に乗れ』


「辞めておけ。身体は限界に近い、男ですら下手をすれば三日は寝込むんだぞ」


と、三人に盛大に却下された。むぅ。


 何だかんだと話した結果、クラフさんがおぶって帰る事で―――ヘクサと翡翠はとりあえずだが―――折り合いをつけた。


 まぁ、体調不良は不本意だったし、美形に関わるなんて私には至極理不尽だ。‥今更と言えばそうだけどさ。



―――離れて鑑賞すべき美形'Sに囲われて(!?)人前に姿を晒すなんて、どんな罰ゲームだ!! せめて顔くらい隠したいと思うのは、赦されませんかねぇ? ‥比較されて傷つくのは私なんですから。



 なんて私の考えは、―――某メーカーの缶コーヒーぐらい甘かった―――らしい。


 はい、つまり勃発問題其の弐。


 成り行きというか無知の産物で、偶然契約しちゃった雀の精霊くんこと翡翠が。


『ハルカ様の側らに私があるのは当然です。大切な主ですから』


 と、色気たっぷりにのたもうた。あんたは何処のセバスチャンだっつーの。と、突っ込んでもわからないだろうなぁ‥、まぁ見た目可愛い(?)小雀姿なら、圧迫感も威圧感も美形感(!?)もそれ程感じずに済むし、小動物って癒されるし。と、思って。


「別にいいよ」


―――雀の姿なら―――って続けようとしたところにヘクサが反応。


『ダメだっ!! ハルカは俺の主だ! 誰にも渡さない』


 吼えるように放つ言葉はともかく、打てば響く其の反応に私は唖然としちゃって‥‥、翡翠とその場で力任せの喧嘩になりかけました‥。あの部屋でゆらぁーっ、と立ち上る不穏な真っ黒い空気は本気で怖かった。


 ぶわぁぁっ、て目の前が冷気と共に背中から身体に走る悪寒は“逃げなきゃ死ぬ”って本能が告げていた。こんな体験初めてしたよ。


 私がその空気に本気で怯えるとわかった途端に凶悪な空気は少しだけ(なり)を潜め、お互いに目を逸らして、黒い空気は霧散。ほっ、とした途端に始まったのは、小声での口喧嘩―――つまり冒頭のののしりあい―――が、延々と続いていたりするわけだ。



「‥、いつまでやるかねぇ‥」


「‥こんだけ(ニシアム)語れば十分だろうが?」



 そんな二人の喧嘩は移動の間も続き、郊外にあるディレート家に着いた現在でもまだ繰り広げられていたりする。


 これだけ喧嘩できるなら、本当は仲が良いんじゃないだろうかと疑問に思う、思ってますよ? が、敢えて止める気にならないのは、ただ単に“ほったらかしておく方が仲良くなったりして?”と考えたからで、幸いこの家の近くには、結構緑地化された空き地がゴロゴロとあったりするので、ちょっこし暴れたりするならそこに行かせれば大丈夫だろう。うんうん。



 そうそう。移動しながら聞いたんだけどクラフさんとヘクサには正式に辞令として“私の保護観察”する事になったそうだ。


 理由はヘクサと翡翠が居ることらしいけど、私自身がどう彼等に関わるか読めないからっていうんだけどさ、どうみても“迷子二匹のお世話よろしく”って感じにしか見えないんだよね。ぁ、私も迷子かもしんない。



 そうこぼすと、すこし笑って「ハルカはそのままでいればいい」と、言ったんだけど。私というひねくれたフィルターを通して意訳すれば「遥は(ちんまいガキなんだから)そのまま(ガキは餓鬼らしく)いればいい」と聞こえる。‥‥‥いかん、疲れてるよ。



 端から見れば

・長身で体格と顔のいい美形男。

 ↑クラフィスのことね。


・同じく長身美形の茶店のマスター。

 ↑ラグラスのことね。


・褐色肌の異国風美青年風執事。

 ↑雀の精霊こと翡翠ね。


・大型(しかも結構格好いい)美犬?

 ↑もっふもふの魔獸ことヘクサね。


 の、一団の傍らで、椅子に座り込んで紛れ込む

・ヘタレた一般ぴーぽーな幼児体型ちび(←遼的見解はこうらしい(笑))女。

 ↑即ちこれが私、神成遼。



―――あきらかに浮いてね?



