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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第六章『理から外れし者』
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第五十五話:急襲

 イオの姿が見えなくなってから数秒後、ララが今の一連の流れに驚いた様に口を開いた。


「彼、何者なの? お医者さん?」

「さぁ、どうなんでしょう。私にも何が何だか」 

「それもそうね」


 ナユタと全く同じような感想を抱いているらしいララに笑みを浮かべてから、ナユタは彼女よりも少しだけ背の高いララに視線を向ける。

 改めて本当に綺麗な人だと思う。アリシア王国では珍しい黒髪に黒の瞳。白磁の肌にはシミ一つなく、高い位置にある腰からすらりと伸びた足が、彼女のスタイルの良さを物語っている。

 ナユタはそんな彼女を見上げて、少しだけ気になっていたことを口にする。


「…ララさん。二次作戦は、実行されるんでしょうか」


 一次作戦では想定以上の被害を被った。人員も物資も不足した状態で、本当に二次作戦を実行するのかナユタはずっと気掛かりだった。とはいえ、実行しなければ零層都市リディアが崩壊する事は目に見えているので、どの道やらなければならないのは理解していたが、それでも軍としての方針が気になる。

 ララはナユタに優し気な眼差しを向けてから、空を見上げて腕を組んだ。


「そうねー。多分、予定通り実施されるわ。大変な場所に来ちゃったわね」

「あはは。まぁそうですね」

「そうだ。私少し準備してくるから、そこで休んでてちょうだい」

「はい、ありがとうございます」


 ララは近くにあった長椅子の一つを指さして、足早にその場を後にする。一人になった後で、ナユタは去り際に彼女の口から放たれた言葉を、椅子に腰を下ろしながら振り返る。

 確かに、ただの受験生である自分の許容範囲を大幅に超えている事態が、次々と巻き起こっている。都市崩壊の危機なのだから当然だろうと思っていたが、初めての戦場にしては普通からあまりにかけ離れた戦場なのかもしれない。


「…疲れた」


 思わずため息と共に、そんな言葉が出る。ナユタは空を見上げながら、一度大きく息を吸うと、

 極限状態から抜け出したからだろうか、先程にも増して疲労が押し寄せてきていた。疲労に身を委ねて目を閉じていると、戻ってきたララが再び声をかけてくれた。


「これ、良かったら飲んで」


 彼女の声に目を開くと、ララは手に持っていた野戦用のステンレスカップを手渡してきた。暖かい飲み物が入っているようで、カップからは温もりが伝わってくる。


「これは?」

 

