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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第二章『第三任務を果たすには』
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第十四話:実技試験と過去話

 筆記試験を突破したイオ達受験生は、次なるステージへとその足を進めた。

 先の試験が知識と知性を問うものであれば、これは己の強さを示す場である。

 形式はグループ内スコアでの勝ち抜き戦。一回戦で二百名の入学者が決まり、最終的に一位グループが決定するまで戦いは続く。基本的に上位になるほど得点が高く、先の筆記試験の結果と合わせて今年の入試の順位が決定するのだ。


 そして今、ついに第一グループの試験が幕を開ける。

 観戦を許された受験者達の視線は中央のリングに集中していた。当代最強の精神武器ガイズ使いとまで呼ばれる、第三王女ティルファニア・ルイ・シクシス・アリシアの戦いが見られるからだ。


「…王女様、大丈夫ですかね」


 上段の客席で、隣に座っているナユタが心配そうにリングに上がった王女ティルファニアを見つめた。

 イオは、試験前に事前に配られていた戦闘用の服に身を包んだティルファニアから溢れ出る闘気を感じて首を縦に振った。


「大丈夫だろうさ。やる気は十分だし、それに魔力の流れも淀み無い。精神武器(ガイズ)は分かんないけど、初戦落ちなんて事はないと思うぞ」


 イオはティルファニアの状態を調べる為に魔力波を放ちつつ呟く。

 すると、一瞬だけびくっとなったティルファニアがイオ達の方へと視線を向けてきた。彼女の透き通った翡翠の瞳がイオを真っ直ぐに捉えて、淡い笑みを浮かべた彼女の口が動く。


(もう、びっくりしたよ)


 彼女の口の動きからその言葉を理解したイオは、下手な口笛を吹きながら視線を逸らした。

 どうやらバレたらしい。彼女が魔力波に気がついたのは予想外だった。魔力操作に長ける者は、自らの体を通り抜けた他人の魔力を知覚する事ができるが、ティルファニアは魔術の腕も立つらしい。


「…」


 イオがチラリと視線をリングに戻すと、中央に立つ試験官が丁度口を開いた。


「それではこれより、実技試験を始めます。詳細を我が学院のヴァイゼン学院長よりお聞きします。学院長お願いします」


 試験官がそう言い終わると、教師席にいたヴァイゼンがマイクに向かって声を放ちながら、手を振った。


『はいは~い。やあやあ受験生諸君。まずは一次試験の突破、おめでとう。それじゃ早速だけど、実技試験について説明するよ』


 魔術で学院長の声が会場中に響きわたる。


『実技試験は、今年も例年通り仮想幻魔との戦いだ。基本的にはみんな詳細も分かってると思うけど、一応最後に説明しとくね。試験では、これから使う魔術を使って生み出される、仮想の幻魔と戦ってもらう。諸君はそれぞれのグループで個人戦を行い、討伐速度、伸び代、教師達の判断、以上の総合点で上位半分に入った者が、晴れて学院に入学できる』


 つまりは、幻魔を倒すだけでは不十分だという事だろう。

 その際に、どれだけ早く、成長の可能性を示し、自らの有用性を示せるかが重要になってくる。


 ヴァイゼンは、思い出した様に続ける。


『あ、そうだそうだ。今年は例年と違うポイントがあってね。戦いの中で君達にも体力を設定させてもらったんだ。どれだけ早く倒せても、命尽きてしまっては意味がないからね。実際に痛くなったりはしないんだけど、有効打だと判断された攻撃は、自動的に仮想体力の減少につながっていくから気を付けてね。死なない程度に、みんな最速をめざしてがんばろう!』


 そう一人拍手するヴァイゼンに、受験生達はどこか引き攣った様な笑みを浮かべる。

 しかし、そんな事は気にも留めず、ヴァイゼンは自らの魔力を高めた。辺りに暴風を巻き起こすほどの大規模な魔力放出に、誰もが息を呑む。

 その渦中で彼は、静かに笑みを浮かべた。


『それじゃ、始めるよ。初戦の相手は剛力自慢の幻魔。難度Dの幻魔、猪型ボアーだ。諸君らの勇戦を期待するよ』


 ヴァイゼンがそう締めくくって放送を終えると、各リングが透明な壁に包まれた。各リングに一人ずつ立った受験生達。その正面に、仮想幻魔が出現する。それは双眸に赤い光を宿し、逆立つ剛毛で覆った巨躯を震わせる幻魔だった。説明にあった通り猪型ボアーに間違いない。

