#012:私と彼等との幕間
Q.ハルカは元の世界に彼氏がいた事は?
1.あるけど今はいない。
2.産まれてから全くなし。
3.高校からのお付き合い中。
答えは本編で。
―――私、神成遼は昨日までは只のパート事務員でした。
今日からは
魔獸と仮契約をした異世界人
という肩書きがつきました。
現在クラフさんとヘクサに付き添われてクラフさんの職場へ向かっています。
する事も特に無いので、とりあえず現状把握を兼ねて、判っていることをおさらいしていこうと思います。
…*…
朝ご飯の後、ラグさん、クラフさん、ヘクサと私で今後の話をしました。
ラグラスさんが「落ち着かないから」と呼び方を強制的に変えさせたのは何の意味があるのでしょうか。ねぇ?
とりあえず分かったのは
ここはフォブルと呼ばれる異世界であること
翼(羽毛)あるものは精霊と呼ばれること
ヘクサのように完全に姿を変えられるものは魔獸と呼ばれること
この世界では科学ではなく魔術が発達していること
時間の単位が違うこと
暦とかお金、尺度なんかも違うこと
―――多分だけど文化は違っても、味覚とか大まかな常識はあまり大差ないと思う。
代わりに彼らは知りたがった。
私の日常生活的な事柄だったけども
私が異なる世界、地球から来たこと
魔術なんて概念自体私は知らないこと
白いニワトリにあった経緯と先程の出来事を話した
その結果、私はヘクサの強い希望から仮初めの契約者として、ディレード家にてお世話になる事となったが、外出時は彼等と行動を共にするよう言われた。
鳥に襲われ‥、げふんげふん。精霊に浚われない為、らしい。
心境を言えば「美形の傍なんて休まる気がしない」けど、鳥に襲われるなんて冗談じゃない。
昔の映画でそんなのがあるのを知ってはいるけど、観た事ないし観たくもない。
んなのは社会現象にもなった某劇場版アニメだけで充分だ(あれも十分気持ち悪いと思う)。
そんな訳だから、ほとんど我が身可愛さで頷いたけど‥、少しだけ判断を誤ったかもしんない‥。
ああ、ついでだから彼らの仕事も聞いてみた。
ラグさんことラグラス=デイレードさんは現在28歳の独身男性。
ほっそりとしたしなやかな体つきの180近い長身。だけどそれなりに筋肉あるんだよね、キャメルアッシュ系の髪は少し長めで後ろで緩めに束ね、もの静かな印象だったから「研究者とか茶店のマスターだろう」と踏んでいたら、「第二行政区第一室補佐官」という、簡単に云うと政府直轄の警察みたいなところの情報管理部の課長さんみたいなものらしい。
まぁエリートだってことなんだろうな、ぐらいの感覚しかないけど。
何故か彼氏の有無を訊かれましたが(特にヘクサが。)「僕は欲しいけど、好きになれば相手は問わないからね」と言われました。‥‥老若男女問わないって、犯罪ぢゃないんですか?
クラフさんことクラフィス=デイレードさんは現在24歳の独身男性。
ラグさんより少し高めの身長と、同様の髪と瞳の色を持つけど印象は冒険者って感じ。
がっしりした肩に引き締まったウエストの癖に着ているのがダボダボな長袖シャツにチノパンだから余計そうなのかもしんない。
髪は前髪が少し長めのスポーツ刈りみたいな感じで髭がない。
(いつの間に切ったのかと聞くと、あれは頭からすっぽり被るマスクだと言われた。)
お仕事はなんと政府直轄の遺跡とかの発掘や調査を受け持つ会社の社員!!(スーツ姿なんて似合わないよ)
うーん、とひねりたくなるミスマッチさに「目立つの嫌いなんだ」の一言。
控えめなんだねと返すと「面倒くさいから」って返された。
そしてヘクサはと聞くと。
「ヘクサにとって、名前は主にだけ明かすものだから」とラグさんの返答から、聞いちゃいけないと判断しました。
よくわからないけど名前には存在を縛り付ける力があるなんて話、あったよね。ゲームとかで‥と納得した。
「じゃあヘクサって呼ぶのはいいの?」と聞けば、種族名のヘクサイオスから呼ばれてるからいいんだって。
ヘクサは当年約500歳過ぎの魔獸で、人間だと30代位になるそう。今までお一人様だったそうだけど、訳あってクラフと仮契約を結んでいるそうで『ハルカが俺のモノになるなら全部話すが?』と、言われりゃ断るってモンでしょ!