 首を傾げると、女性は近くにあった長椅子をナユタの元へと運びながら言う。


「ハーブティーよ。こんな場所であれだけれど、ティータイムにしましょう」


 相変わらず洒落た女性だ。ナユタはカップを受け取りながら、小さく頭を下げる。


「わざわざすみません」

「いいわよ。どうせ私も、周辺調査に行った部下達を待ってるだけだもの」


 そう言ってララは、ナユタの隣に腰を下ろした。彼女は目深に被っていた帽子を取って、黒色の髪と瞳を外気に晒した。ナユタは彼女の横顔を見上げて問う。


「あの、私はナユタといいます。ララ…少佐、でよろしいですよね?」


 先程は疲労が先行しており、朧げだった情報を精査するために問う。ナユタを驚いた様な目で見て来たララは、口元に手を当てて上品に笑った。


「ええ。いかにも階級は少佐よ。今回の防衛戦では、二次作戦の山岳爆破についての指揮を執らせてもらってるわ」

「すごいですね。随分とお若いのに、もう少佐になんて」

「そんなことないわ。この作戦を立案した、あなたのお友達の方が、ずっと凄いわよ」


 お友達、というのがイオを指しているというのは、ナユタにも理解できた。ララは微笑を浮かべて続ける。


「随分といい男の子じゃない。付き合ってるの?」

「え?」


 突然の問いに、ナユタは困惑した。

 こんな非常事態で何を言い出すんだ、この女性は。

 少しだけ呆れた様な苦笑を浮かべて、ナユタは言う。


「違いますよ。イオくんとは、ただの友達です」


 自分で言っておいてあれだが、随分と使い古された様な言い訳に聞こえた。

 ララはそれをにんまりとした笑みで、的確に突いてくる。


「ほんとうにそうなの?」

「そうですよ。浮ついた話を期待されていたなら、すみませんが」


 今のところは事実だ。

 ナユタがそう言うと、ララは何故か天を仰いだ。


「それは、もったいないわね」

「もったいない、ですか?」


 言っている意味が分からなくて、思わずナユタは聞き返してしまう。

 すると今度は、ララが呆れた顔でナユタを見やった。彼女は腕を組んで頷きながら答える。


「そうよ。強くて、頭も良くて、優しい。おまけに顔も良い」


 最後の一言は、完全にララの私情の様な気もしたが、ナユタは取り敢えず頷いておく。


「それは分かってますよ。イオくんは凄い人ですから」

「なら、どうして何もしないの? あなたくらいの歳なら、もう将来を考えても良い時期でしょう?」


 軍人だからか、或いは元来そういう性格なのか、ズバズバとナユタの領域に踏み込んでくるが、何故か嫌な気はしなかった。ナユタとしても、ララの意見は分からなくもない。王国では十代の後半にもなれば、そこそこ婚約に関する話は進んでいく。だからこそ、彼女はナユタにそう言ったのだろう。

 しかし、ナユタは首を横に振る。


「確かにイオくんは格好いい人で、私も当然興味はあります。でも今それを言っても彼を困らせてしまうだけですよ。それに、私にはまだやらなければならないことがありますから」


 ディーレシア大陸に置いてきた同胞達の弔いを放棄して、自分だけ幸せに暮らすなど、ナユタにはできない。助けを求める人を救い、ディーレシア大陸を奪還し、自分の為に亡くなった全ての人に報いる。それを成し得て初めて自分はイオに気持ちを伝える資格を持つ。少なくともナユタはそう思っていた。自分の心に通った一本の筋を、ナユタは決して曲げられない。

 ナユタの表情に何を感じたか、ララは寂しそうに呟いた。


「そう。あなたも大変な経験をした人なのね」

「分かるんですか?」

「ええ、もちろん。私自身がそうだったから、同じ境遇の人は感覚的に分かるわ」


 ララは自嘲気味に呟いて、寂しげな笑みを浮かべる。彼女の左手薬指に嵌められた”二つの指輪”が、きらりと光った。

 先を問うまでも無く、ナユタはララの言葉の意味を理解した。王国には、戦いで夫を失った女性が、夫の形見である指輪を自らの指輪に重ねる風習がある。彼女もきっと、そういった経験をした人物なのだろう。

 ナユタは何も言えない。彼女がどんな思いをしたのかは、ナユタには想像もできないから。

 二人の間に少しだけ沈黙が流れる。しかし、そんな空気を払拭するようにして、ララは背伸びをして立ち上がった。


「さ、調査に行った子も帰ってきたわ。私は仕事に戻るわ」


 帰ってきた兵士の姿を見止めると、ララは席を立つ。

 そして、近づいてきた一人の兵士に声を掛けた。


「お疲れ様。山は作戦通り崩せそうなの?」


 しかし、ララの問いに兵士は何も言わない。

 息が切れているのかとも思ったが、別段そういった訳では無い様だ。


「ねえ、ちょっと。聞いてるの?」


 ララの問いが、繰り返される。

 しかし、兵士はスタスタとララに近づくと、その口元に獰猛な笑みを浮かべた。それはとても、兵士が上官に向かって浮かべるとは思えないような、そんな笑みだった。

 その瞬間、ナユタは総毛立つ。兵士から放たれた異様な圧力が、ナユタの戦闘本能を刺激したからだ。


「さすがに怒るわよ! 全く、どうして何も」

「ララさん! 下がってください!」

「え?」


 咄嗟に走り出し、精神武器ガイズを展開する。驚いた様な目でこちらを振り返るララ。

 その一瞬の隙を見逃さず、兵士の手に握られていたナイフが、ララの首元を目掛けて一閃された。

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