表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

童話

みにくいいぬのこ

 日本のいなかには、まだ、のらいぬが住んでいました。


 町ではもう、のらいぬは、保健所ほけんじょのおじさんにつかまえられて、いっぴきも歩いてはいません。ですが、いなかには、まだ、のらいぬも、住むことがゆるされていたのです。ああ、なんていなかは、素敵すてきなところなのでしょう!


 そんないなかに、だれも人が住んでいない、一軒いっけんの、古民家こみんかがありました。その軒下のきしたには、いぬのおかあさんが、住んでいました。



 ある日、いぬのおかあさんは、かわいいよんひきのこどもをうみました。おかあさんがよこになって寝そべると、おっぱいに、こいぬたちがすいつきます。いぬのおっぱいは六つもあるので、みんななかよくいっしょに飲めるのです。


「おや?」


 おかあさんは気がつきました。あまっているおっぱいが、ひとつしかないことに。うんだこいぬはよんひきだったはずなのに、おっぱいをすっているのがごひきいるのです。


「……かみさまのおくりものかしら?」


 そうおもって、きにしないことにしました。




 ごひきのこいぬたちはすくすくとそだちました。


 でも、そのなかに、いっぴきだけ、とてもかわったこいぬがいました。ほかのこはみんな耳がたれているのに、そのこだけピンととがっています。まっくろでまんまるな目をしているほかのことちがって、そのこだけおおきくてみどりいろの目をしています。みんなが「わん」となくなかで、そのこだけが「あん」となきました。



 たんぽぽの咲く野原をみんなでかけっこしている時も、みんなは元気にずっとはしっているそのそばで、そのこだけなんだか草のうえに『せ』をして、おしりをユラユラとゆらし、スキをねらってから飛びかかります。


「あはは!」

 こいぬたちは気にしませんでした。

「おまえはたまにかわった遊びかたをするよなぁ」

「そんなところがおもしろいよ」

「大好きだよ」


 みんなでなかよく一緒に遊びました。




 やがてみんなは思春期ししゅんきになりました。

 水たまりにうつったじぶんの顔を見て、かわったこいぬは思いました。


(なんでボクはみんなとちがった姿をしてるんだろう……)




 ある日、となりのナワバリからべつののらいぬの親子がやってきました。

 おかあさんは「ウウウ」とうなります。じぶんのこいぬたちにひどいことをされるかと思ったのです。

 ですが、べつのおかあさんから「こんにちは」とあいさつをされて、こどもたちが一緒になって遊びはじめたのを見ると、安心して、おひるねをはじめました。



「あはは!」

「あははは!」

 こどもたちは、からだはおおきくなったけど、気持ちはまだこどもで、みんなでコロコロころげまわって遊びます。

「きみたちのきょうだいは、かわってるね」

 べつのこどもたちが言いました。

「きょうだいのなかに、いっぴきだけ、ねこがいるんだね」


 かわったこいぬは、それを言われて、おこりだしました。

「ちがうよ! ボクはいぬだ!」


「あはは! いぬだって?」

「きみがもし、いぬなら、みにくいいぬのこになっちゃうよ?」

「じぶんをみとめなよ」

「ねこはねこらしく、それでもいぬと、なかよくはできるんだから」


「おまえ、ねこだったの?」

 きょうだいたちは、かわったいぬのこを取り囲むと、口々にしたを出し、言いました。

「どうりで、かわってるとおもった」

「おもしろいね!」

「ねこだなんて、おもしろいね!」




 かわったいぬのこは、じぶんを見つけました。

 彼らが言うとおり、彼はいぬではなく、ねこだったのです。

 うまれたての時におかあさんとはぐれて、よちよち歩いていた時に、いぬのおかあさんを見つけて、そのおっぱいに吸いついたのでした。




 やがていぬのお母さんはとしをとり、動くのがおっくうになっていきました。

 こどもたちはおかあさんをいたわって、かわりばんこでお世話をします。


 ねこは自由じゆうなものです。

 ひとりで歩くようになり、ひとりでネズミをつかまえて食べたり、高い木の上でひとりで寝たりするようになっていました。

 ねこのおよめさんにこねこをうませ、そだてさせながら、そのまわりをパトロールしたりもしていました。


 でもまいにち、かならずいぬのおかあさんのところへ行きます。

 おかあさんがしんどそうに顔をあげると、その顔をペロッとなめてあげます。


「おまえはねこなんだから……自由にお生き」


 おかあさんが笑いながら、「クゥン」となきながらそう言うと──


 ねこは一声ひとこえ、ちいさな声で「あん」とないてから、言いました。


「わたしはねこらしく生きています。でも、わたしを育ててくれたあなたのことが大好きなのです。だから、そばにいさせてください」


 そしておかあさんの横に一緒になって寝そべると、ペロリ、ペロリと、おかあさんのほっぺたをいとおしそうに、いつまでもなめていました。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ああ、カッコウみたいにこっそり忍び込ませたのかと思ってしまったワタシを叱って欲しい。 そこで神の贈り物と言えるお母さんが素晴らしいよね。 しかし、犬種が違うのかと思っていたら、猫だったとは。 猫くん、…
[一言] うわーーー!!!
2024/09/30 21:49 退会済み
管理
[良い点] じん、ときました。 最高の童話です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