どこか、僅かに、心待ちにしていた。
掲載日:2026/07/01
暗い部屋の中。
座る男を見て、私は一人ため息をつく。
やはり、こうなったかと。
男の前には一人の女の遺体がある。
もう亡くなってからかなり経つ。
異臭もきっと漂っているだろう。
見たくないから見てないけれど、きっと随分と腐っているはずだ。
それなのに男ときたら遺体の前で座り込みながら体を見つめるばかり。
『そんなことしたって意味ないよ』
根気よく声をかけるが反応もない。
『そんなことしてなんて言っていないでしょ?』
まぁ、分かっちゃいたけれど。
何度目かもわからない大きなため息をついて私は男に言う。
『私、前を向いて生きてよねと言ったよね』
あぁ、やっぱり声は聞こえていないようだ。
当然か。
だって、私は病気で死んでるもの。
――この男の目の前で。
『まったく』
病死して随分と経つけれど、まさかこんなにも愛されているなんて思いもしなかった。
正直少し嬉しいけれど……。
だけど、これじゃこいつも直に――。
『はぁ』
私は触れられないのを知りながら男の背を抱いた。
随分と痩せている。
当然か。
何も食べてないし、飲んでもいないから。
『死んだらまずお説教だね』
言いながら。
すぐに来るであろう再会を。
どこか、僅かに、心待ちにしていた。




