まさかの出会い
「今日はこちらのお部屋でお休みください」
そう言って案内されたのは最上階の部屋だった。大きな窓が二つあり、装飾には所々宝石が散りばめられている。まるで王族の人間が泊まるかのような部屋だった。
(こ、ここ……町の宿よね?)
リヒカが呆然とするのも無理はなかった。ゴルパンで宿と言えば、簡素な部屋に木で組まれたベッド、良い部屋ならそこにテーブルセットがあるくらいだ。
それに比べ、ここはあまりにも豪華で、逆にいうと宿と言うには不自然すぎる場所だった。
(ま、まぁ、今日一日泊まるだけだしね。気にしない! 気にしない!)
しかし、問題はもう一つある。
食事は後で部屋に運ばせると言っていたが、この様子だとリヒカの嫌いな冷めきった料理が出るのは明白だった。
リヒカにとって食事の重要度はとても高い。部隊の遠征で外の食事でも温かい料理が食べられるようにと魔道具を開発した。転移の魔道具も、もとは温かい料理を転移させるために開発したくらい、食事の優先度は高いのだ。
「やっぱり、……手段は一つよね」
リヒカは意を決してドアを開ける。
(ここで食べないで町の食堂にでも行っちゃえばいいのよ)
名案を思い付いたときのリヒカの行動は早い。
階段付近には護衛兼監視役であろう騎士が二人立っている……が、気配を完全に消せばなんの問題もなく通過。ちなみに足音は常時無音仕様だ。
一階に降り、階段から続くフロアを抜ければ外へ出れる。
人の合間を縫うように歩いていく。案外、気配を消すと誰も気づかないもので何人もの騎士達とすれ違ったが誰もリヒカに気づくことはなかった。正確には気にも止めなかった。
(楽勝ね。あとはこのドアを出れば――)
出入り口のドアへと手を伸ばす。
しかし、その瞬間ドアノブを掴むはずの指先は空を切り、バランスを崩した体が前のめりになる。ポスッと音を立てて顔から何かに突っ込んだ。
「……何故ガキがここにいる」
頭から振ってくるような声に、顔を上げる。すると透明に近い灰色の瞳がリヒカを捕らえていた。
「き、綺麗……」
自然と言葉が口からこぼれる。鋭い目付きだがその綺麗な色の瞳に吸い込まれそうだった。
「り、り、り、リヒカ様っ? な、何故ここに? 上のお部屋でお食事をと……いや、それよりも監視に付けた騎士はどうしたんだ」
聞き覚えのある声が、視界の横から顔を出す。明らかにバツの悪そうな顔をして現れたのはラズだった。
「知ってるのか? ……まさか、ガキの知り合いがいるとはな」
先程からガキガキと失礼なこの男、騎士団長であるラズと一緒にいてしかもこの言葉遣い、相当身分が上なのだろう。リヒカはこの男に見覚えがあるような気がしてふと考え込む。
(最近、何処かで見たような。この綺麗だけど不機嫌そうな顔に、瞳とは不釣り合いな真っ黒の髪。あと、なんだかほんの少し花の良い香りが……――あ、……あああっ!)
「だ、第一皇太子!」
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