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26:プリンセスと噂

メイドたちと、仕入れの事について相談しながら数十分

何者かが背後から話しかけてきましたわ


「あー、少しお時間いいですかな?」

振り返ってみると、それは紫のローブを着た、恰幅のいい初老の男だった


「今度は何?!」

「ワシは魔法学校の校長をしておりましてな…

 宮廷で顔くらい見た事はありませんかな?」

うーん…式典のすみっこにいたような…?


「ああ、確かに行事ごとによく顔を出してましたわね」

「ヘラ様も大きくなられて」

むむ…そっちは小さいころから知っていると…

ちょっと扱いにくそうな相手ですわね…


「さてさて…ウズメさんはいらっしゃいますかな?」

「…彼女は所用でしばらくの間、帰ってきませんわ」

「ほほう…なるほどなるほど……」

校長は顎に手を当て、何やら一人納得した顔をする

…ちょっとイラッとしますわね…


「では、事情をご存じなさそうなので、わかりやすく言いますかな」

手のひらを見せ、学生にこれから大事なことを教えるかのようなポーズを取る


「魔法学校は、様々な組織で活躍できる優秀な魔法使いを育成する

 そのために様々な育成支援を行ってまいりました」

「支援…」

「提携したギルドから、推薦人が魔法学校へ通う場合、無利子で学費を貸し出す

 というのもその一つです」

「へぇ…そんな事してたんですのね

 単純に、ユニークスキルが優秀な人間だけ入れればいいのではなくて?」

「いやいや…それが意外と、魔法で活躍できそうもないユニークスキル持ちほど

 研究熱心だったりするのですよ」

「ふうん…」

「まあ、それは置いておいて、ですな」

魔法の世界の話など、聞いてても耳をすり抜けていきますわ


「その提携を、ラグナロクとも結んでいたのですが…

 今期をもって、提携は終了したいと存じます」

「!」

急に、こちらの世界に関係ある話になりましたわ…!


「なぜ急に、金をむしり取る気になったんですの…?」

また金を無心される流れですわねこれ!


「ああもう!そのような事をされてはギルドの恥!

 金ならこっそりくれてやりますから、支援終了はおやめなさい!」

ラグナロクの評判を下げられては、依頼者がさらに少なくなってしまいますわ

そうなればいずれギルドが破綻して…!


「ご存じないのですかな?」

「…何を?」

「あなた方が内輪もめで、雑用係のメンバー…ウズメさんを殺めてしまった

 という噂が流れておりましてな」

だ、誰ですの?!そんな事吹聴して回っているのは?!


「しょせん噂でしょう?!

 我が国唯一の魔法学校校長ともあろう男が、そのようなデマに…!」

「真実のほどはわかりかねますが…実際、ウズメさんは出てきませんでした」

校長は静かに首を振り、哀れみの目線でこちらを見つめる

…やめなさい…そんな目で見るのはやめなさい…!


「今、仲良くしておく意味は、こちらにはありません」 

「ぐっ…」

「どうぞ、名誉を回復された折に、改めて申し込んでください」

一方的にそう告げると、くるりと背を向け、校長は立ち去った

背中に深い失望の色を見せながら…



―――そして、穴は広がり続けていく


ユピテル様が、ピンチの村をかっこよくお救いになってから、一週間後

今度のユピテル様は、フィールド探索に赴いていらっしゃいますわ

地形を調査して、モンスターがいれば殲滅、いなければ国に報告をして

その後、住民を呼んで開拓をするという大事なお仕事ですわ


ところが、出向いてわずか二日で

ユピテル様とお供のロキが、帰ってまいりましたわ


「おい…保存食が足りなかったぞ」

ロキは怒りをあらわにして、わたくしのメイドに詰め寄る


「メモ書き通りにお渡ししましたが…」

「それは護衛任務のやつだろう?

 フィールド探索の時は、もっと数を増やさねばならない」

「ともかくそういう事だ

 保存食をあと二十食、追加で用意してくれ」

どうやらメイドたちが失敗したらしいですわ

わたくしはロキと目を合わせないように、食堂の端へそそくさと移動する

一緒に怒られるのはごめんですわ


「雑用も満足にこなせないなんて、メイドってのも大したこと無いな」

「そ、そもそも、ギルドの雑用など、私たちの仕事ではありません」

「メモ書きさえちゃんとしてれば、もう少し…」

メイドたちは、残された手順メモに従って雑務をこなしてますわ

だから、メモを取り違えたり、メモに書かれてない部分を

指摘されると困る訳で…


「そもそも、そのメモはウズメが手いっぱいになった時に

 助けを呼んで手伝ってもらうために作ったものだ」

「……」

「引継ぎのために作られてはいない

 細かい部分は自分で教えるつもりだったんだろう」

「で、でも…!」

「文句を言える立場か?彼女を見捨てておいて」

「違います、そんなつもりはありません。あれは不幸な事故でした」

「…自分から言えるとは大したものだ」

ロキがぶちぶち文句を言い続けている

こいつホント嫌味ったらしいですわ…


「何にしても、こんな調子では困る…

 君たちが無理なら、誰か雇うなりしてくれないか?」

さすがのユピテル様も、そうおっしゃってため息をつかれましたわ

使えないメイドたちで申し訳ありません…

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