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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第四章『崩壊の足音』
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第三十二話:魔法剣

 四体の幻魔をあっという間に屠ったイオに、ナユタが追いついてきた。

 イオは少しだけ感心する。思っていた数倍、彼女は速い。


「…イオくん、お待たせしました。幻魔も……全部倒してもらっちゃって、すみません」


 イオの背後でこと切れた四体の幻魔に目を向けながら、ナユタは苦笑する。

 戦闘経験のないナユタからすれば当然の驚きの中に、少し不完全燃焼そうな感情が紛れていた。いきなり四体の幻魔を相手にするというのはナユタには荷が重いと判断したが、一体くらいは彼女に倒させるべきだったかもしれない。


 そんな反省をしながらも、イオは軽く答える。


「このくらい全然いいって。…どうした?」


 倒れた幻魔を見つめて眉間に皺を寄せているナユタに声を掛けると、彼女はあわあわと左右に手を振りながら、力ない笑みを浮かべた。


「…ちょっと驚いてしまいまして。……イオくんって、こんなに強かったんですね」

「あー。まぁ、それなりにな」


 ナユタの言葉に、今度はイオが苦笑を浮かべる。


 戦いの最前線を日常としていたのだ。このくらいできなければ、命が幾つあっても足りない。

 だがそんなことを口にできる程、イオは開放的な性格ではない。ナユタを信用していないわけでは無いが、不必要な情報の拡散を防ぎたい気持ちがあった。まぁもっとも、先程の戦いを見られておいて今更情報の拡散も何も無いと思ってもいるが。

 ふと視線を感じて目を向けると、右手に携えたカーテナを、ナユタが興味深そうに見ていた。

 イオは首を傾げる。


「カーテナが気になるか?」

「気になったといいますか、珍しいなと思いまして」

「珍しいって、何がだ」


 イオの問いに、ナユタはうーんと考えながら答える。


「…イオくんの剣って、多分ですけど、魔術媒体ですよね」

「へー。なんでそう思う?」

「だってイオくん、音声認識で魔術発動させたじゃないですか」


 先ほどの戦闘を振り返ってたのだろう。どこか遠い目をしていたナユタが、イオに視線を向けてくる。

 存外よく見ている。

 イオは剣を掲げると、魔術を発動させながらナユタの言葉を肯定した。


「正解だ。ナユタが思ってる通り、俺の剣は魔術媒体になってる。……灯火フレイム


 ナユタは剣先に灯った小さな炎を眺めながら、納得した様子で言う。


「やっぱりそうでしたか。……おかしいと思ったんですよ。精神武器ガイズを使えないってことは、大抵の場合は魔力を駆使して戦いますよね。でもイオくんが杖みたいな装備を持ってきた様子はありませんでした。指輪とかも特につけてないみたいですし、それじゃあ難しい魔術は使えないじゃないですか。…でも剣が魔術媒体なら、さっきイオくんの声で魔術が切り替わったのも納得です」


 魔術を発動する際に、魔術名を呼ぶことは珍しいことでない。しかしそれは魔術媒体と呼ばれる武具を装備している場合に限る。


 魔術媒体とは、纏わせた魔力を登録しておいた魔術に変換する装備のことを指す。

 魔導士が持つ杖が分かりやすい例だろう。


 魔導士は杖に自らの魔力を纏わせ、音声認識を通して登録しておいた魔術を発動する。その為に音声認識と術式記憶に長けた”魔法石”を、杖の根幹部分として使用するのだ。

 

 魔法石は非常に有用だ。どんなに小さなものでも、一つであれば魔術を覚えさせられる。指輪などにして幾つかの魔術を音声発動できる様にしておけば、戦闘中に一々脳裏に魔術式を思い浮かべる必要も無い。それに、魔法石はどれだけ難易度の高い魔術でも、一度だけ記録することができれば、その後は使い放題だという利点がある。これが魔法石が重用される理由だ。


 魔法石無しで、複雑な魔術を発動することは困難を極める。魔術式を脳裏に完璧に思い浮かべなければならないからだ。

 それが短い文章や俳句ならいざ知らず、膨大な情報量を誇る魔術式を脳内に完璧に思い浮かべるなど、一般人にはまず不可能だ。それに、戦闘中に一々頭の中で思い浮かべている余裕なんてものはない無い。


