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追放令嬢は悪辣令嬢にランクアップして、がめつく生きる~婚約破棄するなら爵位も契約も破棄して国土追放も追加で!~

一度は書いてみたかった悪役令嬢ものです。短編って難しいです。

「シエスタ・クラエス! 貴様との婚約を破棄する!」




 呼び出され、王侯貴賓席となる一段上がった舞台から見下ろされる形で、高らかに宣言された。


 第五王子であるヒーフルースの最後となる学園夜会の会場は動揺を見せず、それどころか抑えた嘲笑や囁き声での会話が交わされる。

 噂という名の根回しが盛んに行われていたことは把握している。みな、今日はこの舞台を承知の上で参加しているのだろう。



 未熟で役立たずな令嬢の落ちていく舞台を観賞するために。




 金色の長い前髪をかき上げ、こちらを見下すように藍色の瞳を向ける王子を、背筋を伸ばして口元を袖の布で覆って静かに見返し対峙する。

 私はシエスタ・クラエス。現在は未だ第五王子の婚約者だ。


「どのような名目で破棄をされるのでしょうか」

「そんなことも分からないのか?

 まず、貴様は父である伯爵を失っている、後ろ盾のない伯爵令嬢であること。

 後ろ盾を持たない未成人の令嬢など、貴族としての社交力も碌になく、影響力も持たないだろう。

 次に、王族に連なる者として十分な魔力を持っていないこと。王子妃として国家に魔力を献上することもできていない。

 その上、何を考えているか知れないが、その奇妙な髪に奇抜な衣装を身に纏って、我がグリンチャイルド国で最も高貴な王族として相応しくない!」


 ヒーフルース王子のその指摘は全て事実だ。

 私は確かに後ろ盾のない伯爵家に連なる少女とも言える年齢の女性、令嬢と言えるだろう。

 親戚や寄親にあたる貴族の繋がりもないし、今年成人したヒーフルース王子の3才下の15歳となるため、まだ成人していない。そして、15歳は未成年にあたるが故に、貴族の力として必要な魔力も十分でないと思われる。

 

 貴族令嬢の髪は腰辺りまで伸ばして飾り立てることが一般的であるのに対し、私の茶色の髪は襟足で内巻きにカールしている。貴族令嬢とはいえない髪の長さであると言われている。

 奇抜といわれた衣装は、現在の流行として貴族女性が好んで身につける、レースをふんだんにあしらったプリンセスラインのドレスではなく、シンプルなマーメイドラインの白いドレスに薄布を何枚も体に巻きつけるように重ねて飾り立てているものだ。

 薄布を腕にも巻きつけ、袖をあしらっているし、肌の露出が多いわけではない。現在の流行とは異なるデザインのために珍しいだけだ。自身に似合わないものを着ても嘲笑を得るだけで尊敬は集めないのではとも思うが、これは影響力とも関連してくるだろう。


 後ろ盾も力も持たない令嬢が珍しい衣装を身につけていれば、槍玉に挙げられる。それに――


「基本的に外交などのない身分の王子妃といえど、王子妃としての教育があまりにも未熟だ。

 この10年で開発された新技術で、わが国は他国を大幅に引き離すことに成功しており、王族の外交頻度は格段にあがるが、その技術を身につけられていない!」


 ――そう。私は王子妃教育を受けていない。

 指摘された点から孤立しがちな令嬢は、お茶会へ呼ばれることもなければ、王子妃としての役割を学ぶような場は設けられていない。

 第五王子の王子妃として外交を行うことはないと言われていた。



「外交頻度が多くなる上で、王子妃として未熟で役に立たない令嬢との婚約は国益に反している。

 我々王族は、新技術の情報を守る義務をもつために他国の姫と婚約できないが、わが国にはすばらしい公爵令嬢がいる!」


 舞台上の金髪の演者は、片腕をふわりと持ち上げ、左後方へ誘うように手を伸ばした。

 あれだ、背泳ぎの腕の水かきフォーム。それか、イナバウワーの片腕。おっと、いけない。舞台を続けなきゃ。でも、語彙力がそろそろ悲鳴を上げてる。できるところまでは演じよう。


