世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(新章・本当のルート)「あの日の意志は娘のなかに」
衝撃的な最期を迎える、世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(禁断の理想郷)「あなたが見ている世界。それは、本当に本当の世界ですか?」(完成版)(挿絵80枚以上)の新章です。
娘・結衣
王立心療内科の診察室で、アルファはカルテにペンを走らせていた。銀色の長い髪が、時折、書類の上を滑る。赤い瞳は、患者の心の奥底を見透かすように、静かに輝いていた。
コン太は、隣のソファで優しく微笑んでいた。九本の尻尾が、彼の穏やかな雰囲気をさらに際立たせる。彼は、妻の仕事が終わるのを、いつものように静かに待っていた。
今日の午後の患者は、若い女性だった。彼女は、最近、奇妙な夢に悩まされているという。夢の中では、いつも見知らぬ人形たちが、悲しげな表情で彼女を見つめているらしい。
「その人形たちは、何か言っていましたか?」アルファは、穏やかな声で尋ねた。
女性は少し考えてから、首を横に振った。「いいえ、ただ、ずっと私を見ているんです。まるで、何かを訴えかけてくるみたいで……」
アルファは、その言葉にわずかな引っかかりを感じた。人形。悲しみ。それは、彼女の心の奥底に眠る、決して忘れることのできない記憶の断片を呼び覚ますようだった。
診察を終え、コン太と共に家路につくアルファの心は、どこか重かった。娘の結衣は、リビングで絵本を広げ、楽しそうに一人で遊んでいる。銀髪とオレンジ色の髪が混ざり合った美しい髪が、夕日に照らされて輝いていた。その無邪気な姿を見るたび、アルファは胸が締め付けられるような思いになる。
夕食の食卓を囲みながら、コン太はアルファの様子を気遣った。「どうかしたのかい、アルファ?」
アルファは、今日の患者の話をコン太に話した。人形の夢。それは、かつて妹の結衣が創り出した、人形たちの世界を彷彿とさせた。誰も傷つかない、けれど、どこまでも続く絶望の世界。
コン太は、アルファの手をそっと握った。「ユイ……いや、アルファ。もう大丈夫だよ。結衣ちゃんは、ここにいる。君のそばに」
アルファは、コン太の温かい手に、そっと自分の手を重ねた。彼の存在が、どれほど彼女の支えになっているか、言葉では言い尽くせない。
その夜、アルファは眠りにつくまでの間、娘の結衣の寝顔をそっと見守った。小さな寝息を聞いていると、過去の悲しみも、未来への不安も、少しだけ和らいだ気がした。
結衣。それは、かつて世界を絶望に突き落とした妹の名前。そして今、彼女の腕の中で眠る、愛しい娘の名前。アルファは、この小さな命を守り抜くことこそが、彼女に与えられた使命なのだと、改めて心に誓った。
明日もまた、普通の日常が始まる。それは、かつて失われた、かけがえのない日々。アルファは、コン太と結衣と共に、その一日一日を大切に生きていくと心に決めた。たとえ、心の奥底に癒えることのない傷跡が残っていたとしても。
アルファ(姉)は、絶望の世界を破壊して、新しい世界を創った世界の創造主である。