 白い息を吐き出して身震いする猪型ボアーの姿に、精神武器ガイズを展開したリング上の受験生だけではなく、客席でそれを見ている受験生達もが手に汗を握る。

 受験生達は肩で荒く息をしながら、鋼の意志で自身の恐怖を捻じ伏せている様子だった。

 そうして、戦いの火蓋は切って落とされる。


「はじめっ!」


 紅い毛並みの狂暴そうな猪を象った猪型ボアーは、足に力を籠める動作を行うと、教官の合図を待って勢いよく地面を蹴った。その速さは人の全力を遥かに超える。

 地面に激突する足音がけたたましく会場中に鳴り響く中、受験生は思い思いに必死の攻防を開始した。ある者は攻撃をかわし、ある者は初撃を防いだ後反撃に出る。

 初戦から予想だにしない仮想幻魔の力強さを見せつけられて、実際に試験を受ける受験生のみならず、それを観戦している者達も学院の本気度を改めて理解した。



「凄かったですね。王女様。まさか精神武器ガイズを使わないなんて」


 第一グループの試験が終了してからしばらくして、ナユタは改めて感嘆の声を漏らす。

 第一グループの結果は下馬評通り、第三王女ティルファニアの圧勝だった。彼女は精神武器ガイズを使用せず、魔術と己の技のみで、仮想幻魔をあっという間に討伐して見せた。凄まじい加速と持続するトップスピードで幻魔を翻弄し、重い一撃を次々と幻魔に叩きこむ。幻魔に手も足も出させない苛烈な戦い方は、正直見ていて興奮した。彼女の動きを目で追えない者もいたであろう程に、格の違う強さ。まさしく天才と呼ばれるに相応しい戦いだった。

 

「だな。こりゃ首席は決まりか」

 

 ナユタの隣に座ったイオは、現在行われている第二グループの試験から視線を逸らして頷いた。

 その顔には意地の悪い笑み。しかしナユタはふふんと笑う。


「決めさせませんよ。首席は私がとります」


 ナユタはそう言って立ち上がると、軽く準備運動を始める。

 もうすぐ第二グループの試験も終了する。そうなれば次はナユタの番だ。正直試験に落ちる気はしないが、自分が目指しているのは首席だ。その為には入念な準備が欠かせない。

 しばらく体操をして体の状態を確認したナユタは、よしと頷いた。

 精神武器ガイズに問題がないことは感覚的に理解できているし、体も問題なく動く。これなら先程圧倒的な力を見せた王女殿下にも対抗できるだろう。

 そこまで考えて、ふとナユタの脳内に一つの疑問が浮かんだ。

 疑問を解消しようと動いたナユタの視線の先には、退屈そうに欠伸をして目尻に小さな涙を浮かべたイオ。


「そういえば、精神武器ガイズで思い出したんですけど、イオくんの精神武器ガイズって、どんな感じなんですか?」

「いきなりどうした」


 伸びをしてからぐっと体を捻るイオに、ナユタは”疑問”から少しだけ変化した”提案”をする。


「私の精神武器ガイズについては少しだけお話しましたが、イオくんの精神武器ガイズについては何もお聞きしていません。これから試験で使う所は見れるとは言っても、いずれ対戦するなら条件はフェアにしておきたいんです」


 この試験はトーナメント方式だ。優れた成績を証明し続ければ、ナユタとイオはいずれ成績を争うことになる。その際の心の突っかかりは、早い段階で取り除いておきたかった。

 そういう意味を込めた提案にイオは苦笑する。


「…俺に負けた時の言い訳を作ろうとしてくれてんのか?」

「違います。逆ですよ」


 ナユタは即答して首を横に振る。ナユタはフェアに拘る理由はそうでは無かった。


「私が負けた時にそれを言い訳にしないためです。予め退路を断っておけば、負けた時に言い訳なんかできません。そうすれば自然と自分の弱さと向き合えますから」


 敗北を真の意味で糧にする為に、誰かと競う際にナユタは公平という点にこだわる。それは相手を貶めたりする様な考えでは無く、自分の弱さを見つめ直して更に強くなるためだった。

 ナユタの言葉にイオは感心しつつ、どこか納得したように頷く。


「ああ、だからナユタは強くなったんだな」


 その言葉に含まれる意味をすべて理解できた訳では無いが、彼が自分の貪欲な姿勢を評価してくれたことは、その声音から十分伝わってきた。なんだか照れ臭くなって視線を逸らして彼の言葉を待っていると、意外や意外、ナユタの予想していなかった言葉が続く。


