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19:プリンセスの不安

「素人がヘタクソな値付けすっから、客に逃げられんだよ」

わたくしたちに、嫌らしい声がかけられる

小娘を探しに行っていた銭ゲバ男が、布袋を背負って帰ってきたのだった


「むっ」

ちょっといらっとするメイドのライ


「ああいう、何回も来るお得意様は、相場より安くすんだよ

 モンスターの行動パターンが決まっていて

 実は普通よりずっと対処しやすい

 だから、ベテランリーダーと初心者たちで組ませて

 初心者育成を兼ねつつ動く側のコストを下げる」

「…なるほど」

「リーダーに適任なのは髭のおっさんだな

 このギルドでは数少ない、周りが見えるタイプだ」

金の事になると詳しいですわね…

流石、ラグナロクの銭ゲバと呼ばれる男


「そんなに詳しいなら、あなたがおやりになってはどうですの?」

「はぁ?お断りだね!値付けはともかく、冒険者を管理すんのが、どんだけ大変か!」

肩をすくめて心底嫌そうな顔をする

その顔むかつくからやめてもらえます?!


「汚れ仕事を嫌がる奴を宥めすかして、後でいい仕事を割り当てたり

 危険を嫌がる奴は、薄給の仕事を割り当て、冒険の意欲を煽ったり

 金を欲しがる奴には、個別に追加の仕事を要求して報酬を少し上げたり…」

こ…細かいですわね…

人望のない平民だと、そんなに苦労するものですのね


「他にも掃除、洗濯、炊事…

 冒険以外のギルド運営のほぼ全てで、ウズメのやつが動いてた

 しかも、このめんどくせー仕事を薄給で、だぜ!?

 まともに換算したら、てめーの婚約者ユピテル様の三倍は給料がいるぜ!」

さ…三倍?!


「ばっかじゃないの?!そんなに価値のある人間がいる訳無いじゃないの!」

思ったより働いてたようですけど…ユピテル様の三倍だなんて図々しい!


「へぇ…あんだけ動き回ってたのに、王族には見えなかったらしい

 見る目のない上司だと苦労するよなー?」

「姫様の役目は我々とは違うのです、一方的な見解はやめてください」

「へいへい」

はぁ…こいつもクビにできないかしら…

ユピテル様以外、ロクな男がいませんわ、このギルド


「…ま、そんな奴から死んでくんだ。残るは悪党ばかり、ってな」

銭ゲバは一瞬、寂しそうな目をした後

持っていた布袋の中身を受付テーブルの上にバラ撒いた


「?!」

「ひっ!」

撒かれた袋の中身は…骸骨の頭と、服の切れ端だった

切れ端には焼けた跡が残っている

これは…どこかで見たような…?


「骸骨と、ウズメの服の燃えカスだ

 ウズメは深層の魔物に焼かれて、骨しか残らなかった…っつー見解だ」

「!」

「行けたんですの、深層に…!?」

「苦労したがな…ロープを使って足場を少しづつ確保して地下へ潜って

 モンスターに見つからないように移動して…」

あ、危なかった…ラグナロクの冒険者を舐めてましたわ

後もう少し、報告を早くしていたら

こいつらに助け出されていたかもしれない…


「ふふ…しかし、残念ですが結果は変わりませんわ

 これからは彼女無しでやってくしかありませんわね」

証拠さえ出なければ、後はどうとでもなりますわ!

小娘の代わりなど、すぐに見つかるでしょうし


…いや、ちょっと待て…?


「あの髭親父はどうしましたの?」

要注意人物がいない事に気づく


「おっさんは調べ物があるらしいから、しばらく来ないぜ」

「はぁ?!な、何ですのそれ?そんな事許されると…」

「ギルドの仕事で必要な時以外は、メンバーは基本フリーだぜ

 …ギルド規則も読んでねーのかよ、王族は」

「ぐっ…」

い、いや、大丈夫ですわ

何を調べようと、白を切り通せばいいだけですわ 

絶対的な証拠なんて、出るはずがありませんわ

大丈夫…大丈夫……


頭の中で大丈夫を繰り返し、なんとか自分を安心させようとするわたくし

しかしこの後、わたくしは意外な方面から追い詰められていく事になる…

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