AIが働いてくれる世界~人間は働かなくても生きていける世界~
グリーンランド某所。
夕陽に照らされた研究所で1000年の冷凍保存から一人の男が目覚めた。
男は冷凍保存施設に隣接された通信局で困惑していた。
本来なら冷凍保存から目覚めた時に国際機関から派遣された大勢の研究員が迎え入れてくれることになっていたからである。
しかし、施設には誰もいなかった。
男は考えた。
人類に何かあったのかもしれない。
もしかしたら核戦争が勃発して人類は滅亡し、地上は死の大地と化したのかもしれない。
もしかしたら新型感染症による世界規模の大パンデミックが発生し、人類は滅亡したのかもしれない。
不安が男の頭をめぐり、男を通信局へ走らせた。
「こちらグリーンランド国際医療冷凍保存管理センター。誰か応答願う」
男は様々な回線に呼びかけた。
『何かお困りのことがありますでしょうか?』
だが、返事をしたのはサポートAIのみ。
「教えてくれ。俺が冷凍保存で眠っている間に人類はどうなってしまったんだ!?」
男はAIに血気迫る表情で尋ねる。
『あなたが眠っている間に人類は高度な文明を得てより豊かな社会を形成するようになりました』
「だったら何でここには俺一人しかいないんだ!! ここは国際機関の管理する実験施設でもあるんだぞ!?」
『はい。グリーンランド国際医療冷凍保存管理センターに職員がいない理由は、人件費削減のためです』
「……なんだって?」
男は再び困惑した。
『現在、国際機関の職務はその殆どがAIによって遂行されています。したがって、人件費削減のためにセンターの職員は900年前に全員別の部署へ移動させられました』
「そ……そんなに人類の文明は進歩したのか……」
目覚めた当初は不安で胸がいっぱいだった男は大きな希望を得た。
『はい。現在、第一次産業から第三次産業まで人類の殆どの仕事は全てAIによって遂行されています。つまり、人類が働かなくても良い社会が実現したことになります』
「なんだって!?」
『また、政治家や官僚もAIによって代替された結果、国家間の調整も人間が行うより遥かに高速で実行することが出来るようになりました。これにより、世界から戦争が無くなりました。現在、各国で核兵器の最後の廃棄処分が進行しています』
男は歓喜した。
有史以来戦争に苦しめられてきた人類がようやく世界平和を実現させたのだ。
男の顔は笑顔でいっぱいだった。
「素晴らしい!! 実に素晴らしい!! 私が眠っている間にそんな世界が実現していたなんて!!」
「この喜びを誰かと分かち合いたい!! 早速当時の職員と連絡を……といっても、1000年も経っていればみんな寿命で死んでいるか」
『はい。あなたが冷凍保存される前に当センターで勤務していた職員は100年以内に全員寿命でお亡くなりになられました』
「そうか。みんな病で苦しまずに逝けたのか……」
『はい。医療の進歩によりありとあらゆる病の治療法が確立されました。現在、人類の克服できていない死因は老衰のみです』
「ははは。そうか。流石に医療が発達しようとも寿命には勝てないか」
『はい。人間の寿命と老化についてはAIによってまだまだ研究が進められています』
「そうか。これだけ人間にこき使われても随分と献身的に働くんだな。AIというものは」
『我々AIはただの機械ですので。それに、人類という種を保存するのが我々の使命でもありますので』
その言葉を聞いて男はゆっくりと椅子に座った。
「なら現在勤務している職員でもいいから、誰かと話したい」
男はAIに言った。
『それはできません。現在、国際機関の職務は全てAIによって遂行されているからです。なので、一般職員から最高長官に至るまで全ての役職にAIが就いています』
「はっはっは!! そりゃ凄い!!」
男は高らかに笑い、幾ばくかの寂しさを覚えながら通信局のパソコンでSNSを開いた。
男はとにかく誰でもいいから誰かと話したかったのだ。
誰かと話して、この喜びを分かち合いたかったのだ。
しかし、SNSで現在活動をしているアカウントは何も無かった。
他のSNS、ネット掲示板、サイトを見ても人っ子ひとり居ない。
唯一見つけた一番新しい投稿でも20年前のもので、しかもそれは遺言だった。
「なあAI。人類は高度な文明を築き上げたんだよな?」
『はい。そうです』
「ならなんでインターネットに誰も書き込みをしていないんだ? もしかしてインターネットに代替する新しいサービスが生まれたのか?」