 静かに進み出てヒーフルースへ手を差し出したのは、さらりとなびく様に滑らかな赤毛のストレートヘアーを持つ女性。

 見事なストレートヘアーは髪を結い上げてもリボンからこぼれてしまうほどで、最小限の宝石が髪の上を踊っている。

 あの間違うことなき美髪はエレクア・ノーヴァン公爵令嬢! ホール内からもため息がもれてますな。


 ヒーフルースは目を細めて、差し出された手を優雅に受け、エスコートして舞台に舞い戻る。


「わが国有数の公爵家の筆頭であり、美しい才媛であるエレクア嬢こそが我が婚約者にふさわしい!」


 高らかに宣言した王子の声に呼応するように、ホール内から大きな拍手が巻き起こり、私の目の前に立つ二人は勝ち誇ったように笑っている。

 満場一致ですね、根回しカンペキ! そこで切り込みます!


「お待ちください、第五王子殿下!

 王子殿下のご所望は承知いたしました。しかしながら、王侯貴族の婚約とは婚姻の契約でございます。

 婚姻契約の破棄をなさると仰るのでしたら、婚姻のみならず、王族と我々とで交わされた全ての契約の破棄を望みます!」

「なんだと?」


 今までうんともすんとも言わず、無難な相槌しか返してこなかった役立たずな令嬢が、ここにきて口答えをするなんて思わなかったかな。

 見るからに不愉快気に顔をしかめるヒーフルース。

 そうね、そうよね。今この場で婚約破棄を叩きつけたのは、第五王子以上の強い権限を持つ王族が外交で出払っていて、今の時点で彼自身が一番権限を持つからだ。そして、そこにもともとあった役立たずな令嬢という悪評と、ノーヴァン公爵の後押しと後ろ盾効果があれば思惑通りになると思ったんだろう。


「お言葉を返すこととなりますが、新技術で他国を圧倒し栄華を誇るグリンチャイルド王家ですもの、婚姻に連なる契約も果たすものと、ご承知おきのことでございましょう。義務を破棄するのですから権利も同様であると。

 みなさまもご存知でしょう? 高貴なる者の義務を!」


 でも、ここはきっちりとまとめさせていただきますよ。

 この舞台を知りながら止めなかったこちらにも、止めなかった理由があるんだから。


「フン、受けてやろう。グリンチャイルドの名において」

「ありがたき幸せにございます」


 言質を取ったと同時にかぶせる様にお礼を返し、目配せで簡易の書見台とペンと書類3枚分を写しも合わせて用意させる。

 煩わしげにヒーフルースがサインをする。


『グリンチャイルドの名において』


 侍女と侍従の手によって戻ってきた書類に目を通して確認し、崩れそうになる口元を引き締めなおす。舞台はまだ終わっていない。


「婚約破棄となったのだ。貴様は王族の後ろ盾を無くしたも同然だ」

「さようでございますね。わたくし、貴族ではいられないでしょう。

 貴族籍を返上いたしますので、書類を提出いたしますわ。

 どうぞ、王子殿下の権限でご裁可をお願いいたします」


 ヒーフルースの傍にあった簡易の書見台とペンを移動させ、貴族籍の返上の書類にサインをする。

 既に準備されている書類にサインするだけだ。こちらがこの展開を見越していたと感づいたヒーフルースが、提出された書類を受け取り、さらに顔をしかめる。


 その書類を王族に連なるものの魔力を込めることで受諾されたこととなる。……そこまで実行されたことをしっかりと確認した。


「身分も権力もないのだ、わが国にも居られまい。わが国の土地を二度と踏むな」

「かしこまりました。この場にいらっしゃるみな様が証人となりましょう」


 どうしても己が優位に立っていると思いたいのか、殊更に私が無くしたものを強調する形で宣言するヒーフルース。

 なんで国外追放にしないのかしら。吹き出しそうになるのを堪えながら、湧き上がるものと共に、私は私にできる最高の笑顔を見せる。


 そして、ふわりとその場で足元を中に浮かせてみせた。

 魔法って便利だよね。風魔法とか水魔法を組み合わせれば、空中を歩くことができるのだから。



「は?」

「ふふ。いかがなさいまして?