 ビジュアル的にも、一般見解的にも、ういてるよね。変だよね? つうか美形は遠巻きから観察して愛でるのが安全かつ正しいつきあい方だよね?


 そして極力関わらないで行けば、至極真っ当な人生が送れるってもんよ。



 美形に関わっていい事なんて在りませんからねぇ、うんうん。




     …*…




「‥二人とも、いい加減にしたら?」



 そう声をかけたのは、本日仕事から帰って来るなり夕飯作りに腕を振るったラグさん。そりゃそうだろう。ここに戻ってから部屋で横になれと言われても、頑として受け入れずにリビングのでっけえビーズクッションみたいなソファに青い顔して居座る私の両サイドを、片時とて離れるものかと言わんばかりに二人が引っ付いているのだから。



「只でさえ辛い体調の彼女の傍らで君らの当て擦りはどうなんだろうね?」


 大事な主なのでしょう? なんて微笑みながら釘をさすラグラスさん、目が怖いってば。


 でも効果はあったみたいで、それきりぴたりと口を噤んだ二人は静かにしてくれた。


「流石に契約者には負荷はかけられない‥か」


 クラフさんの呟きが、私にとってい居辛い今すらも“観察”なのだと明言しているようでちょっとムカついた。


 けど身体のだるさと気持ち悪さが勝っているみたいで、とりあえずソレは置いておこう。


 そんな私がただひたすらに心でつぶやいていたのは「今は我慢今は我慢今は我慢今は我慢今は我慢今は我慢治ったら折檻するから今は我慢今は我慢今は我慢今は我慢‥」と自閉モード全開で、ひたすら周りを意識しないことで乗り切ろうとした、うん。余裕なんてナイデスヨ。


「しかし、あの羽根は何だったんだろうね」


 余裕なん‥


「羽根って、今朝のか?」


「ああ、ハルカさんの部屋にあったやつだよ。どんな意味があったんだか‥」


 左隣から気配が‥‥


『‥誰が‥羽根を残したんです‥』


 じっ、自閉モードなのに、また黒い空気が襲ってくるぅぅぅっ!!!!


 ゆらぁーっと立ち上る黒い空気は、間違いなくセバスチャン‥じゃなくて翡翠から立ち上っている。しかも色が尋常じゃなく濃いっ、黒より漆黒っ、闇よりも深いっ!!


「ちょっ、なんだいきなり!!」


『誰が主に羽根を残したのかと聞いているんです』


 うわあっ、髪の毛までぶわぁっ!!ってたってるよおっ。なにをそんなにいらだってんのっ。


『止めろ! ハルカに障る』

『赦せないんですよ。主に対してしでかした事をね‥』


 いらだつというよりムカついてるわけね‥、けどその空気は辞めようね〜、うん。


 だってさぁ‥‥。


『‥! ハルカっ』


 今の私にその空気はホントに無理だから。ほら、気絶しちゃったし‥。


 次やったら拳骨かますからね、翡翠くん?



         …*…




「つまり精霊にとって羽根を相手に渡すということは、眷族としての使役を示すって事かい?」


『同性の場合はそうなります。これが異性の場合は、眷族を増やす為の隷属婚姻を示します』


「はあっ!?」

『なっ!!』


『あなた方の話を聞く限りですが、主はこの世界の方ではなく、また種族も違われるのっすから、おそらくは眷族としての使役を命ぜられたのかと思われます』


 翡翠の手にあるのは今朝方遥の上に置かれていた大きなフワフワの羽根だった。


『それにこの方なら婚姻はあり得ませんからね』


 その羽根を見るなり翡翠はあの黒い空気をさっと打ち消した。其の様に驚いたのはヘクサだけではないが、翡翠の柔らかく微笑んだ顔に固まったのは間違いない。



「翡翠、それはどういう事か訊いていいか?」



 クラフはこのあと後悔をした。

 質問のタイミングと内容に。



『祖母です。私の父方の』

「「『え』」」



『そして、現在の扉を管理する唯一の存在でした』


「‥でした?」


「‥すると今、その方は何を?」




『今は、居ません。四日前に亡くなりましたから―――』




 そんな会話を気絶した私の知らないところで交わしていたなんて、知る由もない。


 だから、その意味なんて知らない。



『―――後は、羽根に聞け‥と残して』



 翡翠の言葉に浮かべた表情の意味なんて、私は知ることも、わかることも、有り得ない筈だった。





―――あの変態ニワトリ'Sさえ居なければ。


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