第十八話:疑問と応援
「…破壊ノ幻魔は味方も敵も、何もかもを全てを葬り去った。それがイオ君の身に起きた不幸で、世間には広く公開されていない”第四戦線襲撃事件”の真相さ。……そしてそこから先は、君も知っての通りだよ」
自らの過去を語り終えたヴァイゼンは、静かにナユタに笑いかける。その意味を理解していたナユタは首を縦に振った。
「”第四戦線襲撃事件”。第四戦線に突如現れた破壊ノ幻魔を、その場に駆け付けた”カリスト”という戦団員が単独で撃破したという事件です。そして第四戦線の英雄になったカリストは、後に”新星”の称号を授かったと。……確かにそれは知っていますが、連合軍が壊滅していたとは知りませんでした」
そう、知らなった。
ナユタはヴァイゼンが経験した壮絶な体験を、知識の一環として学んでいた。だがまさか、公表されている情報と真実にこれほどまでの乖離があるとは思わなかった。
しかしそれ以上に、ナユタには気になる点が一つある。
「でも、破壊ノ幻魔の攻撃を受けて、どうしてイオくんは無事だったんですか? 連合軍を一瞬にして壊滅させ、更には数十キロ離れていた本部ですら死人が出たというのに」
ナユタの問いに、ヴァイゼンは静かに首を横に振った。
「さぁ、詳しい理由は僕も分からない。イオ君に聞いてみたけれど、彼は破壊ノ幻魔と遭遇した近辺の記憶がないみたいなんだ。…ただ一つ明らかなのは、イオ君を守ったのが彼の姉だったということ。彼の姉はイオ君を庇って亡くなったそうだ。……そしてそれを理解しているからか、あの戦いで姉を失ったイオ君は、それまで以上に力に固執するようになった。彼は力を求める理由を、姉の仇を討つ為と君に伝えたんだよね?」
「はい」
「そうか。……まぁもちろん彼にそのつもりがあるのは事実だろう。けれど僕が考えるに、彼が真に力を求める理由は違うと思うんだ」
ヴァイゼンの目線が動いて、ナユタがそれに釣られてその先を見ると、もう次の受験生達が入場してきているところだった。ヴァイゼンはリングに入場してきたイオに視線を向けて続ける。
「…もう自分の弱さで誰かを危険に晒したくない。大切な人を失いたくない。そんな切実な願いが彼にはあるんじゃないかな」
かつて自分の力が及ばず、姉を失ってしまったイオ。今ならナユタにも、彼が力を求める理由が復讐だけでは無いと分かる。
入場してきたイオは平生の様に落ち着き払った様子だが、何故だかナユタには、それがとても寂しそうに見えた。やはり彼は自分と同じように、今を生きることができていない。二年前に姉を失ったその時から、きっと寂しさと後悔の中に囚われたままなのだろう。
ナユタが眉を潜めてイオを見据えていると、語り終えたヴァイゼンが、気持ちを切り替えて笑みを浮かべた。
「…さて、これがイオ君の過去に起こった事件と、僕が考え得る、イオ君が力を求める理由だよ。僕の主観が多分に含まれているから実際は違うかもしれないけれど、とにかく君には伝えたよ」
「はい。ありがとうございました」
ナユタはそう言って小さく頭を下げる。感謝の意を伝えると、ヴァイゼンは片手を上げてそれに答えた。
「まあ多くは僕自身の過去だから、それを心に留めておいておくれ。あ、あとこれはイオ君には内緒で頼むよ」
「ええ、分かっています」
微笑を浮かべたナユタは、リングに向かったイオに心の中で応援を送った。