 わが国の土地を二度と踏むなと仰ったのは王子殿下でございましょう。

 殿下のお望みの通りに、土地を踏んでおりませんわ」



 私の行動に理解が追いつかないのか、びっくりして固まっているヒーフルースを見ながら、にっこにこの満面の笑みを続ける。

 はしたないなんて言われても知らない。私は身分を返上したのだから、もう貴族でも何でもないんだから、何を気にする必要もない。好きにできるし、好きにしてやる!


「わたくしは王族との婚約の破棄を行い、貴族籍も返上いたしました。この国に対する義務を持ちませんの」


 グリンチャイルド国に帰属していないのだから、グリンチャイルド国の王族を敬う必要も、遜る必要もない。

 体の重心を後ろに傾け、何もないその場所に、イスに腰掛けるように腰を下ろすと、そのままふわりふわりと高度を上げていく。


 役立たずといわれていた私が、力を持たないといわれていた私が、彼らを見下ろす高さで悠然と腰掛けて笑う。

 ヒーフルースだけでなく、隣のエレクア公爵令嬢も、この舞台を観劇していた有象無象の貴族たちも、呆然と私を見ている。


 シャンデリアに触れられるほどの高度まで上がると、右腕を上に伸ばして、会場に響くように声をあげた。


「王子殿下の婚約者として、未来の王子妃として王族へ利を齎す義務も、グリンチャイルド国の貴族として王家に忠誠を誓う義務ももはやございません。

 ですから、わたくしの権利ものを全て返していただきますわ!」


 右手の中指と親指を接触させて指を鳴らし、その音に魔力を込めて会場中に高らかに響き渡らせる。




 同時に、舞台は暗幕を下ろしたように辺り一面が闇に包まれた。




「きゃぁぁああああああ!?」

「なんだ! 何が起こっている!?」


 先ほどまで煌々と輝いていたシャンデリアの明かりが一瞬に消えた。それだけでなく、会場の壁を沿うように輝いていた照明も一斉に消えたのだ。

 会場に居た王侯貴族の面々は恐慌状態に陥っている。騒然としている会場に、警備として配属されていた騎士がなだれ込むが、突然の暗がりに慣れるまでは状況を把握することも反撃に出ることも難しいだろう。


 その中で、会場の上階部分を覆っていたカーテンが次々に引かれ、外から夜空の星明りが入ってくる。

 会場に控える有能な侍従や侍女たちが一斉に行動し、明りを確保したのだ。


 その明かりに吸い寄せられるように、私は星明りを取り入れる窓の枠へ近づく。

 もちろん、腰掛けたりしないよ。この土地を二度と踏まない決まりだ。



「シエスタ! 貴様、何をした!」


 私の動きに反応したのはヒーフルースだった。いち早く、なのかな? 髪がうねうねし始めているエレクア公爵令嬢に抱きつかれていて、こちらを見上げて睨もうとしてるけど、口元がニヤけ気味だ。

 王子殿下~。かっこいいところを見せたいなら顔に気合を入れたほうがいいですよ。


「何を、と仰いましても。わたくしの権利ものを返していただいたのです。全て、ね」

「奇妙な力を使う忌まわしき魔女め! 貴様の持つ権利などあるものか! 早く明かりを元に戻せ!」

「あら、不思議なことを仰いますね。

 権利を持たないなら、明かりを元に戻すこともできませんし、魔力を持つ女性はみな魔女でございましょう?」


「屁理屈をこねるな! 揚げ足をとるな!

 わ、わが国の新技術を盗むものとして手配をかけるぞっっ!」

「貴方の国の技術であるならば、技術者による復旧も容易いでしょう?

