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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第四章『崩壊の足音』
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第三十五話:謎の存在

「自由に調べてくれ。何か破壊できる手掛かりがあれば、共有してくれ」


 フッキがそう言って振り向きつつ、担当の兵士に交代の合図を出した。

 視線を向けられたイオは、ナユタと共に近づいて、物体を数回ノックする。


「どうかね」

「…まぁ、予想通り硬いっすよね」


 石より更に固い感触と硬質な音が返ってきたので、イオは思案しながら答える。

 隣ではナユタが進化聖剣フェードを展開していた。そして剣を一閃させたナユタは、驚きに目を見開く。


「…無傷、ですか」


 すこし離れた場所で、フッキが確認するように声を上げる。


「やはりナユタ嬢でも無理か?」


 頷きつつ、ナユタも少しだけ大きめの声で応じた。


「ええ。傷一つつきません」

「そうか…手ごたえはないか?」

「ないですね。これは何度やっても同じでしょう」

「了解だ。わざわざ悪かったな」



 それからフッキとナユタは何度か情報交換を行ったようだったが、その内容はイオの意識には投影されなかった。腕を組んで静かに思案していたイオに、話がひと段落したらしいナユタから声がかかる。


「……イオくんは、何か思いつきませんか?」


 だが、イオはその声に気がつかない。イオの頭の中は物体に関する情報精査で一杯だった。

 そもそも、戦団組合に所属し戦場に長いこといたイオが知らないものだ。幻魔関係であったとしても、共有できる情報は無い。となれば調べなければならない訳だが、実は自分が忘れているだけではないかという可能性に至ったイオは、自らの記憶を漁っている最中だった。ナユタの声かけに気がつけなかったのはそれが理由だ。


「イオくんってば!」


 その声でハッと意識を現実へと戻して、イオは声の主を目で追う。

 視線の先では、少し大きめの声を出したナユタがイオの顔を見上げてきていた。


「何か良い案は無いですか?」 

「良い案ねー」

 

 イオは再度目を瞑って思考する。

 しかし、記憶を片っ端から漁っても、それらしい情報を思い出すことはできない。結局イオも困った様な表情で応じるほかなかった。


「ナユタの精神武器ガイズでも切れないんだ。俺の剣でどうにかなるとも思えねえしな。魔法を使っても、結局中に浸透できないんじゃ意味が……」


 意味がない、そう言い切ろうとした途中で、イオはある可能性に気がつく。

 すぼみに消えた言葉を不思議に思ったのか、どうしたのかと問うてくるナユタに軽く手を手を上げて、イオは再び例の物体に歩み寄った。

 巨大な卵形の硬質な物体を今一度見上げてから、イオは静かに手のひらを物体に当てる。そして一つ呼吸を整えると体内で練り上げた魔力波を放った。

 物体を隅々まで透過して解析し尽くす青白い光が、物体全体を駆け抜ける。そして、その情報をイオに伝えようとしたその時だった。イオが期待していた通り、あるいはそれ以上の驚きの反応が物体から返ってくる。


「…うおぉっ!」


 物体の内側から膨大な魔力が放出され、逆にイオが吹き飛ばされる。


「い、イオくん!?」


 数メートル後方へ吹き飛ばされたイオは、空中で体を捻って何とか着地する事に成功する。

 その一連の流れを後ろで眺めていたフッキ達が、一瞬の間を置いて近づいてきた。


「大丈夫か? 何が起きた?」


 驚いた様に目を丸くしていたイオは、問うてきたフッキに説明する。


「あの物体の構造を調べようと思いまして、魔力波を放ってみました。すると中から、同じく高密度の魔力波で反撃されまして、魔力波は相殺されました。それらが対消滅する際に生じた衝撃波で、俺はここまで吹き飛ばされた、というわけです」 

「そうか。それは、随分と厄介なものということだな」

「そうなりますね」


 二人の会話を聞いてはいたが、ナユタはいまいち理解に欠ける様子だ。同じような表情を浮かべているフッキの部下達も、それは同様である。

 それらを代表して、ナユタが手を上げた。


「あの、一体何が厄介なんですか? 魔力バーストもありますし、そこまで珍しい事では無いと思うのですが」


 ナユタの言葉通り、強大な魔力の塊が一気に放出される「魔力バースト」という現象は広く知られている。そのため、魔力が非人為的に放出された今回の現象に、彼女達はなんら疑問を持たなかったのだ。