因みにヘクサの犬姿は毛足が長めのピレネー犬で、何故だ色は群青。狼の時は濃紺。因みにどちらの体毛も、ふもっふモフモフなので私的にはどちらも好きだけど。
彼らに訊きたかったと言えば、「まうあの鍵」なんだけど。
返ってきた答えは「知識的には知っているけど、現存しない遺物」だった。
フィンジアとパルステラっていう空にある星にそれぞれの扉があって、それらの鍵になるものらしいってクラフさんはいうんだけど、これ、神話の中での話なんだって。
職場に資料があるから見せてくれると約束したから、とりあえず現状維持で止まっている。
今のところはそんな所なわけだ。
…*…
『ハルカは帰るのか?』
「え、何の話だっけ?」
聞いてなかった、ごめんね。
「検査が終わったら、帰るかと訊いたんだ。身分証を発行するまで一日かかるし、送って貰えば良いだろ?」
そう、この世界では自己証明の身分証を携帯しているそうで、これがないと買い物もままならないらしい。
「それはそうだけど。ね、検査って何するの」
「魔力値と身体能力値、知能指数を計測して、個人の固有マーカーとする為のものだ。人によっては耐えられないから」
「耐えらんない?」
そんなにハードな検査なの!?
『俺は嫌いだがな』
私を乗せてあの崖を飛び降りたヘクサが『嫌い』ってどんだけ?
「ヘクサの魔力値なら要らないだろ?」
まりょくち? ナニソレおいしいの?
『‥‥ハルカ? そっちじゃないぞ』
クラフさんに借りた上着の左手首辺りを軽くくわえて、そっとエスコートするヘクサ。なんか手慣れてないかい?
「あ、ありがとう‥」
『ハルカは慣れない場所だろ。俺が付き添ってるから安心しろ?』
振り返ってウインクなんて、どこのたらしよ。つうか、なんで顔が熱いかな私。
「‥付き添うというより捕獲だな‥」
クラフさん。何ですか、その微笑ましそうな生暖かい目はやめてください。
『ハルカになら囚われるのもいいな』
「そーいう気は無いから。懐くのは構わないし、嫌がる事はお互いにやめようね」
魔獸と人とか関係なく、意思ある個人として友好を深める分には構わないけど、正直戸惑いますって。
何でって、産まれてこのかた彼氏なんて居ませんから。
まず、同年代の異性から見た私の印象は「色気よりも微笑ましさを感じる」と云われたほど、女性として見られる事がなかった。
同い年の同性などは「妹より娘」などと云われ、クラスメートはこぞってからかってくれたものだ。
高校の頃は更に酷く、授業で黒板に書き込む際は日直が私を抱える事が仕事として決められた事もあったのだ。(本気で泣いて拒絶したため、折衷案として専用脚立が用意されたけど。)
そんなんで、本気の異性は未経験な私に、ヘクサの行動は本気で照れるの戸惑うの困るのっ。
『なら捕らえて囲ってしまおうか? 俺しかいない所へ』
「やめてって言ってるの、聞こえてる?」
途端に左手を離してこちらを向く。さっきよりも近付いた距離は余計に私から余裕を奪ってゆく。
『辞めたら俺だけのものになるのか?』
「んなっ!!」
近い近いって。鼻先1cmはやめなさい。
『仮初めの契約ではなく、俺だけのハルカになるなら‥』
ぺろっと鼻を舐めやがった。
『俺の全てをハルカにやるよ』
「生憎私は自分が持てる責任しか持ちたくないから結構です。つうか色気出すの禁止してっ!!」
こんな街中の道端で犬(の姿の魔獸)に口説かれるなんて、しかもクラフさんなぞ後ろで微笑ましい顔してみてるだけなんて、どんな羞恥プレイですかぁっ。
『余裕無いから、辞めない』
言うなり顔舐め攻撃しやがった。やめなさいってこら、耳までなめんなぁぁ。あ、やめって。そこはこちょばい、んにゃぁぁぁっ、やめろぉぉっ。
