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滅尽のイオ~災厄の力と鍵の少女たち〜  作者: るなーるべると
王国邂逅編:第二章『第三任務を果たすには』
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第十二話:来たる試験

 ナユタとイオが出会ってから二週間がたった。二人が共に合格を目指す王立高等教育学院の入学試験が、ついに執り行われる。

 試験当日の早朝。二人は身支度を整え、まだ人の少ない大衆酒場ギンで入学試験前の最終準備を行っていた。


「ううぅ。緊張します」

「そうだな。俺の力がどこまで通じるかわかんねぇけど、ナユタとの勉強の成果を発揮したいな」


 そうは言いつつも、イオの言葉に一切の淀みはない。


「イオくんは余裕そうですね。羨ましいですよ」


 そんなイオを恨めしそうに見上げるナユタ。

 彼女は試験に伴って式典用の服を着用している。軍服の様にも見えなくないその服は本人曰く、昔からアリシア王国において大切な行事で着用するものらしい。


「まぁ、もうやれることはやったからな。後は実力を発揮するだけだろ」


 イオは公共の場である事も考慮して、一応は上下紺色の服装である。別段服装に指定は無いためか、彼のような服装は珍しくないとナユタは語っていたので問題は無いだろう。

 飄々とした雰囲気を纏うイオに、ナユタは項垂れる。


「うう…緊張している場合じゃ無いと分かってはいるんですが……」


 やはりそう簡単に緊張はほぐれないらしい。イオは何気なく店内時計に目をやって、ナユタの肩を叩いた。


「ナユタ。もう時間だ」

「ああぁ…本当だ………よし、仕方ない! 私も覚悟を決めます!」


 吐き気を抑えるような顔をしていたナユタは、一つ気合を入れて立ち上がる。そして酒場のカウンターから柔らかな視線を送ってくるユリナを見た。


「ユリナさん、時間なので行ってきますっ。今までありがとうございました!」

「はいよー。二人とも頑張ってねー」


 ナユタはユリナの言葉に頷くと、一度大きく深呼吸をした。そしてイオの手を引いて店を出る。彼の手を握るナユタの手は、緊張からか白磁のようにひんやりとしていた。



 前に学院長を訪ねた際に通った道を辿って学院へと向かう。

 以前は緩やかな風と時間が流れていた丘も、今日ばかりは緊張感に包まれピリピリとした雰囲気が漂っていた。親同伴であったり従者を引き連れて試験に向かっているのは、この国で貴族位を得ている者達だ。

 学院の入り口には入試の受付会場があり、千人近い受験生たちが幾重にも渡って長蛇の列を作っている。試験監督であるこの学院の講師達が受験生を監視し、すでにこの時から学院に相応しいか否かを判断している様に感じられた。


「私たちは一般受験枠ですね。……やっぱり結構並んでますね。どうしますか?」

「結局並ばないといけないからな。並んでおくか」

「そうですね」


 並ぶとなれば一列なので、自然と試験に詳しいナユタが前、イオが後ろという構図になった。

 一週間程前に起こったコルトによる襲撃に伴って、イオが無意識の内に彼女を視認できる位置に並ばせたという事情もあるが、ナユタがそれに気が付くことは無かった。

 イオは静かに前を見据えるナユタに頭上から声を掛ける。


「前に受験票を取りに来たときに思ったんだけどさ、ナユタは貴族だろ? なんで貴族枠で受けないんだ?」


 イオの素朴な疑問に、ナユタは振り向き、視点を徐々に上げながら頷く。


「下級貴族はほぼ市民と同じなので貴族枠では受けられないんですよ」

「え、そうなのか」

「はい」


 二週間前に受験資格を提示して受験票を入手した際の疑問が解消された。しかし下級貴族は市民とほぼ同じ扱いだというのは、少し驚きだ。

 複雑な貴族システムなのかと思案するイオに、ちょうど良いタイミングでナユタの説明が加わる。


「一般的に、下級貴族は納税を増やすことで特権を得られる、市民の最上位という位置づけなんです。中級貴族以上になるためには、下級貴族で数代に渡って功績を上げ続ける必要があるみたいですよ。信頼できる貴族を多く持つためのシステムだとか、継続的に功績を積ませるシステムだとか、いずれにしても様々な目的がある事には違いないようですね」

「なるほどな。まぁその労力を差し置いても、貴族階級の特権は魅力的だってことか」

「まぁ現に、中級以上の貴族になれば、できることは格段に増えますからね」


 二人がこの国の貴族事情について話していると、いきなり周囲がワッと湧き上がった。


「…第三王女殿下がお越しになられたぞっ!」

「どこっ!?」

「俺も一目だけでも!!」


 受付を済ませて順番待ちをしている立場である受験生の彼らは、その場から離れる事ができず、もどかしそうな表情で辺りを見回している。一方のまだ受付を済ませていない受験生たちは、幸いな事にその騒ぎの主に辿り着けたようで、既に人だかりができていた。


