プラネタリウムの列車にて
ゴトンゴトンと列車が走る。車窓の明かりが外の景色を舐める。
僕は息を吹きかけて白くした窓に、指でラクガキをしていた。
白く雪を被っている木々が、後ろの方に流れて行く。
「オリオンは月に恋をしているのよ」と、僕の隣でトノコが言う。
女の子ってものは、何時だって恋の話ばっかりしてる、と思って居たけど、どうやら恋の話には男の子も興味があるみたいだ。
「アンドロメダを助けた英雄は、彼女を妻にしたかったのかな」と、ちょっと格好つけて、ミツバも周りの子に話を振っている。
この列車は特別で、後十五分もすれば、天井にプラネタリウムが投影される。
僕は、列車の明かりが無くなったら、外が見えなくなると思って、何とも気持ちが落ち着かなかった。
トノコは、他の女の子を相手に、ずっとお喋りをしている。
「モモ組のリツコちゃんは、ミツバの事が好きなんだって」と、決して小さくない声で言う。
ミツバはそれを聞いて、顔を歪めて舌を出した。
「あんなブス!」と、ミツバはあんまり可愛くない女の子を、聞こえるように罵る。
眉毛が太くてゲジゲジなだけで、子供としては「男みたいなブス」に見えるんだ。
リツコは後ろの方の席で、黙って外を見ていた。
その日のプラネタリウムが始まった。今日、放送される神話は「アポロンとアルテミス」の話だった。
アルテミスが、ある男性を好きになった時、嫉妬した兄のアポロンが、アルテミスを騙して、彼女に恋人を弓矢で射殺すよう仕向けると言う、残酷な話。
それを聞きながら、僕はまた列車がレールを外れたのに気づいた。
次の年。僕達は相変わらず列車に乗っている。
またトノコが噂話を始めて、ミツバが「あんなブス!」と罵る。
僕は外を見ていた。また、列車がレールを外れた。そのまま、車体は天空高く飛び上がる。
随分かかったなぁ、と僕は思った。
数十年前、針葉樹の間を走る列車が、脱線事故を起こし、その時に乗っていた乗客も乗員も、ほぼ全員が死亡した。
その列車は、夜に成ると天井にプラネタリウムが現れる造りだったと言う。
唯一の生存者は、タジマリツコ。
彼女は毎年一回、事故の起こった日と同じ日付の時に、事故を起こしたものと同じ型の列車に乗っていたと言う。
その追悼のような儀式は、彼女が老年を迎え、列車の中で息を引き取るまで続けられた。
彼女が眠りに就いた晩のプラネタリウムは、今までで一層煌びやかで美しかったと言う。
ようやくあの列車は、星の一つに成れたのだ。




