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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第三章『平和の瓦解』
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第二十八話:秘密の欠片

「ここに書かれているのは、遺跡の内外における、同一種の幻魔の行動の違いです」


 イオは再び指を鳴らして、ホログラムを切り替える。所々ぼやけたり掠れたりしているのは、この写真をイオの記憶から引っ張ってきているからなのだろう。彼自身の興味関心が及ばなかった部分に関しては鮮明に映らない。

 しかし、大部分は写真と見紛う程詳細に映っていた。今映し出されている二軸のグラフも、大変鮮明に映っている。


「左側のグラフが遺跡外での、幻魔の各種行動の数値、右側が遺跡内での数値です。見ていただければわかるかと思いますが、僅かに幻魔の行動が鈍ったと見て取れます」

「ふむ。そうだな。して、作戦とは?」

「俺の作戦は、この仮説をあてにします。幻魔を敢えてリスティア湖に招き入れ、集中した所を精鋭部隊で交代して叩くという作戦です」


 イオの作戦はナユタが想像していたよりも、非常に大胆なものだった。

 正直言って信憑性に乏しい仮定を元に、危険度の高い行動を執ると宣言した彼に、周囲から注目が集まる。


「幻魔がリスティア湖の東西を抜けていく可能性には、どう対処する?」

「あらかじめ、左右の山を破壊する事で自然の壁を作ります。崩れた岩や土砂がリスティア湖まで達すれば理想ですが、おそらくそれは難しいでしょう。その為、精鋭班以外の人材はこちらの防衛に宛てます。幻魔がリスティア湖に入ってしまえば、あとは精鋭班が仕留める手筈です。…ざっとこんな所です。まだまだ改善点はありますがね」

「…なるほどな。左右の山を崩す、か。これは考えてもみなかったな」

「勝手に山を崩したら、国のお偉いさんから怒られますけどね」

「ふっ。確かにそうかもしれん。だが、有事だ。リディア壊滅に比べればこの程度の観光名所の損失など、大した問題では無い」

「そうだとありがたいんですけどね」


 地図を見上げたままのフッキに、イオも自らの思考を加速させているようだった。

 周りの兵士達も、イオの案を値踏みしている。まだまだ少年と呼べる彼の意見を鼻で嗤わない辺り、彼らも気持ちを新たに会議に取り組んでいるのだろう。皆が生き残る可能性が少しでも上がる策を採用する。それはフッキはじめ、全ての軍人に共通する新たな意識だ。

 ナユタは後ろの席で二人の背中をぼうっと見ていたが、いつの間にかこの場に溶け込んでしまっているイオに、時間を置いて改めて驚いた。

 あれだけ大胆な作戦を立案し、提案できる辺り、彼と言う人間の経験値の多さと豪胆さが伺える。もはやこうなっては戦場にいた経験があることは明らかだが、ナユタ自身特殊な過去を持つので、別段彼の隠された身分に驚きはしない。それを隠していた事に関しても、彼女もまたイオに隠していることがあるため、別に気にしていない。

 すこし緊張が解け、上の空になってきた所でフッキが再び口を開いた。


「…イオ君の意見、確かに筋は通っている。少々博打が過ぎるところはあるがな。何か補足したい点はあるか?」

「いえ、今のところは」

「そうか。ならば軍の諸君はどうだ?……レール少佐」

「はっ。作戦の成功率は、どちらの作戦の方が高いのか、それだけが気掛かりです」


 難しい表情をしているレールだが、別段イオの意見をこけにしようと企んでいる訳ではないようだった。その顔に浮かんでいるのは、単純な疑問。意外といっては失礼にあたるかもしれないが、彼は先ほどの一悶着について、心の中で整理をつけているようだった。流石に軍を一つ任される軍人だけある。

 イオは現状を踏まえて、指を二本立てた。


「…俺の作戦の成功率は、二十パーセントほどです。もともと難しい局面ですから、作戦成功率を上げるためには、どうしても時間が必要になる」

「それはそうだな。…観測班、軍の作戦はどの程度だと思う?」


 レールは彼の左手に控える幻魔観測班の班長に意見を問うた。

 丸眼鏡をした気弱そうな人物は、座ったままか細い声を発する。


「…げ、幻魔の構成がある程度判明しているとはいえ、不確定要素は多いですから、成功率も不安定になります。幻魔が観測された構成に類似しているのであれば、四十パーセントを上回りますが、逆に未知の幻魔や難度Aの幻魔が更に確認された場合は、職務放棄と思われるかもしれませんが、もはや予想すらできません」

「不安定な四十パーセントと、博打込みの二十パーセントか」


 レールは椅子に更に深く腰掛けて、腕を組んで目を瞑った。

 その一連のやり取りを耳に入れていたフッキが、地図から兵士達に向き直って言う。


「どの道、既に幻魔が侵攻している以上、ここで長々と話している暇も、再び観測班を送り出す時間も無い。作戦は変わらず、軍立案のものでいく。良いな」

「「「はっ」」」


 イオの意見が採用されなかったことを残念に思いながらも、ナユタは返事をする。しかしフッキは、ナユタの顔を見て淡い笑みを浮かべた後、言葉を続けた。


「そして、イオ君の案を二次作戦に採用する。彼の案ならば、人数が減少した状態でも我々は軍として機能できる。勿論上方修正を行いつつ、後方支援班に準備を進めさせる事とする。異論は?」


 兵士達の沈黙が返る。それはつまり、イオの案が兵士達に認められたことを意味していた。

 ナユタはイオの案が採用された嬉しさと誇らしさで、思わず笑みを浮かべてしまう。高鳴る胸と腹の底から湧き上がってくる高揚を抑え込んで、ナユタは上気した頬のまま、拳をぎゅっと握った。

 フッキは再度真剣な表情へと戻って、地図を叩く。


「…よろしい。繰り返すが、二次作戦に移行した場合は、兵力が低下しているのは明らかだ。イオ君の案があるとしても、人数が低下した状態での作戦成功率は二十パーセントを下回るだろう」


 緊張した面持ちの兵士達に、フッキは怒鳴るように告げる。


「いいか! 二次作戦があるからといって、それに甘えるな! 一次作戦で幻魔を制圧する事が、我々の目的だ!」

「「「はっ」」」

「そして貴様らと、可愛い部下達が生きて愛する者の元へと返ること。これが最善であることを忘れるな! 手抜きは許さんが、厳しい状況になった場合には、撤退、救援要請を優先しろ! 死ぬことは許さん!」

「「「はっ!!」」」


 兵士達の、今日一番の返事に満足した様子のフッキは、険しい表情ではあるがしっかりと頷いて、乱れた襟を正す。


「…作戦開始は三十分後だ。各軍隊長は指揮の準備、部隊長は部下達への連絡を怠るな。では解散!」


 フッキが敬礼をすると、みなが立ち上がってそれに答えた。


「「「「はっ」」」」


 皆の返事が綺麗に揃い、次々にテントを出ていく。

 ぞろぞろと歩き出した軍人達に続いて、イオとナユタもテント外へ出た。

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