 問うたナユタに、フッキが答える。


「そうだ。しかし、今回は魔力が放たれたこと自体が問題なのではない」

「え?」

「高密度の魔力波、これが問題なのだ。イオ君は先ほど魔力波を放った。そして、それは間違いなく対消滅させられた。これは自然界では起こり得ない事なのだよ」

「ん~? 分かった様な分からないような…?」


 考えが纏まらないナユタに、立ち上がったイオは補足説明を加える。


「魔力波ってのは、ただ単に膨大な魔力をぶつけるだけじゃ、完全に消すことはできないんだよ」


 その辺にあった木の棒を拾い、ナユタの近くの地面に筆の代わりに木を走らせる。


「魔力波は調整された魔力の波だ」


イオは波打つ横棒を複数描く。


「だから魔力バーストみたいな膨大な魔力をぶつけられたら、基本的に破壊される」

「ち、ちょっと」


イオは地面に書いた波を、自らの靴でぐしゃぐしゃにした。

いきなりの奇行に驚きを隠せないナユタ達だが、それを棒で指しながら、イオは説明を続ける。


「そして残るのは魔力波の残滓と、巨大な魔力だけだ。つまり、逆に言えば魔力の残滓とぶつけられた魔力は残るんだよ。こんな風にな」


ぐしゃぐしゃになりつつも、少しだけ面影を残している波に、ナユタは納得した様に頷く。

そしてイオは、それを足の裏て払って、まっさらな状態にする。


「だけど、今回はそれが無かった。俺の魔力波が消えたのに、そこには何も無かったんだよ」


イオは地面に再び波打つ横棒を一本描く。そしてその下に、全く反対の形をした横棒を一本描いた。イオはそれを指しながら続ける。


「…対消滅って言ってな。魔力波を完全に消失させるためには、放たれた魔力波と全く反対の揺らぎを持つ魔力波をぶつけないといけねぇんだ。それも同じ魔力量でな。音とかも一緒だな」


 イオの言葉に、ナユタは驚きを隠せない。

 彼女は大きな碧眼を更に見開いて、あんぐりと口を開いた。


「そんなの、できる生命体がこの世に存在するんですか」


 ナユタの呟きにもとれる発言には、驚きが多分に含まれていた。

 当然だろう。魔術にある程度自信があるイオでも、その様な神業は無理だ。まして魔術に関して詳しいとは言え、まだ十代の少女であるナユタにしてみれば、当然の答えだろ。

 そもそも、放たれた魔力波を計器無くして観測する、これが容易ではない。例えて言うならば、一切の予備知識が無い状態で、街の街道から聞こえてくる音の周波を、聞いたその場で正確に言い当てる様なものだ。難しいなどという言葉が生易しいと感じる程の所業だ。

 しかし、イオは頷きながら、スタスタと数メートル歩く。

 そして、自らの魔力波を完璧に測って対消滅させた、謎の物体をコンコンと叩いた。


「存在する。だから今回、こいつは俺の魔力波を消失させることができたんだ」


 静まり返る一同をおいて、イオは振り返りながら物体を見上げる。

 しかし、これによって得られた情報はあった。

 イオは振り返って口の端を吊り上げる。


「つまりだ。今のでこいつが昔からここにある自然物だってていう線が完全に消えたって訳だ。まぁ最初に見た時からそんな訳ねえとは思ってたけどな」


 イオの言葉に頷いたフッキが、珍しく前側で腕組をして言葉を続ける。


「ふむ。それに先ほどの完璧なまでの魔力制御。反応速度も、魔力波の解析、改変速度も、到底人間業からはかけ離れている。こんなものが何故ここにいるのだ? 目的はなんだ?」


 思案するフッキに、イオは顔だけを振り向かせて答える。


「まぁ目的は分からないですけど、今のでもう一つ情報を手に入れました」

「強力な魔力波を扱えるということか?」

「それもそうですが、”コイツが俺達に情報を与えたくない”という情報も手に入れましたよ」


 イオの言葉に一同は首を傾げる。

 だが、フッキとナユタはすぐさま言葉の意味を理解したようで、大きく頷いた。

 納得顔でフッキが口を開く。


「確かにその通りだな。……さてイオ君よ。それでは幾つか質問させてもらえるかな」

「なんですか?」


 いきなりの質問だが、別段巨大物体について聞かれて困ることも無いし、そもそもイオとしても分かることは少ないのだ。

 しかし、フッキの問いは、イオの想像とは少し方向の異なるものだった。

 彼は人差し指を立てながら、巨大物体を見上げた。


「まず一つ目だが、これは我々に敵対していると思うか?」


 なるほど、そう来たかとイオは思う。

 物体に関する情報を直接聞くのではなく、イオの予想を聞こうとしているのだ。

 隠す理由も必要も無い為、イオは自らの考えを共有する。


「少なくとも友好的では無いですね。俺達に敵対するものか、関わりたがらない存在か、そのどちらかだとは思いますよ」


 イオは即答した。情報が少なくても、それは理解できたからだ。

 友好的であれば、多少の難色は示すにしろ、魔力波を対消滅させたりはしないだろう。

 それに、とイオは物体を見上げて思う。現状では、敵対していないという仮説はいらない。


「…そうだな。私もそう思う」


 頷きながら、フッキは中指も立てて続ける。


「次に二つ目だが、先ほどコレが見せた魔力制御。あれは正直人間業では無いと感じたが、あれは魔術をある程度訓練すれば誰でもできるのか?」

「何故それを俺に?」

「君の放った魔力波も、かなり高度な次元にあるものだと感じたからだ。私の直感はそうは外れんよ」


 彼の悪戯っぽく光った瞳を、イオは見逃さなかった。

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