表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

どこか、僅かに、心待ちにしていた。

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/07/01

 暗い部屋の中。

 座る男を見て、私は一人ため息をつく。


 やはり、こうなったかと。


 男の前には一人の女の遺体がある。

 もう亡くなってからかなり経つ。


 異臭もきっと漂っているだろう。

 見たくないから見てないけれど、きっと随分と腐っているはずだ。

 それなのに男ときたら遺体の前で座り込みながら体を見つめるばかり。


『そんなことしたって意味ないよ』


 根気よく声をかけるが反応もない。


『そんなことしてなんて言っていないでしょ?』


 まぁ、分かっちゃいたけれど。

 何度目かもわからない大きなため息をついて私は男に言う。


『私、前を向いて生きてよねと言ったよね』


 あぁ、やっぱり声は聞こえていないようだ。

 当然か。

 だって、私は病気で死んでるもの。

 ――この男の目の前で。


『まったく』


 病死して随分と経つけれど、まさかこんなにも愛されているなんて思いもしなかった。


 正直少し嬉しいけれど……。

 だけど、これじゃこいつも直に――。


『はぁ』


 私は触れられないのを知りながら男の背を抱いた。

 随分と痩せている。

 当然か。

 何も食べてないし、飲んでもいないから。


『死んだらまずお説教だね』


 言いながら。

 すぐに来るであろう再会を。

 どこか、僅かに、心待ちにしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
愛する人の遺体の前から動けない男と、それを見守る亡き妻。重い場面なのに、妻の少し呆れた語り口に優しさがありました。深く愛された嬉しさと、前を向いてほしい願いが同時に伝わります。
❛正直ちょっと嬉しく❜ても、現実だいぶ嫌かも。 腐って臭う自分は、正直見たくないですね。 ダメダメ男っぽくなってるけど、めっちゃスパダリってヤツだったのに、彼女を病魔から守れず無になった、もあるかな、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