「ヘクサ。そこまでにしとけ」
ようやく入ったストップで、息は荒く顔は赤くなる私。ヘクサは顔は避けて、首筋や耳を舐め回さしたからもう恥ずかしいやらこちょばいやら、昼間の往来でされて逃げ出したい。
「白昼堂々と往来で押し倒すより、人目を避けた室内で雰囲気高めてしたほうが‥」
「おかしいでしょ、何を薦めてるのよ。モラルを考えなさいよ!」
『‥雰囲気が足りなかったか』
「違うでしょ!! つうか私嫌がっているよね?」
「心底ではなかったよな」
「突っ込むのソコ!?」
『それとも本気が足りなかったか?』
「悩む方向と現実を見直してください。本気で嫌いになるからね」
も、やだ。悪ふざけならキレるぞコンニャロ。
「悪いな。コレも検査の一環なんだ」
クククと笑いながら云われた言葉に人が悪いと思いつつ、抗議はしておく。
どうやらヘクサの言動に悪乗りして困らせて、反応を診ていたらしい。
『俺は本気だけどな』
「おかげでハルカがどういう人間か分かった気がする」
余程クラフさんはお気に召したようで、まだ笑っている。
「それはよう御座いましたわねっ、クラフさんの人の悪さもよくわかりましたよ!」
ああ、もう腹立つ。
それからすぐ脇にある建物に入ると、どうやらそこが目的地だったらしい。
ロビーを通り過ぎ、奥の通路から入った部屋はとても近代的な造りをしていた。
「ゼオ、来たぞ」
その部屋には三人の人がいて、その一人は昨日空から派手に着地した、あの人だっ‥。
「クラフちゃぁん、待ってたわぁぁん!!」
ガバッと広げた両腕の中へクラフさんを閉じ込め、唇を奪うかのように顔を近づけた瞬間。
ガシッとその顔を抑えた手の持ち主は。
「はしゃぐなら独りでやれ、俺を巻き込むなと何回言えばわかる」
「だってだってぇ、これすっごいじゃない。ああもうみたかったわぁ〜」
威嚇してるクラフさんの声は低く、威圧感があったけど。
まぁったく気にしないゼオさんは、うっすらと頬を染めたまま夢見る乙女のようにキラキラと目を輝かせ、熱弁をしていた。
「現存したなんて信じらんないわよ、あの色からみて、何らかの加護があったわよね。あそこってクロフィアの乙女が祀られてる神殿でしょ? 他にあったかしらねぇ」
抱きついたまま熱弁は止まらす続く。オネェ言葉とハグった行動から、この人まさか。
「あぁんもうっ、聴きたいことも有るから、じっくりつきあってよね?」
「話ならしてやるからとにかく離れろ。そういう行為は俺じゃなく恋人同士でやれ」
「クラフちゃぁん、つめたいわねぇ。ま、いいわ」
そっち方面の方ですかぁぁ。しかもクラフさん口説かれてるんですか? うぇえぇぇっ。
「じゃ、こっちで検査‥、あら、もしかしてこの子?」
うわわわっ、こっちに気がついた。来ないでプリーズ。
つい反射でヘクサの後ろに隠れてしまう。だってこの人今テンションアゲアゲで怖いんだもの。
「昨日の救助者だ。粗方の事情は先程兄貴立ち会いの上で、とっくに済んでる。ヘクサの契約者だから手を出すなよ」
「ぇえっ、じゃあクラフちゃんとの契約はどうなったのよ」
「上書き無効化だな。だが、彼女を保護対象とする限りは変わらない」
へ?
「へぇ、じゃあ第三室扱いの賓客クラスなの? ますます興味深いわぁ」
よ‥よくわからないけど、私、もしかして鴨葱状態かしら?
おまたせしました。漸く出来たてほやや〜んでございます。
多少の悪乗りはご勘弁を。
クラフさん、もしかしてふらぐでしょうか?
次回はヘクサも嫌がる検査について描く予定です。
ヘクサの口説き文句はホントに難産だわ〜。はう。