 ……それに、新技術を盗まれたのはわたくし共だというものです」


「はぁ? 新技術はわが国の」

「では、先ほど破棄いただいた契約の内容をお話ししましょう。

 婚約時に交わされた契約は三つ。


『一つ、王族に連なる者として開発した根幹技術を管理すること』


『二つ、開発される新技術の貸与』


『三つ、所持している獣人・魔物の人間への隷属』 以上ですわ」


「…………は?」 


 ヒーフルースと楽しく掛け合いしていると、遠くから風をゆったりと切ってくる音が聞こえてくる。

 のんびり待っていたものが到着したようだ。


「貴方の国の新技術とそれに貢献していた労働力は、わたくしが創造し、所持し、管理していたものですから、全て返していただきますねっ♪」


 侍従と侍女が、機会を窺っていたかのように、私が寄せていた窓辺の大窓を開け放っていく。

 そこには、呼び寄せた飛空挺が風を巻き込む音を立てながら姿を現していた。タイミングぴったりだ。


「は? それはわが国が精力的に開発していた、技術の結晶の……」


 はい! 王子殿下、丁度いい説明をありがとうございます!

 最新技術の結晶の飛空挺だって、もちろん私が造っていたのだ。返してもらうのは当たり前だ。


「ええ。貸与していたわたくしの物なのですから、返していただきますの」 













 呼び寄せた飛空挺に乗り込み、



「それでは、ごきげんよう。次回は契約破棄により発生した技術の貸与料の取り立ての席でお会いしましょう」



 取立て屋の宣言をしてその場を後にした。















*********















「ぃやったああああああぁぁぁぁああ!!!! ついにやったわ!!!」



「シエスタ様、おめでとうございます!」

「お嬢様、必ずや遣り通していただけると信じておりました。開放していただき、ありがとうございます!」


 飛空挺のコックピットの艦長席にどっかりと座り、両手のぐーを高らかに突き上げた。なんのポーズだっけこれ、わすれちゃった。

 そんな私の背後にいる侍女と侍従から、祝福と感謝の言葉が掛けられる。合わせて、コックピットの操縦士として席についていたものたちからも一斉に拍手が送られる。みんなみんな、私を陰ながら支えてくれていた獣人族の人たちだ。


 ありがとう、みんな!! そしておめでとう!!!



「この場に居ないみんなも全員この船に乗り込めてる?」

「ええ、もちろんですとも。滞りなく乗り込み、点呼での確認も終えております」

「そう! よかったぁほんとに」


 あ、ガッツポーズって言うはずだこれ。と思い当たりながら、艦長席の背もたれに倒れこむ。

 ほんとよかった。あのクソ王族に目を付けられて、無理やり貴族にされて第五王子の婚約者にされて、いらない権利に紐付いている義務を利用されまくっていたのを、やっと取り戻せたのだ。


 グリンチャイルド国の新技術なんて国民や他国に通していたけれど、まったくの嘘っぱちだ。もともと、私が夢で見て魔力で捏ねて、それでもできなかったことを獣人のみんなが助けてくれて作ってきたものだ。

 私がグリンチャイルド国の貴族、伯爵令嬢だというのも嘘っぱちだ。もとは獣人族の集落に捨てられた孤児どころか浮浪児で、人質とられて捕まったときに無理やり押し付けられた貴族家の名前だし、その家の当主な女伯爵だし。領地も持っていない官僚貴族の地位で、税などの収入がないし。ぶっちゃけて言えば、貴族の地位なんていらないし。

 しかもいらない貴族地位どころか、無理やり婚約者にさせられて、未来の王族なんだからって、収入のない貴族だというのに無料で新技術を国で使えるようにさせられるわ、それを管理するから魔力は少なくなるわ、どんどん新技術を活かした製品を勝手に開発されるせいで魔力消費量は上乗せされていくわ、貴族や王族の婚約者としての教育なんかもなかったし、貴族や婚約者としてどころか、人間として尊重されたことも大切に扱われたこともない。

 扱いは孤児や浮浪児に対するもののままだったのに、義務だ義務だとこちらの力ばかりむしりとられただけだ。

 あのクソ王族、まじ滅べ!!


「あんなクソ王族もクソ国家のことも忘れましょう! どの国にも属さない無人島を整備してるんだから、われらのユートピアに行くわよ!」

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[一言] 読んだ感想としては、起承の前編だな。 転結な後編を期待する。
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