「王女様、すごい人気ですね」


 その人だかりを見やって、ナユタは感心した様な声を上げる。イオも当然同じ気持ちだが、そもそも何故この場に王女がいるのか疑問でしかなかった。これだけの混乱を引き起こして、彼女自身は大丈夫なのだろうか。


「だな。そもそも王女様なら試験するまでもない気がすんだけど…まぁ特別視されることを嫌ってるってことで良いのか?」

「きっと真面目な方なんでしょう」

「そんな感じか……さて、そろそろ俺らの番だな。行こうぜ」

「はいっ!」


 二人の受付番がまわってくる。

 この会話が彼女の緊張を解してくれれば良いと思いながら、イオは受験票を提示したのだった。

 


 受付を済ませ、指定された会場に入る。会場は完全にランダムで、受付で振り分けられるまでどの講義室に配置されるか不明だ。集団での不正行為を防止する為に設けられた一つの対策らしいが、イオとしてみれば集団で不正行為を行うという事自体ピンとこない。しかし現に、毎年何人もの受験生が不正行為の発覚により退場、又は合格後に他者の解答を移した事がばれ入学取り消しになったりしているらしい。中には受験生同士が結託して合図を出し合う事で問題を解いていたケースもあったりと、かなり悪質な不正行為が年々増えてきている事が学院側の悩みらしいので、学院の力の入れようにも一応は納得できる。

 ナユタは会場入り口に掲示された座席表を眺めて、自分の番号を照合してから、よしっと小さく気合いを入れた。


「私は八十二番の席です」

「そういうのは、こういう場所で言わねぇ方がいいぞ」

「え、そうなんですか?」


 ナユタの小さな呟きに、イオは視線を辺りに巡らせてから小さく耳打ちした。彼女は心底意外そうな顔で首を傾げている。


「ナユタは名が通ってるんだろ?」


 以前の会話からイオが彼女の言葉を引用すると、彼女は困惑の色を濃くしつつも頷きを返す。


「ま、まぁそれなりには」

「なら尚更、黙っておいた方が良いと思うぜ」


 ナユタは良く目立つため不正行為を働く者から目を付けられやすい傾向にある。今回は周りに誰もいなかったからいいものの、周りに悪知恵が働く者がいた場合、今の情報公開は多大なリスクを伴ってしまう。不正行為発覚で点数を落とされるのは、カンニングしたものだけではない。意図的でなかったにせよ、確かな証拠がなければ情報を提供したとして彼女の点数まで落とされかねないのだ。そんなことでナユタに受験落ちされては、イオも目覚めが悪すぎる。

 イオの指摘にハッとしたナユタは口を手で抑える。それから辺りをぐるりと見回して呟いた。


「そ、そうですね。ちょっとだけ気が抜けていました」

「ま、あんまり気負い過ぎるのも良くないからな。気楽に行こうぜ」

「ふふっ。そうですね」


 ナユタは小さく笑ってから、イオの手を握る。

 

「大丈夫ですよね。あれだけ勉強したんですから」


 少しだけ、僅かに震えている。イオがその手を力強く握り返すと、その震えも徐々に収まっていった。


「ナユタなら問題無いだろ。つか心配するなら俺の心配してくれよな。ナユタよりよっぽど危ないんだから」


 イオが溜息をつきながら、やれやれと首を横に振ると、ナユタは自然と笑みを浮かべる。


「また冗談言って。でも、おかげさまで何とか落ち着けました。ありがとうございます」

「ま、俺も頑張るから。ナユタも頑張れよ」

「はい。では、また後で」

「あいよ」


 ナユタはそう言って自分の席に向かった。イオも気持ちを切り替えて自分の席に着く。

 暫くして数名の試験官が会場入りし、いよいよナユタの緊張の一端となった筆記試験が始まった。

 しかし、イオからすれば自分よりも明らかに賢いナユタが緊張する理由が分からなかった。そればかりは考え方の違いだと言われた今でも、イオは疑問を感じている。


 イオは手元に試験用紙が配られると同時に全てに目を通す。

 試験内容は、魔術概論、剣術論、歴史、数学論、社会論など、様々な科目の混合問題だった。幼い頃からの学習が可能であるが故に非常に高難度の問題ばかりで、自らの論を展開する項目もある。

 量と質、その両方が国内外でもトップクラスの試験だとナユタには聞いていたが、 まさにその通りだった。しかし、これを突破しないことには実技試験を受けることすら叶わない。イオが最も自信のある実技試験を受けられずに試験に落ちるなど本当に笑えない状況だ。


 イオはチラリとナユタの方を見やる。

 彼女は真剣な表情で、淀みなく手を動かしていた。

 あの様子であれば、いつも通りの高得点が期待できそうだ。そうなっると問題はイオだが、彼はささっと試験内容を確認して、自分でも問題無く解けると判断する。

 ならばもう、恐れることは何も無い。戦場すら生温いのではとすら思えたナユタの地獄の授業を、自分は生き残ったのだから。

 イオはそう笑みを浮かべると、何も気負う事無くぺンを握った。

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