「…でも期待してもらっといて悪いんだけど、俺は精神武器ガイズ使えないんだ」

「え!?」


 ナユタは驚きを隠せない。だがそれは当然のことだ。

 学院公認の事実として、入学試験では精神武器ガイズを使用できることは、力を測る上で最重要の項目の一つだ。四半世紀を超える学院の歴史上でも、精神武器ガイズを使わずに入学できた人材など片手で数えられる程度しかいない。一般常識に照らし合わせれば、はっきり言って無謀な挑戦だ。


「本当に使えないんですか? 特別な事情で使わないとかじゃなくて?」

「ああ。まぁな」


 イオが少しだけ視線を逸らしながら言うと、ナユタは大きな瞳を更に見開いて口を開く。


「…なんだか驚きましたね」


 意外そうな表情を浮かべたナユタに、イオは腰に提げた剣をコンコンと叩きながら答える。


「まぁ俺はコイツと魔術があれば、大抵の相手は何とかなるからな」


 実際これまでもそうだったと言わんばかりの苦笑を浮かべたイオ。ナユタもそれにつられて頷いた。精神武器ガイズが使えない以上はそうする他にない。精神武器ガイズが使えないからと、イオが戦場から逃げることはないのだろう。

 それにしても、と、ナユタは淡く笑う。


「凄い自信ですね。しかも、まるで当然といった様子なのが恐ろしいところです」


 奢りも奮起も感じさせぬイオの口ぶりに冷や汗をかいたナユタ。しかし当の本人であるイオは生返事を返す。


「驚かないんだな。精神武器ガイズを使えない受験生って結構珍しいんだろ?」


 ナユタはその言葉に自分で言うなと目を眇める。それから態勢を変えて柔軟を続けながら言った。


「珍しいなんてものじゃないですよ。あり得ないくらいです。もし精神武器ガイズを使わずに特待生に入ったら、そんなの今後学院の伝説になる偉業ですよ」

「だったら」


 尚首を傾げるイオに、ナユタはグッと身体を折り曲げて言葉を返す。


「だってイオくん、精神武器ガイズを使ったコルトを容易く倒してたじゃないですか。あれを見ておいて、精神武器ガイズが使えないから無理ですね…とはならないですよ」


 一週間程前に、コルトの凶剣から庇ってくれたイオの姿を鮮明に思い出して苦笑してから、ナユタは続ける。


「それに私知ってるんです。精神武器ガイズが無くたって、強い人は本当に強いって」


 ナユタは無意識の内に拳を強く握って続ける。


「実は私、ディーレシア大陸から数年前に引っ越してきたんですよ。引っ越しというよりかは、避難という方が正しいかもしれませんが」


 ディーレシア大陸は現在幻魔に完全に支配されている大陸で、アリシア王国があるルーア大陸から南西の方向にある大陸だ。近年活発化を見せる幻魔の侵攻に対抗したが、何年か前のレーテ王国滅亡という一大事件をもって陥落した。ディーレシア大陸陥落の話は、誰の耳にも衝撃的で新しい。


「そりゃまた随分と苦労したな」


 彼女からすれば幸いなことに、イオは声の震えには気が付かなった様だ。淡々と告げるイオの態度は、ナユタにとってみればありがたかった。


「まぁ…そうですね。結構大変でした」


 ナユタは少しの沈黙の後、言葉を振り絞って紡いだ。


「…あそこだけは私が取り戻さないといけません。私の為に尽くしてくれたみんなを、眠りにつかせてあげるためにも」


 ディーレシア大陸にいた住民は、住処を追われるような形でこのルーア大陸に避難してきた。その際の犠牲は数えたらきりがなく、その殆どが避難民を逃すために道半ばで倒れた。当然葬儀などは行えなかったため、死者の弔いを重要視する感性の持ち主である避難民の多くは、ディーレシア大陸を取り戻し、彼らを安らかな眠りにつかせる事を強く望んでいる。そしてそれは、自分が成さなくてはならない。何故なら自分は責任ある立場の人間だから。

 ナユタの言葉に、イオは合点がいった様子で頷きを返した。


「ああ、なるほどな。だから戦団を立ち上げたいのか」


 以前にナユタが学院を良い成績で卒業したいと語った理由と今の話から、イオはその先にある彼女の目的を察したようだ。ナユタもそれを肯定する。


「はい、その通りです。戦団を立ち上げて戦団組合に所属すれば、いずれディーレシア大陸への派遣もあるかもしれません。だから私はその時の為にできる限り強くなっておきたいんです。もしそうできたら、私の手で大陸を取り戻して、みんなをゆっくりと眠らせてあげられますから」