 稀にそれが可能な天才と呼ばれる存在がいるが、少なくともイオには絶対無理だと言い切れる。


 だから正直、イオの戦闘スタイルはこの剣≪カーテナ≫に支えられているといっても過言ではない。

 あれだけの速さで魔術の切り替えができるのは、魔法石の力あってこそだ。

 紅の刀身の中に広がる夜空の様な模様を眺めていたナユタは、しばらくして改めて口を開く。


「それにしても、そんな凄い剣見たことないですよ。剣で魔術媒体なんて、相当腕のいい鍛冶師じゃないと作れないじゃないですよね。魔法石の加工は容易じゃないんですから」


 魔法石は加工が困難であることでも知られている。世界中の名工たちが、何度も挑んでは形にできずに敗北する、鍛冶師泣かせの石だ。

 そんなものを剣にしようと考え、また実行できる存在がいることを、ナユタは信じられないようだった。イオ自身も、実物が無ければ信じられないだろう。


「どこで買ったんですか? 高かったでしょう?」


 魔導士が用いる杖などは、それを形作る素材もそうだが、主に魔法石の大きさによって値段が変わる。何故なら、魔法石は大きければ大きい程、保存できる魔術数と魔術の発動スピードが上昇するからだ。

 まして、それを加工した剣ともなれば、精神武器ガイズが主要武器である現代でも、その価値は計り知れない。

 しかし、イオもそれは知らない情報だった。彼は残念そうに首を横に振る。


「…実はこれ貰い物なんだよな。師匠の古い知り合いって人から、何年か前に譲り受けたんだ」


 イオはその時の事を、今でも朧げながら覚えている。

 ナユタはイオの言葉に、目を見開いた。


「そ、そんな高価なものを譲った人がいるんですか? もしかして、それはイオくんを凄く大事に思っている人とか」

「大事かどうかは知らんが、ただ一回あっただけだな」

「一回あっただけ!? ど、どんな大富豪ですかそれ」

「さあな。俺も知らねえし、師匠と連絡付かない今となっちゃ確かめる方法もねえ」


 イオはそう言いながら、剣をパチンと鞘に納めた。

 戦団員はイオが思っていた以上に異動が激しい職業だらしい。第四戦線にいるイラスに連絡をとったところ、第四戦線支部から「既に第四戦線にはいない」という言われて驚いた。本人から聞いていない以上、彼が今どこで何をしているのか、イオには確かめようもない。よってカーテナを譲ってくれた人物、並びにそれを作った人物に関する手がかりは失われているのだ。

 やれやれと首を左右に振りながら、前方を指さしながら意識を戦場へと戻し、ナユタにも行動を促す。


「さて、フッキ指揮官達も先に進んでる。俺らも他の幻魔は無視していくぞ」

「は、はい!」


 イオやナユタの視線の先十数メートルの所を、今も数体の幻魔が走り抜けていく。

 しかし彼らは、それを無視して前に進む。同様に前進を続ける指揮官、フッキが吠えた。


「通り抜けた幻魔は後列に任せろ! 我々はとにかく前線で数を減らす! 平地は最短で通り抜けろ! 我々の目的は森に控える敵主力の群れだ!! 最高効率で敵を殺せ!」


 フッキの言葉通り、リスティア大森林を目指して、兵士達は前進を続ける。

 作戦通り、幻魔達は突撃の力を陣形によって分散され、勢いを失いつつある。避けれど避けれど、兵士が次々と目の前に現れるこの陣形は戦団でも用いられる戦術で、数的不利な状況で有効的な立ち回りで、少ない犠牲で多くの幻魔を倒せるように考案されたものだ。


「…しかしまあ、王道じゃないこの陣形をよく知ってたな。流石に指揮官ってだけある」


 呟きつつ、イオは目の前に躍り出た幻魔を切り裂いた。

 絶命した幻魔がイオに向かって倒れこんでくる。イオは立ち止まることなくそれを回避して、慣れた様子で辺りを見回す。隊列が作戦通り機能していることを確認すると、彼は前方を見やった。

 ここ数分で随分と森に近づいたようで、視界の大半は巨大な木々が覆い、空に広がる曇天は僅かしか見えない。

 隣でナユタは緊張した面持ちで巨大な木々を見据えている。


「いよいよ森が近づいてきましたね。ここから前列は前後左右に隊列を広げて、索敵範囲を広げる。中後列は前列索敵の情報を元に隊列を展開する、ですよね」

「ああ。作戦通りにな」


 フッキ達が考案した作戦第二段階の内容を復唱したナユタに頷くと、辺りに再びフッキの声が響いた。


「これより森に侵入する! 前列の兵はそれぞれ等間隔に広がり、索敵範囲を広げろ!」


 了解、という声が返り、前列のペア達は互いに距離を取り始めた。その間隔は前後左右、それぞれ三〇メートルほどだ。

 右前列の担当であるイオとナユタもそれに倣って、右方向へ走り出す。

 暫く走りながら陣形を整えた中央軍は、ついに森に突入した。

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