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旅立ち

 城を出て少し行ったところで、一台のいかにも豪華絢爛な馬車が止まっているのが目に入った。そのすぐ傍には一人の男性が立っている。


(あの馬車が迎えの馬車に違いないと思うけど……)


 あまりの豪華さに若干引き気味のリヒカ。出来ることなら馬車を無視して素通りしたい。が、それに乗らないとエベレンヌ国に入ることも出来ない。


 仕方無しに馬車へと近づく。すると馬車の傍で立っていた男性がこちらに気づき笑顔を向けた。


「おやっ、お嬢ちゃん。こんなところで一人でどうしたんだい? ――あっ、もしかしてリヒカ様の侍女さんかな? 小さいのに働いて偉いねぇ」


 思わずリヒカは固まった。

 確かにゴルパンの国の女性は幼くみられやすい。背も低く、他国と比べると童顔な人が多い。けども、今日はドレスとは言わないがそれなりの生地を使った良い服を着て、それなりに化粧もしている。


(お、お、お嬢ちゃん……っ? じ、侍女?)

  

 リヒカのわずかばかりの女心をえぐられた。


「私が……、私が……」


「うん? 何か言ったかな?」


「わ、私がリヒカです! なにか問題がありますかっ?」


 一瞬の沈黙の後、男性は素早い動作でその場に片膝をついた。


「……あ、ご、ゴードリス・ファン・リヒカ様でいらっしゃいますね? 私はエベレンヌ国第二騎士団長のラズです。今回あなた様の護衛を仰せつかりました。……さぁ、レディ、お手をどうぞ」


 わざとらしくレディと呼び、軽やかな挨拶とともに馬車へとエスコートの手を差し出される。

 長い銀髪を後ろに結び、容姿端麗とはまさにこの事と思うほどの綺麗な顔の持ち主だが、そんなことで騙されるリヒカではない。

 

 だめ押しとばかりに、ウィンク付きの笑顔をお見舞いされる。


 その瞬間、スンッ――とリヒカの表情が無くなり、無言のままに手を取り、馬車へと乗り込んだ。



 ここからエベレンヌ国内へは馬車を半日ほど走らせればつく。しかし、そこは大国エベレンヌ。国内に入ってもそこから目的の場所である王城に着くまで更に一日かかるのだ。


「これからエベレンヌ国のカルドナという町に向かい、今日はそこで泊まります。明日の夕刻までには王城に着きますので、ご辛抱下さい」

 

「わかりました、大丈夫です。――出来れば馬で駆け抜けていきたいのだけど……宿まで辛抱ね」


 最後の言葉が聞かれることはなく、ラズは一礼すると自分の馬へと乗り、ラズの先導のもと馬車は動き出した。


 (さて、と。気を取り直して! 今のうちに作戦を立てないといけないわ。……間違っても婚約者に選ばれないようにするにはどうしたら良いか。……嫌われるように傲慢に振る舞う? それともネチネチぶりぶりの令嬢を演じたら良いかしら)


 作戦を立てようにも、エベレンヌ国第一皇太子、ミハエル・クラウディス・ルード。リヒカの知識はその名前くらいしか知らなかった。あとはメルセが言っていたような気がする、どうでも良い情報だけだ。


(うーん……、嫌われるにしても何が嫌いかわからないわ。極端に変なことをして、ゴルパンに迷惑をかける訳にいかないし)


 そこでリヒカはハッとする。選ばれないということは、選ぶだけの理由も印象もないということに他ならない。


(だったらっ! 印象に全く残らなければ良いんだわ! 気配を常に消して当たり障りのない対応をして、好かれるでもなく嫌われるでもなく、……そう! 空気になるのよ!)

 

 リヒカは一人歓喜の声を上げていた。

 

 ラズは何やら独り言が聞こえたり妙に揺れたりする馬車を不信に思いつつ、鋭い眼差しを馬車へと向ける。そこにはわずかな殺気が滲み出ていた。

 もちろん、対魔物部隊隊長であるリヒカがそれに気づかないはずもなかった。


(……あら、わかってはいたけどやっぱり私は歓迎されてはいないようね。それにしても、殺気をその対象者に気取られるなんて、まだまだ青いなぁ)


 リヒカは背もたれにもたれ大きなあくびをする。ついでだ、と気を張り巡らせカルドナまでの魔物の気配を索敵する。これも暗殺技術、気のコントロールの一つだ。もちろんラズに気取られないように行う。


(一、二……三、四。――うん、ざっと上級魔物が六体、上級以下は数十体ってところかしら。それもカルドナの町周辺に集まってる。 何か、意図を感じるわね)


 ふーっとため息が漏れる。

 馬車はゆっくりながらも順調にカルドナへと向かい、日が沈む頃、リヒカ達一行は無事に目的の宿へと到着した。

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