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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

庭には二羽ニワトリがいる

作者: 青水

 庭には二羽ニワトリがいる。

 一羽はオスで、名前はニワ太。もう一羽はメスで、名前はニワ子。

 毎朝、コケコケコケコッコーなんて感じに鳴いているわけである。ニワトリを飼っているのはもちろん卵目的である。毎朝、新鮮な卵を食したいわけだ。しかし、彼らは卵を産んではくれない。これでは、一体何のために二羽を飼っているのだか。

 ニワトリを見て、愛くるしいと思う人はいるだろう。彼らの価値観を否定したりはしない。ただ、僕にとってニワトリはペット・愛玩動物とはなりえない存在なのである。では何かというと、当然のことながら家畜である。

 しかし、よくよく考えてみると、産んだ卵をかっさらって食べてしまうというのは、まさに悪逆非道と言える。鬼畜の所業である。

 人間で例えてみると、これはもうおぞましくて言葉にできない。食物連鎖の上下関係は、これもやはりおぞましいものである。

 僕は野菜や肉や魚をもぐもぐ食べる人間なのだが、彼らニワトリから卵を奪うのはやめたほうがいいのではなかろうか、と思うようになった。

 彼らが卵を産んでも、そっとしておこう。

 そう思った次の日の朝のことである。ニワ子が大きな卵を産んでいた。

 人間の決断なんてものは、いともたやすく揺らいで、崩れ去るものである。僕は彼らから卵を取り上げると、フライパンの上に割った卵を落とし、目玉焼きを作ってしまった。じゅうじゅうと焼けたそれを皿に移すと、しょうゆをさっとかけて、むしゃむしゃといただいた。ご飯のおかずである。

 実に美味であった。

 朝の食事を終えると、庭を見に行った。庭にいた二羽のニワトリは、僕のことを恨みがましく見つめていた。あるいは、それは気のせいであり、僕の罪悪感が生んだ被害妄想の類なのかもしれない。けれど、そう見えたのは事実である。

 やれやれ、と僕は首を振った。

 なあ、君たち。世の中というのは実に残酷で、実に理不尽か。きっと、ニワトリの君たちだって知っているだろう? もしも、知らないのだとしたら、これを機に世の中の残酷さ、理不尽具合を知るべきだよ。君たちが子を作るために――繁殖するために卵を産む。そして、それを人間の僕がさっと奪い取り、目玉焼きや玉子焼きにして食う。これが、この限りなく小さな社会におけるシステムである。逆らいたければ逆らえばいい。ただし、この僕の逆鱗に触れれば、君たちは熱した油の中にダイブすることになるぞ。そして、最終的には僕の胃の中に消えていく。それでも、この庭の外へ出たければ、僕を倒してみろ。

 僕は二羽を睨みつけてそのように伝えたが、彼らが理解できたかどうかはわからない。ただ抗議するように、コケコッコーと鳴いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] せっかく産んだ卵を目の前で取り上げられ、食べられてしまう。よく考えれば、確かに残酷なことですね。自分たちの身の安全を保証してもらう代わりに子どもを差し出さないといけないなんて、殺伐とした世…
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