旅する二人
「聖女様、聖女様。いつになったら俺との約束守ってくださいます?」
「何度も申し上げたはずです。聖地に辿り着き、私の本当の力を取り戻したらお約束通り貴方の妻となりましょう。それまで私は唯の非力な娘にすぎませぬ。どうかお力をお貸しください。看守殿」
「せめてハグくらいしても良くないですか?」
「いけませぬ。聖地に着くまでは清らかな身体でないと。どうか我慢して下さいませ」
「そういってもう一か月経ちますけど、いつになったら聖地に着くんですかぁ?もう歩くのも飽きましたよぅ。もう聖地は諦めて俺とどっかの小さな教会で結婚式を上げましょうよぅ。俺は朝から晩まで働くし、聖女様をきっと幸せにしますよぅ」
「いけません。私には苦しんでいる民を助けるという責務があります」
「あれれれ、約束が違いませんかぁ?聖地に着いたら俺と結婚じゃなかったんですかぁ?はっ。これは流行りの結婚詐欺ですかぁ?」
「聖女である私がそんなことするわけないでしょう。約束は必ず守りますよ。ただし民を救ってからです」
「民はそんなにすぐに救えるもんですかぃ?一時間くらい?」
「御冗談を、看守殿。そんなすぐには聖女である私でも難しいですよ」
「結婚詐欺じゃないよねぇ?俺馬鹿だからなぁ」
「聖女である私がそんなことするわけないじゃないですか。私が信じられませんか?」
「嫌、信じるよ。どこにいるかわかんない神様より聖女様を信じてるよ、俺は。聖女様はこの世で俺が見たどんなものより綺麗で素晴らしいよ。俺馬鹿だからこの表現であってるかわからないけど」
「貴方にばかり苦労をさせて申し訳なく思っていますよ。食べ物の調達も寝床の確保も大変でしょう?」
「それは別に大変じゃないよ。聖女様を独り占めって思うと気分いいしぃ。見張りの頃と違って今はずっと俺と聖女様の二人きりだもんねぇ」
「貴方が連れ出してくれたおかげです。貴方の勇気に感謝しています。本当にありがとう。看守殿」
「本当に俺と結婚してくれるんだよねぇ?約束したもんねぇ?」
「勿論ですよ。聖女は嘘などつきません」
「ずっと一緒だよね?」
「はい。ずっと一緒ですよ」
「一生仲良く暮そうね。子供は沢山欲しいけど、もしできなくても俺別にいいからね。二人で楽しく暮そう」
「そうですね。そうなるといいですね」
「で、聖地ってこの道でホントにあってんの?」
「あってますよ。聖女は道を間違えたりしません」