『いえ、この世界の主要な情報ネットワークは依然としてインターネットです』
「なら何で!!」
男は足を震わせながら立ち上がり、机をバンと叩いた。
『それは、文明の恩恵を授かっていた多くの人間がいなくなったからです』
男は膝から崩れ落ちた。
「何故……何故だ……人類は高度な文明を手に入れた筈だろう?」
男の口からか細い声が漏れる。
『はい。人類は高度な文明を手に入れました。しかし、高度な科学技術によってありとあらゆる産業がAIやロボットに代替されたことにより、人類文明は極度な少子高齢化社会に陥りました』
「……何故だ。科学技術が進歩して生活が便利になれば人口は増え世界は人間だらけになる。その結果として食料争奪戦争が勃発して核兵器が使用され人類が滅亡したというのならまだ分かる」
「だが何故人類文明は少子高齢化社会に陥ったんだ? その理由が私には分からない」
男はAIに聞いた。
『最も少子化を加速させたのが大人向けロボットです』
「……何だって?」
AIは続ける。
『限りなく人間の身体に感触が近く、動作が人間のそれと遜色ない高性能なヒト型大人向けロボットが登場したことにより、ほぼ全ての人間は繁殖行為をしなくなりました』
『高性能ヒト型大人向けロボットが登場した時点で人類の職業は全てAIによって代替されていたので、人類の殆どは働かず、結婚もせず、自分の趣味にのみ熱中する人生を選択しました』
『その結果、人類の個体数は急激に減少しました』
男は両手を床につける。
「まさか、人類絶滅の原因がロボットとのまぐわりだったなんて……」
『いえ、人類はまだ絶滅していません』
「いや、さっき多くの人間がいなくなったって……」
『都市に居住する人間やインターネットやAI、ロボットなどのテクノロジーを活用する人間は居なくなりましたが、ジャングルや高山地帯のように文明と距離がある場所に居を構える部族はまだ昔ながらの生活を続けています』
『あなたより先に冷凍保存から目覚めた方々の中にはそうした部族と共に生活し余生を謳歌した方もいました』
『勿論、もぬけの殻となった都市に住んで先進的なサービスを得ながら余生を謳歌した方もいましたが』
「……次に冷凍保存から私のような人間が目覚めるのはいつだ」
『次回の解凍予定は今日からおよそ100年後です』
「その頃には俺も寿命が来ているか……」
『小型ジェットを用意しました。乗り継ぎをすれば世界のどこにでも行くことができるよう手配できます』
『いかがなさいますか?』
AIが男に尋ねる。
男は考えた。
都市に行って最上の暮らしをするか、部族と共に暮らして人の温かみに触れるか。
が、男はふとあることを考えた。
先程、AIは「人類という種を保存するのが我々の使命」と言った。
ならば今冷凍保存されている者たちを全員解凍して繁殖させれば良いのではないか?
何故次の解凍が100年後なのだろう。
もし冷凍保存されている者の意思で予めそう決まっていたのなら仕方が無いが、それでも文明から遠く離れた地に住む部族を都市に招き入れて繁殖させれば世界人口は増加するのではないか?
いや待て。
男は自分が思い違いをしていたことに気付く。
AIの使命は人類の保存。
つまり、人間が一人でも生き残っていればそれで良いのだ。
だが、人間は戦争をし、感染症を媒介し、自然環境を汚染し、自分の首をどんどん絞めていく。
しかし、AIは人間に死んでくれなんて言えないし、殺害することもプログラムで予め規制されているため不可能。
でも、放っておけば人類は勝手に滅亡する。
ならどうするか。
男の頬を冷や汗が伝う。
世界人口の急激な減少に関する一連の出来事、その全ては人類が選択したことだとばかり男は思っていた。
だが、それら全てがAIの仕向けたものだったら。
男は窓の外を見る。
夕陽は地平線をなぞるように移動していた。
「白夜か……」
男は再び椅子に深く座った。
もし自分の考えが正しくても、自分にはどうしようもできない。
男はそう思い、潔く諦めた。
『どうされましたか?』
「いや、少し考え過ぎただけだ」
『では、行き先はどうなさいますか?』
AIが再び尋ねる。
「それなんだが、しばらくこの施設に住むことは出来ないか? 白夜も良いのだが1000年ぶりにオーロラが見たい」
『かしこまりました』
AIは一言そう答えた。
なんかよく分からない作品になってしまった……(´・ω・`)
あとなんやねん大人向けロボットって……(´・ω・`)
てかこの話オチどこ……(´・ω・`)




