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長く続かない憩いの時間

(やってしまった、……やってしまった!)


 自分がしでかした事の面倒さに今更になって気づくリヒカ。気は隠していたが、最早それはなんの意味もなさないだろう。


(いやだって、我慢できなかったんだよぉ。ガキって何度も言うからだよぉ)


 青ざめ、涙ぐみがらもリヒカは目的であった町の飯屋へと到着した。

 このあとどんな顔で戻ったらいいのか、なんで皇太子がここにいたのか、気になることは沢山有るが、一旦落ち着くためにも美味しい食事が欲しいところだった。


 ドアを開け店内へと足を踏み入れると、中は冒険者らしき姿の者で賑わい、食欲をそそる香ばしい薫りが鼻を掠めた。

 入り口で立っていたら「空いてる席に適当に座ってくれ」とぶっきらぼうな声が聞こえ、出入り口に近い席へと腰を下ろした。

 

 早速メニューを見つめるリヒカ。散々迷った挙げ句、メニューにある肉料理を片っ端から注文していった。


「嬢ちゃんすげー頼むな! でもすまねえな、今はその半分くらいしか出せねぇんだわ」


 ガハハと笑いながら対応しているのは、この店の店主である大柄な男だった。


「ふぇえっ? ……それは残念。無心で食べまくりたかったのに。じゃあ半分でも良いのでお願いします。でも、何かあったんですか?」


「お前さん他所から来たんだろ。最近この辺りじゃ、採れなくなった作物が増えててな。おまけに、魔物も良く出るようになってよ……食料の確保が難しーんだわ」


 再びガハハと笑い「まぁ出来るものはすぐ作ってやるから、待ってな」と厨房へと入っていった。


 不作というやつなのだろうかと考えるもそれと同時にリヒカの頭にはてなが浮かんだ。


(輝石を使えば不作なんてすぐ解決するのに……。何か理由があるのかしら)


 輝石にはおおよそ二通りの使い方がある。魔道具の核として使用するか、そのまま力を増幅させて使うか。不作やらを解決するには後者が有効でゴルパンでは土地に川にと活用している。

 輝石は確かに貴重な代物だが、希少ではない。リヒカのような能力を持った者が国にいなくとも、宿屋の部屋なんかに無駄に散りばめなければ良いだけの話なのだ。


 リヒカはうんうんと一人頷いた。


(それにしてもなんで皇太子がいたのかしら。あの宿の豪華さ……不自然だったもの。絶対、王室御用達かむしろ宿じゃなく王室が管理してる建物だったんだわ! それに、魔物がこの町付近に集まっているのと関係あるのかしら)


 思わず考え込むリヒカを遮ったのは、肉が焼けた香ばしい匂いだった。


「おいおい……なに塞ぎこむように考えてるか知らねーが、料理が冷めちまう前に食ってくれよ!」


 どれ位考えてしまっていたのか、目線を上げればテーブルに次から次へと料理が置かれていく。どの料理からも湯気が立ち昇り、パチパチと油の跳ねる音は石の鉄板からだ。


 ごくりと唾をのみこみ、直ぐ様肉をわしづかみにして大きく一口。

 こんな町の飯屋で行儀やらマナーをとやかく言う輩はいない。心置きなく食べられるというもんだ。


「がっははは! 嬢ちゃん、見かけによらず随分豪快じゃねーか! 気に入ったぜ! ……がっはははっ」


「ふぉのにふ(この肉)、あふぅあはてふはひっす(油まで旨いです)!」


「んん? ……がぁーっははは!」


 口で弾ける肉、それと同時に肉汁が広がり鼻から香辛料の香りと一緒に抜けていく。胃に落ちた熱さが、不思議と気持ちまでホッとさせてくれた。


 しかし、それも長くは続かなかった。


 何かが壊れるような轟音と共に気のぶつかり合う気配がリヒカを現実へと引き戻した。


(この気の感じ、恐らく皇太子……とラズ、か。それと上級の魔物が一体と中級三体。中級のうち一体はこちらに向かってきてるな)


 途端に、口は肉を咀嚼しつつもその味はなくなり、ただの肉の塊となった。


 『任務』ではないとわかりつつも、魔物の気配を察知してしまえば嫌でも隊長モードに入ってしまうのは致し方がない。感情まではなくなっていないが、表情は固くなり、口調も変化してしまう。


「き、きゃああっ!」


 突如として、女性の叫び声が店中に響いた。と同時に、何かが建物の窓を割って部屋へと落ちるのが目に入った。

 その場からは動かず、気を張り巡らせ視線だけを窓の方へと向けるリヒカ。冷静沈着、暗殺における基本中の基本だ。

 落ちてきた物を囲うように店主の男や他の客達が駆け寄っていく。


「お、おいっ! あんた大丈夫かよ! しっかりしろ!」


「すぐに救護班を呼べっ! ……こりゃまずいぞ。止血しなきゃ死ぬが、この足はもうっ……」


 店主達の輪の真ん中にいたのは、騎士団の制服らしき物を着た若い青年だった。服は焼け焦げ、腕は血まみれ。そして片方の足は原型をとどめていないほどに潰れている。


(ちっ……ボブキメラの仕業か)


 ボブキメラは獲物の足を潰して逃げれなくし、捕まえて空中からふり落として止めを指すという方法で狩りをする。この騎士団員の傷を見るに典型的なそれであり、中級の魔物の気配も一致する。


 リヒカは直ぐ様ポケットより紙を取り出し宙へ放り投げた。


「防壁展開っ!」


 紙を中心に辺り一帯が白く淡い光に包まれたのを確認し、リヒカは倒れている騎士団員の元へと駆け寄った。



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