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29:裏の無い美味しい依頼?

「どうぞ」


執事さんから、赤と金の綺麗な模様の入ったティーカップが差し出され

中に入った紅茶から、温かな湯気とさわやかな香りが漂ってくる

私はつい砂糖をたくさん入れて、甘い香りにしちゃうけど…

執事さんの出すものはやっぱり違うなぁ…


私たちは、そんなお茶を味わいながら話を続ける


「今日はお前に依頼を持ってきたんだ」

「依頼?!」

思わず叫んでしまう私

魔法使い単独に依頼が来ることなんて、そうそうないのに…

あ、でも、魔法学校の依頼だったら…ありえるのかな?


「学校の行事で、南の島に行ってモンスターと戦う訓練があるんだが」

「あー…あの、なんかかわいいの倒すやつやんな」

「その島は定期的にモンスターが湧くので、掃除が必須だ

 行事の日程もモンスターが湧く時期に合わせてある」

そんな事やってるんだ…

テラスちゃんが魔法使いにしては機敏に動けていたのも、それのおかげかな?


「だが今回、日程とは違うパターンでモンスターが増えだした

 あまり勝手に一般生徒を動かすわけにもいかんのでな

 島に行ってモンスターを減らしてきてくれ…という依頼だ」

「なるほど」

「前金で5万G、達成したら15万G渡そう」

「なんだ、いつものやつじゃん」

「そこのアマミやウズメさんにもわかるように言ったんだ」

「あ、ありがとうございます」

いつも…ということは、テラスちゃんが学生時代に何度かやった事がある依頼らしい

教会を通さない、正式ではない依頼の場合、失敗しても文句が言えないけど…

まあ、これは失敗しても、そこまで問題ではない話なんだろう


「へぇぇ…休みの日の付き合い悪いと思うてたら

 テラスっち、そんなんやってたんやな」

「…寮の家賃が払えなくて」

「苦労してたんだね…」

「あ、おねえちゃ…」

ついテラスちゃんを抱きしめてしまう

事情はわからないけど、学費も生活費も自力だったみたいだし

どれだけの苦労を、この幼い身体でしてきたのだろうか…


「…ごほん」

「あ、す、すみません、つい…」

まだお話の途中だった


「…それで、ウズメさんはどうだろうか?

 テラス一人のギルドなら、問題なく受けると思っていたが…」

「いつもはどのくらいモンスターが出て来るんです?」

「普段は10~12匹くらいだな」

…ということは…モンスターの強さが普通なら、大体相場で10万Gくらい…

学生相手に、凄い強いモンスターをぶつけるなんてしないだろうし

そうなると、依頼料はかなりの破格…!


「いいんですか?かなり相場よりいいお仕事に思えますけど…」

「え、そうなの?!」

「学生の支援って意味もあるからな

 才能があって努力を惜しまない奴には金も出すさ」

ギルド推薦入学とかもあるし、魔法学校は育成に力入れてるんだなぁ…


「…素人っぽい割りに、相場とか詳しいんだな、ウズメさん」

「ちょっと前までギルドの受付もしてましたんで」

「なるほど…ただの素人では無いということか」

ようやく合点がいったという感じな声


「でも、それ在学中の話やろ?何で卒業したテラスっちに頼むん?」

…アマミさんのいう通り、ちょっと疑問なところではある


「まず、今期の学生にも募集をかけたんだが、応募が無かった」

そう言われて、ラグナロクから優遇を受けて

魔法学校に入っていたメガネの青年を思い出す

…彼は今、無事に学校を続けられているだろうか…


「そして…こいつの懐、今、相当厳しいだろう?」

「うんまあ」

「ここで恩を売っておくのも悪くないと思ってな」

テラスちゃんを見つめ、静かにそう語る先生


「お前は天才だからな。何をやろうときっとトップに立つだろう」

「…いつも手厳しい黒イケが、あたしを褒めた…?」

「手厳しいのは、お前がいつも調子に乗ってたからだ!」

「あー、懐かしいわ~。クラスではいつもせんせーと言い合ってたんやで」

「毎回こんな感じだったんですか」

テラスちゃん、学校では結構跳ねっかえりだったんだなぁ


「…ところで、さっきから気になってたんですけど、黒イケって何です?」

「クラスのあだ名で『性格が黒いイケメン』略して黒イケ」

「『何か企んでそう』とかみんな言うてるもんな」

「…別にそんな事は全然ないんだがな…なぜだ…」

表情が硬くて、感情が読みにくいせいでは…?


「ううん…黒イケの思わぬ助太刀はありがたいけど…

 ウズメお姉ちゃんが、まず特訓して1lvに上げようって話だったし…」

「わ、私の事はいいですよ!

 いいお仕事融通してもらえるんですから、受けましょう!」

先立つものは大切だし、レベリングもできるかもしれないし

レベル0という私の危険は少しあるけれど、やる価値は十二分にある!


「わかったよ、お姉ちゃんはあたしが守るからね…!」

「いや待て…1レベルに上げる…つまり冒険レベル0なのか?!

 やっぱりウズメさん素人じゃないか!…だ、大丈夫なのか?」

「せんせー、この二人な『古代への道』の深層から生き残ったんやで、大丈夫やろ」

「そ、そうなのか…?!確かにここからあの洞窟は近かったが…」

新情報が次々に出てきてうろたえる先生

…ふがいないギルメンですみません…


「まあ、ともかくケガにだけは気を付けるように」

「はーい」

元気に返事をするテラスちゃん

…なんだか学生が先生に連れられて旅行に行くときみたい


「別にお前はそんなに心配してない」

「えー」

口をとがらせて不満の声を上げるテラスちゃん


…まあ、ともかくそういう訳で、ギルド『タカマガハラ』の初仕事は

南の島のモンスター退治に決まったのだった

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