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リヒカのスイッチ

 黙々と食事を口へと運ぶ中、唐突にゼラーリが口を開く。


「――いいか、……必ず婚約者の地位をもぎ取れ」


「……はい(ふふふふ、家を出たらまず何をしようかしら)」


「もし失敗しても、お前が帰って来れる場所はここゴルパンにはないぞ」


「……はい(頼まれても帰りませんっ! まずは、城下に行って買い物もいいな。美味しいもの食べ歩きとか?)」


「あと、この国の詳細はエベレンヌの現国王しか知らない。だから皇太子は何も知らないからそのつもりでいろ」


「……はい(あー、早く! 日取りはいつかしら)」


「明後日の朝、迎えの馬車が来る。それまでに荷物をまとめおけ」


「……わかりました(明後日! ……明日でも良いのに)」


 ゼラーリとリヒカの全く噛み合わない会話がされていた時、リヒカの指にはめられたルビーの指輪が青く点滅する光を放った。


 いち早くそれに気づいたリヒカは指輪を口元へと近づける。


「……デリック、何かあったの?」


 まさか指輪に語りかけるリヒカ。一瞬の沈黙の後にどこからともなく男性の声が部屋へと響いた。


「……隊長っ! 町の西側にギプター数体が出現しました。現在、対魔物部隊数名にて応戦中です」


 この話をきいて、リヒカの脳内をカチッと

いう音が響く。と同時にリヒカの顔から表情が剥がれ落ちた。


「出現して何分だ? ――いや、いい。私が討伐に向かう。他の隊員は町の警護に回せ! デリック、お前は好きな方へ合流しろ」


 先ほどまでとは比べ物にならない程、低く冷気を含んだ声が部屋にこだまする。リヒカが言い終わると、青く光っていたルビーは綺麗な赤色の輝きを取り戻していた。


 能面のような顔のまま、リヒカは立ち上がり部屋のドアへと歩き出す。ドアを開けくるりと部屋へと向き直ると、ドレスの端を持ち上げ優雅にお辞儀をした。


「ゼラーリ陛下、魔物討伐任務が入りましたので、これにて失礼させていただきます。……先ほどのお話は、慎んでお受けさせて頂きますので。引き継ぎを含め、迎えに間に合うよう明後日にはこの国を出ていきます」


 最後にもう一度お辞儀をし、今度こそ部屋を出ていった。


 その様子を眉根を下げて見守るのはメルセだった。


「リヒカお嬢様が討伐に向かわれたのなら、ひとまず安心でこざいますね……陛下」


「あぁ。今後あれがいなくなれば、この国も忙しくなる」


「……しかし、本当によろしかったのですか? まるで国から追い出すような形になってしまい、私としても心苦しい結果に。それに、親子らしい会話も殆どされず……」


 メルセは心からの謝罪の気持ちでいっぱいだった。幼き頃より側で見守ってきた大切なお嬢様を手放すばかりか、必ず了承するとわかっていて、残酷な提案をしなければならなかったからだ。

 しかし、メルセの気持ちに反して聞こえてきたのはゼラーリの唸るような笑い声だった。


「くっくっ! もしや、リヒカが悲しんでる様子にでも見えたのかっ! ……あーっはっはっは! メルセ、お前には追加で鍛練が必要だな。……あいつには、これが、一番なんだよ」


 鍛練と言う単語にひぃっと小さく悲鳴をあげるメルセに最後の言葉は聞こえていなかった。

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