 そしてナユタは静かに呟く。


「…それに、そしたらいつか、姉を見つけられるかもしれませんしね」

 

 顔も知らないが、ナユタに残された数少ない家族。それももしかしたら。

 ナユタはぎゅっと目を閉じると、それだけで胸の内に湧き上がった感情を整理してイオを見上げる。ナユタの独白は、どうやらイオには聞こえなかったらしい。

 彼は少しだけ首を傾げると、その前の言葉に頷いた。


「そうだな」


 イオは目元に優し気な笑みを浮かべてナユタの肩に手を乗せてくる。それが自分を励まそうとしてくれた彼の行動だと理解できたナユタは、それから一度大きく深呼吸して本来の話題へと話を軌道修正した。


「はい。少し話がそれましたね。今の話から大体分かると思うんですけど、私はディーレシア大陸にあるレーテ王国の出身なんです。それで、レーテって結構栄えてたんですよね。だから世界中から凄い人達が集まっていたんです。それで自然と達人の技を見る機会があってですね、その時に精神武器ガイズだけが奇跡じゃないって気が付いたんです。結構身近にも、魔術が凄い得意な人がいましたし、本当にそうなんだなぁって感じで…」

「だな。それは俺もそう思う」


 話が纏まりを欠いて不安だったが、何度も頷いているイオはナユタの話を理解してくれた様子だった。ナユタはそれに安堵して準部運動の仕上げに大きく伸びをすると、どこか遠い目をしてるイオの隣に勢いよく腰掛けた。

 自分の心の内を、僅かながらにイオに打ち分けて開放的な気分になったナユタは、今まで踏み込んでこなかったイオの核心へと迫る決心をすると、髪を後頭部辺りで纏めながら言う。


「イオくん。今まで聞こうか迷ってたんですけど、一つ聞いてもいいですか?」

「ん? ああ、まぁいいよ、なんでも聞きな」


 そう言って背もたれに大きく寄りかかったイオを、ナユタは真っ直ぐに見上げる。


「イオくんはどうして学院へ入ろうと思ったんですか?」


 彼の目は少しだけ見開かれて、それから平生の様に細められる。その一連の表情の変化で、彼の中で何かしらの感情が動いたことがナユタには理解できたが、それ以上は分からなかった。イオは少しだけ思案すると、小さく呟いた。


「…同じかな」

「え?」


 イオは紺碧の瞳をナユタに向けて、自分自身でも納得する様に続ける。


「…実を言うと俺、自分の意志で学院へ入ろうと思ったわけじゃないんだ。少し事情があって試験を受けることになったんだが、今思えば、俺もナユタと同じなんだと思う。学院への入学は、俺が強くなるために必要な道なんだ」

「なるほど」


 ナユタはイオの答えに大いに同意して頷く。しかしその一方で一つの疑問も抱いた。力とは手段であり目的ではない。彼が力を求めるには、ナユタの様に目的があると考えるべきだ。では、彼は何のために力を得ようとしているのか。


「…では、何のために? イオくんが力を求める理由。嫌でなければ教えてもらえませんか」


 ナユタにそう問われたイオは、しばらく動きを止めた末に笑みを浮かべた。しかしその表情に、ナユタは体の芯からゾクッと震えた。彼が浮かべた笑みがどこまでも冷たいものだったから。

 冷ややかでいて烈火のような怒りも感じる様な、独特な気配を纏ったイオは答える。


「…俺には目的があるんだ」


 そう呟いたイオに、ナユタは僅かに息を呑む。彼の淡い笑みに紛れた濃密な殺意。それを感じ取ったナユタの頬を今度こそ冷や汗が伝った。


「…俺は”ある敵”を追ってる。それが俺の討つべき相手で、俺の”姉さん”の仇だ。姉さんを死に追いやった敵を殺すことが、俺の目的だ」


 彼の言葉の端々に浮かぶ狂気が、ナユタには恐ろしかった。しかし、それでも彼から目を離せなかったのは、ナユタ自身がイオに対して、筆舌に尽くしがたい親近感を覚えたからだろう。

 姉を探す、姉の仇を討つ。ナユタとは異なる様でいて、絶妙に似た思いを持つイオ。そんな彼の決意を感じさせる横顔に、こんな時にも関わらず、ナユタの胸は静かに高鳴ってしまった。

二人の過去が少しだけ明らかになりましたね。これからもっと深堀していきますよ。

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