第2話 現在、原罪を生み出す
犯しましょう……?
運び屋は確かにそう言った。
「何を言っているんだ? 正気か?」
「正気でこの世界は生きていけませんよ! おいガキ、こっちに来るんだ!」
運び屋は少女の手を取り、荒々しい足取りでバギーの元へと連れていく。
「おい、運び屋さん! 何をやろうとしている! やめろ!」
「やめる必要がどこにあるんです⁉ 世界は滅んで法律なんて何もない! それに被ばく地域に人なんて来ない! 誰も咎める人間がいない場所で裸のガキが一人でいるんだ。そんなん犯してくださいって言っているようなもんでしょう⁉ なぁ! ガキ!」
「……ぁ」
運び屋は乱暴に少女の股の間に手を入れて、そのクレバスをかき分けて指を無理やり入れた。
「ぅ……いたい……」
「へへ、感じてやがる。もっと気持ち良くさせてやるよ……」
指を動かし、少女の中の壁を運び屋は乱暴に触り続ける。
「おい、痛がっているだろ! やめろって!」
「うるさいんだよボケが! お前だってヤりたいくせにいい人ぶるんじゃねぇよ!」
急に乱暴な口調になって運び屋が歯を見せて俺を威嚇する。
クチュクチュクチュ……。
水音のような音が響く。
「あ……ぁ、ん……あ……あぁぁ……!」
少女がもだえる。
連れてこられたバギーカーの後部シートでビタンビタンと背中をくねらせ、のたうち、まるで水に上げられ魚のような姿に圧倒されてしまう。
ピシュ……!
彼女の股間から水が噴き出す。
愛液だ。
「ほっほ~! イキやがったいいねぇ! クソ! 防護服じゃなければ……俺もあんたみたいに放射能耐性があったら……! くそ、こいつの股の間に俺のモノをぶち込んでやれたのに! 旦那、急いで街へ———、」
カン……! という金属音。
それは、運び屋のバイザーから響いた。
物が当たったからだ。
銃が———俺が彼へと突きつけている銃が当たったからだ。
「旦那……一体……なんで銃を……?」
「俺は〝やめろ〟と言いましたよ」
片手銃———ワルサーPPKを突きつける。ドイツのカール・ワルサー社が大量生産した一時期の人気商品で、現代でもブラックマーケットで中古だったら安値で手に入る。
例え、日本でも。
「そ、そこまで? 見ず知らずのガキじゃないですか……そんな銃を突きつけることないでしょう?」
「そこまでですよ。俺は何度も〝やめろ〟と言ってそれを聞かなかった。法律も何もない社会でそれは致命的だ。重大な齟齬を生む。あなたが俺の命令を無視して、その上俺を威嚇した。それだけでこの世界では死ぬ理由として十分だ。あなたはもう信用できない」
「はぁ? そんな滅茶苦茶な理屈通るわけ、」
バァン……!
撃鉄の音が鳴り響き、銃身内部で爆発が起き、高速で弾丸を射出する。
その弾丸は防護服のバイザーごと運び屋の頭を貫き、ヘルメットの内部を真っ赤な血で染め上げた。
ぶらんと両手が下がりゆっくりと横に彼は倒れた。
いや、もはや彼とは呼べないか。
バギーカーの上で横たわるモノを、俺は抱え上げて砂の上に落とした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
バギーカーの上には先ほど俺が落としたモノの他にもう一つの者があった。
全身で息をしている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
胸が上下している。
そのたびにピンク色の乳首が淫靡に上下とさまよう。
そして、ジッと倒れたままの彼女の目が俺を見た。
「……何考えてんだ。俺は……俺にはあれぐらいの年の娘がいたっておかしくないんだぞ」
言葉を口にする。
だが、それは虚しく宙を飛んでいった。
———何故ならば、俺は今、彼女の身体の上に覆いかぶさっている。
空から降り注ぐ陽の光を、背中で受けて、少女に当たらないようにしている。
「動物じゃないんだ。俺は理性的な人間なんだ。こんな外で獣みたいにセックスをするわけがないだろう。例え法律がもうない滅びた世界だとしても。そんななかで裸の女の子がいきなり目の前に現れたとしても」
そうだ。
そんなことあるわけがない。
ここは核が落ちた被ばく地域だぞ?
生き物が生きていけるような場所じゃない。
そんな場所に、女の子がいるわけがない。
これは幻だ。
「…………」
少女は抵抗もせずに、じっと俺を見ている。
「———お前が悪いんだぞ」
こんな場所に———裸でいたんだから。
俺は、少女を犯した。