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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第三章『平和の瓦解』
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第二十九話:装備調達と配置確認

 外に出て開口一番、ナユタが長い息を吐く。


「はあぁぁぁ。疲れました」


 屈強な戦士たちが集う場所だ。独特の空気感に包まれているし、特に女性が少なかった事もあるだろう。ナユタにとっては疲れる作戦会議だったに違いない。


「お疲れ」

「ありがとうございます」

 

 イオの労いに答えて、ナユタは気を取り直す。


「それでは、とりあえず、装備貰いにいきますか?」

「だな。流石にこのままじゃ不安だし」


 現在二人は学院の実技試験用の格好のままだ。確かに通常の服に比べれば多少は防御できるが、どうしても防御力には不安が残る。

 二人は事前に確認していた装備の配布所へと歩き出した。


「…それにしても、レール少佐とのやり取りはハラハラしましたよ。あんまり無茶はしないでください」


 歩いて暫くすると、隣から抗議の声があがる。

 イオ自身、確かにあの発言は危険なものだったと自覚している。しかし、それでもしなければいけない理由があった。

 珍しくムッとした表情のナユタに、イオは苦笑した。


「俺としても曲げられないものがあったんだよ」

「誰一人無駄死にさせたくない、ってことですか?」

「ああ」


 むすっとした表情のまま、ナユタは唇を尖らせる。


「それは私も同じ意見です。でも、無暗に敵を作らないでください。その点がイオくんの問題点だと、私は思います」


 そう怒った彼女の横顔に、過去の記憶が重なる。

 数秒間呆けていたイオは、何かを堪える様に声を零す。


「…ああ。そうだな」


 呟いたイオの脳裏に、今も瞼に焼き付いて離れない光景が広がる。

 焼き尽くされた自らの周囲と破壊された建物。そして姉の死。

 イオは思い出したくも無い記憶を振り払って、ナユタに顔を向けた。


「…それに悪いとは思ってるさ。危ない橋を渡ったのも、戦闘経験があるのを黙ってたことも」


 イオは戦団に加入している事をナユタに明かしていないし、今も明かせない。正直彼女になら明かしても良い気がしたが、まだ明かす必要も無い気がして、イオは言葉を濁す。

 しかしナユタは、何とでもない様子で答える。


「そんなことですか。それは構いませんよ。人に明かしたくないことなんて、誰しも持っているものですから。私だってイオくんに秘密にしていること、ありますし」


 イオとしては嫌われるのを覚悟していただけあって、彼女の軽い言葉には随分と面食らった。

 ナユタは顔をイオに向けて、柔らかな笑みを浮かべて続ける。


「もし話したくなったら、その時話します。良かったら、イオくんもそうしてください。ずっと相手に申し訳ないと思っていたら、話せるものも話せなくなってしまいますから。…それに、秘密があったほうが、もっと相手のことを知りたいって思えて、なんだか素敵じゃないですか?」

「そんなもんかね」

「ええ。そういうものです」


 そう言い切ったナユタは、周囲を見回すと、ある一つのテントに目をつけた。


「あ、ありました。装備配布所はあそこみたいですね」


 歩く方向を変えたナユタにイオもついていく。

 近づいてきて気が付いたが、随分と小さなテントだった。先程の作戦会議を行った大テントに比べると、三分の一程度の大きさしかない。

 イオは天幕を捲ってテントの中に入る。

 中には、帽子、トップス、ボトムス、ブーツ、計五つ分の装備棚があった。それぞれ異なるサイズのものが置かれており、それを自由にとっていくシステムの様である。無料配布であることも手伝って、丁寧に畳まれたり整頓されたりして置かれてはいるが、店員はいない。

 装備は紺色を主体としたアリシア王国軍の一般的な帽子で簡易的な魔力付与もされている為、多少の攻撃は防いでくれるであろう気休めを感じた。

 そうして全ての装備を取り終えて外に出たイオの隣。遅れて出て来たナユタが辺りを見回して呟いた。


「試着室とかは…」

「見た感じ無さそうだな。俺は別に構わないとしても、ナユタはそういう訳にもいかねえよな」

「そうですね。すみません」

「良いって。仕方ねえよ」


 非常事態であるとはいえ、そればかりはどうしようもない。

 イオはそう思って辺りを見回すが、どうも着替えに使える様なテントは無い。だが幸いなことに、支給品が置かれているテントにやってくるような軍人はいない様子だった。

 それならばと、イオは背後のテントを指で指しながらナユタに言った。


「俺は外で着替えてるから、ナユタは中で着替えて来いよ」

「え? でもイオくんは…」

「俺の着替えなんか、誰も興味ねえから問題ないって。それに俺は別に気にしないし」

「そ、そうですか。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」


 ナユタは照れ臭そうに、装備を胸に抱えて笑うと、静々とテントに入っていった。

 彼女を見送ったイオも、近くにあったベンチをテントの近くに持ってきて、そそくさと着替えを始める。

 若干の迷彩柄になっている紺色のボトムスを履いて、ベルトで固定する。そしてブーツを履いて紐をきつく締めた。その上にボトムスをかぶせて、付属でついてきた伸縮性が高い紐で固定する。次にトップスを羽織れば着替え自体は完了だ。もともとインナーシャツを着ていたこともあって、イオの着替えは随分と短い時間で終了する。

 しかし、ナユタはそうもいかないだろう。ふとそう思ったイオは、腰に提げていたカーテナを抜いて、常日頃から持ち歩いている研磨剤で手入れを始めた。

 それから数分後に、ナユタはテントから出てきた。


「すみません。おまたせしました」 


 そう詫びるナユタは、少しだけいつもと雰囲気が異なる様な気がした。

 ベルトを腰の辺りでしっかりと締めている影響か、いつもよりも彼女の体つきがはっきりと出ている。こうして改めてみると、ナユタは小顔でスタイルが良い。ぱっと見で七頭身くらいだろうか。

 ナユタをじっと見ていると、彼女は目を逸らして、顔を手で扇いだ。


「な、なんですか。あんまりじっとみないでください。この服、あんまり可愛くないですから」

「そうか? いつもの服もいいけど、軍服だって似合ってると思うけどな」


 本心だった。


「そ、そうでしょうか。ありがとうございます」


 そして、照れたのかイオの腕を引っ張りながら、彼に顔を見られないようにして、少し大きめの声で言った。


「そ、それではっ。もうすぐ作戦が始まりますから、私達も配置につきましょう」

「そうだな。…持ち場は中央軍か。こりゃまた厳しい場所に送られたもんだ」

「ええ。心してかかりましょう」


 そう言うナユタの手が少しだけ震えていたのを、イオは確かに感じ取っていた。

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